ロリコン探偵少女? 六伏コラン   作:デポジットカンチョーワールドカップ

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なんか、長くなった……一息で読んでほしかったんです。ごめんちゃい


美術室のレオナルド 下

 所長のYESロリータ!GOタッチ!(戦闘服)が迸る魔力の奔流にはたはたとはためき、一糸纏わぬ股間から迸る青い光が強く緋色の廊下を切り裂く中、表情の見えない"第十五小のレオナルド"が、それでも傍目からでもそれと分かる程に愕然とした空気を湛えていた。

 

「な、何故……」

 

美的センスゼロのクソダサペンネーム骸骨と真正面から罵倒された事にも気付かず、自身の力が所長に及ばなかったという現実を受け入れられずにいる様だった。まあ、無理もないのかもしれない。

 才能の無い芸術家気取りの亡霊が、怒りに任せて取り込めるほど、うちの所長は簡単な生物じゃない。美少女には弱い、というか、好きにさせる傾向があるとはいえ、その力が本物なことは僕が誰よりも知っている。

 

「何故、私の芸術にならないっ!?」

 

「おいおい、あんまりきゃんきゃんと吠えないでくれるかい? ただでさえ、ネーミングセンスゼロなのに、この上男のヒステリーとか見苦しいなんてものじゃないぜ?」

 

その言葉通り、ヒステリックに叫んだレオナルド()に、所長はにやにやと心底小馬鹿にした風な笑みを向けた。まあ、細められた猫目がちらちらと骸骨の一挙手一投足を観察しているあたり、実際の所は油断なく相手の力を推し測ってるみたいだけど。

 

「お、お前のことは確かに"絵"にした! 間違いなく、私の"作品"になったんだ!! なのに、何で絵に取り込まれない!?」

 

「……」

 

その言葉に、おおよそ石水無月ありさちゃんを取り込んだ方法を理解する。どうやら、このロリコン骸骨は人を絵に描き込むことで、その人間の存在そのものを絵に取り込む力を持っているらしい。ていうか、追い詰められすぎじゃないかな? 態々自分から能力をゲロるなんて。

 

「……」

 

実にあっけない種明かしに、若干拍子抜けだけど、まあ、仕事がさっさと済むのは悪くないか。ちらっと所長に目配せをすると。此方も此方でにまーっとした御得意のチェシャ猫の笑みを浮かべた所長が、薄ら笑いのままこくりと首肯してきた。

 

「牛太郎さん」

 

「あ? !?」

 

不意討ちで本名を呼び、間抜けにも無防備に上げられた頭蓋骨に向けて力任せに拳を叩きつける。

 

「がっ!?」

 

軽い感触と共に骸骨は数メートル吹っ飛び、地に落ちた筆とスケッチブックが、からからと音を立てた。

 

「あ、ああ」

 

大の字になりながら、もぞもぞと立ち上がろうとする"第一五小のレオナルド"の前に、所長が「さて……」と進み出る。

 

「そろそろ、このクソダサペンネームにも飽きたし、石水無月ありさちゃん解放の条件の御開帳といこうかな☆」

 

「わ、分かるんですか!?」

 

所長のその言葉に、僕と所長の丁度間に挟まっていた雪村ちゃんが、瞠目と共に身を乗り出した。細い両腕の何処にそんな力があるのか、最前列で掌型の痣の付いた白いお尻を晒す所長に掴みかかっていく。

 

「勿論♥」

 

そんな、雪村ちゃんの本気に、所長は心底楽しげにウィンクをした。

 

「……」

 

「所長」

 

「なんだい、至くん?」

 

「格好つけて……いや、全く格好ついてないですけど、格好つけたつもりになってるところあれなんですけど、此までの実績のせいで雪村ちゃんが『信じたいのに信じきれない』って顔になってますよ?」

 

「なんだって!?」

 

「いや、驚愕する所じゃないでしょ」

 

むしろ、残当でしょ。何で「そんな!?」って顔になってるんですか。

 

「要ちゃん!」

 

「ひゃぃっ!?」

 

いきなり鬼気迫る表情の人間に掴み掛かられて驚いたのか、雪村ちゃんが小さな肩をぴょんっと跳ねさせた。

 

「僕の、この猫目を信じてくれ! 僕のこの目が嘘を言っているように思えるかい!?」

 

「……」

 

何か、アホ(所長)が小学生の情に訴え始めた。無駄にキラキラした"黄昏時"と同じ緋色の瞳が、ビックリして見開かれた雪村ちゃんの目を捉えて離さないでいる。此で外見からは必死な美少女に見えるあたり、本当に詐欺だよなあ……。ま、とはいえ、

 

「い」

 

「要ちゃん。信じてくれるのk「いやあああああああああああああああ!!!!!!!!」あふん♥」

 

幾ら外見は美少女とはいえ、むせ返る様な邪臭……というか、露骨なスケベ心に、当然の如く雪村ちゃんのキレの良いビンタが飛んだ。きりもみしながら吹っ飛ぶ所長。明らかにそんな威力はないだろとか、細かい理屈を抜きにぶわりと舞うゲス極まりないTシャツ。すぽーんと露になる白い裸体。ぶるんっとおっぱいを振りかざし、完成された未熟な体躯という矛盾を綺麗に内包したそれが、緋色の世界に変態の執念の結晶を見せつけ、

 

「う、うう?」

 

「はひんっ♥」

 

よろよろと起き上がった骸骨の顔面を、パイパンの股間で押し潰したのだった。……きったない絵面だなあ。

 

「ふんっ!」

 

何とか顔面騎乗位から逃げ出そうとする骸骨の上で、所長は両拳を女握りにして、踏ん張った。所長曰く"股間のガイア"が無駄に力強く光輝いた。

 

「因みに、この"ガイア"とは"ガイア"=地球から、地球と恥丘を掛けた高度なギャグでね」

 

「やかましいわ」

 

この下ネタマシマシのセンスって、実は骸骨のクソダサペンネームと酷さじゃどっこいどっこいなんじゃないかなあ。

 再び、緋色の廊下に、所長のけらけらという笑いが響き渡った。ふと見ると、雪村ちゃんの方もこの緋色の光景に大分慣れてきたのか、少しだけだが顔を綻ばせている。と、

 

「おおっ!?」

 

不意にプルプルと震えた所長が変な声を上げて……いや、

 

「おいおい、流石の僕でもドクロをバイブにオナる趣味はないぜ?」

 

震えていたのは、そう言って立ち上がった所長の股間の下の骸骨の方だった。

 

「ま、まさか……」

 

「あー、これは」

 

「まさかっ!!!」

 

「ふむ、どうやら、漸く気付いたみたいだね」

 

「ですね……」

 

御愁傷様と、僕は内心で合掌した。というか、股間の匂いでソレ(・・)を判別できるって、こいつ(クソダサ骸骨)も大概変態だな。

 

「むしろ、ロリコンの必須技能だぜ?」

 

「……」

 

したり顔の所長に、普段なら拳骨を落としている所なんだけど、こうやって実際に見せられるとなあ……。

 

(世の中って広い……)

 

僕は、思わず内心で呻かずにはいられなかった。

 

「っていうか、ロリコンなんですか?」

 

美少女狙いの誘拐魔ってあたり、予想できることではあるけど。

 

「ああ」

 

「全肯定ですね」

 

「まあ、彼は生前がそもそもあれだからね」

 

「生前ですか?」

 

"あの世"の住人の中には"この世"から何らかの理由でそっちに行ってしまった者が少なからずいるが、こいつは死んだ直後に"あの世"に行くという、比較的スタンダードな移動をしたらしい。

 

「ああ。佐藤牛太郎。五十年以上前のこの第十五小で図工の教師として教鞭を取っていた」

 

「ふむ」

 

「そして、生徒の一人に手を出して、そのまま自殺。所謂無理心中を小学生相手に敢行したらしい」

 

「普通にクソ野郎じゃないですか」

 

確かに、それはロリコンだ。しかも教師で強姦魔。

 

「き、貴様!」

 

その強姦魔がかっと目を見開いた(気がした)。

 

「そんな見た目で偽っているが!」

 

って、まさか……。

 

「本当の性別は男だなっ!?」

 

「う わ あ」

 

本当に嗅ぎ分けやがったよ、この骸骨。

 

「穢らわしい! 一見、私の芸術に相応しい美少女に扮しておきながら、その実、男の魂を私に描かせるなどと!!!!」

 

所長が穢らわしいってのは全面的に同意するけど、そもそもロリコン強姦殺人魔に言われたくねーよ。しかも、股間の臭いで性別嗅ぎ分けるお前も十分に穢らわしいからね? 普通に雪村ちゃんドン引きしてるじゃん。

 

「やれやれ、やっと気付いたか。ほんと、才能がないだけじゃなくて、観察眼も鈍すぎる上に、直接くんかくんかしないと僕の正体すら分からないなんて、感性鈍すぎじゃないかい? そうとも! 我が名は、六伏コラン! 正真正銘、男の魂を持った、世界一可愛い魔法少女さ!!!」

 

お前はお前で、少しは悪びれろと。別にその骸骨擁護する訳じゃないけど、直接臭い嗅いで性別判定するだけでも頭おかしいのに、遠くから臭い嗅いで判断しろとか、ハードルが天元突破だからね? その上、いざ嗅いでみて、美少女だと思ったら実は野郎って普通に悪夢だよ?

 

「それは、勝手に勘違いしたそいつが悪いね! そもそも僕は自分を美少女にはだとは言ったが男でないとは一言も言ってないぜ?」

 

いや、美少女なんじゃないの? うん? 僕がおかしいのかな?

 

「僕の相棒ならば覚えておきたまえ、至くん。美少女に性別なんてないのさ!」

 

脳味噌が審議拒否致しました。

 

 

 

おえええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……

 

 

 

所長の戯言が続くなか、そんな声が響いた。食道も胃袋もないくせに器用だとは思うけど、五月蝿いなあ。

 

「至くん」

 

「ん?」

 

「前から知っていたけど、至くんは、結構他人に冷たいんだねえ」

 

「ま、他人なので」

 

まして、こいつは始末するだけだし。

 

「んふふふふふふふふ♥」

 

何か、急に笑い始めた。嫌な予感しかしないんだけど。って、おい。

 

「その分、僕には結構優し「それ以上言ったら……殺しますよ?」

 

全身全霊をかけて、僕の尊厳を守りにいきますよ? 僕はホモじゃないので。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……ごめんちゃい」

 

「……ふぅ」

 

まあ、良いけどさ。それよりも、

 

「で」

 

「ん?」

 

「結局どういう事なんですか? 所長の言う"あの世"の力なんて殆ど感じ取れない筈の僕が、所長の"目"を借りなくても肉眼で見ることが出来る力なんて、相当強力だと思うんですけど」

 

「ああ、それかい?」

 

頷いた所長は、にゃっと得意のチェシャ猫の笑みを浮かべて、何の事はないよと肩をすくめた。

 

「そこの、選ロリ戦闘力ゼロの糞雑魚ロリコンは、力を行使するためにごちゃごちゃと細かい条件を満たす必要があって、さっきの力はその条件を満たせていなかったのさ」

 

条件?

 

「ああ、そうだとも♪」

 

頷いた所長はぴっと人差し指を立ててきた。

 

「そもそも、幾ら力が強くても、他人の記憶ごと存在を連れ去るのは相当に難易度が高い話なんだぜ? 少なくとも、天狗とか鬼とか、そのレベルじゃなきゃ不可能だ」

 

「ふむ」

 

「勿論、中には人間から鬼に成り果てた奴も居るから一概には言えないけど、明らかにこの人間としてもロリコンとしても半端な糞雑魚が手に入れられる領域の力じゃない」

 

「比較対照を考えると、確かにそれは思うな」

 

「だろう? 実際、僕もこのクソダサペンネームが現れるまでは、鬼とかそっち系を想定していたんだけど、出てきたのは明らかに力の割には小物な精神の亡霊だった。勿論、この小物は真っ昼間に"黄昏時"を呼び出せるだけの力はあるんだけど、それと記憶ごとの連れ去りとの間には、まだ何枚もの壁がある。と、いうことはだ」

 

「ああ、そういう」

 

成る程。所長が言わんとすることを考えると、確かに所長を絵にするのは、少なくともさっきの骸骨には不可能だ。

 

「うん。正解」

 

僕の答えは当たりらしく、所長もにんまりと頷いた。

 

「こいつの力は、相当に厳密な条件をクリアしないと、行使することが出来ないということさ☆」

 

あっけらかんと言い放った所長は、未だに失意体前屈をしている骸骨を、心底愉しそうに「ロリコン力2! ぺっ、雑魚め!」と馬鹿にしたのだった。しかし、

 

「ロリコンに、ロリコンとして半端者と見下されるのは、むしろ、社会的には正しいことなんじゃないかな」

 

「それは、現代社会が間違っているだけさ☆」

 

相変わらず、人生楽しそうな所長はけらけらと笑って、くるくると柔らかくターンをする。腰まである長い銀色の髪流れ、赤色の光の中を綺麗な燐光が舞って見えた。

 

「ロリコン力2は冗談にしても、君は芸術家としては落第だぜ? 佐藤牛太郎? お前は自分が何で僕の事を絵に出来なかったか理解しただろう?」

 

未だ俯く骸骨を甚振る様に、その後頭部を足蹴にして心底楽しそうに目を細めた。まあ、所長でなくてもそう言いたくもなるか。

 

「君は見誤った。芸術家だと、天才だと嘯いたその肉体で、この僕、六伏コランの存在の一端すら取り違えた。それこそ、その力、"絵に描いたものを絵に存在全て取り込む"力を使おうにも、それが機能しない程にね。はっきり言って、僕が男だっていうのは、所詮は表面上の事さ。だけど、君はその表面上の事にすら気付かなかった。体臭嗅げば一発で分かる程度の事すら見誤ったんだ、写生物の本質なんて、掴みようもないに決まっている」

 

ぐりぐりとその髑髏を踏み躙りながら、所長は「勝利のポーズ!」と嬉しそうに赤い天井を指さしている。いや、流石に油断しすぎでしょ。

 

「いやいや、もう大丈夫だよ。こいつはもう駄目さ」

 

そう言って、肩を竦める所長。何か、根拠が?

 

「何、ロリコンの気持ちはロリコンにしか分からないってだけさ。考えてもみたまえよ。自分がこの世で一番大好きな美少女の裸を見れる、今この薄布一枚を引き千切れば、そこのには溢れんばかりの未熟な花園が待っている! そんな気持ちで美少女をレイプしようとしたとするだろう?」

 

「まず、例えにレイプが出てくるのが可笑しいですけど、それで?」

 

「さあ、早速むしゃぶりついてやろうと思ったその瞬間、股間にエイリアン型のおっきくなったりちっちゃくなったりイカ臭かったりするアレが付いていた時の絶望感! ……うん、想像するだけで悍ましい。僕だったら一発でインポになっちゃうね。断言するよ」

 

「いや、あんた付いてないでしょうが」

 

「心のチンチンがって事さ♪」

 

「さよで」

 

うん、まあ、気持ちが萎えるってのはあるか。

 

「そうだね。萎えるってのは良い表現だ。勃起不全を正確に言い表している」

 

「そっちの意味は込めてねーよ」

 

「あれ? でも、"ちんちん萎びる"の"萎びる"って、"萎える"って書くよね?」

 

「仮にそうだとしても、その意図は込めて、ってか、所長は思考共有あるんだから気付いてるでしょうが」

 

「うん。分かってて、下に走ったとも♪」

 

「胸張って言うことじゃないでしょーが」

 

「いやいや、ちゃんと意味はあるぜ?」

 

「……あんま、聞きたくないんですけど」

 

「至くんは巨乳大好きで、チビでおっぱいの大きな僕はアンバランスで下品なトランジスタグラマーだろう? だから、日々おっぱいを強調しておっぱいアピールすることで、大切な相棒である至くんにより良い職場環境を提供しようという、所長の粋な心遣いなのさ♥」

 

「聞きたくないって言いましたよね、僕」

 

あー、心なしか雪村ちゃんの目が冷たくなってるし。

 

「ボーナスでパイズリくらいなら、考えても良いよ?」

 

「せんでいいから」

 

つか、あんた、ちんこ嫌いじゃなかったのか。

 

「おいおい、僕がその程度で萎えるほど、柔なロリコンだと思ったのかい? 百年前に自分の股ぐらで常時エレクチオンしてカウパーだらだらな黒光りするエクスカリバーが鎮座してたんだぜ? 全くもってどうということないね♪」

 

ほんの数秒前に言ったことをあっさりかなぐり捨てるなよと。というか、その蛇口の閉まりが悪いポークビッツはさっさとごみに捨てて、アーサー王に土下座してきてください。

 

「大丈夫大丈夫。濃厚なNTR小説の主人公だから、興奮でちんちん鬱勃起させてるに決まってるさ♪」

 

「いや、NTR趣味はどっちかって言うとチンギスハーンじゃないですか?」

 

「それに、女体化してエロ同人量産されるのと、NTR呼ばわりどっちがましだろうか?」

 

「風評被害甚だしいですね」

 

結論、どっちも酷い。

 

「話を戻すと、ロリコンはロリだと思ってショタとかいう、トラップを踏まないように、何よりも観察眼を重要視する。それは、この僕も例外じゃない。僕が"見る"魔法に長けているのも、それが理由さ」

 

「今明かされる、最悪の真実ですよそれ」

 

【悲報】所長の残留思念や記憶を読み取る魔法、男の娘を見分けるためのものだった。

 

「そして、このクソダサペンネームロリコンはその基本中の基本が出来ておらず、ロリを描くという精神状態で、よりにもよって男の僕を描いてしまった。ロリコン絵師として、心のちんぽこ中折れ不可避さ。だろう? 生前、自分の生徒を二人も犯して、事がばれる前に別の生徒と無理心中した佐藤牛太郎三十四才独身さん?」

 

「予想以上に、そいつも糞野郎ですね」

 

つか、さっきの説明より悪化してるじゃん。

 

「美少女だと思って、男を描いたこいつは、トラウマで美少女を被写体にすることはできない。かといって、ロリコン絵師は美少女以外は、そもそも描けない。よって、こいつは」

 

「もう終わりと」

 

「そ。まあ、少なくとも二度と絵を描くことは不可能だね」

 

そう言って、肩を竦めた所長は、「さ、いよいよ最後の詰めだ。石水無月ありさちゃんを解放させよう」と微笑んだ。いや、何その視線……って、ああ、そういうことですか。

 

「頼んだよ。至くん」

 

「まあ、仕方ないですね」

 

その為に高い給料もらってるんだし。

 僕が頷き返すと、所長はぐりぐりと髑髏を踏みつぶしていた足を退け、糞強姦ロリコン骸骨の胸倉を掴み上げた。

 

「さて、佐藤牛太郎。君には最後のチャンスを上げようじゃないか」

 

「う……あ?」

 

かたかたと揺れながら呻く犯罪者に、所長はにぃっと口角を釣り上げた。

 

「君が誘拐した、この雪村要ちゃんの親友、石水無月ありさちゃんを今この場で開放するのであれば、僕と至くんは直ぐにでもこの場から立ち去ろう。その後は君は好きにすればいい。ヘタレロリコン道にケツ道を上げるなり、このままインポで引きこもるなりね。但し、これに頷かないのであれば、僕達も相応の手段を取らせてもらうよ。どうするかな?」

 

ま、交渉の余地はないよね。犯罪者に取引なんて持ちかけるだけ無駄。"あの世"の住人なら更に無意味だし。所長の視線も実に覚めたもので、始めから期待の色は欠片もなかった。

 

「……わ」

 

「うん?」

 

「……た、め」

 

そして、当の骸骨は俯いたままぽそぽそと何かを口にしている……。

 

「所長」

 

なんか、余り良い予感がしない。咄嗟に呼びかけると、所長は視線で雪村ちゃんの方を見てきた。僕はその視線の指示に従い、骸骨と雪村ちゃんの間に立った。

 

「……るな」

 

そして、それとほぼ同時に立ち込めた濃密な殺気。先の所長に向けられた濁流に勝るとも劣らないそれに咄嗟に雪村ちゃんを突き放した。

 

 

 

「私を! な、舐めるなあああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 

絶叫。

 先の所長の言葉通り、殆ど肝の方が死んでいたはずの佐藤牛太郎が、しかし、先の絵筆を右手に再び黒い眼孔に強い殺気を爛々と輝かせていた。その視線の先には所長が、いや、これ、まずいって。ていうか、

 

「あっさり、ロリコンの拘り捨ててるじゃないですか」

 

ちらりと見えたスケッチブックの中身には、明らかにさっきの駄作と比較してはっきりと所長と分かる人物が描かれていた。いや、普通に考えれば、そっちの方が可能性高いのに、普段所長と居るせいで、ロリコンが美少女の絵以外を書けないなんていう穴だらけの理屈を納得しちゃっていた。っていうか、そこの所長(バカ)は「あれ~?」じゃないんですよ!。明らかにヤバイじゃないですか。煽ったせいで真っ先にターゲットじゃないですか。今度は男だってバレてるんですよ?

 

「いや~、不味いね。どうしよう」

 

「さっさと逃げてください」

 

「全く、此れだから10㎞先の美少女すら判別できない、半端物は始末に悪い!」

 

言ってる場合ですかこの変態は。ああ、もう。

 

「っ!」

 

先に距離を取らせていた雪村ちゃんと、所長を先行させる。少なくとも所長が居れば雪村ちゃんが"黄昏時"に呑まれる事はない筈だ。逃げる二人の姿を覆い隠す様に、骸骨の目の前を走ると、背中に強い衝撃を感じた。

 

「ぐっ!?」

 

焼け爛れる様な不快感。伝熱線のライターに肉を押し付けたような感覚に、思わず顔をしかめてしまう。

 

「至くん!?」

 

先を走る所長が、「想定外!?」と顔色を変えたのが見えた。いや、気分が悪いは気分が悪いですけど、そこ(・・)までではないですから。十分に想定の範囲内ですから。それよりも、早く先に行ってください。でないと、僕も逃げられないんですから。

 

「オッケ、任せたよ!」

 

「あー、はいはい、任されました」

 

そんなに心配…は、してないんだよね。むしろ、全然。何て言うか、所長の思考は本当に言葉通り。任せるとしか思っていない。

 

「まあ、そんなもんだよね、普通」

 

男同士、まして、僕なら抑え込める、そう思っているなら、掛ける言葉はそんなもんだろう。そのくせ、案外信頼は感じるんだから、中々どうして反応に困るというもの。悪い気分じゃないけどさ。

 

「さて、其じゃあ、さっさと片付けようか」

 

振り返ると、第一五小のレオナルド様様が、ギリギリと歯軋りをしながら、再び絵を書きなぐっている、十中八九、中身は僕の絵で……ん?

 

「そう来たか」

 

再び向けられた一枚のスケッチには、半分は僕の、そして、もう半分にはにまにまとした笑みを浮かべる銀髪の(見た目だけ)美少女。

 

(僕と所長を同時に括る気か)

 

さっき、この骸骨は雪村ちゃんと石水無月ちゃんを同じ絵に描こうと言っていた。それと同じことを、今回は僕と所長にやろうとしているのだろう。

 

「行かせるわけには、いかないんだよね」

 

所長一人だったら、少し位の取り残しは、まあ、愛嬌()で済ませていたかもしれないけど、今は雪村ちゃんがいる。

 

「と、なるとなあ……」

 

悲しいかな、僕はあまり選択肢が多い方じゃない。むしろ、かなり少ないと言ってよく、この骸骨を止める方法も思い付くのは一つだけだ。正直、やりたくはない。けどまあ、

 

「死ねえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」

 

あの、ネーミングセンスゼロの殺気を見るとやらないわけにもいかないわけで。スケッチブックから膨れ上がった魔力は魔法の才能ゼロの僕ですら、その異様とおぞましさに身震いしたくなるほどになっている。一般人の雪村ちゃんはおろか、あの所長でも、これは直撃したら一堪りもないだろう。

 

「やれやれ、仕方ない……か」

 

邪念の濁流がぷつっとスケッチブックからパージされ、轟音と共に迫り来るのを見ながら、僕は腹を括ることにした。汚濁の真正面に立つと、真っ直ぐに迫り来るそれを正面から受け止めた。瞬間、全身に走る激痛と見分けの付かない熱量と、脳髄を犯してくるおぞましい感情。その二つに、体と心の両方をぐちゃぐちゃにされながら、僕は深くため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

(と、至くんは上手くやってくれたみたいだね)

 

 自身の使い魔が、あの変態のなり損ないの絵を受け止めたのを感じながら、コランは手を引いている依頼主の雪村要に気づかれないように、ひそとほくそ笑んだ。

 あの、骸骨の地力は驚く程ではないが、力の方は手順が面倒臭いだけあって、相応に厄介な出力を兼ね備えていた。恐らく、対象物の本質を捉えたスケッチをすることで、その存在を因果ごと絵に閉じ込め永遠の存在とする。偏執的で変態的な、実に幼児強姦殺人犯らしい力だ。厄介なことに、相対しての攻撃手段としては多少遅いが、条件を満たせばその対象を即死させられる類の呪いとしては十分に早すぎる。最初の一回目は相手が条件を満たせず、二回目は至が受け止めた。

 

「ナイスだ、至くん♪」

 

六伏コランは、あまり直接戦闘が得意な魔法使いではない。どちらかと言えば、テレパシーや残留思念の読み取り、千里眼等、特殊技能を得意としている、その為、本来、あの呪いを受ければ一溜りもないないが、使い魔となった相棒(鈴笛至)のお陰で、問題なく雪村要を一時避難させる余裕が出来ている。

 

(やっぱり、至くんは最高の拾い物だったね♪)

 

あの日、本人も言っているが、実にらしくもなく自分の事を助けた相棒の事を思い浮かべながら、コランはくつくつと笑みを深める。

 

(さて、それじゃあ、僕は僕の役目を果たすかな)

 

使い魔が足止めをしている間に、現状、足手纏いにならざるを得ない隣の少女を一旦戦線から離脱させてしまう。とはいっても、"黄昏時"から追い出してしまう訳ではない。あの骸骨が捕らえた石水無月ありさを引っ張り出す釣り針である以上、手元から話すわけにはいかないのだ。コラン自身はあまり無いとは考えているが、もし、あの骸骨に仲間がいた場合、彼女を手元から放してしまっていた場合、守り切れない危険が付いて回る。故に、取る手段は一つ。

 

「さ、要ちゃん。一寸良いかな?」

 

「はぁ……はぁ……な、なんですか?」

 

骸骨から逃げるために只管走り通しだった彼女の方が、息を切らしながらその場にへたり込んだ。

 

「一気に走って疲れているところ、申し訳ないが、僕は至くんの所に戻らなくちゃいけない」

 

「! 鈴笛さんに何かあったんですか!?」

 

コランがそう告げると、はっとなった雪村要が身を乗り出してきた。

 

「いや、そうじゃないよ。予定通り。そして、想定通りに事は進んでいるとも、至くんは優秀だからね」

 

「優秀……ですか?」

 

「おや、信じられないかい?」

 

「……」

 

コランがくつくつと笑いながら問い返すと、少しきつめの美少女は言葉に困った様子で黙り込んだ。

 

「……別に、悪い人だとは思いません」

 

「女性らしい言葉の選び方だね」

 

「やっぱり女の子は、小学生でも女なんだねえ」とコランは苦笑した。

 

「ま、あの通りの風貌だ。確かに至くんは切れ者ってタイプじゃあない。けど、その人間の力量や真価が常に頭の回転にあるっていうのは、一寸モノの見方が狭すぎるとしか言いようがないぜ? 元々、人間の価値なんて他の動物同様腕力が第一で、頭の回転が最重要視されるようになったのなんてつい最近の事なんだから」

 

「じゃあ、鈴笛さんは喧嘩が強い人なんですか?」

 

「残念ながら、それも一寸違うね。マスターである僕が直接攻撃系じゃないように、至くんも直接攻撃はあまり得意じゃない」

 

「じゃあ、一体……」

 

困惑する、まだレディになり切っていない少女の仕草に、百年を生きた自称大魔法使いはふっと表情を綻ばせた。

 

「まず、一つ前提がある。戦闘は何も相手を破壊することが絶対の勝利条件じゃない。特に今回の要ちゃんの依頼の様に、誰かを助けて欲しいという依頼の場合は、『犯人は無事殺処分。しかし、囚われた被害者は死亡確認』とかじゃ話にならない訳だ。そういう依頼の場合、単純に破壊するよりも、取り押さえる方面に特化した使い魔の方が効率が良い場合がある。至くんは、そういう意味では僕が知る限り最高の『盾』で『鎖』で『追跡者』さ」

 

「……」

 

「さて、話を戻すけど、至くんは敵を拘束する事までは出来るんだけど、如何せん敵を甚振ったり、その心を壊したりっていうのには性格面は兎も角、能力的には向いていない。そっちは専ら僕の役割でね」

 

「え……」

 

コランの口から出た物騒な言葉に、一瞬虚を突かれたのか、雪村要が僅かに目を見開いた。しかし、コランの方はそんな少女の驚きを無視して、ぺらぺらと話を続ける。

 

「あの手の封印系は心を折らないとダメなんだよね。大抵は。心を折って、一旦拘束そのものを弱めた後、不完全な封印の原因を使って封印された相手をこっち側に引き戻す必要がある。その為には要ちゃんがありさちゃんを助けるのには絶対に必要なんだけど、あの骸骨の心を折っている途中では傍にいてほしくない。変な最後っ屁で君が襲われたらそれこそ本末転倒だからね。ここまでは良いかな?」

 

「あ、はい……」

 

「うん。いい子だ。おじさんが花丸を上げようじゃないか♪」

 

頭がまだ付いていかない中でこくりと頷いた雪村要に、コランはくるくると花丸を描く。そして、

 

「と、いうわけで……これを着たまえ☆」

 

やおら立ち上がると、自分が着ていたYESロリータ!GOタッチ!のTシャツを脱いで雪村要に差し出したのだった。

 

「……………………は?」

 

緋色の廊下に響き渡る、長い沈黙の末の「は?」。冷たいその声音に、しかし、変態コランの方は実に楽しそうに、むしろ嬉しそうに「はい♥」と全裸のまま、もう一度自分が脱いだTシャツを突きつけた。

 

「……」

 

「……」

 

「何の意味があるんですか?」

 

「お、論理的な反論を行おうとしたね? 中々にポイント高いじゃないか」

 

「所長さんが真面に話をする気が無いのは分かったので、せめて理由だけでも把握しておこうかと思ったんです」

 

「おや、色々と諦められてるのかな?」

 

「それは、自分の胸に聞いてみてください」

 

「僕のおっぱいに? ふむ……」

 

六伏コランは自分のおっぱいを揉み、乳首をコリコリした。六伏コランは30の快感を得た。

 

雪村要のビンタ。六伏コランは12のダメージと100の快感を得た。

 

「ま、要するに、僕と至くんがあの骸骨の心を折っている間に要ちゃんに現場に来られちゃ困る。だけど、待ってもらっている間に他のあの世の住人に襲われたら今度こそ助けようがないかもしれない。だから、その間はこの認識阻害を掛けたTシャツを着て待っていてほしいんだ。僕の愛用物だからね。馴染んだ認識阻害も相応に強力だし、何かあったら僕に知らせてくれるからね♪」

 

そう言って、ぷっくりと膨らんだ乳首をびくびくっと震わせ、とろとろと白い母乳を零しながら、コランはにっこりと微笑んだのだった。

 

「……」

 

「……おや? どうしたんだい? 僕のおっぱいを見詰めて。もしかして吸いたいのかい? 要ちゃんみたいな美少女の授乳希望なら僕は二十四時間三百六十五日受け付けているからいつでも言ってくれ。それとも、自分のおっぱいが大きくなるかとかそういう心配かな? なら大丈夫。ちゃんとご飯食べて、ちゃんと運動して、ちゃんと一杯寝てたら立派なおっぱいに育つから♥」

 

「いえ、もうなんか、色々と諦める気になったってだけです」

 

そう言って、深い深い溜息と共に、雪村要は全裸のコランから最後の衣服(Tシャツ)を受け取った。

 

「着心地はどうかな?」

 

「……匂いが甘ったるいです」

 

「辛辣だなあ♥」

 

雪村要の視線を受けて「僕のミルクが染み込んでいるからね♥」と、コランはけらけらと笑った。

 

「じゃ、僕はそろそろ行くから、此処で待っていてくれ」

 

「分かりました」

 

頷いた雪村要に、助手の手形の付いた白いお尻を向けたところで、コランがふと立ち止まった。

 

「? 何か?」

 

「言い忘れたけどもう一つ、要ちゃんは気が付かなかったみたいだけど、至くんはあれで結構ゲスい性格しているぜ?」

 

自分の言葉に難しい顔になった小さな依頼者を見て、コランはくすくすと

 

「まあ、まだ小さな君には分からないだろうけどね」

 

「子ども扱いしないでください」

 

「残念ながら、まだまだ子供さ。至くんの力、その本質に気付けないならね。僕が何故、彼を僕の唯一の助手にしたのか……それは、至くんの持つ怠惰性。自分への痛みすら、面倒の一言で切って捨てる痛覚に対する鈍さと強さ。おおよそ、壁役としては最高のスペックを誇る。何よりも、他人という奴に酷く冷淡で感情を向けることすら面倒臭がる」

 

「それ、普通にダメな人じゃないですか?」

 

「だが、常に敵が周りに居るなら決して悪くない性格だ。僕が何百何千と、"あの世"や"この世"の住人を壊そうが、ピクリとも気にしないだろうからね♪」

 

「……」

 

コランの説明に今一納得がいかないのか、雪村要は難しい顔になった。

 

「ロリコンとして教えておこう。良いレディの条件は、良いパートナーを見極める目を持つことだ。男でも女でも、老人でも幼子でも構わない。だが、運命の人が現れる。君の前にも……ね」

 

「……所長さんにとっては、それが鈴笛さん何ですか?」

 

「勿論♪」

 

コランは即答した。

 

「至くんの特性は、僕という魔法使いとっては最高の相性と言って良いからね。それに」

 

「?」

 

「何事にも冷淡で淡白だけど、僕"だけ"には少しだけ優しいからね♥」

 

「じゃ、そろそろ行かせてもらうよ☆」と笑い、踵を返した全裸のコランが、ブラジャーも着けていないおっぱいをばるんばるんさせて走り去った。

 

「……え? 優しい? あれで?」

 

後に残った雪村要の、至極真っ当な疑問が緋色の廊下に残ったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

―ああ、熱いな……皮膚が全て沸騰した金属にすり替えられたみたいだ―

 

―それに、胸のムカつきも治まらない―

 

―苦しい、気持ち悪い、胸くそ悪い、脳髄が犯されてるみたいだ―

 

―けど、―

 

 

 

 

「面倒臭いなあ……」

 

 

 

 

 "第一五小のレオナルド"の放った呪い。それを受け止めながら、僕は思わずため息を吐いた。全身を小さなハサミで切開されて、寸刻みに肉片ごと皮を切り取られる様な感覚と、産まれてからの不快な記憶や怒り、無念を順番に引きずり出されるようなむかつきにうんざりしてきた。

 

「……」

 

呪いの汚濁の中で目を開くと、薄暗いその濁流の奥で、勝利を確信したのか「はっはっはっはっは!!!」と哄笑する犯罪者の姿があった。

 

「ふうん……」

 

明らかに油断しきった姿。自分の力に酔って、勝利を確信しているそれに、ふつと胸の中で不快感が湧いた。なんだかなあ……

 

「様を見ろ!! この私、"第一五小のレオナルド"の不興を買うということの意味が分かったか!! 貴様は私の絵に閉じ込めたあと、直ぐに火にくべて、もう一度地獄を味わわせてやる!! ……そして、自身の罪深さを噛みしめ、愚かさを嘆きながら、消滅してしまうが良い。はぁーっはっはっはっ!!!!」

 

「……」

 

耳障りだな。それ以上に、面倒臭い。けど、その更に上に、

 

「あの、銀髪の男もそうだ! この私を! 私の芸術を侮辱した上に許しがたい詐欺まで行ったあの男も! 貴様と同じく絵ごと火にくべてやろう!! それが、貴様らに出来る唯一の償いだ!!」

 

所長も狙われるんだよね。まあ、あんだけ煽ったら当然かもしれないけど、このロリコン、普通に人殺しだからなあ……。

 

「仕方ないよね……」

 

仕事は仕事。それに、まあ、色々と問題のある、というか、問題しかない人ではあるけど、これでも其なりに情はあるわけで。

 

「させないよ……」

 

全身にまとわりついた呪いの靄の中で、骸骨に気付かれないように体勢を整えると、

 

「ふっ!」

 

無防備に哄笑するどくろに、一息で飛び掛かる。全身の皮膚が引きちぎれ、頭皮から爪先までベリベリと二区を引き剥がされる様な感覚に陥りながらの跳躍。

 

「なっ!?」

 

どうやら、絶讚勝ち誇り中だった骸骨は、僕が呪いの中から出てきたのが予想外だったらしい。白衣の中のぶつかりやすい肋骨目掛けて体当たりをすると、予想通り軽い衝撃と共にすかすかの体が簡単に吹っ飛んだ。

 

「……!」

 

また、からんと落ちた筆を尻目に、左手に残ったスケッチブックをもぎ取る。自力で簡単に補充できちゃう可能性もあるけど、持たせておいて良いこともないはずだ。後は、こいつを抑えて、所長が来るのを……「な、何故だ!?」うん?

 

「何故、貴様は動くことが出来る!? その焼け爛れた体で!? そもそも、何でその体で生きている!? いや、それ以前に、何で私の絵に取り込まれていないんだ!?」

 

いや、言うわけないし、本当はやりたくもなかったし。

 

「う……あ……」

 

「有り得ない有り得ない」とぶつぶつ呟くロリコン骸骨がいい加減鬱陶しくなり、軽く黙らせようとしたけど、焼け爛れた唇が貼り付いて、口を開くのも激痛が走るな……。あ、唇裂けた。痛いし苦しいし、ムカつくし、ホント、さっさと終わらないかなぁ……。未だ、逃げようとする骸骨を都度押さえ込み、焼け焦げた皮膚の悪臭に顔を顰めながら思わずぼやいてしまった。と、

 

「ごめん、遅くなったね。至くん」

 

本当ですよ、凄く痛かったし頭の方も壊れそうでし……

 

「至くん?」

 

いや、時間かかったのはこの際置いておいて、何で全裸?

 

「要ちゃんを隠すのに、僕のTシャツを貸しちゃったからね♪」

 

明らかに自分の趣味じゃないですか。小学生に自分の体液着いた服着せるのは楽しかったですか?

 

「勿論、最高だったね!」

 

ああ、もう、何でそれで胸張るんですか、褒めてませんよ。ていうか、何で母乳噴き出してるんですか。

 

「一寸そういう気分でね。飲んでみるかい? 至くんなら僕としては構わないよ?」

 

遠慮しておきますのでさっさと助けてください。「味は保証するよ?」結構です。

 

「それは残念」

 

何で残念がるんですか。

 

「じゃ、今治すから、少し待っていてくれたまえ」

 

はいはい……。

 全裸の所長が芝居がかった動作で指を弾くとパチンという音が不思議と澄んで緋色の空間を満たした気がした。同時に、体中の激痛や胸のむかつきが解れ、体中が柔らかな流体で洗い流されたような気分になる。

 

「ふぅ……漸く痛みが引いた」

 

「お疲れ様。ごめんね? 遅くなっちゃったね」

 

「雪村ちゃんのケアしてたんでしょう? 気にしなくていいですよ」

 

流石に一々子供の評価に傷つく性質じゃないけど、反論していたのは悪い気分じゃなかったし。

 

「うん? そうかい♥」

 

「いや、何でそっちが嬉しそうなんですか。何にやにやしているんですか」

 

あーもう、なんだかなあ。

 

「そこで、素直に思い浮かべてくれるのが、至くんの良いところだと思うよ?」

 

「単に包み隠すのが面倒なだけですよ」

 

そもそも、思考まで共有しているのに、隠すなんてほぼ不可能だし。

 

「そうかい?」

 

そこ、にやにやしない。

 

「ま、そういう事にしておこう。これ以上大切な相棒に嫌われちゃったら困るからね」

 

はいはい。

 

「さて」

 

こほんと咳ばらいをした所長が、自身の最高傑作と言ってはばからないおっぱいをゆっさと揺らして、僕の下で未だにじたばたしている骸骨を覗き込んだ。ていうか、垂れてます、垂れてます。

 

「おいおい、至くん、僕のおっぱいは確かにデカメロンサイズだけど、その辺はきっちり調整して作ってあるんだから、普通の女性のおっぱいと違って垂れたりなんかしないよ?」

 

「そっちじゃねーよ」

 

母乳の方だよ、母乳の方。

 

「おっと、此れは失礼」

 

そう言って、所長は何処からともなくハート型のニプレスを取り出して、ミルクがとろとろと流れる乳首に蓋をした。いや、服着てくださいよ。

 

「さて、何故至くんが君の絵になっていないのか。君の呪いが効かないのかだったね? 頭の血の巡りが悪く、自分の芸術が自分の芸術()であることすら理解できない残念な知能しかない君に、今回はこの大魔法使い六伏コランが特別に講義をしてあげよう。お代は君の命だ。喜んでむせび泣くと良い♪」

 

なんか、普段の一割増しで機嫌よく、腕の下の骸骨に罵倒をプレゼントした。(但し、僕の切実な願いはガン無視)

 

「この大魔法使い、六伏コランのたった一人のパートナー。相棒である至くんはその特性上、魂の形が非常に"停滞"の力と相性が良い。ぶっちゃけ、物凄く"怠惰"だ」

 

「何時聞いても酷いですよね。それ」

 

というか、普通にクズだし。

 

「普通というのは社会が暫定的に都合よく定義しているに過ぎないからね。仮に"怠惰"が今の社会で評価が低くても、僕の使い魔として永遠を生きる至くんには適用されないのだ♪」

 

「はいはい」

 

何て言うか、所長も所長で無駄に度量広いよね、実際。

 

「で、この"怠惰"と"停滞"、そして"保留"は逆説、維持に非常に優秀な適性だ。そう、其れこそ、使い魔としての契約込みであれば、君のそのご自慢の呪いを真正面から受け止めて耐えられる程にね。感情も、肉体ダメージも、"停滞"の元に維持を続ける。その両腕も振り解けなかっただろう? その辺も至くんの特性さ。もっとも、激痛や不快感まで残り続けるから、まともな神経をしていたら、とてもじゃないが耐えきれない」

 

「暗に人をまともじゃない扱いしないでください」

 

失礼な。

 

「つまり、君はまともじゃない至くんを狙った瞬間にほぼほぼ詰んでいたという事なのさ。分かったかな?」

 

「真っ向からまともじゃない扱いしろって事じゃないですからね?」

 

所長が締めくくると、腕の下の骸骨が「そ、そんな……」と呆然としたのが分かった。ま、予想できないよね。僕自身、未だに半信半疑と言えば半信半疑な部分があるし。自分の性格にまさかそんな長所を見出されるとは思わなかったよね実際。

 

「さ、それじゃあいよいよチェックメイトといこうか」

 

そんな、僕の疑問符を他所に、所長が詰めの準備に入る。

 

「繋ぐんですか?」

 

「ああ」

 

頷いた所長がぺたりとその場に座り込み、僕と骸骨の頭に手を伸ばした。

 

「な、何を……?」

 

その動きに不信感を持った骸骨が呻くと所長はにまーっと、しかし、普段と違って実に酷薄な光を目に宿して微笑んだ。

 

「君には報いを受けてもらう」

 

機嫌が良さそうな声音。だけど、これも心地よい音色の中に冷たい響きと毒があった。

 

「君の呪いは相当に手順が面倒臭く、その制限の分強力だ。逆説、君自身がそれを解くことが出来るのか、僕達には分からない。そんな状態でも一度は君自身で呪いを解くように要求したけど、解かなかっただろう? なら、こっちとしては力ずくで君の呪いをこじ開けるしかないんだよね」

 

「わ、私をどうこうしたら」

 

「確かに、呪いがそのままになる危険がある。けど、こっちには要ちゃんがいる。君の呪い。他人の記憶からすらその存在を消し去る程強力なあれの中で、たった一人だけ、石水無月ありさちゃんを記憶していた。そして、その繋がりの強さ故に呪いの完成すら阻止していた。彼女が居れば、石水無月ありさちゃんの身柄を引っ張り上げるくらいは出来るさ」

 

「わ、私にはまだ他にも作品が」

 

「ああ、その事かい? そっちはそもそも無理さ。僕達じゃ助けられない。君が本当に助ける気があるとも思えない。仮に助けても、もう世間との繋がり切れちゃってる娘が殆どだろう? なら、このまま"黄泉帰らない"方がその娘達のためさ」

 

「み、見捨て「ああ、そうだとも」

 

所長の罪悪感を突こうとした骸骨の言葉を遮り、所長がこくりと頷いた。

 

「だけど、勘違いはしちゃいけないぜ? 僕達は見捨てるが、それはもう手立てがないってだけの話さ。手立てがあれば助けたし、なんならアフターフォローだってサービスしただろう。だけど、そうはならなかった。他でもない、君のせいでね。すり替えるなよ。悪いのは君で、僕達には関係ない話だ」

 

「く、こ、この!」

 

刻一刻と自分が十三段の階段を登っている事に気が付いたのか、骸骨が呻きながら再びじたばたと身を捩り始めた。あー、所長。

 

「ああ、そうだね。伸ばし伸ばしにしていても、別段面白味も無いし、すぱっと殺っちゃおう♪」

 

そう言って、所長は小さな掌を今度こそ、僕と骸骨の額に宛がった。

 

「な、何をするつもりだ!?」

 

骸骨が悲鳴を上げると、所長は実に楽し気に鼻歌を歌った。

 

「別に大したことじゃないさ」

 

そして、事も無げにそう告げる。

 

「さっき、至くんが受けた苦痛や苦しみ、心身両面余さず、君に追体験させてあげるだけだとも♪」

 

「なっ!?」

 

「正しく、"報い"だろう?」

 

そう言って、絶句する骸骨を見下ろしながら、所長はけらけらと笑い声を上げた。

 

「至くんの身体は非常に頑丈で、君の呪いの事も全て記憶している。そしてその記憶を僕が取り出し、今から君の身体と心に同じものを練り込んであげるという訳d「や、やめ」ん?」

 

「やめてくれ!? 私は! あんな悍ましいものを受けたくない!?」

 

「ああ」

 

形振り構わず、泣きわめく骸骨に、所長は実に、実に楽し気な笑みを浮かべた。

 

「い や だ よ。そんなの」

 

そう言い切ると、今度こそ、その小さな掌に青い光が宿る。

 

「そもそも、当六伏探偵事務所は美少女からの依頼しか受けていないんでね。ブサイクで、男で、大人の君は全てにおいて対象外さ」

 

その辺は割とあんたが言うなだけどね。

 

「それに」

 

 

「僕は君の事が純粋に嫌いなのさ。ロリコンとしてとかそういうのなしに僕の相棒に与えた苦痛くらい、がたがた言わずに受け止めたまえよ……男だろう?」

 

「……」

 

僕は何となく面映ゆい気分になりながら、

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

骸骨の絶叫が何時までも何時までも緋色の世界に響くのに耳を傾けたのだった。

 

 

 

 

「さ、出て来たね」

 

 数分後、絶叫を止め、かたかたと震えるしかなくなった骸骨の右手に、所長の言葉通り一本の筆が出てきた。

 

「これが彼の妄執。心残りの形さ」

 

「筆なんですね」

 

「みたいだね」

 

頷いた所長が細い手からそれを毟り取る。

 

「正直、やった事を考えたら女の子の何かが出てくるかと思ってました」

 

「恐らく、そっちは副次的なものだったんだろうね。肥大した自意識と承認要求の中で、自分より弱いものに鬱屈した暴力性が向いた」

 

「だから、こっちがスタートですか」

 

使い古したそれには、確かに骸骨の努力の痕が見えたと言えば見えたかもしれない。まあ、

 

「この程度の事で殺された美少女達はさぞ無念だっただろうね」

 

「ま、でしょうね」

 

頷き返し、僕も立ち上がる。

 

「で、此れを壊すんですか?」

 

亡霊の方は既に肉体も人格も壊れていると言って良い。けど、まだ雪村ちゃんの親友の姿はこの緋色の廊下には現れていなかった。

 

「確かに壊すんだけど、直接的に折る感じじゃないね。どっちかって言うと、気力を搾り取るイメージだし」

 

「ですか」

 

「ああ」

 

頷いた所長が少し考える様に顎を撫でた。

 

「"あの世"の物っていうのは、住人と同じ様に、精神的な要素が非常に強く出るんだ。だから、物を壊すと言っても、物理的な破壊は殆ど効力を発揮しないし、逆に心の持ちようで結果も大きく変わる特性がある。この筆は主人が居直り開き直りの自己顕示欲型だったせいか、多少折った程度じゃどうにもならなそうだね」

 

「じゃあ、どうやって?」

 

「そうだねえ……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……あ、そうだ」

 

少し首を傾げた所長が何かを思いついた様子でポンと手を打った。

 

「妄執を砕くには、概ね一番嫌なことをさせるのが常道だ」

 

「ふむ」

 

「なので、精液をこの筆に含ませよう」

 

「おい」

 

僕は思わず突っ込んでいた。ていうか。筆を精液に漬け込むって?

 

「ついでにこいつのスケッチブックにザーメンで絵の一つも描いてやったら、もう一発だね」

 

「待った待った待った」

 

なんかもう、この時点で嫌な予感しかしないんだけど。

 

「ちょ、所長?」

 

「何だい? 至くん」

 

「本当に、其れしかないんですか?」

 

「少なくとも、この骸骨の筆の思念を読み取ったら、一番嫌なのはそれだったね」

 

「このロリコンが……」

 

ほんの少しでも才能の無さに鬱屈した物を抱えていたことに同情した僕が馬鹿だった。っていうか、

 

「じゃあ、もう一つ質問なんですけど」

 

「うん?」

 

「その、精液は「ああ、其れかい!!!」

 

なんか、今日一番の笑顔を浮かべて背伸びをしてきた。っていうか、近いです。

 

「まず、この場には現状至くん以外にザーメンをどぴゅどぴゅ出来る人間が居ないだろう?」

 

「所長は男だけど身体は女ですからね」

 

「勃起くらいはクリトリスで出来るけど、吐精は無理だから、どうしてもおちんちんに頼らざるを得ない」

 

「ものすごく聞きたくない分析ありがとうございます」

 

っていうことは、え? まさか、僕、この場で自慰しなくちゃいけないの?

 

「勿論、至くんにそんな事をさせるのは所長として心苦しい! もし、至くんがしたいと言うのなら、僕の身体をおかずとして提供するくらいは考えても良いんだけど、至くん、嫌だろ「絶対に嫌です」うん、至くんならそう言うと思ったよ」

 

そう言って、所長は軽く肩を竦めた。

 

「嫌がる所員にオナニーをさせたらセクハラになっちゃうからね。ここは僕が所長として一肌脱ごうというわけさ♪」

 

「セクハラを気にするなら、まず普段の言動を改めてくださいよ」

 

ほんと、割と切実に。っていうか、

 

「一肌脱ぐ?」

 

「ああ、そうさ♥」

 

「……」

 

何だろう、猛烈に嫌な予感がするんだけど。

 

「この場で精液が必要だけど、現状調達できるのは至くんしかいない。けど、至くんにはそんな事はさせられない!」

 

「はあ……」

 

「なら……」

 

「……」

 

「僕が射精するしかないじゃない!! 至くん! 僕にチンチンを分けてくれ!!!」

 

「……は?」

 

なんか、訳の分からない、というか、頭が理解を拒否する言葉が飛び出した。思わず固まった僕の前で、そんなこと知った事かとばかりに所長が吠え猛った。

 

 

 

 

「丸ごと飲み込め。至くんの……約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

その瞬間、所長と僕の股間が青い光に包まれる。そして、

 

「?」

 

僕の股間から、絶対にあるはずの、二十年以上付き合ってきた筈のアレの重みがすっと消え去った。

 

「!」

 

……ない。

 慌てて確かめてみたトランクスの中には、絶対にある筈のそれが奇麗さっぱりいなくなっていた。

 

「……所長?」

 

「ん? ああ、至くん。中々至くんも良いちんちん持ってるじゃないか」

 

そして、当の所長。僕の主人である筈の大魔法使いの一応見た目だけは正真正銘美少女の股間から、絶対にありえない筈の男根が隆々と勃ち上がっていた。っていうか、それって?

 

「ご想像の通り、至くんのおちんちんさ♪」

 

「……」

 

おい。

 

「うん、本当に良い形だね。これならこの絵筆に浸してコックさんくらいなら描けちゃいそうだ。ああそうそう、このコックさんは棒が一本で始まるからと言って、Cockさんでは決してないから、間違えないようにね?「そんなんどうでもいいわ」

 

僕は思わず所長の頭を引っ叩いた。

 

「え? 何? 何ですか? 今日散々相棒だのなんだの言っておいて、その相棒の相棒引っこ抜くとか何するんですか? 仕舞いには訴えますよ? 暴力に」

 

「いや、暴力て、至くん僕に攻撃は「所長がトイレに行こうとするたびに、体を抑えて漏らさせます」ゴメンナサイ、本当に勘弁してください」

 

所長は一瞬で土下座した。ていうか、土下座するならやらないでくださいよ。

 

「で?」

 

「うん?」

 

「それ、元に戻るんですよね?」

 

この際、原理とかはもうどうでも良いから、其れだけが気がかりだった。

 

「ああ、そこは保証しよう」

 

「信じますよ?」

 

「ありがとう」

 

「嘘だったら所長の尻の穴にさっきの骸骨の大腿骨ねじ込みます」

 

「あれ? 微妙に疑ってないかい? 至くん」

 

いきなり、ちんこ取られたらそうもなるわ。

 

「まあ、種明かししちゃうと、使い魔との感覚共有の延長でね、僕と至くんは互いの肉体を一時的にだけど交換したり渡したりすることが出来るんだ」

 

「それ、初耳なんですけど」

 

「普段はあまりやらないから、良いかなーって!?」

 

「今後は絶対に言ってください。じゃないと注入しますよ?」

 

「何を!?」

 

所長の眼球にこんにゃくゼリーを。

 

「無言は怖いなあっ!?」

 

というか、悲鳴を上げているところあれなんですけど。

 

「うん?」

 

「さっきから、全然ちんこ萎えてなくて、言う程堪えていないの丸分かりなんですけど」

 

うん、所長の股間のそれ、物は僕のでも、今の持ち主は所長だよね?

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……てへ☆」

 

「いや、誤魔化せてませんからね?」

 

下手すると、普段から罵倒されながら興奮してた疑惑まで出てくるんですが?

 

「仕方ないだろう!? 僕はMで至くんの事はかなり気に入ってるんだから」

 

「いや、知りませんて」

 

つか、男に罵倒されて興奮できるんですか。

 

「至くんがもしも美少女だったらって姿を想像しながら罵倒されてるからね♥」

 

「やめい」

 

怖すぎるわ。

 実際に体弄られたの見ると、何時か勝手に美少女にさせられそうだなあと僕は漠然とした恐怖に駆られずにはいられなかった。

 

「さて」

 

「ええ」

 

「僕は一寸そっちでオナってくるから、少し待っていてくれ」

 

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

「ああ、イってくるよ」

 

やかましいわ。

 

「というか、精液に筆を浸すってそこまで効果があるものなんですかね?」

 

前段の拷問は兎も角、ふとそんな疑問を持った。

 

「ああ、勿論ばっちりさ」

 

僕の疑問に、所長はにっと笑みを浮かべる。

 

「封神演義って知っているかい?」

 

「中国の怪奇書ですよね? 西遊記とか水滸伝とかの類の」

 

「そ。あの中に、仙人の神通力を奪う描写が幾つか出てくるんだけど、その方法の一つに糞尿を混ぜたものを頭からぶっかけるって描写ある」

 

「はあ」

 

普通にやられたら嫌だけど、言葉でされても凄さは今一伝わってこないな。でもまあ、

 

「そ。元来、力っていうものは清浄ではないにしても純粋な物でね。ああいった汚物の類には凄く弱い。"邪視"或いは"魔眼"の類の持ち主は眼球を清浄に保つ必要があり、一目で他人を殺すことが出来る力でありながら、目の前で汚いセックス。まあ、スカトロプレイとかそっちを見せられると、その悍ましさに眼球が破壊されて死に至るんだ」

 

「そういうモノなんですね……」

 

何となく、所長の言わんとすることを理解する。要するに、この行動は僕が思っている以上に強い力でこのレオナルド()の魂を破壊する効果が見込めるということだ。

 

「じゃあ、今度こそイってくるよ♥」

 

「はい」

 

「至くんなら覗いても……良いんだぜ?」

 

「殆ど毎日見てるので興味ありません」

 

「それもそうか♪」

 

「何で一寸嬉しそうなんですか」

 

けらけらと笑った所長が直ぐ近くの教室に消える。ほどなくして、

 

「ふおおおおおおおおお!♥ やっぱり、銀髪巨乳トランジスタグラマーロリ美少女最高! っていうか僕の身体最高! 美少女の髪形って言ったら絶対にストレートのロングだよね! ん! 良いよその表情! エッチだよ!! 服従のポーズも無様で下品で、最高にエッチだ! ほらもうそこそんなに大きくしちゃって!! 我慢できないのかい!? ほら! びくびくしちゃって!! すっごく溜まってそうだね!! どうしたいんだい!? 早く射精したくてしょうがないんだろう!?♥ でも駄目だぜ? まだイっちゃ♥ 気持ちよくイきたかったら、たっぷりと我慢しないとね♥」

 

「あの野郎……」

 

僕の身体を使って、所長の身体をおかずにオナりやがった所長(バカ)に、グーパンを見舞う事を決心しながら、深々と溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 雪村要にとって、石水無月ありさという親友は、もしかしたら両親以上に繋がりの深い相手だったかもしれない。幼稚園の頃から、今の様に率直にものを言う性格だったことが災いしてか、雪村要は虐められてこそいないものの酷く孤立していた。そんな要に直接声を掛けたのが。

 

―要ちゃん―

 

同じ学年の石水無月ありさだった。二人は何時も一緒で、その時間が要にとっては何よりも大切だった。小学校に上がってもそれは変わらず、むしろ塾や習い事が増えて、学校だけでなく雪村要の時間は石水無月ありさとの時間となっていった。もしかしたら、睡眠の時間を除けば両親以上に顔を合わせていたかもしれない。それは、最早自身の半身と言ってもよかった。

 

「……」

 

 だから、今この場で、緋色の世界でじっと耐えることが出来た。それは、耐えることが出来たというよりは、この"緋色の世界"も、"普段の世界"も石水無月ありさが居ないのであれば、雪村要にとって、さして違いがないという事に過ぎなかった。

 あの日、偶然にも頼った奇妙な二人組。六伏コランと鈴笛至。本当にこの二人がどうにかしてくれるか分からない。けど、

 

「ありさちゃん……」

 

どんな手を使っても良い。どんな目に会っても良い。ただ、雪村要は石水無月ありさが居ない世界など考えられないのだった……。そして、

 

「あ」

 

―待たせちゃったね、要ちゃん♪ 石水無月ありさちゃんを引き上げるからこっちに来てくれ―

 

不意に脳裏に響いた声。その何処までも楽し気で、妙に悪戯っぽい声音に頷き、よろよろと何故か頭に浮かぶ道を辿って、雪村要は緋色の世界を真直ぐに歩き始めたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「いやあ、お待たせ。悪かったね、要ちゃん」

 

「ありさちゃんは……ありさちゃんは何処ですか?」

 

「そこさ。この光の奥に居る」

 

「……」

 

 そう言って所長が指さしたのは小さな青い光。元はスケッチブックだったそれは、先程所長がはたいたら、一番最初に一人の少女の姿が出てきた。

 

―間違いない。要ちゃんが思い浮かべていた親友の姿そのものだ♪―

 

そう言って笑った所長がイカ臭い絵の具をのせた絵筆で何かを書きつけると、途端にこれは発光して、こんなゲートを作り出した。

 

「さ、後は君の力次第だ」

 

そう言って、所長が促すと雪村ちゃんが不安げに所長を見返した。

 

「君が、ありさちゃんをこっちに引き戻すんだ。このゲートの奥に居るありさちゃんを。鍵になるのは思いの強さだ。残念ながら、此れは僕には出来ない。確かに石水無月ありさちゃんに性欲は持っているけど、それ以上の感情は無いからね」

 

「僕の心にありさちゃんはいない」と締めくくるのは良いですけど、その前の言葉をさあ。もっとさあ……。

 

「……」

 

そうこうしているうちに、青い光のゲートの前に立った雪村ちゃんがおずおずとその中へと手を伸ばした。細い小さな手を差し出し、何処か不安げに。ふと、何かを思いつめた様に目を瞑ると、彼女はぽつりとつぶやいた。

 

「ありさちゃん……お願い、戻ってきて。お願い」

 

「「……」」

 

「私、もう一人は嫌なの、ありさちゃんがいないと、生きて行けないの……だから!」

 

それは、一つの懇願だった。何処までも純粋で、何かに怯えた姿。ああ、そうか。

 

「彼女はありさちゃんと二人で一つ。そんな存在だったんだね」

 

「……」

 

所長の言葉に耳を傾けながら、おぼろげに彼女だけが石水無月ありさちゃんを覚えていた理由を理解した。確かに、そうでもなきゃ、両親以上に繋がりが強くなるわけがない。そして、

 

「「お」」

 

「!?」

 

僕と所長が見守る中、ゲートの奥から彼女の物と同じくらい細い腕が姿を見せた。

 

「ありさちゃん!!」

 

その感触に、直ぐにそれが誰なのかを理解した雪村ちゃんが、そう叫んで腕の奥へと抱きついた。直後現れる、雪村ちゃんより一回り小柄なボブカットの女の子。

 

「石水無月ありさちゃんですか」

 

「だね。実物は初めて見る♪」

 

その身体に抱きつき、わんわんと泣き叫ぶ雪村ちゃんと混乱しながらおずおずと彼女を抱き寄せる石水無月ちゃんを見ながら、僕と所長はそろって軽く肩を竦めた。どうやら、この依頼も終わりが近いみたいだ。

 このままずっと泣き続けるんじゃないかってくらい泣き続けた雪村ちゃんがやっと泣き止んだのは、結局、それから十分もしてからの事だった。

 

「ありがとうございます」

 

泣き枯らした声で、少ししゃくりあげながらも、はっきりそう言って、頭を下げた雪村ちゃんに、所長が「うん。どういたしまして♪」と微笑んだ。

 

「さ、それじゃ、そろそろ出ようか。"黄昏時"も御仕舞いだ」

 

そう言って所長が指を鳴らすと、辺りの赤が潮が引くように消え、後にはとっぷりと月明かりだけが照らす静かな廊下が残った。

 

「これで恐らく、君の親友、石水無月ありさちゃんの記録は全て元通りの筈だ」

 

「はい」

 

「ただ、万が一、何か困ったことがあったら、また前と同じ方法で僕と至くんを喚んでくれ。必ず力になるからね」

 

「ありがとうございます。全裸のお姉さん」

 

雪村ちゃんの隣でぎゅっと手を握っていた石水無月ありさちゃんが、少し戸惑いながらもお礼を言ってきた。まあ、初対面じゃそういう反応になるよね。

 

「いやいや、ちゃとニプレスは付けてるだろう?」

 

「世間一般では、その差は誤差としかカウントされませんよ」

 

「なんと!?」

 

「なんとじゃないですよ。何で驚いているんですか」

 

下半身は当然のように全裸だし、ほぼほぼ全裸でしょ。

 

「いやいや、ほぼほぼということは、まだ全裸ではないということさ」

 

やかましいわ。

 

「それじゃ、そろそろ僕達は行くけれど、最後に報酬の話をしようか?」

 

一頻りけらけらと笑った所長が、軽く延びをして雪村ちゃんと石水無月ちゃんを向き直り、そう言って人差し指を立てた。報酬かぁ……。

 此までの経験から、ろくな結果にならないことを察しながら、しかし、依頼内容は完璧にこなしてしまっている事実に、僕は二人に気付かれないように溜め息を吐く。

 

「はい……」

 

所長の言葉に、雪村ちゃんが少し緊張した面持ちで頷いた。子供……と言っても、本当に聡明だったこの子はこの結果に対価なしというわけにはいかないということを理解しているのだろう。或いは相当に無茶な事でも受け入れる心づもりなのかもしれない。そんな彼女を前に、にまーっというチェシャ猫の笑みを浮かべて、所長は「じゃあ、代金を言おう」と心底楽しそうに告げた。

 

「……」

 

こくりと頷いた雪村ちゃん。そして、

 

「雪村要ちゃん」

 

「はい」

 

「君の、パンツをいただこう」

 

「はい…………はい?」

 

当然のように、そう宣ったのだった。

 

(やりやがった……)

 

正直、思考が繋がっているせいで、こう言うのは知っていたわけだけど、うわ、本当に言いやがったよ……。

 直立したまま、びしりと硬直した雪村ちゃんが「冗談ですよね?」という表情になる。まあ、そう言いたくなる気持ちも分かるんだけど、

 

「あ、勿論脱ぎたておパンツだよ? この場で、脱いで、渡してくれ♪」

 

この変態が、こういうことで冗談言うわけがないんだよなあ……。

 

「……」

 

顔を真っ赤にした雪村ちゃんがぷるぷると震えながら僕の方に、助けを求めてきたけど、まあ、そこは諦めてください。親友を助ける対価としては安いでしょ?

 僕が両手を上げて無理と告げると、雪村ちゃんはこの日一番の絶望の表情になった。然もありなん。とはいえ、このままじゃ埒も空かないわけで。

 

「あー、僕は一寸そっちの教室に入ってるんで、終わったら呼んでください」

 

「ん。了解だ至くん」

 

せめて、(外見が)男の僕だけでも席を外すことにする。なので、その「私を見捨てるんですか!?」っていう表情は止めてほしい。所詮サラリーマンの僕に雇い主(所長)を止められるわけないじゃないか。

 

「因みに、至くんは僕と感覚を共有できるから、席を外していても、僕が見ている限りはバッチリ見えているからね?」

 

そこ、余計なこと言わない。

 

「そして、僕は当然の権利として見させていただこう♪」

 

「……」

 

いそいそと特等席に着地した所長に、雪村ちゃんの羞恥が臨界点に到達する。っていうか、少し泣いちゃってるじゃん。前から思っていたけど、うちの所長ってMを自称しているけれど、結構いじめるのも好きなんだよなあ……。一方の石水無月ちゃんは、いきなり親友がパンツを要求されていることに、理解が追い付いていないみたいだ。然もありなん。

 

「ふうん?」

 

そして、そんな石水無月ちゃんを前に所長の顔がにまーっと更に楽しげな弧を描いた。いや、待った、それは、流石にどうかと思いますよ?

 

「もし、要ちゃんが嫌だって言うなら、僕としてはありさちゃんの方でも良いんだぜ?」

 

「!?」

 

言 い や が っ た。

 

いや、まあ、理屈上は変ではないですよ? 人命救助依頼されて、依頼主が支払いをしたくないなら、救助された人間から取り立てる。まあ、なくはない、けどさあ、

 

「うん。要ちゃんとタイプは違うけど、ありさちゃんもとっても可愛いからね。僕としては全然オッケ「待ってください!!」うん?」

 

「分かりました。私が脱ぎます。だから……だから、ありさちゃんには変なことをしないでください!!」

 

「要ちゃん!?」

 

雪村ちゃんの悲鳴に、石水無月ちゃんが不安そうに声をあげる。まあ、どう見ても体を対価に何か叶えてもらったようにしか見えないもんなあ。

 

「う〜ん、美しい友情だねえ♪」

 

あんたは少し位悪びれろ。完全に時代劇に出てくる女郎屋の主人か何かじゃん。

 

「安心してくれたまえ。僕はスケベでエッチなロリコンだけど、約束は必ず守るロリコンだ。要ちゃんの脱ぎたておパンツが手に入るなら、ありさちゃんには指一本はおろか、性的な目で見ることもしないと、この僕の肉体に誓おうじゃないか」

 

「……」

 

今一信用できるような出来ないような、そんな誓いを立てる所長に、じっと俊巡していた雪村ちゃんはとうとうデニムのスカートの奥に手を掛けたのだった。

 

「……」

 

羞恥心によって、一杯一杯になりながら、ゆっくりと引き下ろされるその姿は、たどたどしさも手伝ってかえって艶かしさすらあった。

 

「!!!!」

 

所長も同じ意見だったのだろうか、ほぼ全裸で正座した体勢のまま、無言で身を乗り出している。

 

「か、要ちゃん!?」

 

「だ、大丈夫。……大丈夫だから」

 

流石に、親友のその行動に、石水無月ちゃんが声をあげたが、雪村ちゃんな気丈にもそう言って石水無月ちゃんを安心させるように微笑んで見せている。いや、所長、そこは「美しい友情だねえ♪」とか笑ってる場合じゃないですから。完全にあんた悪役ですから。

 そうこうしているうちに、躊躇いながらも引き下ろされた雪村ちゃんのパンツのサイドが、肉付きの薄い太股を滑り降り、デニムスカートの下から姿を表す。少しよれたパンツのは水色と白のボーダー柄、俗に言う縞パンだった。

 

「お、要ちゃんも縞パン愛好家なのかい? 奇遇だね。僕も百年来の縞パン派なんだ♥」

 

「し、知りません!!」

 

いや、あんたのは縞パンは縞パンでも縦縞のおっさんトランクスじゃないですか。しかも無駄に正当派な。

 

「……!!」

 

と、いつの間にか膝まで引き下ろされ、完全に姿を現した雪村ちゃんのパンツに、所長が「むふ〜!」と鼻息荒く猫目を見開く。所長の鼻息に太股を撫で付けられそうになった雪村ちゃんは、必死に膝を閉じて短いスカートを引き下ろそうとする。何て言うか、もう絵面そのものが犯罪的だ。

 

「……!!」

 

とはいえ、何時までもこのままではいられないわけで。雪村ちゃんもそれは理解しているのか、スカートの股下部分を抑えながら何とかスカートの中がどスケベ所長に見られないように右足と左足を交互にパンツから引き抜いていく。怖々と下ろされ、最後の一息が取れると、雪村ちゃんは床に落ちた自分のパンツをぎゅっと丸めて半泣きになりながら、変態へとそれを差し出したのだった。何て言うか、何処までも犯罪的な絵面だった。

 

「うん、確かに♪」

 

そして、当然そんな雪村ちゃんの葛藤と苦悩と羞恥を心底楽しんだ所長は満足げに丸められたパンツを受け取る。小学生が自分の手で脱いだ脱ぎたてのパンツを毟ろうとするあたり、知っていたけど所長のしょーもなさを再確認した。

 

「要ちゃん……」

 

そんな所長を前に、泣きそうになりながら俯く雪村ちゃんと、その雪村ちゃんを心配そうに見詰める石水無月ちゃん。

 

「大丈夫。……大丈夫だから……」

 

気丈にもそう言いながら、それでも堪えきれずに石水無月ちゃんの手を握る雪村ちゃんの前で、

 

 

 

「ふおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

所長(バカ)は貰ったばかりの、まだ人肌に温かいパンツをその空っぽの頭部に装着したのだった。

 

「「い、いやあああああああああああ!?」」

 

 丁度、クロッチを鼻と口元に、足を入れる部分を目に持ってくる、ザ・変態仮面スタイル。局部を隠している分、まだ変態仮面の方がましなレベルの⁉変態仮面とけっこう仮面の悪いとこ取りの異様に、雪村ちゃんと、石水無月ちゃんの悲鳴が上がった。

 

「いい加減にしてください。引きちぎりますよ?」

 

流石に見かねて、廊下に飛び出すが、時すでに遅し。

 

「くんかくんかくんかくんか!! すーはーすーはーすーはーすーはー!!! んほおおおお!! 要ちゃんのおぱんちゅしゅっごい香しいのほおおおおおおおお!!!♥♥♥ 一寸、汗ばんでて、おしっこの匂いも! あ♥ あ♥ ああ!!♥♥♥ 達する! 達しちゃうのほおおおおおおおおお!!♥♥♥ ああ、でもこの匂い! ありさちゃんのこと、心配だったんだね!! ふひっ!!♥ 小股にまでありさちゃんとの友情が迸って! ふおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!♥♥♥♥「てい」がびょっ!?」

 

この世で最もおぞましきアホの顕現に、僕は思わず身悶える所長を踏み潰した。

 

「本当に、どうも済みませんでした」

 

潰れたゴキブリのようにじたばたする所長を足の下に、僕はもう条件反射で雪村ちゃんと石水無月ちゃんの二人に頭を下げていた。いや、もう、罪悪感と羞恥心でほんと、勘弁してください。

 

「お、頭を下げてスカートの中身を見る気かい? 見えたら僕にも是非アガルタの感想を教えてくれ!」

 

「ほんと、殺しますよ?」

 

もう、雇い主とか知ったことか、この野郎。って、何で息荒くなってるんですk「それは気持ちい「言わんでいい」ぬおっ!?」力を込めて体重を乗せると、所長は漸く大人しくなった。

 

(はあ……何だかどっと疲れた)

 

「取り敢えず、報酬も頂いたので、僕達はこれで失礼しますね」

 

いや、もうほんと、過去の依頼もそうだけど、何でこの所長と一緒に仕事するとこうまで疲れる……いや、原因はその所長本人なんだけどさ。ため息と共に足を退けると、あっさりと立ち上がった所長がけろっとした様子ではたはたと軽く体をはたいた。

 

「やれやれ、危うく僕のおっぱいが潰れすぎて、ニプレス吹き飛ばして母乳溜まり作っちゃうところだったじゃないか。至くんおっぱいだけじゃなくてみるくも好きなのかい?」

 

個人の趣向として巨乳派なのは事実ですけど、それを今言いますかね? ほら、雪村ちゃんと石水無月ちゃんが白い目でみてきてるんですけど。

 

「おいおい、要ちゃんにありさちゃん。あんまり、至くんを責めないでくれ。彼の嗜好は至って正常さ。そもそも、男が巨乳を好きじゃなかったら、人類の半分は産まれてこないんだぜ?」

 

「いや、もう、ほんと傷口に塩を刷り込まないでくれますか?」

 

或いは黙っててくれません? っていうか、もうそういうのもどうでもいいから、帰ってふて寝したいです、正直。

 

「そ、そうですよね」

 

「所長さんに比べたら、鈴笛さんは全然普通ですよね」

 

「あれ?」

 

「あれ? じゃないですよ」

 

むしろ当然です。

 

「酷いなあ、ロリコンは美少女に嫌われると泣いちゃうんだぜ?」

 

「所長のは自業自得です。むしろ、泣きたいのは僕の方ですよ。あれ? 何か、本当にダメージが……」

 

僕が胸に手を当てると、所長がポンポンと肩を叩いてきた。……うん、サムズアップの代わりに女握りはもう慣れましたよ。ええ。

 

「じゃ、今度こそ僕達は失礼させてもらおう」

 

「あ、はい」

 

何かもう、小学生すら疲れた顔をしている。

 

「もし、また何か助けが欲しがったら、何時でも喚んでくれ。君達が小学生の間はすぐに駆けつけるよ♪」

 

「絶対に喚ばないので安心してください」

 

「まあ、所長頼るような事態にならないに越したことはないけどね」

 

セクハラされないし、精神的に色々と削られないし。

 

「それじゃ、行こうか至くん」

 

「はいはい」

 

「はいはいは赤ちゃんプレイの一部だよ?」

 

「……」

 

鈴笛至23歳。一生返事は「はい」で通すことを誓った。

 

「りくふし・まじかる・きるぜむおーる☆」

 

「おう、おっさん、せめてもう少しマシな魔法少女選べよ」

 

それより酷いの、プリティベルくらいでしょ。

 所長が気紛れで日替わりな魔法の言葉()を唱えると、僕と所長の周りに淡い青の光が立ち上る。最後に見た雪村ちゃんと、石水無月ちゃんは、

 

「「!!!」」

 

二人とも、所長に向けて思いっきり中指を突き立てていた。……然もありなん。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 今回の依頼の後日談。

 あの日、"第一五小のレオナルド"の依頼が終わってから一週間、六伏探偵事務所はエロゲとオナニーに耽る所長の相手という、ある意味いつも通りの日常に戻っていた。曲がりなりにもロリコンを自称していた所長は、その日から暫くは千里眼で雪村ちゃんと石水無月ちゃんの一方的な経過観察(要するにストーキング)をしていたが、三日もすれば飽きて、日々のエロ同人漁りに戻っていた。

 

「……ん?」

 

今日は普段より少し陽射しが温かいし、所長の洗濯をしようかと考えながら、何時も通りの閑散としたマンションの端の部屋に行くと、ある意味見慣れた付箋が錆の浮いたドアの中心に貼り付けられていた。

 

―今日は天気が良いから屋上で日光浴をしているね☆ついでに何か飲み物持ってきてくれると嬉しいな♪ by君の相棒♥―

 

「いや、此れ貼るなら電話かメールで良いじゃないですか」

 

思わず呟いたが、そこは兵糧を握られている日本人。一先ず、事務所の冷蔵庫から、コーラのペットボトルを持って、屋上に向かうことにした。

 

「ん……」

 

エレベーターから降り、屋上に続く暗い階段を抜けると、所長の付箋通り、秋にしては少し強い日光が、ひび割れた屋上のコンクリートで跳ね返って少しだけ何時もよりも眩しかった。

 

「お、来たね至くん♪」

 

辺りを見回そうとすると、丁度視線を向けた反対側から、もう聞き慣れた感のある、外見にしては少しハスキーな悪戯っぽい所長の声が聞こえた。ぽかぽかとした陽の光も手伝って、何となく穏やかな気分になった僕は、

 

「おはようございます、所長。冷蔵庫にあったコーラなん……」

 

呑気に手を振る所長の姿を見て、思わず絶句したのだった。

 

「ん? どうしたんだい、至くん?」

 

屋上に出されたデッキチェア。これはいい。普通に日光浴で使うものだし。

 

隣に出されているパラソルとテーブル。別に悪くない。一寸手間だけど、少しだけ張り切った範囲で済む。

 

サングラスとイヤホンの付いたスマホ。変ではない。ここ数年の日本の日光は割と殺人的で、サラリーマンがサングラスで通勤するのも珍しくないくらいだ。

 

全裸。最早何も言うまい。というか、この所長(変態)に付き合って数年。いい加減慣れもしてくる。今更驚けない。

 

蟹股に開いた両足と、その中心でヴィィィィィィと振動音を奏でる、スマホと繋がったピンク色の物体……うん、まあ、何て言うか。

 

「普通にアウトです」

 

「んむ?」

 

両手を枕に、首から上だけは真っ当に、上半身だけは優雅に日光浴をしていた所長はサングラスを外しながら首を傾げた。

 

「どうしたんだい、至くん? こっちに来て一緒に日光浴と洒落込もうじゃないか。こうして、君の分のデッキチェアもう用意したことだし」

 

「その辺の心遣いは非常に有難いのですが、その恰好はどういう事ですか?」

 

「ん? ああ、これかい? いやね、僕はこの通り基本的にエロゲ三昧でインドア派だろう? だから、ここ数年、日焼けってしたことが無くてね。何となく褐色肌の僕でオナニーしたいなーって思っていたら今日が絶好の日光浴日和だっていうから、こうし「股間に突っ込まれてるディルドの事を言ってるんですよ」ああ、これかい?」

 

なんか、事も無げに、というか「ん? こんなのに興味があるのかい?」ってテンションで返された。いや、どう見てもそれが一番異常でしょう。

 

「所長、とうとう女の期間が長すぎて、そっちまでその嗜好になったんですか?」

 

「いやいや、流石にそれは無いさ。僕は僕のまま、ロリコンの六伏コランだとも♥」

 

にっこりと笑うのは良いんですけど、股間のヴィィィィィィで説得力皆無ですよ?

 

「ほら、この前、自称天才画伯と戦った時に、精液の準備のために至くんのおちんちんを借りてオナニーしただろう?」

 

「そういえば、そんな事もありましたね」

 

正直、屈辱とかそれ以前に、普通に理解が追い付かない現象でしたけど。

 

「あの時、至くんのおちんちんを借りた時に、おかずに僕自身を使ったんだけどね」

 

「出来れば思い出したくなかった事実でしたけど、そういえばそうでしたね、ええ」

 

廊下全体どころか、校舎一杯に響きそうな声でやってたからね。

 

「で、今更なんだけど、あの時のおちんちんを生やした僕に犯されるのって、案外悪くないんじゃないかなーっと思ってね」

 

「うん、何でそうなると言いたいけど、所長ならあり得なくもないという説得力が凄く腹立たしいです」

 

六伏コラン。ロリコンが高じて自分が考える最高の美少女の肉体を手に入れた変態。要するに一番のストライク=自分の外見。

 

「で、この魔法を使って作ったサングラスでバーチャルなおちんちんの生えた僕に犯される感触をこうして楽しんでいるって事さ♪ 良い発想だろう? 世界一の美少女に抱かれるなんて、なかなかできないからね♥」

 

「うん、さらっと腐りきった発想どうもありがとうございます」

 

理屈は……うん、まあ、矛盾はしていない。美少女と性行為をしたいというのは別にそこまで変でもない。けどそれはどう考えても入れる方であって、入れられる方ではないでしょうが。

 

「と、言っても、僕の場合おちんちん生やすには至くんに同意してもらう必要があるだろう? 流石に至くんのおちんちんをいきなり借りて、もし至くんがオナニーのイク寸前だったりしたら、生殺し地獄を味わう事になるじゃないか。だから、僕だって本当は入れる方をやりたかったんだけど我慢したんだぜ?」

 

「気遣いに礼を言えばいいのか、許可さえもらえば他人のちんこ使いたいって思考回路にキレればいいのか、非常に判断に悩みます」

 

「ま、そういう訳で、今は至くんのちんぽこを借りるんじゃなくて、至くんのちんぽこを入れてオナニーしてるわけさ」

 

「…………?」

 

なんか、今凄く聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんですが?

 

「あの、所長?」

 

「うん?」

 

「今、誰の何を入れてって言いました?」

 

ていうか、聞き間違えであってほしい。そんな切実な思いの元尋ねた僕の願いは、

 

「勿論、至くんのぽこちんを」

 

あっさり打ち砕かれたのだった。

 

「……」

 

「……」

 

「……何でですか?」

 

「あの日の僕が至くんのちんぽを生やしていたから」

 

端的な回答どうもありがとうございますこの野郎。

 

「いやー、それにしても、至くんも中々良い物を持ってるねえ。これまでも至くんの事は最高の相棒だと思っていたけど、これは益々見直さざるを得ないね♥ 美少女になる前の僕の股間の約束された勝利の剣(エクスカリバー)にも勝るとも劣らないサイズなお陰で、小さな体の僕のおまんこに程好くアンバランスな圧迫感で、しかも絶妙に気持ちいいところに当たるときた☆ これはもう、グッドボタンを押さざるを得ないね♥」

 

「……」

 

機嫌よく笑う所長の股座で、ディルドの音が一層大きくなる。どうも、スマホに入れられているVRの光景に合わせて振動が変わる様に魔法で弄っているらしい。無駄に丁寧な事をしやがる。

 

(羞恥心と怒りで人が殺せたらなあ……)

 

所長が死ぬと、僕も一緒に死なざるを得ないらしいけど、もうその辺知った事かという気分になる。

 

「あ、そういえば」

 

「ん?」

 

僕がそろそろ、この所長を道連れにして命を絶つべきか考え始めたところ、不意に所長が体を起こし、おっぱいの谷間に挟んでいたスマホを弄って股の間のディルドのスイッチを切った。

 

「今日は至くんに見せたいものがあってね」

 

「見せたいものですか?」

 

「ああ」

 

頷いた所長が「じゃーん☆」と言って取り出したのは、

 

「……おい」

 

大きな額縁に収められた一枚の写真。先日、所長に対価を要求され顔を真っ赤にしながら代金のパンツを脱ごうとしている雪村ちゃんの写真と、その写真の前で丁寧にクロッチ部分を真正面にして額に収められたシマシマの一枚のパンツ。これは、もしかしなくても、

 

「この前の依頼の時の写真さ! いやー、やっぱりいつみても美少女の羞恥心と屈辱に濡れた顔は良いねえ♪ ご飯十杯は軽く行けちゃうよ☆」

 

「ですよねー」

 

所長の言った羞恥心と屈辱。正直、今なら彼女と心底分かり合える気がした。

 

「予想以上にこの表情がナイスでね。今日は天気も良いし、日光浴しながら青空の下オナニーをしたいなって思ってさ」

 

「……じゃあ、態々僕にこの写真を見せようとした理由は?」

 

「決まっているじゃないか!」

 

当然とばかりに所長はぶるんっ♥ とおっぱいを張った。

 

 

 

 

「もう一度、竿でオナニーしたいから、至くんのちんちん貸してくれないかい?」

 

 

「 死 に さ ら せ 」

 

 

 

 

奪い取った写真を、所長(バカ)の顔面に向けて振りぬと、良い笑顔を浮かべていた所長(バカ)が吹っ飛ぶ。なんか涎を垂らしながら宙をきりもみして舞う所長の周りで、砕け散った額縁のカバーガラスがきらきらと陽光に輝く。気絶した所長を見た雪村ちゃんの写真が少しだけ満足気に微笑んだ気がした。

 

 

 

 

 




鈴笛至
真面目系クズ
目立つ変態の所長が居るから気付かれにくいが、普通にクソ野郎
そのクソ野郎な性格がタンク役として最適だったという不思議
コランが直接攻撃を苦手としているため、割と重要な盾役
コランが死ぬと自動的に死にます


六伏コラン
クンカー。ロリコンでオナニストでクンカー
尚、自分の身体は性癖の集合体ですが、『好みの見た目』なのであって『なりたい見た目』という訳ではないという不思議
色々と理由を付けているが、至を使い魔にした本当の理由はただ何となく
実際には使い魔にしてみたら思いの外相性が良かった
至が死ぬと自動的に死にます
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