ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲 作:グレン×グレン
ちょっとした説明会としての側面が強いですが、まあそこはご愛敬ということで
ホテルのスイートルームの一つ。イルマ・グラシャラボラスが急遽取った部屋。
そんな部屋に、バアル家重鎮の一人であるブルノウ・バアルが、息子であるスメイガ・バアルを連れて密談をしに来た。
部屋にいるのは三人及び、イルマの
そのツヴェルフがお茶を入れようとしたが、ブルノウはそれを手で制する。
「気にしなくていいよ。それより、クロックワークスの次期盟主になる君にも意見を聞きたいから、席に座ってくれ」
「承知しました」
そしてツヴェルフがイルマの隣に座り、四人の会議が始まる。
外にはスメイガ、ブルノウの両眷属と、鶴木及びカタナが警護をしている。
全員が最低でも中級悪魔以上の戦闘能力を保有している。鶴木はコールブランドやエクスカリバーにも匹敵する聖剣を保有しているし、カタナの
むしろカタナが最大出力をぶっ放して、ホテルや要人ごと敵を消滅させないかが心配である。他のメンバーが止めてくれる事に期待しよう。
あと、ミーティングと会議の中間レベルのこの会話が長引いて、イルマが呼んだ女性用デリヘルが出くわさないかも心配だ。
「……すっごく申し訳ないけど、手短でお願いね伯父様。デリヘルの人が恐縮しそうだから」
「イルマ。仮にもバアル家の有力者にその要望は駄目だろう」
「イルマ、なんでお前は頭の中が色欲に染まってるんだ」
ツヴェルフとスメイガが同時にため息を付くが、ブルノウははっはっはと朗らかに笑うだけだった。
「確かに、まじめに仕事をしに来たのに余計な心労を増やさせるのも可哀想だね。じゃあ、すぐに始めよう」
そう告げ、そしてブルノウの表情が鋭くなった。
彼は大王派の悪魔の中では気安い人物だ。
血統重視する大王派の側である事を公言しているが、有用な意見なら下級中級の意見であろうと考慮する。
そも、彼は大王派だが血統以外を切り捨てているわけではない。
悪魔の大きな派閥は魔王派と大王派に二分されるが、それは非常に大雑把な派閥の分け方だ。
魔王派には四大魔王それぞれのシンパがいるし、中には現ルシファーであるサーゼクス及び、魔王クラスの力を持つ彼の妻のグレイフィアとの間に生まれたミリキャスの将来に投資しようと目論むミリキャス派が存在する。
それに合わせるように、大王派の中にも更に派閥は存在する。
現大王やその取り巻きは七十二柱の血統、それも純血を最重要視し、その筆頭であるバアル家を真の頂点とする血統至上主義派と言ってもいい。
大王派真の盟主ともいえる初代バアルはそこまで苛烈ではないが、同時に七十二柱などの上級悪魔の一族以外は悪魔ではないと断じている、ある意味で現大王以上の冷徹さを持っている。
彼にとって下級中級は家畜と変わりないのだ。だからこそ、転生悪魔でも有用な者ならそれなりの地位に取り入れるべきだと思っているし、家畜を従えるための飾りと認識している魔王の座に据える事も状況次第では選べるだろう。ある意味で彼が今でも現大王の方が、現悪魔は連携がとれるのではないかとすら思える。
そして、ブルノウ達もまた別の派閥に属している。
彼らは血統の価値を重んじる大王派だ。だが、それは血統以外を否定する事を意味しない。
例え血統が良かろうと、それに見合った能力を持ってないのなら厳しく対応し、足りない能力を補う事は愚か補う努力もしないのなら家から追放する事すら考慮する。そういう、家柄に縋りつく怠惰な者を嫌悪する傾向がある。
そしてそれゆえに貴族が衰退する可能性を理解している。だからこそ、新しいものを取り入れる事も考慮する。若き者達が素晴らしい成果を上げてそれを代々存続させれるのなら、新たな貴族として迎え入れる事もよしとする。
そしてそんな体制を作る事で、他種族からの転生悪魔に頼り切らず、本来の悪魔がちゃんと自分達の足で立って成長する世界こそを理想とする。
それこそが、ブルノウ・バアルを筆頭とする血統尊重主義者である。
血統と歴史に価値を感じる事は他の大王派と同様だ。だが、そこに必須の実績などがないのなら、それは血統と歴史を汚す行いである。
そして、代を重ね血をより良くする者が尊重される事も当然の権利である。そうして発展して切磋琢磨してこそ、進歩というのは訪れる。
そんな血統尊重主義派は、数年前から一気に成長を遂げることになる。
全ては代表であるブルノウの息子と姪である、スメイガとイルマの告白だ。
それに驚愕しながらも、しかしそれを家族として受け止めたブルノウは高潔な人格者だ。そして、同時にしたたかでやり手な彼はその告白を有効活用した。
彼らの告白によって知った、自分達と思想を同じくする者。
血に力が宿り、その結晶を当主が背負い、代を重ねるごとに力を得る。
しかし歴史に見合う力がなければ冷遇される、血統主義者と実力主義者が重なり合った異界より来訪した異能保有者。
そしてその最大技術ともいえる力を使い、ブルノウは彼らに自分達とコンタクトを取る方法を与える事に成功した。
バアル有力分家の当主として彼は冥界にも人間界にも強いパイプがあった。
スメイガとイルマによって魔術師というものをよく知る事ができた彼は、それを上手く利用する方法すら理解した。
魔術師にとっての家宝ともいえる魔術刻印を失い、貴族といえる立場を失い、必然的に金策を失った。そんな彼らの居場所にして後援者になる事ができた。
その結果生まれた魔術回路保有者の管理支援組織。それがクロックワークスだ。
魔術師達の総本山である時計塔という組織にあやかった名前だが、その在り方はどちらかというと彼らの目の上のたん瘤に近い。
彼らの大半がやってきた世界とは異なる世界線。人理を肯定するものと人理を否定する者が共に強大な力を発揮する世界。偽りだらけの神秘の大決戦が行われた世界。そんな世界に存在する、アメリカ合衆国を実質的に乗っ取りかけた犯罪組織。名をスクラディオファミリー。
彼らの大半がやってきた世界にて、大いなる反乱を遂げた魔術組織。1人の魔術師として以上に政治家として卓越した男と、一人の数奇な気まぐれによって呼び出された聖人によって数多くの神秘の争いが頻発する世界。そんな世界に存在する、神域の天才が作り上げた願望機を象徴として、新たなる魔術教会にならんとした組織。名をユグドミレニア。
本来の魔術師達なら嫌悪するこの在り方だが、しかしこの世界の魔術師達にとって垂涎の環境は、奇しくも二つの組織の要素を取り込んだクロックワークスにこそあった。
スクラディオファミリーもユグドミレニアも、魔術社会において窮地に追い込まれた者達が集まった組織である。だが、その方向性は異なるがゆえに、それぞれに大きな欠点が存在する。
スクラディオファミリーは死別した恋人の見た世界が見たいという理由でギャングスタ―が魔術師の後援者になる代わりに簡単な魔術などの協力を要請した、見方によっては魔術師ごっこをする為の組織だった。
ユグドミレニアはデマゴーグで魔術師としての将来を閉ざされた一人の魔術師が再起し名前を残す為に、理由は異なれど近しい窮地に追い込まれている者達をかき集めた、負け犬の集まりと言っても言い組織だった。
スクラディオファミリーは魔術師と一線を引いた付き合いをしたがゆえに能力が優秀な魔術師を集められたが、魔術師としての研究成果を集めて発展する事ができなかった。
ユグドミレニアは魔術師同士の集まりであるがゆえに魔術師としての研究成果を集めて発展できるが、落後者の集まりゆえにそもそも発展する為に必須の優秀な魔術師が少なすぎた。
しかし有能無能に限らず窮地に追い込まれた彼らと、次代の責任者となる者が超一流の魔術師である事が、クロックワークスを二つの良いとこどりの組織へと変貌させた。
魔術師として再興する為に誰もが一定の協力体制をとり、世界法則の違いゆえにある程度の研究成果の提出を許容でき、更に小国の国家予算並みの資金援助と世界各国から様々な物品を提供が受けられ、更に国家権力レベルの庇護が受けられる。
こと魔術師たちの魔術には感心するべきものも多い。特に治癒魔術はいくつかのアプローチがあるが、神の奇跡や祝福によるものは主流ではないため、治療という大きな恩恵を得られる分野で躍進できたことは大きな価値があった。
断言してもいい。血統尊重主義派がここまで大きくなれたのは、クロックワークスとの蜜月関係があったからである。彼らがいなければ、尊重主義派は大王派の爪弾き物だっただろう。
そして大王派はもちろん魔王派がその真実に気が付いた時は、時既に遅かった。
大王派血統尊重主義派は、魔王派の派閥が最低でも二つ無ければ対抗できないほどの政治的影響力を持つ、非常に大きな組織となったのだ。
ブルノウ・バアルが「悪魔社会の未来をより良くする」という大前提の下に行動している事もあり、基本的には大王派ではあるが、中間管理職のアガレス家の支援をして魔王派との連携をとる貴重な立場でもある。
……だがしかし、一つだけ勘違いしてはいけない。
彼らは他種族からの転生悪魔を差別したりはしない。事実上の客将として能力に見合った優遇はするし、彼らが本来の悪魔と交わっていく事を否定する気もない。事実代表のブルノウも後継者候補のスメイガもその親族のイルマも他種族からの転生悪魔を何人か入れている。
だが、真の悪魔と区別している事は事実である。
彼らは悪魔という種族の未来をより良くする為に行動する。
そしてその大前提において他の派閥を連携をとる事を厭わない。むしろ橋渡し役を積極的に行う。
だがしかし、政敵である事に変わりはない。
血統「だけ」にこだわり、純血かつ特性にしか目が行っておらず、不正まみれの現大王派。彼らの主導権はいずれ握り、老害たちには引退してもらう。
良くも悪くも悪魔を「一種族」としか見ていないサーゼクス達魔王派。圧倒的な能力がある彼らに負けない発言力がなければ、いつか悪魔という種族は転生悪魔に塗り替えられるかもしれない。
これらの大波を乗り越える為に連携は取るが、しかし牙を研ぐ事は忘れない。
その切り札。それこそが
彼らの力を下に、血統尊重主義派は動き出す。
そして五分間現状を話し合い、そして本題に入る。
「まあ今後の展開だけど、
ブルノウの発言に反論する者は誰もいない。
むしろ納得の表情を浮かべていると言ってもいい。三割ぐらいは諦観ではあるが、まあそれも仕方がない。
「まあ、ヴァルキリーとか死神とか吸血鬼とか、多種多様な種族になっちゃってますからねー。
苦笑いするイルマに、スメイガもツヴェルフも頷いた。
「同感だ。三大勢力の和平はとっかかりを見つけてから軽く数世紀かかると踏んでいたし、各神話勢力は更にかかると思っていたから多少の亡命はごまかせると踏んだが、たかが十年未満で交流可能になれば、必ず突っ込まれるだろう。父上、頑張ってください」
さらりと事態が進みすぎている事を簡潔にまとめながら、実父に面倒ごとを丸投げするスメイガに苦笑する者が多数。
だがしかし、ここにいるのはブルノウ以外は若手なので、当分政治の世界には深入りできないので当然の役目である。
そしてそれに内心で同意しながら、ブルノウ以外の三人では最も魔術師の在り方にも貴族的価値観にも政治謀略にも慣れているツヴェルフは事態を更に整理する。
「まじめな話、魔術使いはともかく
その言葉に、スメイガもイルマも頷いた。
彼らはブルノウの価値観に共感しているからこそ彼の派閥にいる。
だが同時に、魔術師という生物の価値観を理解しているからこそ、ブルノウに魔術師達の後援者を頼んだのだ。
断言しよう。今後の魔術師の発展お呼び、暴走の阻止のためにはブルノウ達大王派血統尊重主義が彼らの後援者になり、さらに相応の権力を持つことが必要不可欠だ。
それらの共通認識をもってして、ブルノウは話を続ける。
「ああ、だから君達クロックワークスの重鎮となる者達に、私は要請をする他ない」
そして、まずは息子であるスメイガに目を向ける。
「スメイガ……いや、錬金術師という分野で超越者と呼べるアインツベルンのすぐ下、悪魔でいう魔王クラスに位置する名門家系ブロンディ家の後継者、ゼプル・ブロンディ」
あえてかつての名前を告げるブルノウに、スメイガは静かに目を伏せて笑みを浮かべる。
息子のその悠然とした態度に期待を浮かべながら、ブルノウは命じる。
「将来的に私の後継者として、クロックワークス理事の座も継ぐ君は、冥界での活動を中心にしてくれ。歩き巫女に関しても基本的には君が運用するんだ」
「了解です、父上」
その言葉を信じ、そしてブルノウはイルマに向ける。
「イルマ・グラシャラボラス……いや、魔眼輩出の希少血族である、
「はい」
静かに、かつての名を呼ばれてうなづくイルマに、ブルノウは―
「君は後回しだ。もうちょっと待ってね」
―そんな茶目っ気を見せた。
微妙に緊張感が緩み、ブルノウ以外の三人が脱力する。
そしてそんな軽い悪戯をしてから、ブルノウはツヴェルフに向き直る。
「ツヴェルフ・シトリー……いや、時計塔十二のロードが一人、エルメロイ一門の有力家系がアーチホール家が娘、アイネス・エルメロイ・アーチホール」
「はい」
礼節をもって頷くツヴェルフに、ブルノウは指示を出す。
「君は基本的に冥界だ。クロックワークスの次期代表はゼプルに並び立てる唯一の
「ご安心ください。イルマの領主作業の代行はもはや日課です」
「いや、イルマさん次期当主代理としての勉強も仕事もしてるけどね!?」
微妙に酷い事を言われたイルマはそう反論してから、ブルノウに詰め寄った。
魔術師としては間違いなく自分はスメイガとツヴェルフに劣る。それは自覚している。
というかこの二人に魔術師として勝てる魔術回路持ちはクロックワークスにはいない。準ロードクラスの素質持ちが相手なのだから、比べるまでもない。
魔術を利用する魔術使いとしてなら、二人をしのぐ実力を持つワイルドカードな自覚はある。だが、根本的に研究者であるべき魔術師として二人に勝つ事は永久にないという自覚もある。
そういう意味ではツヴェルフが自分の眷属悪魔になっていることも問題なのだ。ツヴェルフと再会して事情を把握したときは、どっちが本家に近い血筋かなどの理由があったので自分が主になることを決めたが、一時は本気でアイネスの眷属悪魔になることも考えた。
だが、ブルノウの頼みでゼファードルを次期当主代理にさせない為に政争までしたのだ。それなりに期待してほしいし、もうちょっと何かいい扱いをしてほしい。
「伯父様、道間日美子にイルマ・グラシャラボラスとしてやって欲しい事は何ですか? そろそろデリヘル来るから早めにお願いします!」
余計な事を覚えているイルマにスメイガとツヴェルフが頭痛を感じるが、ブルノウはそれに微笑んだ。
「イルマ、君にはこれからの流れの主流に近づいてくれ」
ブルノウはそう告げると、イルマの肩に手をおいた。
「具体的には駒王学園に転入ね。ディアクルスはアイネスの補佐役として残ってもらうけど、リスンと鶴木とカタナは連れて行く事」
その言葉にイルマは頷き―
「………へ?」
―数秒遅れで内容を理解し直し、首を傾げた
そういうわけで、プロローグは終了です。
とりあえずストーリーとしての続きはホーリー編ですが、その前に設定資料とサーヴァント風ステータス(暫定)を入れようかと考えております。
因みにホーリー編ではオリ敵が本格的に動きますし、イルマ眷属も大暴れします。スメイガたちもなんだかんだで動くなど、結構忙しくなる予定です。
イッセーたちの視点による魔術師達についてなどは、ホーリー編のラストで説明回をする予定。それまでちょっと待ってほしいんじゃよ。