ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲 作:グレン×グレン
なまじ若手最強なだけにカマセに最適なサイラオーグ。いや、マジでゴメン。君大活躍するけど同じぐらい強敵に痛い目に合うポジションが似合うから、どうしてもつい……ね?
「……改めてみると恥ずかしいじゃん」
そう顔を伏せるイルマに、眷属達はあえて何も言わなかった。
そしてあえてイルマをスルーして、次の試合の映像が映し出される。
最初の試合が馬鹿らしい事もあって、鶴木達はまともな試合が見たいと期待し、高揚感すら覚える。
そして始まるのは、トルメー・グレモリーとサイラオーグ・バアルの試合。
グレモリーの若手で文句なしに最強と呼ばれる、レーティングゲームトップランカーのディハウザー・ベリアルすら倒したトルメー・グレモリー。
若手次期当主においては最強。バアルの特性どころか魔力すら持たない身でありながら、次期当主の座をもぎ取ったサイラオーグ・バアル。
その試合は、圧倒的だった。
「……これが、トルメーの眷属達………」
リアスもそれだけしか言う事ができない。
サイラオーグの眷属達は、皆が凄まじい戦士達だった。
上級悪魔の血族で構成されたその眷属達は、練度においてリアス達グレモリー眷属を上回っているのがよく分かる。
中には人間と交わって
彼ら全員が上級悪魔に相応しい、優れた力を持つ眷属達だ。
全員が優れた才能を持ち、そして厳しい鍛錬でそれを磨き上げている。将来の大成を確信させる存在だ。
………その彼らが、相手にもなっていない。
トルメーの眷属達は、一人一人が間違いなく最上級悪魔クラスの戦闘能力を発揮していた。
試合形式はライトニング・ファスト。一時間という短時間で決着をつける短期決戦形式のレーティングゲームだ。奇しくも、ディハウザーを下した試合と同じ形式だった。
そして、僅か十分でサイラオーグの眷属達は全滅した。
そのうえで、サイラオーグは瞑目しながらも、しかし降参しなかった。
『見事だ、トルメー・グレモリー殿。これだけの逸材をよく集めた』
『まあね。私自身はそこまで優秀ではないけど、王の役目は優秀な者達を見つけ出し、彼らを生かす事だからさ』
そう告げるトルメーに、サイラオーグは苦笑する。
サイラオーグはむしろ、自らが最強の戦士として前に立ち、そして引っ張っていくタイプだ。
どちらが優れているという話ではない。それは、きっと情勢によって変わるだろう。
だが、間違いなく、この戦いの勝利はトルメーの物だった。
『……アルケイディア。確か、君は彼に興味があったね』
『ああマスター。獅子を司るヴァプラの家系の血を継いだ、拳一つで次期大王の座を掴んだ者だからな。興味があった』
トルメーの言葉に、彼の女王がそう告げる。
彼の名はアルケイディア。筋骨隆々という言葉をサイラオーグ以上に体現する、大男。
そんな彼に、トルメーは一歩引きながら命令を下す。
『なら、一対一の機会を上げるよ。……勝って見せてくれ』
『……承知』
……そして、五分で決着はついた。
サイラオーグの戦闘能力は、間違いなくバアル眷属で最強だった。
拳の余波だけでフィールドの障害物が粉砕され、直撃した時は跡形も残らない。
「これほどの物なのか、次期大王、サイラオーグ・バアル」
祐斗が目を見張る者だ。なにせこの場でも最高クラスの動体視力を持つ彼の視界に移らないレベルなのだ。戦慄する他ない。
だが、アルケイディアはその遥か上を行った。
彼はサイラオーグと全く同じ戦闘スタイルをとっていた。
生身で、体術だけで、拳によってサイラオーグとぶつかり合う。
そして、あらゆる全てにおいてサイラオーグを凌駕し、圧倒し、五分で叩き潰した。
「……あのサイラオーグが、まるで子供のように倒されるなんて―」
寒気すら感じているリアス達に、アザゼルは更に残酷な事実を告げる。
「しかもあいつら、本気を出しちゃいない」
「……マジですか!?」
イッセーが驚くのも無理はない。
若手悪魔どころか、魔王クラスすら倒す者達だから圧倒的に強いと驚いていたのに、本気を出していないというのだから。
そして、イッセーはどこか不満すら感じている。
「でも、一生懸命全力で挑んできたサイラオーグさんに手抜きで挑むなんて―」
「いや、それもちょっと違うだろうな」
鶴木はそれを否定する。
彼は、彼だけはアザゼルの言わんとする事が分かっていた。
彼の中の力が。彼の転生に変異の駒を必要とする要素が、それを理解させる。
「本気を出すまでも無いから舐めプしたんじゃない。本気を見せるわけにはいかなかったから自分を全力で律して戦ってたんだ、あれは」
「ああ、鶴木の言うとおりだ」
アザゼルも頷いた。
「ディハウザーとのレーティングゲームの映像も入手したが、あいつらは開幕速攻で特攻同然の突撃をかけて、ディハウザー達がそれに面食らった僅かな隙をつき、一気に押し切った」
そう告げるアザゼルは、はっきりと言い切った。
「もしそうじゃなかったら、ディハウザーもまだ善戦できただろうな。いや、タクティクスや戦術がものを言うルールなら、ディハウザーは善戦どころか勝ち目も十分にあった」
アザゼルは確信すら満ちた声で断言する。
トルメーの眷属は、間違いなく傑物揃いだ。
生まれた時代が違えば、間違いなく英雄と呼ばれていたであろう圧倒的な力。それゆえに戦闘能力は強大だ。
だが、長命ゆえの経験を積んでいるディハウザークラスなら受け流し方を心得ている。
「トルメーがディハウザーを圧倒できたのは、ディハウザーの中にあった一瞬の油断を付いて「本気を出させる前に一瞬で潰しに行った」からだ。でなけりゃ勝てない……もしくは隠しているものを晒す事になると思ったんだろう」
そして、アザゼルははっきりと告げる。
「サイラオーグとの戦いでもそうだ。あいつらは隠している物を開放する機を窺っている。だからこそ、あいつらは本気を出さない事に全力を出した戦いをしてたんだ」
その言葉の意味を理解しかねていたリアス達の中で、首を傾げながらリスンが手を上げる。
「つまりあれですか? 適当ぶっパで勝てるから本気出さないでいい加減にやってるなめプやなくて、絶対に使わない手段を決めてそれを使わずに勝つ事に全力を出す縛りプレイをやっとったと」
「良い例えだな。少なくとも、俺はそうなんじゃないかって思っている」
アザゼルの発言がそうだとするならば、確かに手抜きという言い方は違うだろう。
だが、態々そんな事をする必要性が分からない。
……どこか薄ら寒いものを感じて、誰もが警戒する。
今後のレーティングゲームで競い合うとするならば、間違いなく同期で最強最悪の敵となるだろう、トルメー・グレモリー。
彼が、文字通り最強の難敵だろうディハウザー・ベリアルにすら開帳をためらう伏札を持つ眷属たち。
一体、それは何なのか、そう思った時だった。
突如、魔法陣が展開される。
その魔方陣は七十二柱の家系の一つが使用する、転移魔方陣の文様だった。
そして、その紋章を司る家系は、アスタロト。
誰もが一人の少年の顔を思い出した時、魔法陣から一人の少年が具現化する。
「ごきげんよう、リアス・グレモリー。アーシアに会いに、そしてトレードの相談に来ました」
ディオドラ・アスタロト。アーシアにプロポーズした、アスタロト家の次期当主が姿を現した。
どうやらディオドラはアスタロトとグレモリー的な大事な話があるみたいなので、イルマ達は席を外していた。
そして缶ジュースでも買ってだべろうとした時だった。
『……イルマ』
アイネスが、即座に通信を繋げてくる。
そして、イルマ達は一瞬で周囲に意識を向けて人がいない事を確認した。
「どしたの、アイネス」
速やかに、そして手身近にイルマはアイネスに説明を促す。
信頼する
そして、アイネスもまたそれに戸惑う事なく話を進める。
『ボウゲツ達歩き巫女による途中報告だ。お前の先代は事故死じゃなくて暗殺の可能性が高い』
その言葉に、全員が冷静に受け止める。
イルマが代理で努める事になった、グラシャラボラス家次期当主。
急逝した本来の当主の死について追跡調査をキチンとブルノウ達はしていた。万が一ゼファードル絡みで何かしらあった場合、イルマの身に危険が迫る事も十分考えられる。ましてや、三大勢力の和平と禍の団の宣戦布告の二つの運命の大きな編転機に起きた事だ。調べる程度の事はして当然だろう。
そしてそれは見事に正解だった。
「下手人は誰や? これで内輪もめの政争っちゅうオチは勘弁してほしいで、アイネスさん」
「和平で魔王派に調子に乗られる前に大王派の主流派が何かした……とか、絶対に私達も余波を受けますものねぇ」
嫌そうな顔をするリスンとカタナだが、アイネスの声色は更にこわばる。
『別の意味で最悪かもしれん。下手人かどうかはともかく、暗殺の要素となる要所要所でアスタロト家本家の関係者が確認された』
「……寄りにもよってこのタイミングかよ」
鶴木がぼやくのも当然だ
ディオドラとリアスのレーティングゲームの直前というこのタイミングで、ディオドラの実家の者がグラシャラボラス家の次期当主の暗殺に関わっている可能性が出てきた。
大王派と魔王派の政争というのも最悪だ。だが、魔王派同士の争いで次期当主が暗殺されたなど、ある意味もっと最悪かもしれない。
大王派と魔王派は基本的にいがみ合っているから、ある意味納得だ。だが、基本仲が良い事で知られている四大魔王同士で争いが起きかねないこの状況下は、更にまずいかもしれない。
むろん、大王派も魔王派もそれぞれ内部で更に分化され、時としていがみ合ったり揉めたりすることはある。魔王派も四大魔王それぞれのシンパが揉めたりする事はある。大王派に至っては、現バアルと自分達は政敵一歩手前の関係だ。
しかし、魔王の血族でもある次期当主が、別の魔王の血族によって暗殺されたなど、魔王派同士で全面戦争が起きてもおかしくない。更に大王派の中から馬鹿が出て、鬼の首を取ったといわんばかりに大騒ぎを引き起こす可能性は絶大だ。
この運命が大きく変わる情勢下で、和平を結んだ三大勢力の一角が内戦を引き起こす。状況が悪い意味で激変すること請け合いだろう。
いつかありうる可能性はある。だが、それは今では駄目なのだ。
「歩き巫女の指揮は伯父様かスメイガ?」
『いや、ボウゲツが直接動いた。どうも近辺で高位の神器使いと思われる一団が確認されてな。此方も本腰を入れないと死人がでかねない』
「分かった。……ちょっとディオドラに探りを入れてみるよ。今リアス部長のところに来てるんだよねぇ」
『……万が一もある。アガレスとのレーティングゲームで奴は妙な事になっているから、気を付けろよ?』
「うん。こっちも
そう告げて通信を切ると、イルマは眷属を見渡す。
全員が、臨戦態勢だった。
「じゃ、行こうか」
そして四人はディオドラに探りを入れるべく、そして万が一の可能性を考慮して命がけの戦いの覚悟も決めて部室へと戻り―
一方その頃、ディオドラが帰った後のオカルト研究部では―
「朱乃! 聖別した塩を撒きなさい!」
「朱乃副部長、塩の聖別はしておいた。デュランダルの力を使った特別性だ」
「朱乃さん! ついでに
「あらあら。では忌々しいけれど姫島に由来する力を使って魔よけの力で撒くとしますわ」
―ディオドラがあらゆる意味でヘイトを稼いだおかげで、伝説の聖剣と伝説の天龍の力によって強化された塩を、日本の神道を代表する一族が清めの塩として撒こうとしていた。
扉を開けた瞬間、下手な下級悪魔が一瞬で蒸発しかねない特別製の塩を叩き付けられるまで後一分。
「……ブルノウ、こっちのスパイ・暗殺を担当してるチームが、お前の息子の眷属とかち合ったんだが、心当たりあるか?」
『……アザゼル総督。一応聞きますがそのスパイ、魔王様か初代殿の許可を取って行動してたんでしょうね?』
「当たり前だろ。動いているのが旧魔王派じゃなくて英雄派なら、
『悪魔同士での草同士でかち合う時は気を付けてますよ。裏には裏のルールというものがある事ぐらいは弁えているのでね。……まあ、そのルールの抜け穴を探し合うのが前提だとは思っていますが』
「……なまじ優秀かつ立派な奴だけに、お前が一番大王派で厄介だよ。当座の目的は大王派の清浄化か?」
『リベラルすぎる魔王派の権威削減も隙あらば狙いますよ。足の引っ張り合いはしないのでご安心ください。暴君と化したり瓦解する時の備えはきちんとしてますが、それぐらいはどこもしているでしょう?』
「……まあ、サーゼクスも大王派よりの役職持ちを失脚させるチャンスは狙ってるし、その時の代役は数十年も前から用意してるからお互い様か。……で、今の目的は?」
『ゼファードルのような愚者が頭になりかねないグラシャラボラスの精査をしてたんですよ。送り込んでおいていう事でもないでしょうが、姪が二の舞になるのは嫌ですからね。あの子には、自分のことを好きになれる第二の生を送ってほしいですから』
「難題押し付ける割に伯父馬鹿なことで。独り身に対する嫌味か」
『貴方はもう少し自分を見直せば結婚できるでしょう? ……それはともかく、本来の次期当主の死亡、アジュカ・ベルゼブブはどれぐらい関わってるんですか?』
「0パーセントだと断言できる。アスタロト家の連中も、動いてるのはごく一部だろう」
『そのごく一部の連中が本家関係なのが最悪ですがね。流石にアジュカ様の魔王退陣はこちらも困るのですが』
「まあ、その辺はもう少し精査だろ。ヴァーリの奴がイッセーに塩を送ったらしいし」
『味方の勝利より好敵手の生存ですか。総督、色々と育て方を間違えてませんか?』
「言うな、自覚はしてる。……だが
『まあ、方向性は違えど気持ちは分かります。私の場合は息子も姪も育てられ経験があったので、そういう意味ではあまり手がかかりませんでした。ある意味では人のことは偉そうに言えなかったですね、失礼しました』
「お互いイレギュラーすぎる子育て経験だな。……まあいい。とりあえずアスタロト家の膿の本命だが、ヴァーリの言った内容から見てディオドラの確率が大きい」
『了解しました。では、此方はディオドラがどこまで家の者をそそのかしているか調べさせます。ボウゲツには、その時に
「危険な仕事を引き受ける風に見せかけて、蛇どころかミドガルズオルムが出てきそうな藪つつかせるなよ。てか、お前はもう少し工作員に気を使ってやれ」
『こういう時に死を悼みながらも割り切る事ができねば、指導者は務まりませんよ。……それに』
「それに?」
『一手先すら読む事もできない愚者相手なら、埃に気づかせる事で逆に行動を誘導できるのがボウゲツです。奴なら自分の部下の存在に勘付かせずに埃を残せますし、その上で逃げ切れますよ』
「…………なあ、ボウゲツって確かお前の息子の眷属だよな? 若手の眷属悪魔にどこまで信頼置いているんだ?」
『彼女が駒価値二つな理由と、その来歴を知っているなら当然の信頼です。何故なら―』
『託された命を必ず果たして生還する。それこそが真の歩き巫女というものですから』
私設諜報工作部隊、歩き巫女。神滅具持ちに出会って心臓が止まりかけるの巻き。
因みに、次はちょっとアイネスを中心とした話が連続で起きます。
アイネスがらみでイルマとアイネスの前世についてのある程度の情報を明かしたり、アイネスがらみの情報が出てきたりします。これからちょっと外に気分転換に出て、その上で帰ってきてからディオドラが動き出す感じですね