ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲   作:グレン

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アイネスによって語られる過去編第二弾です。

さて、結構ハードになります






















が、そのころ主人公はぽちっとぽちっと言ってるわけですよ………(^_^;)


9 日美子とアイネスの守れなかった末期の約束

 先ほども言ったが、魔眼というものは基本的にレアスキルもしくは高等難易度技術だ。

 

 簡単なものですら作れるのは一流の証。ノウブルカラーを作るには眼球をくりぬき宝石ベースの義眼にする覚悟が前提。天然物は魔術師でも一般人でも発現するが、どちらにしても希少能力だ。

 

 だが、どういう事か道間家は魔眼において凄まじい特異体質だった。

 

 この家系、九割ぐらいの確率で生まれてくる子供が魔眼を宿す。しかもそのうち三割がノウブルカラー。

 

 因みにノウブルカラーの魔眼は、オークションでは一千万の値が付く事も普通にある。言っておくが単位は円ではない、ドルだ。円にしたら十億以上だ。

 

 まあそれはともかく、これだけでも凄い事なのだが、道間家の凄まじさはこの程度ではすまない。

 

 そのノウブルカラーの中でも最高峰、文字通りの色に輝く「黄金」が十年に一度ぐらいの割合で生まれ、更にその上の位階である、発動時に多彩に偏光するのが特徴の「宝石」すら出る。確認されているだけで歴代に数名はいたという。

 

 希少価値でも能力でもとにかく凄い。普通のノウブルカラーで一千万ドルついたのはさっき言ったが、「黄金」の魔眼はまずそこから競売が始まりかねないし、三千万ドルになっても落札しないだろう。「宝石」に至ってはもはや魔術師一人では人生をかけても再現不可能な大偉業を可能とするだろうから、単位が一つ上がるな。新品のジェット戦闘機を買ってもお釣りがでかねん。

 

 ……よし、五分休憩だ。紅茶が冷めるし、変な事になったテンションを下げるべきだろう。

 

 気持ちは分かる。黄金や宝石クラスともなれば、それこそ神滅具やその禁手にも届く効果を発揮しかねんからな。まあ、一服して気を静めるといい。

 

 ……五分経ったな。では話を戻そう。

 

 この道間家は魔術師と縁を持った事で、この異能の制御や抑制などの手段として魔術を習得したのが始まりの魔術家系だ。その為魔術使いになる事を選ぶ者が多い。魔術師として研究をする事を選ぶ者は少ないが、そういう者達は「魔眼を極める」ことで魔術師としての道を究めようとしていたよ。

 

 でだ、私達アーチホールは彼らの後ろ盾となり、彼らによって日本通が生まれやすい自分達にとって趣味的な物の融通を頼む相手となった。その形故に大抵の場合交流はある。

 

 時折本家の者が日本に行く時は必ず世話になった。また、時計塔で政争が激しくなりそうな時は、貴重な後継者たる子供を彼らに預ける事もある。

 

 なにせ黄金クラスの魔眼を敵に回せば、サーヴァントですら油断すると一杯食わされるからな。実際亜種聖杯戦争に参加して、勝利した者もいたらしい。

 

 まあそういうわけで、政争が激しくなった為、いったん私は道間家の本家に預けられる事になった。

 

 その時の次期当主は道間誠明(せいめい)。先ほど言った十年に一度の逸材である、黄金の魔眼を持った使い手だった。

 

 彼の両親は根げ―魔術師の極みを目指していて、その模索の一環として、分家で両親を失ったりした者を支援したり、素質のある養子をとったりもした。

 

 その養子が道間日美子(ひみこ)。イルマ・グラシャラボラスの前世の名前だ。

 

 あいつはカタナとは別の意味で特化型の魔術回路持ちでなぁ。魔眼はないし運用能力も魔力量も大したことはないが、一つだけ凄い才能があった。

 

 ……魔法などを中心としたファンタジーゲームで、得意属性というものが出てくるだろう? 魔術師(メイガス)もそうなんだ。

 

 大半の者達は、火・地・水・風・空の五大元素と呼ばれる属性の内の一つを保有。それ以外の属性や、五大元素を二つ持っている者は珍しく、架空元素と呼ばれる虚や無、五大元素の属性全てに高い適正を発揮するアベレージ・ワンという者に至っては、絶滅危惧種レベルだ。

 

 より分かりやすく伝えよう。自分で言うのもなんだがエルメロイ一門の天才として若くして色位を取った私ですら、五大元素の一つである風の適正だけであり、ロードであり神童と断言されたケイネス殿ですら風と水の二重属性どまりだ。

 

 だがまあ、ケイネス殿は属性こそ二重属性どまりだが、魔力総量も魔力運用も桁違いだ。それに二重属性でも凄まじく高度な適正でな。それらが組み合わさる事で初めて使いこなせる魔術礼装、月霊髄液(ウォールメン・ハイドログラム)はまさに機能美の極限ともいえる魔術礼装だ。

 

 少しだけ脱線するが、私が使う|神霊髄液《ウォールメン・ハイドログラム・アドバンスド》は月霊髄液をこの世界の技術やエルメロイ一門ですら持っていないスメイガの錬金術、そしてイルマが第三次クロックワークス式亜種聖杯戦争で召喚し、ブルノウ様の戦車(ルーク)として受肉したとあるサーヴァントの能力を借りて再設計かつブラッシュアップしたものだが、その際魔術属性としての水がない私が使えるよう、シトリーの魔力特性に合わせて調整している。正直ケイネス殿が振るう月霊髄液には憧れがあったので、ちょっとテンションが上がった。

 

 ……で、話を戻そう。道間家の当代当主は道間家でも珍しく魔術師の本懐達成に真剣でな。日美子を迎えたのもその一環だ。

 

 何故なら、日美子の魔術属性はアベレージ・ワンだ。

 

 魔術師としての運用能力や魔力総量ではどうしても平凡程度だから大成はできない。だが、その因子を相応の魔術師が受け継ぐ事ができれば、一気にその魔術師の家系は飛躍するレベルだ。

 

 それ以外にも分家出身だが、両親を失った者である乙女(おとめ)に経済支援をし、分家を何人か集めたりしていた。

 

 特に日美子は私になついてくれたし、誠明や乙女との歓談は、人間性を美徳ではなく欠点として見る性質のある魔術師の生まれである私に、しかしそれを持つことの大事さを教えてくれた。

 

 いわゆる秘密基地作りというのは実に燃えた。しかしそこは魔術師、日美子と乙女はヘッポコ運用能力なので助手程度だが、次期当主の私と誠明が本気を出した事で、外敵に見つかりづらく外敵を発見しづらい、かなりのレべルの変則的魔術工房となってしまった。

 

 まあ、後々これが力になったのだが、話を戻そう。

 

 そしてそれゆえに私は当時の道間家当主のことが……嫌いになってしまった。

 

 魔術師としては失格だ。そう思っても、しかしどうしても嫌悪感を覚えずにはいられなかった。

 

 既に資料を見ているから知っているだろうし、リアス嬢やソーナ嬢はイルマからも聞いているだろう?

 

 魔術師は、より優秀な後継者を生む為に自らの体を弄る事すら厭わない存在だ。そして優生学は基本中の基本である。

 

 今の自分達に足りない要素を持つ魔術回路の保有者と子をなすのは、普通にありうる事だ。

 

 ……日美子を養子にしたり、両親を失った乙女の支援をしているのはそういう事だ。

 

 まあ、既に後継者がいるから当時の当主が胎盤として利用する事はないだろう。しかし誠明の次を生ませる胎盤として利用する事が最大の目的だったのは間違いない。

 

 分かっていても言い出す事は魔術師としての(さが)で出来ず、そして政争がひと段落ついた事で、私はそのまま英国へと帰還した。

 

 ……その数か月後、その先代が死亡した。

 

 死因は殺害。下手人は不明。魔術刻印は無事だったので、そのまま誠明が当主となった。

 

 とはいえ誠明もまだ成人前で、色々と揉めたらしい。

 

 ……私はそんな時、実家から時計塔での活動に集中するように命じられ、関係が疎遠になっていた。

 

 手紙でのやり取りはしていた。そして、その節々から誠明が苦労している事を察する事ができた。

 

 ある時期においては文字が歪み、涙がこぼれ落ちたのかにじんでいる部分もあり、そもそも文脈からして無理をしている事が分かっていた。

 

 私もこれ以上は耐え切れず、何とかして日本に行く為に動こうとして―全ては手遅れだった。

 

 かろうじて日本に行く為に様々な苦労を終わらせた、まさにその時だ。

 

 ……両親から、道間家との関係を完全に断ち切ったと伝えられた。

 

 当然抗議したさ。だが、その理由を聞けばそれそのものを止める事はできなかった。

 

 誠明が、道間誠明が大量殺人を行ったのだ。

 

 ターゲットとなったのは、道間家出身の魔術使い数名と、その私的な友人達。彼らが集まっていたところを魔術だけでなく魔術師達が嫌悪する傾向の強い科学まで併用して一気に殺し、更にまったく関係のない民間人が数十名巻き込まれた。挙句の果てに神秘の秘匿を投げ捨てた行動を地方都市とはいえ人口密集地で敢行したんだ。……しかも、その襲撃場所には乙女までいて、彼女はほぼ脳死状態にまで陥った。

 

 縁を切るのは当然だ。魔術教会も聖堂教会も本気で怒り狂っており、縁を切るのが後一歩遅れればアーチホール家にも多大な被害が出る所だった。

 

 そして、ゆえに私には「道間家との接触はもちろん、日本に行く事すら禁止する」との厳命が下った。

 

 断じて認められなかったさ。誠明の凶行を聞いて黙っていられる性分ではなかった。乙女がそんなことになって、冷静でいられもしなかった。ましてや、そんなことになれば本家養子の日美子もただでは済まないことが簡単に予想でした。

 

 私は強引に日本に向かおうとして大騒ぎを起こし、結果的にアーチホール家総員に取り押さえれた。

 

 移植を開始していた魔術刻印は一時的に没収。一年ほど幽閉されることにもなった。

 

 そしてその過程で先代はとんでもない情報を伝えてきたよ。

 

 ……道間家先代当主の殺害を実行したのは、誠明だというんだ。

 

 動機は、「日美子を時計塔に確保される前に、独自に標本として管理体制に持って行く事を抵抗したから」出そうだ。これに関しては魔眼の一つである過去視を使える者が調べたので、間違いないそうだ。

 

 理由を聞いて納得すると同時に、だからこそ私は日本に向かいたくなった。

 

 その誠明が守ろうとした日美子を助ける為にも。彼が同じぐらい大事にしていたはずの乙女に対して凶行を働いた理由を知る為にも。そして、私が三人の友でいる為にも。

 

 そして一年以上だった時、転機が訪れる。

 

 アーチホールが所属するエルメロイ一門の当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが亜種聖杯戦争への参戦を決め、そしてその開催場所が日本だったんだ。

 

 私は直談判をケイネス殿に行った。

 

 折しもエルメロイ一門は歓喜していた。

 

 時計塔のロードであるケイネス殿が、魔術的儀式で後れを取る可能性など彼らには考えられない。ましてや、ケイネス殿は生まれてこの方失敗知らずの方で、何かに手を出せばそれすなわちその分野に新たな光明をもたらしていたからな。とどめに本気の入れ具合が違った。

 

 当時のエルメロイが担当していた鉱石科(キシュア)でも最高品質の宝石や鉱石を大量に投入して、普通の参加者なら万全という言葉すら生ぬるい準備を敢行。そして婚約者のソラウ殿の実家の担当学部である降霊科(ユリフィス)ですら迂闊には手を抜けぬような、強大な悪霊・魍魎を番犬代わりに数十体確保。各学部の君主(ロード)専用の魔力炉を三基も運搬。これら全てが陣地作成の為の資材であり、肝心の陣地場所は最高級ホテルを一階層丸ごと買い取るという大盤振る舞い。

 

 戦闘においても本腰であり、サーヴァントの触媒としてかの有名なアレキサンダー大王の触媒を本命として確保。更に万が一の為の保険として、ディルムッド・オディナやアヴィケブロン、アストルフォなどといった英雄をピンポイントで召喚できる触媒をいくつも入手。これにも湯水の如く金を使ったとも。

 

 そして自分が戦う事も考慮して、独自に開発した魔術式によってサーヴァントの魔力消費を他の物に肩代わりするという偉業を片手間に考案し実現。月霊髄液(ウォールメン・ハイドログラム)に代用されるエルメロイの貴重な礼装をまたしても湯水の如く注ぎ込んだ。

 

 断言しよう。小国で起きた内乱に米国一個艦隊を投入するが如き暴挙だ。

 

 エルメロイ一門はこれにより、ケイネス殿が唯一持っていなかった実戦武勲及び願望機の入手ができると喜び勇んだ。亜種聖杯戦争でも最高峰の、五組によるバトルロイヤルともなれば、勝利によって得られる願望機も栄光も絶大だからな。

 

 そして、そこからくる気のゆるみに付け込んで私はケイネス殿に、ついでに日本に連れて行ってほしいと頼んだのだ。

 

 ケイネス殿はこれを了承してくださった。莫大な資材を使用するがゆえに作成にも時間と手間がかかる陣地作成を手伝う代わりに、その後私に道間家の様子を見に行く時間と許可を与えてくれたのだ。しかも、反対意見が出ないように要請を通り越した命令という形にしてくださった。

 

 エルメロイ一門の長からの命令と成れば、先代も断れない。そして万が一私に何かあっても、家宝たる魔術刻印がない事もあって、ダメージは最小限だと踏んだのだろう。

 

 万が一にも私が死んだ時は、そこに付け込んでケイネス殿に願望機のリソースを分けてもらう腹積もりだったのかもしれん。ケイネス殿は己が持たぬ実戦武勲を、時計塔のロードとして相応しいレベルで欲したので聖杯戦争に参加したからな。願望機そのものに興味は薄かった。

 

 そして私は契約通りに陣地作成に協力したとも。日本語に慣れていた事もあって、その辺りの交渉も担当したのでケイネス殿からは覚えがよかった。

 

 そして、私は陣地を作成し終えると即座に道間家の管轄地だった地方都市に向かった。

 

 乙女と日美子は行方知れずになっており、誠明に殺害された者達の関係者が血眼になって探していた。

 

 ゆえに私はまず、一つの場所を探す事にした。

 

 その場所とは、かつて誠明を含めた四人で作った隠れ家だ。

 

 真剣に隠れ家としては優れているので、潜むには都合がいいという単純な理由だった。外れていても、彼女達が私に対する友情を残しているのなら何かしらのメッセージがあると思ったんだ。

 

 ………そして、私は惨劇を目撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ? なにが……どうなっている!?」

 

 戦場跡としか形容できない光景に、アイネスは息をのむ。

 

 昔四人で駆け回った裏山は、死臭と死体がそこら中に蔓延する地獄となっていた。

 

 近くにあった死体を見分すれば、魔術使いである事が察せられた。しかし、次に調べた人間は犯罪組織に身を置いているだけのただの人間だった。

 

 魔術で金を稼ぐ魔術使いが、使いっパシリとしてただの人間を使うことは普通にあり得る。魔術の存在を知った者達が、魔術師達を利用しようとする事も何度もあった。

 

 故に確信する。これは、殺し合いだ。

 

「……まさか、日美子、乙女!!」

 

 とっさに、アイネスは二人のみを心配して走り出す。

 

 幸いにも戦闘は終了しているようだ。これなら、実戦経験に乏しい自分でもなんとかなるだろう。

 

 何より、この裏山には四人で作った隠れ家がある。

 

 隠匿及び警戒においては、半端な魔術師が作った工房より優れている。だが、もし一流の魔術師が動いているのなら、子供だった自分達の技術だけでは隙をつかれる可能性はあった。

 

 そして、息を切らしてその隠れ家に駆け込んだアイネスは、それを見た。

 

 先ほどのように、惨殺された魔術師・魔術使い・そしてただの人間達の死体。

 

 その返り血をわずかに浴びながらも、魔術的な延命装置で静かな呼吸を繰り返す、道間乙女。

 

 そしてその乙女の眠るベッドに寄り添うようにしている、二人の幼子。

 

 そして、死体の群れと乙女達の間で、血まみれになって倒れ伏している、茶色の髪をツインテールにした、十代後半の一人の少女。

 

「………日美子ぉおおおおおおお!!!!」

 

 絶叫して、アイネスは慌てて駆け寄る。

 

 かろうじて残った冷静さが、彼女に解析魔術をかける余裕を生み―そして絶望した。

 

 内蔵の多くが大きく破損し、更に高度な呪詛をかけられている。その上、出血量も甚大で、魔力で無理やり存命しているだけ。端的に言って致命傷だ。

 

 病院に連れて行っても間違いなく間に合わない。アイネスの治癒魔術では対処不可能。高度な治療用礼装や霊薬があれば話は別だが、かなり無理をしてここに来た事もあり、持ち込めた装備など殆どない。

 

 一言で言おう。手遅れだった。

 

「……あれ、アイ、ネス?」

 

「日美子! しっかりしろ日美子! 何があった!?」

 

 アイネスは日美子の意識を保たせる為にも声を上げ、そして日美子は虚ろな目で、辺りを見渡す。

 

「……ねえ、乙女ねぇは? 美子は……田知は……?」

 

 その言葉に、アイネスはすぐに乙女の様子を確認する。

 

 彼女は脳死だと言われているが、呼吸は正常だ。魔術礼装による延命措置でしかないが、それに対して今のところ問題はない。

 

 そして、その乙女が寝ているベッドの近くにる、小さな子供二人も無事だ。いきなり目の前で大きな音や大暴れが起きた事で驚いている節があるが、小さい子供であるがゆえに状況を飲み込めてないようだ。

 

「乙女には傷一つない。美子と田知というのは知らないが、乙女の近くにいる幼子(おさなご)二人は無事だ」

 

 分かる事だけを告げると、どうやら推測は正解だったらしく、日美子はほっと息をついた。

 

 そして、すぐに肺に血がこもったのか血を吐いてせき込む。

 

 背中をさすりたいが、身を起させるだけで傷が悪化しかねないからそれもできない。

 

 無力な自分に怒りを覚え、アイネスは涙を流す。

 

「なんでだ! なんで、こんなことになったんだ!?」

 

 一体何があった。

 

 厄介なロズィーアンとは話がついた。道間家前当主は多少の問題行動をしているが、魔術師達を何人も同時に敵に回すような真似はしていない。ゆえに彼らは誠明の凶行の反動で来た者達だろうが、そもそも誠明はいきなり凶行を引き起こすような危険人物では断じてなかった。

 

 なのになんで、どうしてこんな事になったんだ。

 

 なぜ、彼女達がこんな事にならねばならない。

 

 理由のなき悪意などごろごろある。性善説を信奉しているつもりはない。理不尽が横行しているのが世界というものだという事は知っている。油断しているという事が罪だと断言する人種とも関わってきた。

 

 しかし、目の前の惨劇を見せられれば、それでも文句の一つぐらいつきたくもなる。絶叫して当然だ。

 

 そしてすぐに我に返り、日美子に顔を向けた時、一つのガラスの容器が移った。

 

 震える手で日美子が掲げるそれには、魔術的に加工された刻印と、粉末の薬があった。

 

 そして、日美子は口を開け、舌を見せると苦笑を浮かべる。

 

 粘膜接触等によって、魔術的な経路(パス)を精製するという方法は、普通に存在する。性行為を利用した魔術の類もある。

 

 聖杯戦争において、マスターがサーヴァントの過去を実体験することがある。これは睡眠時にマスターとサーヴァントのつながりによって発生するバグに様なもので、サーヴァントも必要ないから普通はしないが、睡眠する事があれば起きる事はあるだろう。

 

 この薬品は、要はその類に属する霊薬だ。具体的には、この薬を含みながら粘膜接触を行う事で、記憶を共有する事ができる。

 

 日美子は分かっている。自分にはもう、時間がない。そして、話は長くなる事なのだろう。

 

 だからこの霊薬によって一気に情報をアイネスに叩き込もうとしているのだ。

 

「あ~……。初キスだったらごめ―」

 

 そんな冗談を聞く気はない。

 

 何の躊躇もなく薬を飲み、アイネスは日美子の唇を奪う。

 

 舌を絡め、唾液を交換し、魔力を繋げる。

 

 そしてその瞬間、日美子が伝えたい記憶全てをアイネスは受け取った。

 

 全て分かった。誠明が凶行を起こした理由も、乙女が巻き込まれた理由も、そして二人の幼子がどういう理由でここにいるのかも。

 

 ―そして、日美子が一体どれだけ追い詰められていたのかも。

 

「………ふざけるな!!」

 

 アイネスは唇を放し、唾液を拭く事すら忘れて絶叫する。

 

 日美子はそれに、自虐的な表情を浮かべる。

 

 怒りを向けられたのだと思ったのだろう。殺意を叩き付けられたと思ったのだろう。憎しみを向けられたのだと思ったのだろう。

 

 実際、アイネスは日美子に怒りを覚えた。

 

 ……だが、それは日美子を責めるものでは断じてない。

 

「なんで、私に助けを求めてくれなかった!?」

 

 心からの怒りを日美子に叩き付け、アイネスは怒鳴った。

 

「私が信用できなかったのか!? 嫌われると思ったのか!? 手のひらを返されると思ったのか!?」

 

 アイネスが日美子に怒ったのはそれが理由だ。

 

 そう、全て知って、アイネスが日美子に対して思った怒りはそれだ。

 

 心から、アイネスは日美子が自分に助けを求めてくれなかった事を、乙女や誠明に助けを求めてくれなかった事を怒っていた。

 

「見損なうな! 友の窮状を知って助けにならんと願わぬほど、私は落ちぶれてはいない!!」

 

「……友、達? いまでも……友達……?」

 

 震える声でそう尋ねる日美子に、アイネスは別の意味で怒りを覚え、大声を出す。

 

「当たり前だ!!」

 

 その断言に、日美子はふっと微笑むと、一筋の涙をこぼす。

 

 そして、震える声で共に願う。

 

「助けて……あげて」

 

 その言葉の意味を、アイネスは嫌というほど理解する。

 

 助けてほしいではない。助けてあげてといったのだ。

 

 それは、自分を助けてもらう為の言葉ではない。

 

 もう自分は助からない。それが分かっているから、日美子は守りたいものを守ってほしいと告げたのだ。

 

「私が壊した……私が苦しめた……私が台無しにした……乙女ねぇを」

 

 悔恨の言葉を紡ぎ、日美子は最後の力を振り絞って、願いを託す。

 

「美子を……田知を……お願い、助け……て」

 

「ああ、任せろ!!」

 

 無理やり笑顔を浮かべて、アイネスは断言する。

 

「エルメロイ一門の1人として! アーチホール家の跡取りとして! 色位(ブランド)の末席として!!」

 

 実にくだらない事を言って、根拠にしようとしている。

 

 何がエルメロイ一門が誇る分家だ。

 

 何がアーチホール家の才媛だ。

 

 何が、時計塔における実質的な最高位だ。

 

 それら全てをもってして、友が何年間も苦しんでいる事一つ気づかなかった。

 

 それら全てをもってしても、友が壊れ果てるのを認識する事すらしなかった。

 

 それら全てをもってしても、友の誠実さが粉々に砕け、狂気に取り憑かれるのを遅らせる事すらできなかった。

 

「なにより……」

 

 だから、保証する根拠はそうではない。

 

 もっと大事な、手遅れだからこそ言える、大事な大事な大前提。

 

「道間日美子の友、アイネス・エルメロイ・アーチホールとして!! 私はお前の最後の願いを叶える為に全力を尽くす!!」

 

 その断言に、日美子はうっすらと微笑んだ。

 

「そっか……うん……」

 

 最後の言葉は声にならず―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安心したぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその言葉をアイネスの心に残して、道間日美子は息を引き取った。

 




本当の意味でのイルマの過去については、もっと進んでから解放します。まあ、近年のグレンさんトレンドの傾向から外れてないとだけ言っておきます。





そして、この時点でアイネスには勝算がありました。三人の安全を確保するための策がありました。











しかし題名と、そして二人の転生後の年齢が同年代という事実。

これが、残酷な現実を物語っております。

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