ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲 作:グレン×グレン
「焦って自爆」と。
今回は、具体的にどういう自爆なのかが語られます。
………そして、私は乙女達を守る為に速やかに行動を起こそうとした。
普通に考えれば、縁切りまでした家系の分家、それも脳死状態の者を生かしたままにしろなどありえない。アーチホール家どころかエルメロイ一門自体が難色を示すだろう。
だが、勝算はあったんだ。
乙女は脳死にこそなっていたが、魔術回路は無事だった。そして、彼女の魔術回路の適性を使えば、あの世界でサーヴァントを聖杯の力を借りずに現界させる事ができる。
そして幸か不幸か、エルメロイ一門にはサーヴァントの触媒が複数集まっていた。
本命であるアレキサンダー大王の触媒こそ、ケイネス殿と揉めた聴講生が配送ミスで手に入れてしまい、そのまま彼が持ち逃げしてしまうという不手際があったが、しかし他にもいくつも触媒はある。
ケイネス氏が選んだサーヴァント以外の、聖杯戦争での戦力とは別の意味で優れたサーヴァント二騎の内二つを利用する事を、私は考えていた。
一つ。自身の魔力精製量が高いので、魔力総量に自信がないマスターが召喚する事も多いキャスターのサーヴァント。魔術の一ジャンルである「カバラ」の基盤を作ったゴーレムマイスター。現代の魔術師では一年かけても作り上げる事ができないレベルの超高性能ゴーレムを、その気になれば一日に何十体も作れるという、十一世紀の哲学者。ソロモン・ベン・ユダ・イブン・ガビーロールことアヴィケブロン。
一つ。本来ならアーチャーのサーヴァントのクラス別スキルとして運用される、マスターの必要性を薄める「単独行動」スキルを保有するサーヴァント。フランスの英雄筆頭格「シャルルマーニュ十二勇志」の1人にして、あらゆる魔術を無効化する本を宝具として保有する騎士。そして王族に縁があるゆえに、魔術師という貴族社会にもある程度適合の余地を推測できる騎士。アストルフォ。
私はケイネス殿が聖杯戦争様に編み出した魔力パスの分割を利用して、乙女の魔術回路でどちらかのサーヴァントをエルメロイ一門の客将として迎え入れるという計画を立てた。
王族出身のアストルフォなら貴族志向の強いエルメロイ一門にもある程度対応できただろう。そのうえ、彼の宝具は魔術の天敵故に、魔術師が集まる時計塔において敵に回したくないサーヴァントとしてはトップクラスだろう。単独行動スキルによる低燃費もあり、用心棒として最高峰だ。
魔術師であるアヴィケブロンなら、当然の如く魔術師世界にも対応できるだろう。彼のゴーレムマイスターとしての腕前は文字通り同ジャンルで最強だから、彼にエルメロイ教室の特別講師になってもらえば、時計塔のゴーレム関係者を軒並みエルメロイ一門に取り込む事も簡単だ。
この影響力を持って乙女の「保全」を願い、同時に美子と田知の二人の子供を私の弟子……もしくは養子という形で保護する。これが私の計画だった。
即興で考えたにしては自信があった。それほどまでに、アヴィケブロンとアストルフォは、聖杯戦争では苦戦するが魔術師相手の謀略や牽制としては頼りになる。
ましてや、最大規模の亜種聖杯戦争に優勝したケイネス殿の凱旋もある。魔術師の実戦武功として最上級の物を手にして、願望機としても最高峰の物を手にする。相乗効果でエルメロイ一門全体が余裕を持っている事になるのだから。
だから、私はこの案は上手く行くと確信してケイネス殿にまず確認を取り―
彼が、源流魔術刻印や婚約者殿まで巻き込む形で盛大に戦死した事を知った。
持ち込んだ大量の装備や資材に魔術礼装は、工房ごと爆破された事で
エルメロイ一門の至宝である源流魔術刻印は、九割が破壊されて使い物にならなくなった。
婚約者であるソラウ殿も、無残に殺されたらしい。
一体どれだけ圧勝をするか。ただそれだけを考えていたエルメロイ一門は大混乱だ。
本家筋の娘を殺された上に大打撃をこの上なく受けた事で見切りをつけられた結果、ソフィアリ家はあっさりと一門を見放した。
アーチホール家は速攻で一門から抜けることを決定した。奇跡が起きて持ち直す可能性にかけるより、被害が大きくならないうちに離縁したほうが安全性は高いと判断したようだ。
そして政争渦巻く時計塔ゆえに、凄まじい勢いで様々なものが貪り食われて行っている。
資材、礼装、財源、刻印。魔術師一族にとって貴重なものが、一瞬で塵になった。これはもはや没落以外の何も想像できない緊急事態だ。
後に把握した事によると、ハリウッドの超大作映画を作れる程度の借金までしてしまったらしい。壮絶な没落といえるだろう。
……最も、エルメロイはそこそこ持ち直す事に成功した。
件の聴講生が聖杯戦争の影響で人格的に成長し、その結果ケイネス殿が講師を務めていた教室を買い取り才能を発揮。それに目をつけた、末席なのに源流魔術刻印の残骸との適正が高くて、家の魔術刻印を移植してないという理由で貧乏くじを引いた親族のライネスが、彼を代理ロードとしてエルメロイ存続を試みたのだ。
結果、エルメロイは代の浅い若手魔術師達の理想郷と化し、事実上腕利きのコネを多数抱えることになるのだが、その兆しが見えたのは三年先の話だ。
私には、そんな先のことを考える余裕などなかった。
私が日美子に三人の安全を確約できたのは、エルメロイ一門とその頭首であるケイネス殿の存在があってこそだ。それがなくなれば、一年どころか数か月持たせる事すらできない。
焦った私はその場で亜種聖杯の開発を試みた。
気分はあれだな。金に困った奴らが一発逆転の博打の為に、全財産を競馬の大穴に叩き込む形だ。
当然、そんな事が上手く行くわけがない。
結果は失敗中の失敗。なまじ私が天才であったがゆえに精度は高く、しかし下準備も高品質の資材も無しだったがゆえに、完成には届かなかった。
つまり、私は亜種聖杯作成を試みた者が引く確率から、最悪の可能性である4パーセントを引いたのさ。
亜種聖杯は爆発を引き起こしたよ。
当然、爆心地にいた私は勿論、いつでもカバーできるように近くにいた三人も巻き込んだ。
笑ってくれ、私は守るどころか、心中をしてしまったようなものなんだ……。
「そして、気づいた時には私はツヴェルフ・シトリーになっていた」
冷めた紅茶を飲んで気分を沈めながら、アイネスはそう告げる。
誰もが、その壮絶な過去に何も言えない。
自身もまた壮絶な過去を持つサイラオーグも、壮絶な過去を持つ眷属を多く抱えるリアスもだ。その辺りが薄いソーナも、踏み込むタイミングを掴めない。
アイネスはそのままカップに視線を向けながら告げる。
「当時は正直沈んでいた。約束を守るどころか盛大に台無しにして死んだあげく、末席中の末席とはいえ貴族という立場で生まれ変わったのだ。合わせる顔がないとはこのことだ」
しかし、生来の誇り高い気質故にぐれる事だけはせずに育った。
「……シトリーの序列が12だからという理由で、
故にアイネスは真面目に努力をしつつ、しかし心の傷は決して消えない。
そんな時に転機が訪れた。
奇跡的な巡り合わせで親戚同士で魔術師という事に気づいた、スメイガ・バアルとイルマ・グラシャラボラス。
その二人の告白を聞いたブルノウの判断による、クロックワークスの結成。
亜種聖杯によって突如与えられた情報から、アイネスは心の底からその意味を理解して連絡先に通信を行った。
時計塔の魑魅魍魎に慣れているアイネスからすれば、必要不可欠である事は当然だからだ。
そして、アイネスはイルマと再会した。
「分かった瞬間土下座して、全ての事情を説明したよ。殺されて当然だとも心から思った」
アイネスは日本通ゆえに、下手をすると日本人よりも日本文化に精通している時がある。
その一つが土下座だ。
土下座という行為とは本来、命を差し出すほどの謝意を示す行動だ。彼女はそれを忠実に実行した。殺される覚悟をもって実行した。
「だが、イルマは私の手を握り逆に謝罪した」
―ごめんね。いきなり、あんな大変な事を頼んじゃって。
そう寂しげに告げたイルマは、そして笑みを浮かべてアイネスを抱きしめたという。
「そして、心の底からイルマは私に感謝してくれた」
―ありがとう。三人を助ける為に、本気で頑張ってくれて。
見捨てても良かったのだと、イルマは言外にそう言ったのだ。
そも、一門の危機に直面していたのだ。本来そちらを優先していいだろう。
それに、助ける当てがそもそもないのなら、まず自分の身の安全を優先する事は仕方がないだろう。
しかし、アイネスは諦めなかった。
混乱状態でのトチ狂った暴走とはいえ、アイネスは三人を助ける為に心の底から努力した。
その事実をもってして、イルマはアイネスを許し、それどころか感謝したのだ。
「……私はその時誓ったのだ」
静かに、あの時決めた決意を表明する。
「ツヴェルフ・シトリーであるアイネス・エルメロイ・アーチホールは、イルマ・グラシャラボラスである道間日美子の為に力を尽くそう。彼女を我が主として、生涯ともに寄り添おうと」
それこそが、ツヴェルフ・シトリーがイルマ・グラシャラボラスの
魔術師としてのポテンシャルなら、アイネスが圧倒している。
悪魔としてのポテンシャルなら、イルマが間違いなく上をいく。
だが、そんなパワーバランスなどどうでもいい。
今度こそ共に道を間違えさせない。今度こそ友の力になる。友が見据えた未来を創るべく、域恥をさらしてでも第二の生を生きよう。
それが、アイネス・エルメロイ・アーチホールにしてツヴェルフ・シトリーの決断である。
「……事情は大体分かった。だが、一つ聞きたい」
サイラオーグがひと呼吸を入れてから、しかし首を傾げる。
事情は分かった。誰もが分かった。
ツヴェルフ・シトリーがイルマを主と認める理由も分かった。そして、彼女のことを心から想っている事も理解できた。
細かい事情やそも
だが、一つだけ分からない事がある。これは聞いていいだろう。
ソーナも同意見だったのか、眼鏡を治しながら疑念の目を向ける。
「……今のどこに卑劣な事があるのですか? むしろ悲劇ではありますが最後は美談にすらなっているようですが」
その疑問に、アイネスは苦笑した。
目の前の三人がそういう人物だと分かっているからこそ、この話をこの三人にするのは卑劣なのだ。
「ここまで知れば、お前達はイルマに対して同情心や労わりの心を強く持つだろう? そうなれば、イルマが窮地の時に力になろうとするはずだ。……卑劣としか言いようがない情報戦だ」
アイネスはそうはっきり言った。
「魔術の基本は等価交換。しかし、情に付け込んで対価を払わずに主の厚遇を勝ち取るなど、卑怯卑劣といわずして何という。少なくとも、エルメロイの価値観としては見事に卑劣だ」
「………あなた、頭はいいけど馬鹿なのかしら?」
リアスがバッサリとツッコミを入れる。
そして、表情を苦笑に変えて言い切った。
「そんな事知らなくたって、少なくとも私は
そうはっきり言われて、アイネスはぽかんとした表情になった。
それに、ソーナとサイラオーグは微笑で答える。
まったくもって苦労性だという他ない。
だが、それだけのことをしてでも誰かを助けたいという思いに、好感は持てた。
「レーティングゲームといった類で手を抜く気はない。だが、手を取り合うべき時に手を伸ばすのは当然だ。彼女の来歴には何ら関係なくな」
「そういう事です。少なくとも、リアスとサイラオーグはそんな事を知らなくても彼女を助けるでしょうね」
サイラオーグとソーナの発言に合わせ、リアスは胸を張って断言する。
「彼女はもう、私達オカルト研究部の部員よ? だから、部長としての責任は当然果たすから安心しなさい」
その自愛に満ちた言葉を受け、アイネスは静かに天井を見上げる。
こぼれそうになる涙を見せないように、アイネス・エルメロイ・アーチホールは安堵した。
「………ああ、イルマを、頼む………っ」
「へっくしょん! ……風邪かな?」
仕事を終えたイルマは、そんな話をされているのに気付かずに、とりあえず早めに寝ようと決意するのであった。
死因「想定外の窮地にパにくって博打を行い失敗」。もっとも、二択の選択肢がどっちも胃痛案件で、片方はギャグ的だがもう片方の場合乙女の命がマジで危険な大博打である(アイネスの計画が成功した場合、召喚時系列は聖杯大戦より何年も前になります)
まあそれはともかく、アイネスが本気でイルマの味方である決意は理解できたと思います。
前に鶴木が語る形で、「友情も負い目も怒りも感謝もある」とアイネスがイルマのことをそう告げていますが、まさにその通りです。
昔からの友達で、いろいろな意味で助けられなかった負い目があって、イルマのやらかしやそもそも助けを求めてくれなかったことに怒りがあって、負い目の理由を怒らないどころか、命がけで果たそうとしてくれたことに礼を言われたので感謝もある。下手なグレモリー眷属よりも忠義あります
……まあ、イルマの問題児っぷりも良く知っているので扱いは悪いのですが。
そしてイルマもまた「心から感謝してるし、本当に迷惑をかけた」と思っています。実際、彼女からすれば自業自得極まりないことで彼女に重荷を背負わせて死に導いていますからね。迷惑という言葉で形容できるレベルでないし、そこまでしてまで助けようと尽力されれば感謝という言葉も生ぬるいです。
あと乙女・田知・美子の三人ですが、本編でがっつりかかわることを断言いたします。
そして次回から旧魔王派との戦いが始まります。
ディオドラは特に強化されませんが、もう最初っから「敵」と明言していたトルメーがいろいろと動き出す戦いになるので、同盟達も苦戦必須です。最もブルノウ達も動くので、アンチ・ヘイトタグをつけるほどの事態にはなりませんが。
固有結界の長い詠唱、毎回出したほうがいいですか?
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いるにきまってるだろう常考
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そんな文字数稼ぎいらない
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高濱作品っぽく詠唱は要所で
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一部分だけ出す程度なら頻度多めで
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とりあえず初使用時だけでいいよ?