ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲   作:グレン×グレン

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………世界に名をとどろかす、一人の子供たちのヒーローの伝説が始まる。


























いや、これが始まりでいいのか?


20 伝説の始まり(番組的な意味で)

 

 状況を簡潔にまとめると、こういうことになる。

 

 アーシア・アルジェントをまず世界のはざまに転送する形で殺害するという、手の込んだ殺し方をシャルバは不意打ちで敢行した。

 

 そしてその結果、雑に言えばイッセーは切れたのだ。

 

 そして衝動的に覇龍を発動し、シャルバを一方的に蹂躙する。

 

 動揺しながらも離脱を試みたシャルバだが、なぜかイッセーはギャスパーが持っているような停止の力を発動。それを妨害したうえで、覇龍の大技であるジャガーノート・スマッシャーを発射しようとする。

 

 そこまでたってようやく皆は離脱体制に入り、一部呆然とするリアス達を強引に引っ張る形で神殿から離れる。

 

 そしてジャガーノート・スマッシャーが発射され―

 

「なぜか、オーディン殿が急に前に出て自ら受ける形で余波を防いだのだ」

 

 もっと安全な方法があったのに、なぜか急にオーディンはその身を盾にして防いだ。

 

 その理由はわからないが、しかし今はそれどころではない。

 

 とりあえず生きているし、アイネスは治癒魔術もかけている。死にはしないだろう。

 

 現状最も重要な問題は、イッセーが覇龍を解いていないことだ。

 

「……イッセー先輩の気が乱れすぎています。あのままだと、寿命にも大きな影響が………っ!」

 

 小猫が震えながらそう言い、そして誰もが歯ぎしりする。

 

 覇龍とは、もともと寿命を消費して発動する技だ。性能は非常に高いが、引き換えに早死にするといってもいい。

 

 今代の白龍皇であるヴァーリ・ルシファーは悪魔の血を最大限に生かした魔力による代用でどうにかできるらしいが、イッセーの魔力量ではどうしようもない。

 

 つまり、放っておけば確実に死ぬわけだが―

 

「だからって、どう止めれば……っ」

 

 詰みすら確信した震えるリアスの声に、答えるものは誰もいない。

 

 消耗があまりにも激しすぎるこの状況下では、誰もがどうしようもない。

 

 万全の状態のオーディンならどうにかできるかもしれなかったが、この状態ではとても不可能だ。そも気絶している。

 

「……こうなったら一ばちで、俺が出張るしかねえか……?」

 

「本当にイチかバチかだな。確かにお前の聖騎士王の聖剣(カリブリヌス・キャメロット)ならワンチャンスはあるが―」

 

 アイネスがそう判断しながら、しかし何か言おうとしたその時だった。

 

「……やめておくといい。今の兵藤一誠では、条件反射で殺しかねない」

 

 その言葉に、誰もが振り向いた。

 

 イルマ・グラシャラボラス眷属は、この状況下で聞きなれない声を聴いたことで、新たなイレギュラーに警戒して。

 

 リアス・グレモリー眷属は、この状況下でさらなる強敵が出てきたことに警戒して。

 

 そして、その新たな参入者は、戦闘する気がないことを示すように手のひらを向ける。

 

「落ち着け。俺は兵藤一誠の覇龍を見に来ただけだ。戦闘する気はない」

 

 そう告げる男は、ヴァーリ・ルシファー。

 

 この時代における白龍皇にして、初代ルシファーのひ孫である、反則存在である。

 

 そしてその後ろでは、完全に見物の体勢をとっている美候と、微妙に不快気な表情を鶴木に向けるアーサー・ペンドラゴンの姿があった。

 

 露骨に嫌そうな顔をするアイネスだが、とりあえず無言を貫いている。

 

 それ相応の血筋を持ちながら、「責務? なにそれおいしいの」と言わんばかりに自由に生きているアウトロー集団、ヴァーリチーム。

 

 貴族として責務を果たさんとすることをモットーとする、血統尊重主義派の中で右翼。前世のころから貴族のアイネスからすれば、そりが合わない相手筆頭格だ。

 

 しかし、この状況下でうかつなことをする余裕はないので、ぐっとこらえていた。

 

 そのアイネスの肩に手を置いて感謝の意を示しながら、イルマが代表して鋭い視線を向ける。

 

「……作戦台無しにした連中殺しとけば、禍の団での立場も安定じゃん? 今なら主神オーディンの首もついてくるのに?」

 

 純粋な疑問ではある。

 

 旧魔王派の総力を挙げた作戦は、現魔王側の若手たちによって台無しにされたといってもいい。しかも、あと一歩のところで寄りにもよってセクハラ技で台無しにされているのだ。

 

 禍の団的にヘイトがたまりにたまっているだろう。ここでその元凶の仲間たちを皆殺しにすれば、きっと禍の団内部で英雄扱いされるはずだ。

 

 そういう意味では、禍の団の構成組織としてとてもいいことづくめである。

 

 しかし、ヴァーリは呆れ半分の目を向けてくる始末だった。

 

「弱った神を殺して何の意味がある。俺は殺したいんじゃなくて戦いたいんだ」

 

 そう告げると、ヴァーリは半目でこの周囲の攻撃を見渡した。

 

「シャルバ達の計画もどうでもいい。この戦場には禍の団(うち)の首魁も来ているが、まったくもって別件だからな」

 

 そう告げ、そしてヴァーリはイッセーに視線を向ける。

 

「正直な話、このまま兵藤一誠の寿命が尽きるのは面白くない。ちょっとしたついでのつもりだったが、何か策があるなら協力しよう」

 

 そう告げるヴァーリに誰もが首をかしげる中、美候が一歩前に出る。

 

 彼が抱えている少女を見て、誰もが目を見開いた。

 

「あ、アーシア!?」

 

「ほらよ。お前さんとこの嬢ちゃんだろ?」

 

 唖然とするリアスに美候がアーシアを押し付ける。

 

 そして、脈などを確認するが特に変な様子はない。

 

 念のためにアイネスが神霊髄液の能力で検査するが、これまた問題がなかった。

 

「うわぁあああああん!」

 

 ゼノヴィアがマジ泣きするが、しかし状況がよくわからない。

 

 とりあえず、誰もが質問の意を込めてヴァーリ達に視線を送ると、隣にいたアーサーが眼鏡をキランと輝かせた。

 

「別件で次元の狭間にいたら、いきなりこの少女が出てきましてね。ヴァーリがあなた方の仲間だといったので、ちょっとこちらの様子を見に行くついでに連れてきたのですよ」

 

「運がよかったな。あのまま狭間を漂っていれば、無に当てられて終わっていただろう」

 

 そう告げるヴァーリは、そしてハタと手を打った。

 

 その視線は覇龍状態のイッセーに向けられている。

 

「なるほど。それでああなったのか。そういう男だったな」

 

「……ちゅーこた、アーシア見せたら元に戻るんとちゃうか?」

 

 リスンがそう判断するが、しかし危険だろう。

 

 なにせ暴走状態だ。もしかしたら近づいた瞬間に攻撃を叩き込みかねない。

 

 魔王クラスの性能を発揮すると豪語していたシャルバですら蹂躙されたのだ。疲労困憊のこのメンツでは、誰が言っても反射の攻撃にすら対応できまい。

 

 さて、どうしたものか。

 

 ヴァーリも真剣にライバルの早死にを警戒しているのか、指を顎に当てながら思案顔になる。

 

「……暴走した龍を鎮めるなら歌が効果的ではある。だが、二天龍を鎮める歌なんて存在しないしな―」

 

 となれば覇龍同士の激突でもするべきか。

 

 などと、物騒なことをヴァーリが考えたそのタイミングだった。

 

「そんなあなたに神の祝福よぉおおおおお!!」

 

 その言葉とともに、天より使者が舞い降りる。

 

 その少女の名は、紫藤イリナ。

 

 熾天使ミカエルに所属する転生天使である。

 

 彼女の登場にちょっと誰もがぽかんとするが、彼女は彼女でイッセーの姿を見てちょっと驚いていた。

 

「わー。イッセー君すごいことになってるわねー。ゴジ〇みたい! おっと、そんなこと言ってる場合じゃなかったわね!!」

 

 そんな自己完結をしながら、彼女は手に持っていたものを置いて起動させる。

 

 それは、立体映像を発生させる大型の装置だった。

 

 よくわからずだれもが見守る中、イリナはふふんと得意げな表情を浮かべる。

 

「この緊急事態は貴賓席の方々も分かっておられるわ。だから、対処できる可能性のある切り札ってことでグリゴリから提供されたものを運んできたの!」

 

 つまり、これはグリゴリが開発した、対覇用最終章地といったところなのだろう。ヴァーリのデータをもとに開発されたのかもしれない、

 

 二天龍であるヴァーリのデータをもとに開発されたのなら、つい存在であるイッセーにも効果が期待できる。そういう安心感がわいてくる。

 

 だが、映像で一体何をするつもりだというのか。

 

 そんな気になるところが出てくると同時、映像が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっぱいドラゴン、はっじっまっるっよー!」

 

『『『『『『『『『『おっぱい!』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もが、思考を停止した。

 

 作詞が、アザゼルだった。

 

 作曲が、サーゼクス・ルシファーだった。

 

 さらにダンス振付が、セラフォルー・レヴィアタンだった。

 

 冥界を二分する勢力が、寄りにもよっておっぱいおっぱい言ってる歌を作っている。

 

 しかも、イッセーと一緒に歌って踊っているのは子供たちだった。

 

 どうもこれ、児童用番組の主題歌らしい。児童用番組風の曲調だから理解できる。だが同時に、それでおっぱいおっぱい言っているのが理解できない。

 

 乳龍帝おっぱいドラゴンの歌。そんな名前だった。

 

「……そういえば、テレビ局ではイッセーはいなかったな」

 

 すごい遠い目をしながら、アイネスがそうつぶやいた。

 

 確かに、テレビ番組撮影の時、イッセーだけ別で呼び出されていた。

 

 イッセーはその際のことを黙っていたが、どうやらサプライズ的な演出だったらしい。もっとも、言いたくても言えない気分だったのかもしれないが。

 

 そして、誰もが笑うか呆れるか思考を停止させるかしかない中、動きはあった。

 

『お、おっぱい……』

 

 覇龍状態のイッセーから、まともな単語が発せられる。

 

 だが、状況的に狂っているとしか言いようがなかった。

 

「しゃべったわ! 反応したわ、みんな!」

 

「こ、こんな時でもおっぱいドラゴン……」

 

 歓喜するリアスが正しいのか、ショックを受ける小猫が正しいのか。その答えは、きっと考えないほうがいいのだろう。

 

 だが、とりあえず効果はあったようだ。

 

 そしてそれと同時に、朱乃が何かをひらめいた。

 

「リアス! あなたの乳首をつつかせるのよ!!」

 

「……え?」

 

 狂ってなければ発せられないだろう提案に、リアスが目を丸くする。

 

 だが、朱乃の目は真剣だった。

 

「イッセー君はあなたの乳首をつついて禁手に至ったわ。なら、きっと逆のこともできるはず」

 

「……納得できたことに寝込みたくなってきたわ。なあ、もうかえって寝てもええやろ? なぁ?」

 

 リスンがそうぼやくが、朱乃はツッコミを入れる気配がない。

 

 と、いうか聞いてない。

 

 それほどまでに真剣だった。それほどまでに、大まじめだった。

 

 というより、どこか哀愁まで漂わせている。

 

 これが、そんなことを言わなければならないという絶望によるものならよかったのだが、そんなことはなかったりする。

 

「ふふふ。私の乳首では無理だわ。リアス、貴方がとても、羨ましい……」

 

「そこでうらやんだら人として終わるとおもうよ、()

 

 イルマがそうツッコミを入れるが、もはや誰も聞いちゃいない。

 

「……わかった。とりあえず動きは抑えるからすぐにやれ。できれば時間をかけないでくれると嬉しい」

 

「だな。カタナ、とりあえずけん制頼む」

 

 ヴァーリと鶴木は「これ以上かかわりたくない」という感情を言外に込め、取り押さえにかかる。

 

「と、とりあえずわかりましたわ!」

 

 もはや状況の変化についていけなかったカタナはとりあえず砲撃を叩き込み、イッセーを揺るがした。

 

 そして一瞬で回り込んだヴァーリが羽交い絞めにし、同時に鶴木がその首にロックをかけて気を散らさせる。

 

 そして、ヴァーリは視線をそらし、鶴木はまっすぐにリアスのほうを向いた。

 

 瞬間、動くものがいた。

 

乳首(それ)が本命かい!!」

 

 リスンが鶴木の煩悩百パーセントの本当の狙いに気づき、渾身の一撃を叩き込んで吹き飛ばす。

 

 そしてそんな漫才が続く中、リアスは覚悟を決めたのか胸をさらし、イッセーに近づいていく。

 

 それを、イッセーは静かに玩味しながら震えだした。

 

「お、おっぱい……俺の、おっぱい……」

 

 そして乳首がつつかれ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? これ、どういう状況?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トルメー・グレモリーは、兵藤一誠が乳首をつついて覇龍を解除するその瞬間を、視界に収めてしまった。




寝不足で大変ですが、なんとかキリがいいところまで書ききれました。明日は土曜日ですし、しっかり眠ってシリアスな話を書いて見せます!!

ヴァーリは一度コテンパンに伸されたほうがいいと思いますかな?

  • 別に必要なくね?
  • アンチになりかねないから慎重にね?
  • やるからには徹底的に!

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