ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲 作:グレン×グレン
まずはトルメー及び鶴木のデミ・サーヴァント組についての情報ですね。
イルマ・グラシャラボラスは、兵藤邸の屋上で、空を見上げていた。
ぼんやりと空を見上げながら、過去に思いをはせる。
道間日美子として、孤児だった身から引き取られてからの毎日。
今生になっても続く、アイネス・エルメロイ・アーチホールという友との出会いと、前世での別れ。
そして、第三次クロックワークス聖杯戦争での死闘。その結果として、ご褒美となる願望器は大したことができない代物だったが、一応最後の余りは使うことができた。
そして、特に使うことを考えてなかった……というか連敗経験と自分以外の優秀さゆえに、勝つことをまず考えてなかった……ゆえに、なんとなく気晴らしに願いを言ってみて―
「―叶っちゃったんだよなぁ」
そのおかげで、鶴木を助け出す事が出来たのは良かった。
だからこそ、ランサーを自分の眷属悪魔にする事をしなかった。
イルマ・グラシャラボラスの眷属悪魔は、
彼女達だけで十分だ。もし必要だというのなら、一時的なトレードだけでどうにかするつもりだ。
もしそうしなくなる時が来るにしても、それはきっと何十年も後に事になるだろう。
そんな事を思いながら、しかしイルマの胸の中には不安が渦巻く。
道間誠明。イルマの義理の兄にして、初恋だった少年。
彼と、乙女と、アイネスとの毎日は幸せだったのかもしれない。
暗闇に捕われながらも、悪意にまみれながらも、しかしあの毎日は心の救いだった。
……何時からだろう。それがどこか憎しみを浮かべるようになってしまったのは。
決まっている。アイネスがいなくなってからだ。
あの時から、誠明と乙女の関係はより深くなっていった。恋人同士なのは誰が見てもすぐに分かるようになった。いずれそうなる事は分かっていたが、あそこからはっきりなっていったのだろう。
きっかけは、誠明が
そう、引き金を引いたのは、イルマなのだ。
自分で引き金を引いて、自分で引き金を引いて、そして自分で引き金を引いた。
道間日美子が原因となって誠明と乙女は恋仲への道を進んでいった。道間日美子が行動したから、道間晴明は凶行を働いた。道間日美子が無理のある遺言をしたから、アイネスまでもを巻き込んだ。
そう、この手は返り血よりもどす黒いもので汚れていて―
「―イルマ」
―その背中に、アイネスの声がかかる。
それに振り向けば、アイネスは苦笑していた。
「アザゼル総督とリアス嬢が呼んでいる。まずは彼らに情報説明をするべきだろう。冥界政府に対しては、スメイガとブルノウ様がしてくれるだろうが、仁義は通さないとな」
「OKOK。私もしっかりお役目果たさないとね」
そうにこやかにイルマは返答するが、しかしアイネスには全てが筒抜けだった。
なので、アイネスはイルマを抱きしめる。
「………アイネス?」
「イルマ。忘れるな」
イルマを優しく抱きしめながら、アイネスはあやす様に背中を叩く。
そして、はっきりと告げる。
「誠明の強奪の魔眼は「黄金」だ。断じてトルメーのような「宝石」じゃない」
その言葉を聞いて、イルマは改めて認識する。
そうだ。そんな事はよく知っている。
態々アイネスが確認してくれた。対処されるのを承知の上で、魔術師としてはプライドが傷つくような純粋魔力攻撃を放ってまで、トルメー・グレモリーの魔眼の格を確認してくれた。
黄金のランクでないという事は、彼は道間誠明ではない。宝石の魔眼を保有する、同年代になるタイミングで死ぬような強奪の魔眼の持ち主がいる事にも驚きだが、しかし黄金ではない。
敵としての脅威度では、遥かに上だろう。だが、心から安心してしまえる内容だ。
「……了解了解。もう大丈夫だよ、アイネス」
「本当に大丈夫か?」
その身を離しながらも、しかし気遣う様子をみせるアイネスに、イルマは心からの笑顔を見せて告げる。
「大丈夫大丈夫♪
その一人称を聞いて、アイネスも心から安心したようだ。
どうも、色々といつもの調子を取り戻せないと、イルマは自分のことを
落ち着かなければ。イルマ・グラシャラボラスはイルマ・グラシャラボラスとしても生きるのだから、少しは昔と区切りを付けねばらならない。
だから、きちんとイルマさんと自分のことを呼ばなければ。TPOが許す限り、イルマはそうすると決意している。
そして心機一転して、イルマは皆がいる地下へと降りて行き―
「……………」
アイネスは、それを静かに見送る。
そして―
「人とは本当に、信じたくないものを認めない為なら、都合のいい言い訳を信じたくなるものだな」
―そう、ぽつりと漏らす。
そう、アイネスはすぐに思い直していた。
サーヴァントを召喚するには、聖杯の作成が必要不可欠レベルだ。
そして、聖杯を完成させる理由など基本的に願望器として使用するためだ。
そして、トルメーの眷属は最悪の場合、七人全員がサーヴァントだ。
アザゼルからの情報提供で、彼はデミ・サーヴァントとなっている事が発覚している。厳密には似て異なるものだが、この場合はどうでもいい。
適正を得る。サーヴァントの力を宿す。これで一つずつ使ったとしよう。
なら、残り五つは?
例え全サーヴァントが受肉を選んだとしても、そのうえで願望機としての機能は残っている。
そう、魔眼のランクを一つ上げる程度など、決して不可能ではなく―
「………お前なのか、誠明…………っ」
アイネスは、そう食いしばる歯から声を絞り出した。
そして、兵藤邸宅の地下で、イッセーを除く全員が集合していた。
その場にいる者達の視線を浴びながら、イルマは告げる。
「……サーヴァントの兵器としての最大の欠点。それは「英霊の人格すらコピーする」点じゃん」
まずそう告げる。
そして、それに誰も反応しない。
彼女はきちんと説明してくれる。それを理解しているから。
短い付き合いだが、それをちゃんと理解してくれるから。
だから、誰もが話を無言で促す。
「その過程において、サーヴァントの力だけを手にする事ができればという発想に、
そう、それは当たり前の内容である。
ヴァーリ・ルシファーを例に挙げれば分かり易いだろう。
神滅具の一つである白龍皇の光翼と、魔王ルシファーの正当たる血統を組み合わせた奇跡のような存在。その戦闘能力は、半端なサーヴァントを圧倒するだろう。単純戦闘能力なら、歴代のルシファー血族でも最強になる可能性がある。白龍皇としてなら、現在過去未来全てにおいて最強になると、神器研究の第一人者であるアザゼルに告げられた。
だが、彼はその強者を求める本能に従い、神と戦う為に禍の団に鞍替えする始末。人格面において大きく問題がある。
そして、大抵の英霊になるような人物は、その来歴を調べれば分かるように癖が強い人物が数多い。少なくとも、
如何に令呪があるとはいえ、これは危険だ。有効活用するには苦労するだろう。
ゆえに、合理的にそれを打開する方法が考え出されるのは必然。
「それが、デミ・サーヴァント。人間とサーヴァントの融合個体、開発計画」
「……
アザゼルがため息をつくのはよく分かる。
そして、それは彼が魔術師の技術に対して相応の知識を蓄えているからこそだった。
「サーヴァントと通常の人間は魂の濃さが桁違いすぎる。普通にそんなことをすれば、デミ・サーヴァントの素体は耐えられないだろうな」
アザゼルはそう断言し、そして静かに遠くに思いをはせる。
「そしてそれを克服したトルメーは亜種聖杯を使っている。つまり、成功させるにはまずサーヴァントの手綱を握って願望器を手にする必要があるわけか」
圧倒的に矛盾した話だ。
サーヴァントとの連携が取れないだろうから、都合のいい人物にサーヴァントの力を宿す。それがデミ・サーヴァント計画だ。
それが、そもそもサーヴァントと連携を取らなければ意味がない。普通に考えて矛盾すらしている。
「そう。だから大抵のデミ・サーヴァント研究は失敗する。そもそも非人道的な措置を人体に施す必要もあるだろうしな」
そう言いながら、アイネスも部屋に入り、そして視線を鶴木に向けた。
鶴木はちょっと気まずそうにしながらも、しかし無言でその視線を受け止め、頷いた。
「……そんな実験を敢行した
「……最低ね、その魔術師は」
リアスが、拳を握り締めて震わせながらそう呟く。
目が座っていて、実際に目撃していたのなら殺しに行く事も想定できるほど怒っていた。
会ってまだ数か月の他人の為に、心から本気でそう思ってくれる。それは、彼女が人格者である事の証明だった。
それに感謝の感情を浮かべながら、イルマは話を進める。
「で、それをたまたま知っちゃったイルマさんが施設に乱入した時には、既にそいつらは引き払った後で、キメラを使って証拠隠滅を図っている真っ最中。……生き残りはデミ・サーヴァントの力で戦えた鶴木だけだったよ」
嫌な思い出を振り返りながら、イルマははっきりと告げた。
「……だけど、問題はそこじゃない」
そう、問題はそこではない。
結局その計画そのものは破綻しているのだ。トルメーのデミ・サーヴァント化も亜種聖杯によるもので、方向性は大きく変わる。
問題は、デミ・サーヴァントとしてトルメーの力になっている存在そのものだ。
「参考資料として、鶴木に宿っている英霊を告げておこう。……触媒となったのは協会に所属していた歴代エクスカリバー使いの墓から盗掘された、彼らがエクスカリバーを使用する際に使用していた鞘や布、また、コールブランド家の墓から同様の物を盗掘した。そして、それらすべてを一つの触媒とすることで。「彼らの原点」ともいえる聖剣使いを宿そうと試みていたようだ」
それだけで、誰もが全てを理解する。
エクスカリバーとコールブランド。その歴代の所有者たちの原点ともいえる存在。
その二振りの聖剣の持ち主の原点など、この世にたった一人しか存在しない。
「……ブリテンの王、キング・アーサーか」
ゼノヴィアが、静かに片手を見つめながらそう漏らす。
かつて
また、かつてエクスカリバーを憎んでいた祐斗も複雑な表情を浮かべている。
そして、それを受け止めながらアイネスは続けた。
「問題は、トルメー・グレモリーが何のサーヴァントを宿したかだが―」
「それについては断言できる」
アイネスの言葉を遮り、アザゼルが告げる。
「アザゼル先生。何か心当たりがあるんですか?」
アーシアが首を傾げるのも無理はない。
神滅具というか、神器は基本的に一人に一つしか宿らない。
それを、
反則極まりない。普通に考えれば、複数人のサーヴァントを宿していると考えるべきだ。
だが、それは違う。
「……一人だけ、いるのよ」
リアスもまた、そう告げる。
それは、あまりに危険故に、一部の者にしか伝えられていない、緊急情報。
「……かつて、一人の男が黄昏の聖槍をもって生まれてきた」
アザゼルは告げる。その男の根幹を。
「だけど、彼には聖槍なしでも人を導く才能がありすぎた」
リアスは告げる。その男の才能を。
「奇しくも、その男の国は窮地に陥り、男は国を救い導く存在へとなってしまった」
アイネスは告げる。その男の軌跡を。
「そして、その男はより強大な力を求めて、聖槍を頼りにオカルトに手を染めたじゃん」
イルマは告げる。その男の暴走を。
「……その結果、その男は聖十字架を偶然から手にし、そして集めた者達から献上される形で、聖杯すらその身に宿してしまった」
アザゼルはそう告げ、そして目を伏せる。
「結果、聖書の神の死を知る者たちは、セラフよりもその男を神に近いものとして信奉。その行動を黙認したことによって、第二次世界大戦はより激化した」
そして告げるのは、一人の男の名。
「のちに三大勢力での揉め事の間に暗殺され、影武者が何とか頑張るも第二次大戦は敗北。だが、もし生き残り一つでも禁手に至らせていれば、第二次世界大戦は大きく変わっていただろうな」
そう語らせるほどの存在。
それだけの化け物と化した英雄。その名は―
「―民主主義によって選ばれた独裁者、アドルフ・ヒトラー。三つの神滅具をその身に宿す、最強最悪の神滅具使いになるはずだった男だ」
―世界を揺るがす同盟と禍の団の戦い。
その戦いを彩る英雄として、彼ほど素晴らしい逸材もまた、存在しない。
そして、トルメー・グレモリーは大きな疲れを込めながら、首を揉んでいた。
「……ふぅ。とりあえずディザストラ四体は完成。この調子なら、今回使ったディザストラの補完は本当に一週間で終わりそうだね」
そう告げるトルメーは、一瞬だけ視線を横に逸らす。
それは明確にあるものを捉えていたが、近くで茶を飲みながら休息しているアルケイディア達は気づいていなかった。
だが、それだけで何が起きたのかを察したらしい。ゲッテルがお茶を差し出しながら、労わる様に声を投げかける。
「後でお休みください。これ以上乱用すれば、汚染の処理が追い付かなくなるでしょう」
「そうだね。亜種聖杯で手にした
苦笑しながらお茶を受け取り、トルメーは気分を鎮める為にそれをすする。
蝶魔術と聖杯の合わせ技で創り出すディザストラだが、しかし聖杯を使うというのがネックだ。
どうしても精神が汚染される。最近は蝶魔術に慣れてきた事もあり効率的に運用できるようになってきたが、まだまだ大量生産には程遠い。
聖杯にも慣れてきたからだいぶマシになったかと思ったが、どうやらそうもいかないようだ。
精神に干渉する魔術などの応用で回復できるとは言え、過剰に使用すれば汚染が酷くなる。そうなれば、追いつかなくなるだろう。
だから、今日はここまでだ。
「マスター。そろそろ残りの亜種聖杯の使い道も決めたらどうだ?」
デメルングがそう提案するが、トルメーは首を横に振る。
「いや、一つぐらいは他の派閥の強化に使いたいしね。その辺も考えると、もうちょっと慎重に進めたいところだよ」
そう、亜種聖杯といえど無限ではない。
既に残りの数は少ないのだ。だから、使いどころは見極めなくてはならない。
自分自身の悪魔としての強化。本来保有していない魔術適正の獲得。そもそもギャンブルだった一回目以外の、眷属であるディアボロス・サーヴァント達の選択など、使った数は多いのだ。
デミ・サーヴァント化に対しても、器になる自分の特性を強化し、そのうえで聖杯を使う事で確実なデミサーヴァント化を行っている。
残りは二個しかない。だから、乱用できるものでは断じてない。
だから、その辺は慎重にいかなくてはならない。
折角全戦全勝したのだ。その成果は上手く使いたいではないか。
「……だがよぉ、マスター。結局あれはどうだったんだ?」
と、そこで酒を飲んでいたトウケンが疑問符を浮かべる。
その意図は簡単だ。すぐに読める。
「……「宝石」にまで魔眼を強化する必要、薄かったんじゃねえか? 「黄金」ってだけでも十分な気がするんじゃね?」
そう、魔眼のことだ。
ただでさえ、トルメーは悪魔との戦闘において最悪と言ってもいい力を保有している。そのうえで、生まれ持った黄金の魔眼までもが純血悪魔の天敵だ。
わざわざ強化しなくても、サーゼクスを一蹴できたはずだとすら思う。
その当然の意見に、トルメーも苦笑する。
「いや、念には念を入れておくって感じだったんだよ。あの頃は悪魔を絶望させるところだけを目標にしてたから、魔王クラス以上全員を同時に相手どることすら考えていたからね」
ちょっとした未熟さを恥じながら、トルメーはそう真実を伝える。
だが、もはや一人でそんな事をする必要はない。
この戦い、思う存分楽しんで、そして世界全部を蹂躙する事ができるようになっただろう。
だからこそ、慎重に聖杯を使用しよう。
「まあ、とりあえず二時間護衛よろしくね?」
トルメーはそう告げると横になる。
精神の解体清掃。一種の自己暗示系統の魔術の一環である。
文字通り精神構造を解体して清掃することで、精神面での疲労を完全回復させる魔術だ。七十時間分ぐらいの精神疲労を回復可能。結果として、聖杯による精神汚染も、使用時間を最小限にしてこれをインターバルにすることで完全回復することができる。
半面、二時間の間はどうあがいても無防備になってしまうという弱点もある。ゆえに護衛が必要不可欠な、諸刃の剣だ。
絶対に忠実なディザストラや、契約を結び最高クラスの戦闘能力を持つディアボロス・サーヴァントがいなければとてもできない切り札である。
そして精神を吹き飛ばすその瞬間、トルメーは思い出す。
あの時、自分の魔眼が宝石であるという事実に安堵の表情を浮かべた、二人の悪魔。
ツヴェルフ・シトリーと、その主イルマ・グラシャラボラス。
ツヴェルフ・シトリーがアイネスと名乗っているのなら、もう一人の正体は確実だ。
……別に真実を明かしたいという強い願望はない
彼女の絶望は既に見ているから、興味は薄い。
だが、変化球で絶望を与えるのは、一度ぐらい試してみるべきだろう。
いい機会があれば試してみよう。その程度の感慨をもってして―
「じゃ、お休み」
―トルメー・グレモリー。またの名を道間誠明は、精神を解体して聖杯の悪影響の取り除きを開始した。
まあ誰もが想定できているだろうけど、トルメー=誠明です。
亜種聖杯戦争七連勝という奇跡をもとに、世界中の人間を絶望させるべく暗躍する存在。そして、彼がこうなったのはイルマ=日美子が原因でもあります。
その辺についての詳細説明は、まあウロボロス編ぐらいになってからになるんではないかと。
そして、トルメーの正体は誠明でした! まあ誰もが想定できたよねぇ。
とにもかくにも願望期チートで能力上昇がコンセプトです。後天的超越者といっても過言ではないですね。
残り二つの亜種聖杯の使い道は、とりあえず一つは考えています。さらに亜種聖杯を増やすという方法も取れなくはないですし、それ以外のパワーアップ方法も考えているので、実に厄介な強敵です。
さあ、自分で設計して何だけど、この因縁を乗り越えろ、イルマ!!
ヴァーリは一度コテンパンに伸されたほうがいいと思いますかな?
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別に必要なくね?
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アンチになりかねないから慎重にね?
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やるからには徹底的に!