ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲 作:グレン×グレン
あと備考というか余談ですが、カタナの使用した三光叫喚のイメージは「ガンダムOO」に出てくる「ガデッサ」のGNメガランチャーです。
黒い霧が一瞬でリアス達を包み込む。
それを見終えた黒歌は勝利を確信したのか脱力した。
「……あれは何ですか?」
アーサーが眼鏡をかけ直しながら告げると、黒歌は嘆息とともに一言で言いきる。
「毒霧」
簡潔極まりないが、しかしそれだけで十分だ。
妖術仙術を利用して生み出された毒霧。それは最新科学技術で開発されるBC兵器に匹敵する毒性を発揮するだろう。瞬時にゼロから創り出せるという意味では、コストパフォーマンスでも隠匿性でも科学技術製の毒ガスをはるかに凌ぐはずだ。
悪魔の体は基本的に並みの兵士を凌駕する身体能力を発揮する。毒に対する耐性も大幅に凌ぐ。
だが、黒歌はその悪魔の中でも最上級クラスの力量を持った存在なのだ。しかもこう言った術式の力量でその頂に至っている。
断言してもいい。彼女の作り出した毒霧は、並みの上級悪魔をたやすく絶命させる。
「ま、薄いからすぐに死ぬ事はないにゃん。あっさり殺す気がないくらいムカついてるし、じーっくりゆっくり苦しんでもらうにゃ」
そう冷徹に告げる黒歌に、タンニーンが迫った。
『なら、即座に貴様を潰せば終わりだな!!』
最上級悪魔。それも火力だけなら魔王にも届くと称された、元龍王タンニーン。
彼の力量と生命力なら、ゆっくり殺す事を目的としている毒霧程度あっさり突破できる。
そして単純戦闘能力で最上級のそのまた高みに至っている彼なら、仙術や妖術などによるトリッキーな戦法を中心とする黒歌が相手でも、直接勝負に持ち込めば確実に勝てる。
へたに時間をかければリアス達に後遺症が出てくる事も考慮して動いたタンニーンだが、しかしそれを妨害するサルがいた。
「はっはぁ! そんなこと言わずに楽しもうぜぃ!」
如意棒を振るいながら割って入った美候の一撃を受け、タンニーンは弾き飛ばされる。
そして空中で態勢を整えるタンニーンを追撃する為に、美候は雲を展開する。
「いくぜぃ、筋斗雲!!」
その雲に飛び乗った美候との戦闘に巻き込まれ、タンニーンは黒歌に襲い掛かる事ができない。
美候の戦闘能力は、少なく見積もっても最上級悪魔クラスだ。それも、近接戦闘においてなら上位に位置するだろう。
流石は孫悟空の末裔。中国系の神仏の武闘は筆頭の血を継ぐ者。
しかしこれでは救援ができない。
黒歌のポテンシャルはタンニーンも知っている。仙術の恐ろしさも知っている。とどめに悪魔の天敵である聖剣トップランカーであるコールブランドの保有者までもが近くにいる。
他の悪魔が増援に来てくれれば自体も変わるが、謎の戦士達によって妨害されている為これも困難だ。
ゆえに、タンニーンは歯噛みし―
「―案ずるな、タンニーン殿」
―その力強い声が、霧の中から響き渡った。
よく見れば、霧は二種類あった。
明らかに禍々しい、毒霧だと断言されている黒い霧。
そして、その内側に展開されている銀色の霧が、その黒い霧をリアス達から遮断していた。
「……何よ、その霧は!?」
「雑に効果だけを例えよう。……霧型のガスマスクと考えてくれればいい」
驚愕する黒歌に、ツヴェルフは平然とそう告げる。
そして、魔力消費ゆえか多少の疲労感をにじませながら、ツヴェルフは更に告げる。
「より厳密に言うのなら、霧状に展開した
「……嘘でしょ? そんな超高等術式を、魔法陣もなく!?」
狼狽する黒歌の反応が、この術式の凄まじさを物語っていた。
しかしツヴェルフはそれに対して、むしろため息すらついてのけた。
「一々魔法陣なんて目立つものを展開しなければいけない貴様達の術式に無駄が多いだけだ。まあ、詠唱というタイムラグがあるこちらの術式は隙が出る故一長一短なのだろうがな」
黒歌にはよく分からない事を告げたツヴェルフは、後ろで黒歌達を警戒しているリアス達に告げた。
「気を付けろ。神霊髄液は大半が水銀で出来ているし、ガスマスクと近しい状態だ。迂闊な行動は水銀中毒や呼吸困難を引き起こすぞ」
実際問題、ツヴェルフの懸念は真実である。
一般人がガスマスクに持つイメージは、「ガスマスクを着けていれば毒ガスを吸って死ぬ事はない」といったものだが、実際はそんな簡単なものではない。
ガスマスクが無効化できる毒の量には限度がある。この場合は魔術で弾いているから半永久的に可能だが、毒霧を展開している黒歌と遮断しているツヴェルフのどちらがばてるかの持続力勝負だ。
また、ガスマスクはフィルターで毒をこしとるのが基本である為、マスクと言っても花粉症のマスクを着けているような楽なものではない。そんなマスクですらある呼吸の負担がある事を利用したトレーニング法があるぐらいなのだ。ガスマスクに至っては呼吸法を練習していなかった素人が迂闊につけた事で窒息死したという事例がある。乱雑に呼吸を荒くしていいはずがない。
そして、水銀とは基本的に人体に毒である。
中国始皇帝が水銀中毒で死んだという話は割と知られているだろう。噴霧状態の水銀をうっかり吸い込めば、その影響は甚大だ。普通に寿命が縮んでもおかしくない。
なので、これは事実上の膠着状態なのだが―
「……まあ、短時間遮断するだけならこんなものがなくても鶴木もリスンもできるのだがな」
―そういうところを仲間に頼る程度のことは、ツヴェルフにもできるのだった。
そして左右から男女の悪魔が迫る。
男の方は、イッセーと交友を深めた
女の方は、イルマ・グラシャラボラスの戦車であるスリン・ブネ。こちらは魔力によって構成された被膜を両腕に纏っており、まるで龍の腕のようになっていた。
そしてツヴェルフの神業に気を取られていた黒歌は一瞬反応が遅れ―
「いえ、そうはいきません」
その左右からの攻撃を、アーサーが防ぐ。
鶴木の攻撃をコールブランドで、リスンの攻撃は
そして瞬時に猛攻が開始され、アーサーはそれをしのぎ切る。
この場において、種族的に最も脆弱なのは、純粋な人間であるアーサーである。
だがしかし、単純な技量という一点において彼はタンニーンに匹敵する二強の領域だった。むしろタンニーンはどうしても基礎性能が高すぎるがゆえに、練度という意味ではアーサーの方が超えている可能性すらある。
しかし、二対一とはいえ、それに拮抗するは鶴木とリスン。
悪魔にとって天敵以外の何物でもない聖剣。それも、伝説に名高きエクスカリバーとコールブランド。その極限の刃を極限の担い手が振るっているにも関わらず、二人は連携を持って対応する。
「どうすんや鶴木! まがい物としちゃ負けても怒られへんやろうけど―」
そんな軽口を叩いたリスンに、鶴木は吠えた。
「ありえねえよ! こんなチンピラに負けちまったら、大恩人なアーサー王に申し訳が立たねえ!」
その鶴木の返答に、アーサーは怪訝な表情を浮かべながら不快な感情すら覚える。
意味が分からない。どう見ても日系人である麻宮鶴木が、何故アーサー王のことを恩人というのか分からない。
それに、チンピラ呼ばわりも腹立たしい。
コールブランドの扱いにおいては、すでに先代である父すら超えていると自負している。歴代でも屈指の才能があると断言できる。古巣の英雄派でも、自分ほどの剣の腕を持つものは一人だけだ。
その自分が、チンピラ扱い?
「いいでしょう。もう少し本気を出すとしましょうか?」
「いいぜ? 本気を出してもチンピラはチンピラだ」
そう堂々と蔑みながら、ギアを上げたアーサーに鶴木もまた攻撃密度を上昇させる。
そして、剣戟の密度は一気に濃厚になった。
その斬撃の嵐を発生させながら、鶴木は吠える。
「誉れ高きコールブランドを継ぐペンドラゴン家の次期当主が、戦場欲しさにテロリストとはな! 腹切って死んで分家にでも跡目を譲るんだな!! 何なら俺が終わらせてやろうか!!」
「何やら不快な聖剣を持っているようですが、私をそこまで愚弄するなら相応の物を見せていただきましょうか!」
「いやオタクら、ウチのこと忘れんなや!!」
リスンが二人の間に割って入りながら文句を言い、そして戦闘は一気に激化した。
そしてその激戦の中、イッセーは窮地に迫られていた。
赤龍帝の力ゆえか、毒ガスの効果はろくにない。そして、毒霧を防ぐのに集中しているため、ツヴェルフたちは迂闊に動けない。
なのでオフェンスをイッセーがするほかないのだが―
『相棒、神器を今駆動させることができない。禁手になりかけていて、神器が作動不良を起こしている』
―などというドライグの残酷な情報提供に面食らった。
「すいません! 援護してください!!」
「駄目だ! へたに魔力を打てば神霊髄液が霧散して毒霧の餌食になる!!」
どうやらそう簡単にはいかないらしい。ツヴェルフはすさまじいが、それでも限界はあるということか。
「くそ! こうなったら普通のパワーアップで我慢するしかないか!」
『お勧めしないな、この状態が次にいつ来るかわからん。下手したら一生来ないかもしれないぞ』
最悪のタイミングでとんでもない状態になってしまった。
この状況下を乗り切るには、禁手に至らせることが最適解。だが、その禁手に至らせるための最後の一手が足りない。
通常の方法で乗り切るという手もあるが、それでは今後に対応できない。この好機を逃すのは危険だ。
だが黒歌は明確な脅威だ。戦闘手段無しで切り抜けれるとは思えない。ほかのメンバーはほかの敵を相手にするので精一杯なのだから。
「イッセー!」
「イッセー先輩……!」
リアスと小猫も歯噛みするほかない。
魔力砲撃が主体のリアスは、神霊髄液の霧を吹き飛ばしかねないから攻撃できない。小猫も近接戦闘型なので、霧の庇護下から出るわけにいかない以上役立たずだ。
ツヴェルフはツヴェルフで何やら思案しているが、しかしそれでも今は動けないのが実情だろう。
「ええい! こうなったらこのカタナ・フールカスが―」
「お前の魔術回路の性能だと毒霧から出る前に毒霧で倒れる。やめておけ」
カタナはカタナでツヴェルフからダメだしされた。どうやら本当に魔力総量特化型でへっぽこらしい。
真剣に作戦会議したい状況である。だが、そんなことを敵が舞ってくれるわけがない。
「赤龍帝ちんは戦闘不能かにゃー? でもこっちは関係ないにゃん♪」
その言葉共に、黒歌の姿が何人にも増える。
幻術の類だろう。それも、数が多いうえにまるで実態があるかのようにリアリティがある。毒霧で包まれていることもあって判別が困難だ。
そして、一斉に魔力の弾丸が放たれる。
イッセーは慌ててそれを回避する。タンニーンに鍛えられてきたことがかろうじて回避を成立させた。
だが、そのうちの攻撃の一つが、ツヴェルフ達に迫る。
神霊髄液を吹き飛ばせば毒霧で対応できると考えたのだろう。ツヴェルフも表情がこわばった。
それを、イッセーは何とか割って入って食い止めた。
「ぐぁああああ!?」
「イッセー!?」
「イッセー先輩!?」
「「赤龍帝!!」」
皆が声を出す中、イッセーは気合で立ち上がる。
「へたれねー。こんなのがライバルなんて、ヴァーリも可哀想」
せせら笑う黒歌を無視して、イッセーはリアス達に微笑みかける。
「動かないでください! あいつの攻撃は俺が防ぎ―」
「その前にしゃがめ!!」
イッセーの声をさえぎって、ツヴェルフの声が響く。
それに条件反射で反応してかがみこめば、横から放たれた呪術の攻撃が素通りした。
木々を十数本は吹き飛ばした攻撃だ。今のイッセーが喰らっていれば、死んでいたとしてもおかしくない。
だが、この幻影の中でそれに気づくのはなかなか大変だ。
「……仙術で気をごまかしてるのによくわかったわね」
「たわけ。そんな一握りの傑物にしかわからんものをごまかすことで悦に入っているから勘付かれるのだ」
黒歌にそう吐き捨てると同時、ツヴェルフは、指を鳴らす。
そうすると水銀の一部が触手になって、大量の黒歌たちの1人を示した。
それに対してイッセーは意味が分からずきょとんとなるが、しかし黒歌が面食らう。
「……勘付かれた!? 姿も気も魔力もごまかしてるのにどうやって―」
「そんなものははなから感知してないだけだ。さっきも言ったはずだぞ? 「一握りの傑物にしかわからんものをごまかすことで悦に入っているから勘付かれるのだ」とな」
狼狽する黒歌をそう切り捨てると同時、その水銀の触手の先端から魔力の弾丸が放たれる。
それをとっさに回避するが、しかしそれが致命的な隙かつ最悪の情報提供だった。
回避したということは、それが本物であるという証拠。つまり彼女を狙えばいいだけである。
そして、黒歌は非常に優れたナイスバディな体型をしている。
最後に、兵藤一誠は煩悩が絡むと化けるのである。
「もらったぁ!」
目に色欲を込め、イッセーは駆ける。
その速度は彼の出せる最速。怒りと友情と絆と煩悩を込め、兵藤一誠は黒歌をぎゃふんといわせるべく走る。
そして込めるは彼の数少ない魔力運用方法。
子供でもできる転移すら不可能な魔力。それをたった一つの執念で操作することで、女性限定で大将の着衣物を粉砕する、対女性用必勝攻撃。
その名を―
「くらえ、
そして、イッセーの腕が黒歌の服に振れそうになり―
「舐めんじゃないわよ!!」
―カウンタで呪術攻撃をもろに何十発も喰らった。
そのまま一気に吹き飛ばされたイッセーは、しかしツヴェルフが受け止めたことでけがを最小限に抑える。
「無事か、赤龍帝!」
「す、すいませんアイネスさん―」
愛称で詫びを入れるイッセーだが、しかしツヴェルフの表情を見て顔色を変える。
どうやら今の余波で毒霧を少し吸い込んだらしい。顔色が明らかに悪い。
それでも霧を展開して毒霧をシャットアウトするが、しかし立っているのが困難なのか膝をついた。
「あらら~? こんな役立たずをかばって吸い込んじゃうなんて、なっさけないわねー?」
黒歌はそういうと、あえて攻撃を入れずにせせら笑う。
その目には嘲笑と憐憫がこれでもかと込められていた。
「なっさけないうえに泥臭い男。白音も可哀想ねー。白馬の王子さまがこんな情けない奴だなんて」
「……はっ! 笑わせるなよ。中二病はどちらだという」
それに対して、ツヴェルフは肩で息をしながらも逆に黒歌に蔑みの視線を向ける。
「泥臭くとも何かであらんと血のにじむ努力を積み重ねた彼を笑う資格は貴様にはない。才能に振り回されるだけの貴様みたいな害獣にはな」
「ちょ、今挑発するのはダメですわよ、アイネス!!」
カタナがアイネスをかばうように立ちふさがりながら、そうツッコミを入れる。
そしてリアスも小猫をかばいながら、チャンスがあればすぐにでも砲撃を叩き込む体勢に入っている。
タンニーンやリスン、鶴木は美候やアーサーと激戦を繰り広げている真っ最中だ。
誰もが自分にできることをしている。そんな中、イッセーは何もできない自分が悔しかった。
「……クソッタレ!」
結局いつもこうだ。
最初に神器に本格的に覚醒した時、アーシアは一度死んだ。リアスが駒を余らせていなければ、あのまま彼女の人生は終わっていた。
疑似的に禁手に至ったとき、そもそもレーティングゲームには負けていたのだ。サーゼクスたちが一計を案じてくれなければ、リアスは望まない結婚を強いられていた。
毎回毎回、誰かが傷ついて苦しんでから力に目覚める。これでは意味がないだろう。
「……わかってるんだよ、自分に才能がないことぐらい。今も、小猫ちゃんを助けることすらできやしない……っ!」
歯を食いしばり、涙をこぼし、そしてこぶしを握り締める。
その手を、小猫がそっと包み込んだ。
「……駄目じゃないです」
小猫はそう言って、涙をこぼしながらも微笑みかける。
「イッセー先輩はダメじゃないです。姉様のように力に溺れた歴代とは違って、優しい赤龍帝です。それは、とってもとっても素敵な事です」
そして、小猫は恐怖に震えながらもしっかりとほほ笑んだ。
「イッセー先輩は、やさしい
その言葉に、イッセーは救われた気分になった。
そうだ、歴代と同じような方法で最弱だろうと、それがどうしたというのだ。
なら、歴代とは違う方法で強くなればいい。歴代にはできなかったことをすればいい。そして、それはすでに成し遂げているではないか。
今気づいた。
自分が禁手に至る、その方法に。
「……部長! 俺は、禁手に至る方法に気づきました!! お力を貸してください!!」
「よ、よくわからないけどわかったわ! で、一体何をすればいいの?」
神が作りし神器。その神器の持ち主が、劇的な精神的な覚醒を果たした時に至るといわれている、禁手。
つまりは精神的な特異点。イッセーの場合、それは―
「―乳首を、つつかせてください!!」
とりあえず、誰もが思考停止したことだけは言うまでもない。
「まて赤龍帝。主の胸をこんなところでさらけ出させるなどあらゆる意味で禁忌だぞ」
毒霧の効果で苦しんでいるはずのツヴェルフのツッコミが最速で出てきたのは、彼女の性格的な物だろうか。
「あほか!? あほなんか!? 男版のイルマ姉さんなんか!?」
「た、確かに殿方が懸想する素敵な乳房なのは配慮しますが、この状況下で何を考えてますの!?」
リスンとカタナも壮絶にツッコミを入れている。これは彼女たちが比較的正常であるからこそだ。刀に関しては少し怪しいが、それでもこの場では常識人といっていいだろう。
「ちょっと、美候にアーサー! 赤龍帝がなんか変なことしてるんだけど、どういうこと!?」
「俺っちに聞くな! 赤龍帝は俺たちとは思考回路が全く違ってるだよ!!」
「ですが、確かヴァーリに一矢報いたときも女性の乳房が絡んでいたとか。これはありえますかね」
ヴァーリチームはむしろ真面目に考察まで始めている。
リーダーのヴァーリが圧倒的な格上状態でありながらボコボコにされたときの情報を共有しているらしい。妙なところでホウレンソウができている。
そして、鶴木は―
「アーサー! 美候! てめえらふざけんなよ!?」
怒りの表情を浮かべて激高した。
『全くだ! そも、俺との特訓で積み重ねたものをそんなことで開放させるとか馬鹿なのか!?』
タンニーンもそれに便乗して文句を言い―
「……この最大のチャンスを逃すんじゃねえ、馬鹿ども! 今は一時停戦してリアス・グレモリー様の乳房を見るんだ! 脳内保存急げ!!」
『馬鹿はお前だぁああああああああ!!!』
全身全霊のタンニーンのツッコミが、鶴木にたたきつけられた。
だが鶴木は聞いちゃいない。
すでにガン見体勢になって、目を見開いて凝視している。
後ろから殴ってやろうかと考えたタンニーンの足首を、リスンがぽんと軽くたたいた。
「あきらめた方がええで。鶴木はな、ビッチなイルマ姉さんが自分に手を出してこないことが不満で一週間に一度は涙こぼすぐらいスケベやねん」
『今この場にいる人間型の男にろくな奴はいないな!』
戦闘狂が色情狂。どちらにしてもくるっている。
この、常識というものをどこかに投げ飛ばしてきたイッセーの提案による混乱の中、リアスはうなづいた。
「いいわ。それであなたが至れるなら―」
そして決意の表情を込め、リアスはドレスの胸元を開いた。
「うぉおおおおおおおおおお!!!」
鶴木は絶叫を上げて目を血走らせるが、その隙だらけの姿を攻撃する奴は誰一人としていない。
というより、展開がカオスすぎてそこまで頭が回ってないに等しく―
「いや見るな戯け」
「へぶぁ!?」
―唯一正気を保っていたツヴェルフが、毒霧にむしばまれる体を鞭打って、水銀を操って打撃を叩き込んだ。
むしろ焦っているのはイッセーだ。
確信はあったが、OKがあっさり出るとは思っていなかった。妙なところで常識が残っている男である。
「ほ、本当にいいんですか? 乳首ですよ、おっぱいにあるものですよ!?」
だが混乱はしている。
リアスも改めて言われて顔を赤くしているが、しかしそっぽを向きながらも決意は決まっていた。
「い、いいから! 早くして……!」
そう言われて、イッセーもまた決意を込める。
下僕の覚醒のため、恥を覚悟で乳房をあらわにする主。
その情愛と献身に涙し、イッセーは覚醒のための儀式を敢行する。
しかし、はたと気づいた。
「………皆、大変だ」
『今度は何だ?』
タンニーンがげんなりしながら訪ね貸すと、イッセーは震えながら振り向いた。
「乳首は二つあるんだった! どっちをつつけばいい!?」
―知るか!?
相当の人数の心が一つになった。
『どっちも同じだぁあああああ! さっさとつついてサッサと至れぇええええ!!!』
タンニーンが攻撃を入れずに怒声だけで済ませているのは、彼がひとえに高潔な人格者だからである。
だが、それにイッセーは気づかない。
真剣な相談を適当に対応されて、イッセーはむしろ怒りをあらわにした。
「馬鹿野郎! 右と左が同じなわけないだろぉおおおお! 人生かかってるんだぞぉおおおおお!!!」
絶叫するイッセーに、鶴木はいつの間にか近くに近づいて肩に手を置いた。
いつの間にか復活していたのも驚きだが、毒霧を無視しているのもあれである。無駄にポテンシャルが高かった。
「赤龍帝」
「何だよ、鶴木」
けげんな表情を浮かべるイッセーに、鶴木は透き通った瞳で告げる。
「俺が左を押すから、お前は右を押せ」
「部長! おすすめはどちらでしょうか!?」
「それはセクハラですわよ!?」
「痛い痛い痛い痛い! せ、せめて見せて!!!」
渾身の左ストレートで鶴木を沈黙させたイッセーの次の暴挙に、鶴木に関節技を仕掛けているカタナのツッコミが飛ぶ。
鶴木は何とかして乳首を見ようとするが、完全に関節が決まっているのでどうしようもなかった。
そしてそんなあほな空気の中、リアスは恥ずかしさが限界になったのか、吠えた。
「だったら両方つつきなさい!!」
イッセーに天啓が走った。
そして、いろいろな意味で震える手を落ち着かせ、イッセーはリアスの乳首を両手でつつく。
それは、擬音でいうならずむっといった。
「―――ぃやん」
イッセーの耳にそれが聞こえたその時、彼の魂は解放された。
かつて、堕天使総督であるアザゼルはイッセーにこう言っていた。
「女の乳首はブザーと同じ」
その言葉は真実だった。アザゼルが堕天したことを後悔してないほど、すてきな音が響いたのだ。神に仕えることよりはるかに素晴らしいことだったのだ。この宇宙の真理が込められていたのだ。
そう、それは宇宙の始まりだった。
イッセーは、覚醒した。
『―――至った! 本当に至りやがったぞぉおおおおお!!!』
ドライグの驚愕の声が響く。
そして、真理に至った赤龍帝が新たな次元へと突入する。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!』
くすんでいた宝玉が光り輝き、そして絶大なオーラを放ちながら鎧を形成する。
「最悪です、優しいではなくやらしい赤龍帝です」
もう色んな意味で最悪な至り方に、小猫のツッコミが静かに響く。
「ごめんね小猫ちゃん! だけど、こっからが反撃の時間だ!!」
兜とマスクを装着したイッセーがそう謝り、そして宣言する。
「
イルマの眷属はとりあえず全員魔術回路持ちだとお考え下さい。
そしてスメイガも含めて相当数の魔術回路持ちが出てくるのがこの作品ですが、とりあえず現段階における前提条件を一つ。
とりあえず現段階で設計されたキャラクターおよび、とりあえずこの作品の着地点であるルシファー編(注:アザゼル杯編をやらないとは言ってないが、本当にそうなった場合はまた別の話になる)までに出てくる魔術回路持ちで、「魔術師」としてはスメイガとツヴェルフがツートップです。
二人とも普通に魔術教会で色位の上位を狙える猛者です。そしてこの作品のクロスオーバーものである外典世界の特殊な状況下や、そうでない時でもロンドン☆スターの指導を受けることになれば、王冠の位階に届くレベルの超絶天才魔術師です。総合力のツヴェルフに専門分野のスメイガといったところでしょうか。
ちなみにイルマの眷属ではカタナが人生を魔術にささげても長子どまり。リスンは頑張れば典位を狙えるレベル。鶴木は頑張っても開位の下。まだ出てきてないスメイガの眷属も、少なくとも前世では開位レベルです。
なお、肝心のイルマは頑張っても典位にはなれないレベル。ただし魔術特性を公表すれば、とんでもないデメリットと引き換えに祭位がもらえます。
このランク付けについてはアザゼル杯編にでも突入するまで変えるつもりはありません。ストーリーの都合上あと数名設計するつもりですし、トルメーという超強敵担当もいますが、少なくともアザゼル杯編まで話が続かない限り、「魔術師として」スメイガとツヴェルフを超える魔術回路持ちを出すつもりはございません。ちなみにトルメーは典位レベルで、絶対領域マジシャン先生の指導を受ければ色位に届く可能性があるといったところです。
ただし、これはあくまで魔術師としての話です。
その気になれば竹串でも人が殺せるように、魔術使い、それも戦闘という観点においてならば話は別。特に鶴木はそういう方向で魔術指導がされていますし、サーヴァント用の魔力タンクとしてならカタナが一番です。リスンやトルメーも純粋な魔術回路以外の部分でシャレになりませんし、イルマに至っては条件を限定すれば作中魔術回路持ちでの魔術戦闘なら最強になりえます。
ちなみに、そんな超天才魔術師のアイネスがイルマの眷属悪魔になっているのはいろいろあるのです。それについてはまだ書いてない次の話で書く予定。