ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲   作:グレン×グレン

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とりあえず戦闘はそろそろ終了です。

そして作品全体の主人公なのにいまだ戦闘をしていないイルマは出番があるのか!?


9 実は女性用風俗の歴史は結構長い。性欲は男女共通だからだろう(注:話の内容の一つですが完璧に小ネタです)

 

 赤龍帝、兵藤一誠。主であるリアス・グレモリーの乳首を戦闘中につついて、禁手に至る。

 

 展開はギャグ以外の何物でもないが、オーラはギャグでは済まないレベルだ。

 

 オーラそのものが物理エネルギーとなり、クレータすら作り上げる。

 

 断言してもいい。フィジカルスペックに限定すれば、イッセーはこの場でも上位三人にはいる化け物となった。

 

『心底泣きたいが、とりあえずおめでとう相棒』

 

「ああ、ありがとう。あと割とゴメン。……で、どんな感じ?」

 

 イッセーはこれで逆転できるかどうかを真剣に考える。

 

 敵は白龍皇ヴァーリと肩を並べるだろう実力者たちだ。赤龍帝の鎧があれば必ず勝てるとは断言できない。

 

 だが、それでも戦況は大きく動くだろうとは思っていた。

 

『何もしなければ30分は禁手を維持できるな。最大出力で攻撃すれば五分減ると考えろ。まあ、六発目はないだろうがな』

 

「そっか、いろいろ慎重にやらないとな」

 

 大技の回数が思ったより少ない。

 

 慎重に戦わないとすぐにガス欠だ。そしたら今度こそ詰みかねない。

 

 せっかく禁手に覚醒したのだ。その勢いで勝って帰りたいものだ。

 

 そんなイッセーの考えに、ドライグは失笑を返す。

 

『おいおい相棒。真の禁手に目覚めた赤龍帝をなめるなよ。普通にオーラをためて適当にぶっ放してみろ』

 

 その自信満々の言葉に、イッセーはそうした。

 

 とりあえずホテルとは離れた方向に手を向ける。そしてドラゴンショットの感覚でオーラをちょっと込めて、発射した。

 

 狙いは黒歌。だが、禁手に慣れてなかったせいか狙いがずれた。

 

 そして、ごっそり森を吹き飛ばした。

 

 少しして、遠く離れたところが勢いよく吹き飛んだ。

 

 カタナがぶっ放した砲撃に比べれば雀の涙といってもいい。この調子では全力全開で撃ってもあっさり撃ち負けるだろう。

 

 だがそれは比較対象がおかしいだけのこと。

 

 現実問題として、ちょっとした核砲弾レベルの破壊力が具現化していた。

 

 慣らし運転を兼ねたジャブ感覚で射撃したら、必殺奥義が出た感覚だ。カタナの超絶砲撃で感覚が狂っていなかったら、はっきり言って混乱していただろう。

 

「これがイッセーの……赤龍帝の本来の力……」

 

「やるねぇ。なんとなくぶっぱしただけでこれなら、うちのメンツでも打ち合いで勝負になるのはイルマ姉さんかアイネスさんだけか。勝ち目はもちろんこっちが低め」

 

 唖然とするリアスに、鶴木も感心している。

 

 因みにカタナは比較対象からスルーされているが、これは比較対象としてはいけないので皆が突っ込まなかった。

 

 MSの火力の話をしているときにコロニーレーザーを比較対象にしてはいけない。比較対象とは適切に選ばなければならないのだ。

 

 とはいえ、これで一気に形勢は逆転した可能性がある。

 

 なぜなら毒霧も見事に吹き飛んでいる。これでアイネスも防御に意識を割かなくて済むようになった。リアスと小猫も戦闘に参加できる。

 

「ほな、そろそろこっちも終わらせた方がよさそうやな。誰からくたばるか選ばせたるで?」

 

 そう告げるリスンの言葉は、空元気でも挑発でも何でもない。

 

 毒霧の防御で動けないものが動けるようになり、更に戦力は一気に強化された。

 

 今まで多少不利だが拮抗していた戦力バランス。その天秤の片側に重りが一気に乗っかったのだ。普通に考えれば勝機の一つや二つぐらい見出すものだ。

 

 だが、それで臆するようならテロリストなどやってない。

 

「あはははは!」

 

 黒歌は高笑いをすると、両手に力を籠め、更に様々な波動を具現化する。

 

 そのどれもが高水準。僧侶の駒二駒で転生し、最上級悪魔クラスに至ったのは伊達ではない。

 

 そして、その照準はイッセーへとむけられる。

 

「だったら、妖術仙術ミックスの一発をお見舞いしてあげるわよ!!」

 

 その渾身の一撃を、イッセーはあえて回避せずに受け止めた。

 

 あまりの無防備っぷりに黒歌は呆れ、鶴木やリスン、カタナも反応は遅れる。

 

 リアスと小猫に至っては息をのんで顔を青ざめさせる。

 

 ……だがしかし、タンニーンとアイネスは平然としていた。

 

『……赤龍帝をなめすぎだ』

 

「からめ手ではなく直接勝負で仕掛けるとは、存外に頭が悪いようだな」

 

 十割呆れのその評価とともに、文字通り傷一つない鎧をまとったまま、イッセーは首をかしげる。

 

「……こんなもんか?」

 

 最上級悪魔クラスの攻撃を喰らったのに、一切ダメージを受けていない。

 

 自らの主だけでなく、追撃部隊をことごとく血祭りにあげてきたという黒歌の攻撃がこの程度だとは思っていなかったので、イッセーは余裕を通り越して困惑すらしている。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 黒歌は確かに最上級悪魔クラスのウィザードタイプだが、その術式は妖術や仙術だ。

 

 毒霧などのえぐい手段などは豊富かつ強大だが、当人や美候が言った通り、仙術は物理破壊力という点においては他の術式体系に比べると劣っている。

 

 タンニーンのような生身で頑丈な相手なら効果はあったかもしれない。防具を付けないいわゆる怪物の類には非常に有利だろう。

 

 だが、今のイッセーは全身を鎧で覆っている。これでは仙術を通すためにはまず鎧を破壊する必要がある。

 

 一言で言おう。単純なダメージの与えあいという土俵において、黒歌はイッセーと相性が悪すぎた。

 

「調子に、乗らないでよ!!」

 

 激高した黒歌は次々に攻撃を放つが、しかしどれもイッセーの鎧を突破するには至らない。

 

 力に酔いしれる性質が災いして、完全に頭が上っていた。そのせいで相性の悪さや立ち回りを間違えていることに気づかない。

 

 そしてそのすべての攻撃を無視して、イッセーは一瞬で接近すると黒歌の顔面すれすれに拳を放った。

 

 そして衝撃波が周囲の木の葉を吹き飛ばし、戦闘の影響で脆くなっていた木々を数本吹き飛ばす。

 

「俺の可愛い後輩を泣かしてんじゃねえよ」

 

「………っ」

 

 直撃していたらどうなっていたかを本能で理解した黒歌は、その脅し文句に明確に威圧されていた。

 

 そして、イッセーからのダメ押しの脅しが付け加えられる。

 

「次小猫ちゃんを狙った時は、あんたが女だろうが小猫ちゃんのお姉さんだろうが、遠慮なく当ててやるぜ、この野郎!!」

 

「この……クソガキ……っ」

 

 歯を食いしばって憎まれ口を叩く黒歌だが、しかしこの状況下では誰が聞いても負け惜しみでしかない。

 

 だがしかし、世の中には相手が強さを見せつけるとテンションが上がるタイプの馬鹿が割といる。

 

「ヒャハハハハ! ドラゴンの親玉が二匹もいるとか、楽しむ以外に何があるってんだ!!」

 

「そうですね。聖魔剣やデュランダルとも切り結びたいですが、アスカロンを持つ赤龍帝というのも捨てがたい」

 

 美候もアーサーもむしろ喜色を浮かべている。

 

 どうやらまだ戦う事になるのだろうとイッセーは身構え―

 

「―刃渡り強化(セット)アンド切れ味強化(セット)

 

 その、聞き覚えのある声に反応して黒歌達三人は振り返った。

 

 声を放ったのは、見覚えのある薄緑の髪の少女。

 

 そして振るうのは―

 

「ハイパーイルマさんソード!」

 

 ―なんか10メートルぐらいの光の刃を形成している剣だった。

 

「おっと」

 

「危な!」

 

「ふにゃぁ!?」

 

 三者三様に声を上げながら、三人は一斉に伏せる。

 

 そして横なぎに振るわれた刃は、木々を何本か見事に両断したが、本命を切り損ねた。

 

 しかし振るった少女はそのまま走ると、イッセーと並び立つ位置まで来て振り返る。

 

 そして、いつの間にか普通サイズになった光の剣を突きつけた。

 

「スーパービッチ貴族イルマさん参上! 私の眷属と政敵候補が世話になったね!」

 

「「イルマ姉さん!」」

 

「「イルマ!」」

 

 鶴木とリスン、アイネスとカタナがそれぞれ反応し、イルマをカバーするように集まる。

 

 そして気づけば、周辺には兄弟姉妹のように似通っているイルマの兵士(ポーン)が周囲を宝していた。

 

「ほぅ。見たところただの悪魔払い(エクソシスト)の通常装備ですが、先ほどの切れ味と刃渡りは不自然ですね。あなた、超越者か何かですか?」

 

 きれいな断面の切り株を見ながら、アーサーがそう尋ねる。

 

 それに対して、イルマは苦笑しながら首を横に振った。

 

「いや、クロックワークスの基本構成員なら誰でもできる超基本技術だよ? まあ、イルマさんは燃費の悪い力技で強引に凄い結果出したけどね」

 

 その言葉に、アーサーは苦笑する。

 

 悪魔払いの光の剣の切れ味は知っている。リーチも大体分かっている。

 

 そもそも下級悪魔や吸血鬼相手の露払いが基本の下っ端の装備ゆえに、悪魔や吸血鬼相手なら特攻が入るが、こんな斬鉄剣みたいな切れ味はない。リーチも多少は調整できるだろうが、あんな長く伸ばせるはずがない。

 

 そんな切れ味と間合いを超基本技術と形容する手段でここまでの物にできる事に、アーサーはクロックワークスを評価する。

 

 禍の団(カオス・ブリゲート)では比較的クロックワークスの構成員である魔術師(メイガス)についての知識が広まっているが、どういう存在かという知識はあってもどういう事ができるかはそれほど知られていない。

 

 これは後でよく聞いた方がいいだろうと判断した。

 

 そしてそれはそれとして、アーサーは軽く苦笑する。

 

「しかし、上級悪魔が悪魔祓い(エクソシスト)の真似事とはいかがなものでしょうか? 覚えて何か得するわけでもないでしょうに」

 

 悪魔祓いの戦闘技術は、基本的に人間が悪魔や吸血鬼と戦う為のものだ。

 

 人間より強靭で魔力という異能を主体とする悪魔が、自分達を殺す溜めの技術を使用するのもどうだろうか。意味があまりない奇特な趣味ともいえるだろう。

 

 そう思ったアーサーに対して、イルマは首を傾げる。

 

「え? むしろ悪魔にとってメリットだらけだけど?」

 

 その言葉にアーサーを含め、リアスやタンニーンも軽くきょとんとする。

 

 それに対して、イルマは逆にきょとんとし返して、眷属を見渡す。

 

「特に和平結ぶ前とか重要だよね? ねえアイネス」

 

「全くだ。人間界に出る悪魔なら熟知しておいて損はない」

 

 ツヴェルフは凄まじく実感が籠った頷き方で、イルマに同意した。

 

 何というか、人生を大失敗した者が失敗した原因を語っている時のような哀愁が漂っている。

 

「悪魔が人間界で最も敵対する事が多いのがはぐれを含めた悪魔祓い(エクソシスト)だ。その奴らの戦い方、つまりは人間による悪魔の殺し方を熟知する事ができれば、逆説的に奴らに殺されない方法に詳しくなるからな」

 

『なるほど。一理あるな』

 

 タンニーンが素直に頷いた。

 

 実際中世ヨーロッパや鎖国時代の日本では、罪人を殺すことを生業とする処刑人が薬師や医師を兼業し、彼らが作った薬はよく売れてよく聞いたという話がある。

 

 現代においても窃盗で逮捕された人間が出所後、企業にそのノウハウを逆手に取った対泥棒用のアドバイザーとして野党という話があるという。

 

 その観点でいえば、悪魔祓い(エクソシスト)の武装に熟知するというのは悪魔にとってメリットがある。和平がむすばれる前なら尚更だ。

 

「和平前だとアグレッサー部隊とかに引っ張りだこだな。ま、和平結んだ今じゃ直接呼んだ方が速そうだけどよ」

 

「ですわねぇ。和平に反対して教会を抜けた悪魔祓い(エクソシスト)とかおられますし、そういう模擬戦とかも必要ですわね。鶴木は賢いですわ」

 

 と、ぽんと手を打った鶴木の頭をカタナが撫でる。

 

 ちなみにアグレッサーとは、軍隊の戦闘訓練で敵組織の役を行う部隊のことである。

 

 敵との殺し合いの為の大事な予行練習の相手なので、精鋭である事が多い。基本的に悪魔として高性能な上級悪魔で、しかも並みの悪魔祓いを歯牙にもかけない攻撃力で悪魔払いの戦闘技術を再現するイルマは適任である。

 

 だからこそカタナは鶴木を褒めたのだろう。鶴木もそういうのを恥ずかしがる年頃のはずなのに、何故か素直に撫でられていた。

 

「はぐれ悪魔の討伐とかにも便利やな。それに禍の団(カオス・ブリゲート)の最大派閥は旧魔王派らしいし、こりゃうちもイルマ姉さんを真似た方が手柄あげられるかもな」

 

 リスンに至っては何やら手柄の皮算用までしている。

 

 しかし、そう考えると悪魔が悪魔払いの戦闘技術を学ぶメリットは数多かった。

 

 素直にアーサーも感心するが、しかし両隣の黒歌と美候は何故か冷や汗を流している。

 

「……アーサー。そろそろ帰った方がよさそうよ」

 

「だな。ちょっと調子に乗りすぎたぜ」

 

「どうしました? 急に弱気になりましたね」

 

 二人の様子に首を傾げるアーサーだが、それは仕方がないだろう。

 

 如何にアーサーが優れた戦士であるとはいえ、彼は術者ではない。探知などにおいてはどうしても一歩劣る。

 

 ましてや二人は仙術の使い手だ。生命体の感知においては非常に優れている。

 

 その二人が、明確に状況を危険と認識している。その理由は、きわめて単純だ。

 

「めっちゃ囲まれてるわ。たぶん五十人ぐらい」

 

「仙術ぬきじゃ気づかなかったぜ。こりゃ、お暇した方がよさそうだ」

 

 完全に包囲されている。それも、腕利きの戦力であるアーサー達三人が気づく前に。仙術使いである黒歌と美候ですら気づくのが遅れたレベルでだ。

 

 既に戦士達も減っているし、このままでは数の暴力で圧殺される恐れもある。

 

 それを素直に認め、アーサーはコールブランドを一閃する。

 

 そして生まれた空間の裂け目の中に入り込みながら、アーサーは軽く一礼し、鶴木に視線を向ける。

 

 その目には、興味と嫌悪の二種類の感情が混ざり合っていた。

 

「そこの聖剣使い君とは、聖魔剣の木場祐斗とデュランダルのゼノヴィアとは違った意味で雌雄を決したいですね。……何故かその剣はとても不快だ。歪で醜いと感じる」

 

 その罵倒ともいえる言葉に、しかし鶴木を含めたイルマ・グラシャラボラス眷属は苦笑した。

 

「……怒らないの?」

 

 リアスが怪訝な表情で尋ねるが、イルマは肩をすくめる。

 

「理由も例えも納得ものだからねぇ」

 

「ま、チンピラ貴族にんなこと言われても、おまいう案件なんですけどね」

 

 鶴木もそう続け、そして、その聖剣の切っ先をアーサーに突きつける。

 

「まあ、次会う時は覚悟しな。―俺の聖騎士王の聖剣(カリブリヌス・キャメロット)の錆にしてやるぜ」

 

 その挑発的な言葉に、アーサーは笑みを深くする。

 

 そして戦意を一瞬ぶつけ合ってから、空間の裂け目は閉じた。

 

 全ては終わったのだろう。その後、謎の戦士達も全員が打ち取られ、事態は終了。しかし、事実上の禍の団の襲撃によってパーティは終了して色々と大騒ぎになってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一時間ぐらい経った後だ。

 

 休憩用に与えられた一室に、イルマは疲れた表情で入ってきた。

 

 事情聴取という事で時間を取られた結果である。その為、帰るのもだるいからホテルで一泊という事になったのだ。

 

 因みに、何故かイルマが一番事情聴取が長かった。

 

 戦闘の最後の方に参加しただけのイルマが話せる事は少なかったが、これに関してはイルマにも責任がある。

 

 悪魔祓い(エクソシスト)の基本装備という、下級悪魔や下級吸血鬼と渡り合う為の武装を上級悪魔すら一刀両断できそうな高出力化をさせたのが原因だ。

 

 パーティに参加していた天界側や堕天使側が色々と聞いてきたのだ。おかげで無駄に時間がかかってしまった。

 

 最終的に「クロックワークスの内情は大王派の主要人物及び四大魔王が厳選したメンバーにしか伝えていない秘匿事項なので堪えられない」で押し切った。それでも時間がかかったが、四大魔王や現大王のとりなしもあって解放された形である。

 

「大変だったな、イルマ」

 

 ツヴェルフのねぎらいの言葉を聞き、兵士の一人がコップに入れた水をイルマは一気飲みする。

 

 そして一息つくと、肩を落とした。

 

「イルマさま、湯あみと夜食の準備は整っておりますどちらを先になさいますか?」

 

 兵士の一人がそういうと、イルマは一瞬考えこんだ。

 

 だが、彼女はすでにある手はずを整えている。なので答えが一択なのにすぐ気づいた。

 

「あ、三十分後に女性用デリヘルが来るからまず夜食で。イルマさんストレスたまったからソープごっこでストレス発散するよ」

 

 即答である。

 

 ちなみに、女性用風俗は割と存在する。日本にも存在する。豆知識である。

 

 まあツッコミどころだらけの発言だが、しかしツヴェルフは想定内だったのか、ツッコミを入れることはなかった。

 

「イルマさまって頭の中盛ることしかないのかねぇ」

 

「まあいいじゃん。やらせときゃストレス抜けるから八つ当たりされないし」

 

「聞こえてるんだけどー!」

 

 兵士たちの聞こえるように言う陰口にイルマは怒鳴るが、すぐに夜食に手を出す。

 

 野菜中心のサンドイッチをつまみながら、イルマは次の展開を完全に想定する。

 

「イルマ?」

 

「イルマ姉さん?」

 

 不満げな表情を浮かべたカタナと鶴木が、一気に詰め寄った。

 

 ……ちなみに常識的に考えれば、まあ一言言われてもおかしくない。

 

 まだ十代の女性が、敵襲があった直後にデリヘルである。色ボケ以外の何物でもない。

 

 それもイルマは貴族である。代理とはいえ72柱の次期当主である。

 

 風聞的にあれだ。風紀関係に厳しい者なら、厳罰覚悟で大説教をしているだろう。

 

 だが、これはそんな事ではない。

 

「私も混ぜてくださいまし! イルマだけずるいですわ!」

 

「男とエロい事したいなら俺がいるだろ!? なんならカタナ姉さんと一緒に3〇でもいいから!!」

 

 この二人は色ボケなのだ。

 

「……アイネス姉さん。ウチもう寝ていいか? あとうるさくなりそうやから別の部屋ないか?」

 

「そうだな、ディアクルス達も休んでいいぞ? 後は私が面倒を見ておく」

 

「「「「「「「「はーい」」」」」」」」

 

 そして周りの対応も雑である。

 

 特にアイネスが酷い。仮にも主をペットみたいな扱いで対応している。

 

 そしてイルマ達は聞いちゃいなかった。

 

「だめだめ。そういう追加要素は事前に連絡しないと相手が困るから。……あと鶴木はカタナとエッチな事しちゃだめ。これ主の絶対命令」

 

「別に私は構いませんわよ? 鶴木はなんとなく可愛くて愛しいですから。いえ、恋愛感情は感じませんが」

 

「……イルマさんの絶対命令。カタナは鶴木に欲情しちゃだめ」

 

「イルマ姉さんひでぇ! 別に眷属間で自由恋愛しようがセック〇フレンドになろうがいいじゃねえか! 最低限のTPOは守るって!!」

 

「だめー! とにかく鶴木×カタナは絶対ダメー! ヤリモクでもLOVEでも絶対禁止ー!」

 

 凄まじい内容の会話を繰り広げている。

 

 仮にも主とその眷属がするような内容では断じてない。

 

「……やれやれ。流石は色欲の大罪(アスモデウス)を輩出した血族の出だね、イルマ」

 

「いつものことだが、もう少し性的に節操を持てんのか」

 

 そして、そんなイルマ達を苦笑して見つめるブルノウと、額に手を当てるスメイガが入ってきた。

 

「あ、伯父様にスメイガ。」

 

 イルマは親族である事もあって軽い対応をするが、しかし眷属と成れば状況は変わる。

 

 漫才をしていた鶴木とカタナも、それをスルーしていたアイネスことツヴェルフも、直立不動で対応する。

 

「「「お目汚し失礼しました、ブルノウ様!」」」

 

「硬くならなくていいよ。楽にしたまえ」

 

 ブルノウはそう告げると、イルマの方を向き直る。

 

「……今後について軽く話がしたい。本格的な事はクロックワークスや血統尊重主義派とともに会議を行うが、その前に身内で軽い方針確認を行おう。……すまないが、鶴木くんとカタナ君は外の警備を私やスメイガの眷属達と共に頼む」

 

 ……今ここで、大王派の未来に大きく影響する小会議が開かれようとしていた。

 




まあ、わかっているとは思いますが、イルマが今回使用したのは強化魔術。

光の刃の発生機能をまず強化してめっちゃ長くしました。そして次の強化で切れ味を大幅に上昇させました。

前回のあとがきで書きましたが、イルマはイルマ・グラシャラボラス眷属全体でも魔術師としては真ん中レベル。魔術師として開位の上が限界の、平凡レベルです。

ただし、グラシャラボラスの次期当主代理になるだけあって、魔力の総量はかなりあります。今回は流す魔力を増大化させることで強引に魔術の効果を上乗せしました。本人も言っている通り、燃費の悪い力技です。

しかしこの話を書いているときに思いましたが、悪魔が悪魔祓いの技術を研究するのにはかなりの価値がありますね。和平結んだ今では残存悪魔祓いの悪感情を刺激しかねませんが、和平前ならかなり価値があったんではないでしょうか。

そして短文にルビを振るタイプの鶴木の聖剣。この来歴と鶴木の特殊性に関してはホーリー編で語られます。あとカタナがやけに鶴木を可愛がっていてそれをイルマが時々妨害していますが、これに関しては本編中盤まで伏線でとどめておくべき機密事項なので、もやもやしといてください。

そして次回、プロローグのエピローグです。ブルノウ、スメイガ、イルマ、ツヴェルフの三人による、彼らの派閥の大規模会議の前の一種のミーティングですね。

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