病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
スノウホワイト祝福祭/悪魔なんているわけねぇじゃん
第0.5話 スノウホワイト祝福祭
スノウホワイト祝福祭とは、今から百余年前に生きていた"聖歌者"ラフィエル=スノウホワイトにまつわる祭日である。
現在では、彼の名を冠する聖歌隊があるくらい、国民全員が畏敬の念を抱いている。彼にまつわる伝説は枚挙に暇がないが――それを語るには、まず話さなければいけない事がある。
この世界には、悪魔というものが存在する。
悪魔。それは憎悪を、怨恨をその心を満ちさせて死んでいった人間の成れの果て。それは人の身では倒すことなど到底出来ない化物であった。
しかし、悪魔を唯一消滅させる事が出来る方法が存在した。神々の加護を持った少年少女による、聖歌を聞かせることで、悪魔は消滅するのだ。
そして、今より百余年前。神光暦6480年のこと。
その少年は生きていた。なんの穢れも知らぬ無垢な白い髪に、包み込むような大空を連想させる透き通る青い瞳。染みの一つもない滑らかな肌に埋め込まれた薄桃色の唇は瑞々しい。
神々の寵愛を一身に受けたような、そんな極上の美を持って産まれた存在。
――そう、それこそが彼の少年。
ラフィエル=スノウホワイト、その人だったのだ。
彼は教会で生まれ育った。彼が聖書を読めば空気は澄み渡り、祈りを捧げれば福音が鳴り響く。聖歌を口ずさむ姿はいっそ神々しい。
そんな彼の伝説は、齢十歳から始まる。
その頃はまだ聖歌隊とだけ呼ばれていた団体は、神々の加護を受けた少年少女の十歳からの加入が義務付けられている。悪魔に対抗するための、たった一つの手段なのだから、当然であった。
そして彼が聖歌隊に加入して間もなく、悪魔による被害者の数は激減した。誰もが彼のおかげだと褒め称えた。けれど、彼は決してそれを驕ることはしなかった。
曰く、
「共に歌ってくれた仲間たちのおかげです。私一人の成果ではありません」
――と。
なんということだ。神々の寵愛を受けし者は、心までもが美しいのか。
その言葉を聞いた者は、涙してそう言ったという。
そして、伝説が幕を開ける。
その日はたった一匹の悪魔が都を襲った。それは悪魔の中でも一際強く、何百何千の人間の命を奪った災厄の悪魔だった。
その悪魔は聖歌隊が遠征でいない隙をついて、都を襲い、人々を恐怖のどん底に突き落とし、血の雨を降らして帰って行った。誰も命を取られなかった。恐らくは、一息に殺して楽にせず、死ぬことが出来ずに長い間苦しんで死なせた方が、悪魔にとっては面白いのだろう。
だが、それが人々の命を救った。
都に帰ってきて呆然とする聖歌隊の奥。馬車の中で座ったままの彼が、歌いだしたのだ。
奇跡が、起きた。
血塗れの都に響き渡る、美しい聖歌。聞いているだけで痛みを忘れて聞き惚れてしまうような優しい声が反響する。聖歌が終わった時、痛みに呻いていた人々は傷一つない姿で眠っていた。
ああ、歌一つで、彼は傷を癒やしたのだ! 絶対に助けられないと思っていた人々の命を救ったのだ!
それからの伝説は語ると日が暮れてしまうので割愛するが、やはり語るとすれば彼の最期。その身一つでもって悪魔と対峙し、慈愛と献身の心で我々の未来を守ったその話を、語るとしよう。
彼が十四歳の時の話になる。
始まりの伝説と同じ悪魔と、彼は対峙した。
かの悪魔は、都に悪魔の大群を引き連れて降り立った。そして、我々無辜の民を人質にとってこう言うのだ。
「お前の選択次第で、奴等の運命は変わるだろう」
驚愕。悲しみ。
そんな表情を見せた彼に、悪魔は続ける。
「さあ、……願え。自らの運命を」
お前が生きたいと言うのなら、奴等は殺す。お前が死ぬというのなら、奴等は生かそう。
そう邪悪に嗤った悪魔に、人々は叫んだ。この悪魔め! 私の事は見捨ててください! どうか、死なないで! ――ラフィエル様!
生きて。
人々は自分の命を投げ売ってでも、彼を助けようと叫んだ。今まで彼の博愛を受けていた彼らの、精一杯の恩返しだった。
きっときっと、彼は受け取ってくれるはずだ。何せ、彼は酷く優しいのだから。きっと彼は生きてくれる。私達の為に、命を捨てないでくれるはず。
そう信じて、彼らは自分の命よりも、彼の命を守ろうとした。
「お断りします」
凛と、美しい声が響いた。
普段は暖かく優しい微笑みを湛えている顔には、キリリとした決意の表情があった。わずかに釣り上がった眉は、彼の怒りを表している。
――怒っているのだ。あの、ラフィエル=スノウホワイトが。
柔和な笑みを絶やさず、いつだって人々の心を明るく照らし出していた彼が……怒っているのだ。
「私は、絶対に願いません。貴方の思うようには、なりません」
そして。
その言葉が終わると同時、国中の教会に備え付けられている鐘が一人でに鳴り出した。
リンゴン。リンゴン。リンゴン。リンゴン。
「ほう…。ならば、お前の魂と悪魔の魂、どちらが強いのか試してみようか」
狂ったように鐘が鳴り響く。
悪魔の手が、彼に向かって伸ばされる。
それを阻止するかのように白い光が悪魔へ突き刺さるが、悪魔はお構いなしに手を伸ばす。
聖歌隊の悲鳴混じりの歌声が聞こえだした。
彼は一歩も引かず、じっと悪魔を見据えていた。
「――祝福あれ」
彼の声が都に通り抜けると同時、彼と悪魔の姿が掻き消えた。
そして……都には、悪魔が立ち入れなくなった。
彼の、祝福のおかげだろう。
奇しくも、その日は彼の誕生日であり――命日となった。
それが、今から百余年前の今のお話。
スノウホワイト祝福祭の、存在する理由である。姿が見えなくとも、声が聞こえなくとも。きっと彼……"聖歌者"ラフィエル=スノウホワイト様は、我々を今も見守って下さっている。
第0話 悪魔なんているわけねぇじゃん
この世界はおかしい。悪魔だとかいう、訳わからん存在に怯えて暮らしている人間の多いこと多いこと。んなもんいるかよ、馬鹿らしい。あったま大丈夫でっすかーッ? まあ大丈夫じゃないからこんなんなってんだろうな。んでもってほんと馬鹿。馬鹿ばっか。
いや、まあ? その悪魔とかいうやつを信じてる奴等のおかげで? オレは生活出来ているワケですけど? 教会でタダ飯食わせてもらってるワケですけども、ねえ? やってらんねぇわ、正直。いやマジな話でさ、あいつらオレの話聞かねぇんだわ。
その耳は飾りなんですか? ちゃんと意思疎通、できてますか? 出来てねぇよぶっ飛ばすぞ。聞けよお前ら、オレの話を。悪魔を倒す聖歌を歌えだって? お前、存在しない奴を倒す歌とか何だよ。どうやって歌うんだよオレに教えろや。教えもせずに何泣いてんだよ、オレの歌が下手くそ過ぎたからか? パンチ食らわすぞ。
ハァ――ッ!!(怒)
マジやってらんねぇ。オレ、成人したらぜってぇこんなとこ出てってやるわ。そんである程度稼いだら食っちゃ寝する生活送るんだ。
聖書の暗記とかね、クソ喰らえだわ。お前らあの分厚い本丸暗記してんの? オレは一回読んだだけで諦めたわ。聖書暗記の時間は、既に将来どうやって暮らすか考えてるもん。
大体ね、あれ同じようなことつらつらと何頁にも渡って書いてんの。読む気失せるっつーの! もっと子供に優しい書き方しろよ。書いた奴ボケてたんじゃねぇの?
つーか十歳になったら聖歌隊に強制入隊ってなんだそれ。オレの下手くそな歌を世界に披露しろってか!? クソが! お前らなんか大嫌いだ!
聖歌隊に入隊してすぐに、なんか偉そうなおっさんに何か言われた。オレのおかげで悪魔の被害者が激減したとか何とか。アホか、んなわけねぇだろ。そもそも聖歌隊なのに歌下手なオレに何だってそんな……ハッ!? ま、まさか、これは試練なのでは!?
このおっさんの謙った態度にいい気になって、これで鼻高々になって傲慢な答えを返したら、聖歌隊あるいは教会を追放されちゃうのでは!?
教会の爺さんも言ってたもんな、何時だって謙虚に生きなさいと。……まあその爺さんの洗脳染みた教育のおかげで、オレの表情筋と言語能力がオレの意思を無視して動くんだけどな。心の中と同じ言葉遣いできねぇんだわ。表情も嘲った顔とか出来ねぇんだわ。まあ物心ついた時からそうだったからいいんだけどさ。
そんな事より、今はおっさんに返す言葉を考えなければ。これでミスったらオレの住むとことご飯が無くなっちまう。謙虚に! 謙虚に返すんだぞ! 爺さんの教えに忠実なガキを演じるんだ!
まあそもそも歌がクソ下手なオレに、例えマジモンの悪魔がいたところで倒せるわけねぇけど。
「共に歌ってくれた(めっちゃ歌が上手い)仲間たちのおかげです。私一人の成果ではありません(いやマジで。だから追放はやめてください)」
オレがそう言うと、偉そうなおっさんは泣き出した。え? なに? もしかして、オレを追い出すための口実作ろうとしてた? 天狗になった奴じゃなくて、オレ個人をターゲットにしてたの?
そんなにオレが嫌いかよ……いいもん、オレには教会の爺さんがいるから! いやオレあの爺さん嫌いだったわ。なんかめっちゃ見てくるもん。監視するみたいに見てくるもん。こえーよ。
ぐすぐす鼻を鳴らしながら重い足取りで歩いていったおっさんのことは、とりあえず忘れることにした。それがいいね。
辛い事は忘れて幸せに浸ろうぜベイビー!
――それからすぐ、聖歌隊の遠征が決まった。
そ、そんなにオレが嫌いなの? 聖歌隊が遠征すると三割くらい聖歌隊の奴死ぬって聞いてるけど……何か嫌われるような事したっけ? 聖書暗記を放棄したから? いつも心の中で偉そうなおっさんを見たらハゲかどうか脳内議論してたから?
そ、そんな……そんなに怒んなくていいじゃん! 殺そうとする前に言葉で語れよ! おまっ、人には何のために口がついてると思ってんだ! バッキャロー!
逃げたい。正直ものすごく逃げたい。でも何でだろう、オレが落ちこぼれだって知ってるからかな、都の奴等もすげえ見てくる。監視されてる感半端ないって。
これはもう、覚悟キメるしかねぇな……。
なんて思っていた聖歌隊の遠征だが、なんと驚く事に大した事は無かった。だって馬車の中で歌うだけだし。きっと今までは御者が無能だったんだろうな。まったく事故るのも大概にしてくれよな!
つーか都以外の街ってマジ汚ねぇな。ボロボロだしよ、オレ都に生まれて良かったよ。こんなゴミの掃き溜めみたいな所住みたくねぇもん。
そんな感じで都に帰って行く途中、またクソボロい街に着いた。何故か他の聖歌隊メンバーが馬車を降りていく。わざわざゴミ溜めに降りるとか聖人君子かよ。オレには無理だわ。
聖歌隊が馬車の外で歌うんだろうと思ったが、オレは馬車の中で歌うため、外の声が聞こえなかった。しょうがないから馬車の中一人でアカペラで歌った。何これ寂しい。もう二度とやらない。
都の教会に着いた瞬間、他の聖歌隊の奴等がすごいとか尊敬するとか言ってくっついてきた。これは高度の嫌がらせか? お前クソ下手な歌、馬車の中で一人で歌ってたよな恥ずかしいヤツー! っていうのをオブラートに包んで言ってんのか? いいだろうその喧嘩受けて立つ。
あと一年……あと一年じゃあ……。
あと一年でオレの聖歌隊の任期が終わる! ふぅー! これでよく分からん監視生活も終わりだ。カーテンコール、カーテンコールっすよ!
ここまで長かったぜ……。いつストレスで俺の胃に穴が開くかとヒヤヒヤする生活もあと一年で終わる。おお、神よ!
十四年にも及ぶ教会での生活もあと一年でオサラバだ。身についた習慣はしばらく消えないだろうが、それもいつかは終わるだろう。
これで、毎朝飯食う前に一時間祈りを捧げて、昼は断食で2時間祈りを捧げて、夜飯食って冷たい水で身清めしてから寝る前のお祈り(最低一時間)をする生活ともグッバイだ!
テンション上がるわ。はー最高かよ……。
なんてウキウキしていたオレの気分は、急降下した。予期せぬ来客が現れたのだ。招かれざる客とも言う。
そいつは厳つい風体で、ムキムキのおっさんだった。この時点でオレの気分は乱高下である。森に帰れよおっさんゴリラ。
何なんですかね、うちはお祈り以外は客を歓迎してないんで帰ってくれますぅ? という俺の心の内は奴には通じなかったらしい。奴は言ってきた。
運命を選べ、と……。
頭湧いてるんか? と思ったが、オレの言う事を聞かない悪い子な口は無言のままだった。お前こら主人の言う事を聞けやオラァ! てめぇ誰のおかげで生活できてると思ってんねん、おおん?
つーか外騒がしいな。お祭りか何かやってんの? またオレだけ除け者かよ死ねば良いのに。
その時におっさんはペラペラなんか喋ってたが、興味がなかったので殆ど聞き流した。つーかあれだろお前結局は。答えなんて決まってんだよ。
「(新聞勧誘その他もろもろ全て)お断りします。(てめぇら金の亡者共だろ?)私は、絶対に(新聞etcは)願いません。貴方の思うようにはなりません(誰がお前らに金を落とすか! オレの金は将来の為の投資金なんだよォ!)」
分かったらとっとと巣に帰れゲロ野郎!
なんて思ったのが悪かったのだろうか。いきなり教会の鐘が鳴り出した。めっちゃうるせぇ。え? 怒ってる? こいつに暴言吐いたから怒ってんの? 神様こわっ……。
どうしよオレ神様怒らせちゃったよ。ムキムキのおっさんもなんか怒ってるよ絶対。なんか手ぇ伸ばしてくるもん。もしかして熱狂的な信者だったのおっさん? ごめんマジ悪気はなかったんだって、神様が怒るとは思わなかったんだよ! 許してめんご!
心の中で謝っていたら、おっさんに白い光が集まっていく。神様が力与えてる系? ごめんて、悪かったってば!
そうこうするうちに、おっさんの手がオレに触れた。
「(ああああああ死ぬぅ! オレ絶対死ぬわ! やだあああああまだ生きたい生きたい死にたくない許してえ! だあもおクソお、せめて来世のオレに)祝福あれ(!!)」
「……ここは?」
目の前には、辺り一面の草原が広がっていた。ついでに言えば、身体が腫れていた。主に胸あたりが。
これどうしよマジで。
きっと今も見守って下さっている(確信)
未来を知ったら、オリ主は「見守ってるわけねぇだろ!!」って言いそう。
ちなみに悪魔の性別はない。オリ主が勝手におっさん呼びしてるだけ。ムキムキの相手にとりあえずおっさんって言うの止めたほうがいいんちゃう、ラフィエル君?
(リムルのところのラファエルさんとは全く関係ありません。血縁関係もありません)
現在のステータス(いつか獲得場面も書きます)
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:性転換事情も後々書きます。