病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー   作:昼寝してる人

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それぞれにとっての聖歌者 Ⅲ

 第10.5話 ラミリスの場合

 

 ラミリスにとって、ラフィエル=スノウホワイトは手のかかる子供だった。何せ、酷く体が弱いのだ。ほんの少しの事で風邪をひき、高熱を出す。

 咳をしようものなら、数回目で吐血する。そんな、守ってあげないといけない存在だった。

 その認識が変わったのは、ある冬の日。

 ラフィエル=スノウホワイトが勇者レオン・クロムウェルに対して厳しい言葉を投げつけていた事が始まりだった。

 

「ちょ、ラフィーってば何してるのよ?」

「ラミリス。いえ……少しお話を」

 

 まだラフィエル=スノウホワイトが異空間の教会に引きこもっていなかった頃の事だ。

 彼女が、"微睡みの暴虐者"というよりも"病弱の聖女"と呼ばれる事が多かった時代。

 彼女があちこちの国へ足を運び、時には救い、時には滅ぼしていた、そんなある日の事だった。

 たまたま精霊の住処の近くまで来ていたラフィエル=スノウホワイトを招こうと外に出たラミリスは、勇者レオン・クロムウェルを叱責するラフィエル=スノウホワイトという珍しい図を目撃する事になったのである。

 魔王が勇者を説教している最中を目撃するなんて、なんというミラクルだろうか。喜ぶより先に困惑してしまう。

 

「てゆーかレオン、あんたまだこんなとこにいたワケ?」

「……何を怒っている?」

「はーん!? うちに土足で上がった挙げ句に勝手にがっかりして帰ったムカつく奴が、まだこんな近くをうろついてるからでしょーが!!」

 

 困惑はともかく、先日の件で微妙にムカついていたラミリスはここぞとばかりにレオンに噛み付く。

 無表情ながら不思議そうに首を傾げたレオンに、怒りの火がついたラミリスが叫ぶも、迫力があまりにも足りないので大したダメージは与えられなかった。

 その様子にここで噛み付いても意味がないと悟ったラミリスはレオンを放置してラフィエル=スノウホワイトに話しかけた。

 

「で、何してたのよ? あんたが誰かに怒るなんて珍しいこともあるのよさ」

 

 ラフィエル=スノウホワイトの顔を見ると、困った様な笑みを見せられる。こういう時は、大体はぐらかされるか、あまり誰かに聞かれたくない時だ。

 しばらく考えて、ラミリスはジト目でラフィエル=スノウホワイトを見つめた。

 

「うちの側で騒ぎを起こしてたんだから、説明くらいしてもらうからね!」

「んん……そうですね、近所迷惑でしたか。それは申し訳ない事をしました」

「……はぐらかそうったってそうはいかないわよ?」

 

 微妙に論点をずらしてきたラフィエル=スノウホワイトに、ラミリスが釘を刺す。むむむ、と唸るような仕草を見せるラフィエル=スノウホワイトにやはり誤魔化そうとしていたかとラミリスが溜息を吐いた。

 そんな中、話を蚊帳の外で見守っていたレオンがすっと視線を逸らして空を見た。

 ぽつんと欠けた月が一つ、闇夜で輝いている。

 

「ま、一旦うちに来るのよさ。レオン、あんたもだからね!」

 

 暗い夜に、野外で何の備えもなく話をするのはリスキーだ。特にラミリスのような戦闘能力に乏しい生き物は家にいるべきだ。

 ラフィエル=スノウホワイトの背を押して、ラミリスは精霊の住処へと足を向けた。

 

 精霊の住処にて、事の成り行きを聞く。

 何でも、レオンがラフィエル=スノウホワイトに突っかかったのが原因らしい。直感で、彼女がレオンの探し人を知っていると思ったのだとか。

 この時点でラミリスはレオンが悪いと判断した。

 しかしラフィエル=スノウホワイトの対応も対応だった事で、ラミリスは頭を抱えた。

 なんと、突っかかってきたレオンにこう言ったらしい。

 

「貴方がそのようでは、会える人とも会えませんよ。もう少し他者と分かり合う努力をすべきです」

 

 こうなれば売り言葉に買い言葉。

 口論になり、ラフィエル=スノウホワイトが言い返している時にラミリスがやって来たらしい。

 確かにレオンは口下手というか、あまり相互理解が出来ないタイプの人間だとラミリスも思っていたが、かなり厳しい口調で(なじ)るラフィエル=スノウホワイトもそこそこ悪い。

 後に、それは未来でシズエ・イザワと築いた関係によって叱責されていたとラミリスは理解するのだが、それは未来の話である。

 

「アンタ達ねえ、もう少しオブラートに包んだりとか出来ないワケ?」

「……そうですね、言い過ぎたかもしれません」

 

 ラミリスの言葉で、ラフィエル=スノウホワイトは素直にそう言ったが、謝罪の言葉は出てこない。

 レオンに至っては無言だった。

 結局、ラフィエル=スノウホワイトとレオン・クロムウェルはこの後、(レオン)が魔王になるまで再度話をする事はなかった。

 この時、ようやくラミリスはラフィエル=スノウホワイトが弱い子供ではない事を悟った。

 優しく、慈愛の心を持っているというのは知っていた。けれど、それだけではないのだ。

 人を叱り、怒り、……頑なに自分の意見を貫き通す自分勝手なところもあるのだと、この日に知った。

 

「意外と人間味があるじゃないの」

 

 ラミリスは少し、ラフィエル=スノウホワイトと近付けたような気がして、一人笑った。

 

 

 

 

 第10.55話 不機嫌

 

 その日、オレはとてつもなくイラついていた。度々襲撃にくる勇者の理解不能な言い分のオンパレードのためだ。

 訳わからん事言うのやめてくれます? オレはねえ、国を滅ぼしたりしてねえの! わかるぅ? そのちっこい脳みそで理解できてますか〜?(煽り)

 しかも、何? 国民皆殺し? とかね、そんな事出来る訳ねぇじゃん。オレの特技は長眠と楽器演奏だけだ。そもそも見ろよこの細腕! こんな非力な奴にそんな事出来ると思ってんのぉ?

 そんな事をするくらいならおうどん食べたい(真顔)

 もうね、ムカつくから家出してやったよ。あの教会に行って無駄な口上並べ立てた後に「あれ? いない?」って恥ずかしくなればいい。そして二度と来ないでくれれば更に万々歳なんですけど無理か。

 あーでも、あんまり教会放置するとホコリ溜まってオレの体調が死ぬからな。一週間くらいしたら帰るかな。

 

 なーんて思っていた過去のオレをぶん殴りたい。

 馬鹿野郎お前、その数時間後に勇者に絡まれたじゃねぇか! 一週間なんて呑気な事言ってないですぐさま家に帰りやがれ!!

 キレそう(小並感)

 なんか、金髪のいかした兄ちゃんが喧嘩売ってくるんだよ……。そろそろバッチーンしていいか?

 なんかオレを誘拐犯扱いしてきやがるんだが、これはもう怒っていいのでは? というか怒るわ。

 人の話を聞きもしないで暴言を吐いてくる金髪に、オレは人格否定発言並みの言葉を投げつけてやる。ただし口調のせいでオブラートに包まれる。やめろ直で伝えろ。

 口論どころか殴りかかりたい衝動に駆られていると、そこにラミリスが乱入してきた。邪魔するならたたっ斬るぞ貴様ァ! 

 とか思ってると、どうもラミリスの家はこの近くにあって、そこまで口論の声が響いていたらしい。ごめん近所迷惑しちゃって。

 え? 別に誤魔化してないけど? 一体どこに誤魔化す要素があった……? むんむん考え込んでも分からなかったので疑問を投げ捨てる。

 結局、オレと金髪はラミリスの家でどちらが悪いか判定される事になった。

 

「アンタ達ねえ、もう少しオブラートに包んだりとか出来ないワケ?」

 

 えっ……オレのお口が勝手にオブラートに包んでくれてたのに、それでもダメなの……。

 いや待て、そういえば責めるのが得意な奴は責められるのは弱いと聞いたことがある。つまり金髪はメンタルクソ雑魚だった……?

 そうか……それは可哀想な事をしてしまった。今ずっと黙ってるのも、傷心中だからなのか。

 

「……そうですね、言い過ぎたかもしれません」

 

 でも謝らない。

 オレは悪い事なんてしてないから絶対に謝らない。相手が謝ってきても謝らない。

 そもそもオレがちょっと折れてやったのに金髪は無言だからね。許せんわー。絶対に許せんわー。

 お前顔覚えたからな、教会にきたら辛子粉末お見舞いしてやるから覚悟しろよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第10話 レオン・クロムウェルの場合

 

 ラミリスと、魔王レオン・クロムウェルは、異空間にある森の中にいた。

 そこでは既に、とある魔国連邦の主だったり、拗らせた黒い悪魔だったりが隠れ潜んでいたりする。魔王以外は今まで来なかったのに何故急にと思っても気にしてはいけないのだ。

 ラミリスは教会の中で祈りを捧げるラフィエル=スノウホワイトを見て、まだ少し時間がありそうだと視線を外して木の枝に腰掛ける。

 

「それにしても、アンタが来るなんて意外よね」

「……来てはいけないのか」

「だってアンタ達、初対面ではめちゃんこ仲悪かったじゃないのさ」

 

 ラミリスの言葉に、レオンは渋面を作る。

 あの日、ラフィエル=スノウホワイトに言われた言葉はシズエ・イザワと出会ってから色濃く脳裏に焼き付いている。

 魔王達の宴(ワルプルギス)で再会したラフィエル=スノウホワイトは一切突っかかって来ない。どころか、むしろ友好的な態度を見せる。

 あの日の事を忘れたのかと思ったが、あの聖女と名高い彼女が忘れるのはありえない。ならば気にしていないということなのか、それとも別の狙いがあるのか。

 レオンにとってラフィエル=スノウホワイトは決して油断できる存在ではない。けれど、その歌は、とても心に沁みるのだ。

 何百年も探し続けて、出会えないのではないかと諦めが混じっても、その歌を聞いて奮起出来る。だからこそ、彼はこの満月の夜のコンサートに来ているのだ。

 彼の探し人と同じ歌を、同じように気に入っているとは思いもせず。

 

「歌は、別だ」

「ふーん? ま、気持ちはわかるけどね!」

 

 ラフィーの歌は最高なのよ、とラミリスは機嫌良く笑う。

 ちょうどその時、ラフィエル=スノウホワイトが聖書と譜面台を持って、教会の外へ出てきた。

 月に向かって美しい音色を奏でるその声に、レオンとラミリスは目を閉じて聞き惚れる。悩みも苦悩も何もかもを忘れさせてくれる、その歌声に。

 

「……上手い、な」

「トーゼン!」

 

 歌が終わった時、零れ落ちたレオンの感想に、ラミリスは我が事のように胸を張ってそう言ったのだった。




オリ主「勇者とかね、全員死ねばいいんじゃないかな」
勇者's「!?」

 原作に出てくる勇者全員驚愕する一言。
 そんな事言ったらクロエとか泣いちゃうだろラフィエル君。もっと慎重に発言しようか?

 現在のステータス

 name:ラフィエル=スノウホワイト
 skill:ユニークスキル『聖歌者(ウタウモノ)』↔『死歌者(ウタウモノ)
    ユニークスキル『拒絶者(コバムモノ)
    ユニークスキル『上位者(ミオロスモノ)
    ユニークスキル『寵愛者(ミチビクモノ)
 secret:『悪魔契約』
     『悪魔共存』
     『禁忌の代償』
 備考:そんな昔の事、ラフィエル君が覚えている訳がないじゃないか。レオン・クロムウェル、君はラフィエル君を舐め過ぎだ。

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