病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第13.5話 嘲笑う慈悲
魔王カリオンとその配下フォビオは、異空間にある教会へ足を伸ばしていた。ミリムに言った通り、わざとではないとはいえ盗みをしてしまったため、謝罪にきたのだ。
血濡れた十字架のネックレスはきちんと洗い、ピカピカに輝くまで磨き上げられ、上品な箱に収められている。
その箱と、詫びの品として果実酒を数樽見繕い、二人はその教会へと向かった。
そして、天災と出会ってしまった。
大空を連想させる青い瞳は、真紅に染まり邪悪な意思を漏れ出させている。
驚愕に目を剥く二人へ、
「ようこそ、悪夢へ」
魔王カリオンにとって、魔王ラフィエル=スノウホワイトは名ばかりの魔王だった。お飾りの魔王とも言えるだろう。
それほど、強さを感じなかったし……今のように、彼等を見下したりしなかったからだ。
強き者は慢心する。強ければ、無意識にも格下の相手を見下してしまう。それは当然のこと。
それがラフィエル=スノウホワイトには存在しなかった。だからこそ、カリオンは常々不思議に思っていた。
何故、彼女が魔王なのか、と。
(こういう事かよ……)
しかし、その疑問はたった今氷解した。
魔王ラフィエル=スノウホワイトは間違いなく魔王である。しかも、その強さは未知数。
そして不幸なことに、彼女は明らかに自分たちへ敵意を向けている。
……それ程までに、十字架のネックレスに思い入れがあったという事だろうか。詫びを受け取る事すら許せないほどに。
引き攣る頬に活をいれ、カリオンは不敵に笑って見せた。
「わざわざオモテナシしてくれるとは、感謝するぜ」
「……もてなす? お前達を? 中々面白い冗談だ」
そんなカリオンの虚勢を鼻で笑い、ラフィエル=スノウホワイトは腰掛けた。教会の中、神であろう像が鎮座している台座に。
信仰する神への敬意をまるで感じない動作に、カリオンは少し驚く。彼が知っているラフィエル=スノウホワイトは信心深い敬虔な教徒であったからだ。
そんなカリオンの驚きなど知ったことかと、ラフィエル=スノウホワイトは足を組んで尊大な態度を見せた。
「本題に入れ。少しだけなら聞いてやる」
その態度に、カリオンの配下であるフォビオはカチンとくるが、先の失態もあり大人しく黙っている。何よりカリオンがいるのに自分が口を出すべきではないと思ったのだ。
当のカリオンは、ラフィエル=スノウホワイトに最大の警戒を持って接しているのだが……彼女にとっては意味の無い警戒であった。
(ふん……ネックレス? 聖歌隊の証、だったか?)
カリオンの話を聞きつつ、ラフィエル=スノウホワイトは読心術で彼の思考を読み取る。
十字架のネックレスの件で魔王ミリムに叱責されて、わざわざ詫びの品まで持って謝罪にきたらしい。しかしそれと同時にラフィエル=スノウホワイトへ探りを入れるのも目的だったようだ。
最古の魔王と第二世代の間に位置するのは、魔王ラフィエル=スノウホワイトしかいないから。
そこに大した理由はないのだが……他人から見れば何か大義名分が欲しいのだろう。歴史家は面倒である。
(このネックレス――壊してしまえば、あの聖歌者はどんな顔をする?)
聖歌隊の証。
今、ラフィエル=スノウホワイトが所有している物の中で唯一、元の世界との繋がりを示す物。
それが修復が不可能なくらいに破壊されてしまったら? それは……きっと悲しむだろう。嘆くだろう。それはとても愉しい催しである。
にやりと邪悪な笑みを浮かべ、ラフィエル=スノウホワイトはその手に返還された十字架のネックレスを握り潰した。
それを見て唖然とするカリオンとフォビオ。
盗んでしまったものを返したら、目の前で壊されてしまった――それは、つまり。
許すつもりなどない、という宣戦布告である。
破壊したまま返したという虚偽をでっち上げ、カリオンを敵とする。そういう意味で行われる。
ラフィエル=スノウホワイトにその意思など無くても、カリオン側からすればそういう事として受け取る。
そして、カリオンとフォビオは未知の敵と戦うハメになるのだった。
完敗。
完膚なきまでの敗北。
ラフィエル=スノウホワイトは欠伸をしながら、カリオンとフォビオを軽くあしらった。
そもそも、ラフィエル=スノウホワイトにとってカリオンは完全なる格下である。
そのため、特に何もしなくても勝てるのだが『
そもそもラフィエル=スノウホワイトには彼等を敵とする意思がない。向かって来たから叩きのめした。それだけである。
つまり、ラフィエル=スノウホワイトからは一切の攻勢に出ていない。にも関わらずの、惨敗であった。
(ここまで……実力の差があったというのか?)
悔しかった。
強くないと思っていた相手に手も足も出ない自分が情けなかった。カリオンは泥を舐め、屈辱に涙した。
それを見て、ラフィエル=スノウホワイトは嗤った。
(この世界も……イイ玩具があるじゃないか)
ラフィエル=スノウホワイト――彼女の中に巣食う悪魔は、カリオンに価値を見出した。
別に、今すぐ彼をどうこうしようという訳ではない。ラフィエル=スノウホワイトは不老である。長い時間をかけてゆっくり調理するとしよう。
くつくつと笑いを噛み殺し、悪魔は地面に倒れているカリオンの顎に手をかけ、顔を上げさせた。
「見逃してやろう」
「…………は?」
瞳を愉悦に染め、悪魔は嘲笑った。
「慈悲をくれてやる。感謝しろ」
第13話 寝かせろ(切実)
目を覚ますと、教会の床が血塗れになっていた。
なんでやねん。
いやおま、可笑しいだろ。これは明らかに可笑しいだろう。窓から落ちて気絶してた間に何があったと……あれもしかしてオレの血?
えっうそ、落ちて死にかけたけどそのまま教会に戻ってきたオレ? でも身体どこも痛くないんですけど。ま、まさか神が治してくれたのか?
死にかけ五秒前のオレの祈り(恐喝)を聞いてくれたっていうのか!? ありがとうございます!!
でもどうせなら、床を血塗れにしたの掃除しといてくんないかな。誰が掃除すると思ってんの? オレだよ。
てゆーか何だ、教会の外も地面血塗れじゃん。もー止めてくれよなー。
しかも……オレのネックレス、壊れてるんですけど。祈り聞き届けてくれるんなら、持ち物も守って欲しかったんですけど。
中途半端やめよ?
一日かけて、教会を掃除した。
掃除しなかったらオレの体調が死んじゃうからね。腰がバッキバキだわ。そろそろぎっくり腰が怖くなるお年頃だからな、もっと労ろう身体。
伸びをして、大きく息を吸い込んで、吐き出す。
あースッキリした。
壊れたネックレスは(置く場所ないから)爺さんの墓に埋めたし、これでもう完璧だな。
あとはゆっくりとオレの身体を休めるだけ……だったのだが。
「…………えっと」
獣味がある金髪ムキムキなおっさん。つまりは魔王カリオンがオレの前に現れた。しかも土下座の態勢で。
訳が分からないよ。
何なんですか? オレはね、もう寝たいんですよ。疲労がピークでぶっ倒れそうなんだ。寝かせろ。
意味わからんからな、口で物を申せよこのおっさん!
邪魔だよ、帰れよ。
何の用なんだよォ!
「昨日は、……世話になった」
「はい? 世話?」
昨日って何ですか。
掃除の前なら気絶してたし、その前ならオレは風邪で寝込んでましたが?
お前の世話なんてしてないが?
訳わからん事言うの止めてくれん? ほんとね、ほういうの良くないとボクは思うんですよ。大体お前、オレの記憶力は悪い方だっつってんだろォ!?
お前ら魔王は皆、オレが知ってる前提で話す事超多いけどね、大体ずっと話についていけてねぇんだわ! 知らないよね、だってオレを誰も気遣ってくれたりしないもんね!!
結局何が言いたいかというと、説明が欲しいんだよ。わかる? アンダスタン?
「だが、慈悲で生き永らえるのは恥だ。いつか必ず……この雪辱を晴らす」
あ、うん。
いいんじゃない? 知らんけど……。
オレの知らない所で勝手にやってくれって感じ。それわざわざオレに言う必要ある? ないよね。
ていうか決意表明なら配下とかに言えばいいじゃん。背水の陣でさ、頑張ったらいいんでない?
オレには関係ないけど。
「言いたい事はそれだけだ。邪魔したな」
ほんとね。
ほんと邪魔してたよ。
そんなしょーもない事、わざわざ言いに来るの止めてくれない? オレの睡眠時間がゴリゴリ減ってるんですよ……。
疲れてるんだよこっちは。風邪は多分治ってるけど、掃除やその他諸々で疲労困憊なんだ。身体がね、弱いんですよ。
お前らムキムキ筋肉には無縁の悩みだとは思うけれどもね(皮肉)
何か覚悟を決めたような顔でのっしのっし歩き去っていくカリオン。
ていうかオレとお前そんなに仲良くないじゃん。
何でオレに決意表明なんかすんの?
訳分からんわ……。
「……まさに聖女の皮を被った魔女だな」
オリ主「失せろ(訳:疲労ピーク、休ませてくれ)」
魔女じゃない。悪魔だ。
ラフィエル君の危機に颯爽と駆け付けた悪魔(性悪)によってコテンパンにされたカリオン。一体どんな風に悪魔に調教されてしまうのか!?
最後は悪魔が消える予定(願望)なのでそんな日は来ない。
現在のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:勘違いによる敵対勢力予備軍ができた。この事で、ラフィエル君は第二世代以後の魔王たちに警戒される。