病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー   作:昼寝してる人

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異なる音色

 第14話 異なる音色

 

 シズエ・イザワの心残りの一つは五人の子供達。そして二人の男女である。

 残りの一つであるラフィエル=スノウホワイトについては時間が必要だ。故に、リムルは先に子供達を何とかする事にした。

 その伝手としてカバル達を通じて自由組合の自由組合総帥(グランドマスター)ユウキ・カグラザカを訪ねたリムルは、その容姿のために戦闘になりかけた。しかしリムルが日本人だと気付いたユウキが話を聞く姿勢を見せ、和解。

 ユウキはシズエの意思を継いだリムルに、子供達を託し、彼等の教師を任せた。

 

 そして彼等と対面を果たしたリムルは元気すぎる子供達を返り討ちにし、漫画を餌に彼等との友好を深めていった。

 子供達を救う方法を探すため、図書館にある本を『大賢者』に読み漁らせたりして過ごしていたある日、リムルはその方法を思い付いた。

 その方法は皮肉にも、魔王レオン・クロムウェルがシズエに施した精霊憑依である。

 精霊を子供達に憑依させることで、その膨大な魔素による肉体崩壊が起こる事のないようにする。それがリムルの考え出した方法だった。

 そのためには、精霊の住処と呼ばれる場所へ赴かなければいけないのだが……天はリムルに味方した。

 不明だったその場所が判明したのだ。膳は急げ、彼等は精霊の住処へと足を向けた。

 

 そこで出会ったのは元精霊女王でありながら魔王を名乗る金色の妖精ラミリス。

 彼女の助力を得て、子供達はその身に精霊を宿す事を成功させた。子供達の一人が勇者候補となったり、未来から来たナニカに憑かれたり、多少の問題はあったが概ね失敗はなかったと言えるだろう。

 そこで、リムルはラミリスに魔王ラフィエル=スノウホワイトについての話を少し聞いたりもした。

 曰く、

 

「聖女とか言われてるけど、意外と人間味があるのよね。何で知ってるかって? それはアタシとラフィーが大親友だからに決まってるのよさ!」

 

 などと自称大親友は言っていたが、リムルは大親友とは言わなくても友人ではあるのだろうと思った。そもそも、ラフィエル=スノウホワイトが好意のある人物を邪険にするとは思えない。

 結局、ラフィエル=スノウホワイトについては生活サイクル程度しか聞けなかった。どうやら、彼女は自分の事を詳しく語らないらしい。

 ラミリスは話をしている時にリムルに指摘されてようやく気付いたようで、次に会った時は質問攻めにしてやると息巻いていた。

 そして、リムルはそれくらいで話を切り上げて、精霊の住処を後にした。

 

 

 

 そして、リムルが魔国連邦に戻る少し前の事。

 リムルの部屋に突撃した子供達に、遊びに行こうと誘われていた。その元気な様子に安心しながらも、リムルはその元気さに少し呆れていた。

 

(元気なのはいいけど、元気すぎるのもなあ)

 

 早く早く、と引っ張る子供達に苦笑し、リムルはさっさと身支度を整えた。忘れ物が無いことを確認し、彼等は街へ繰り出した。

 日本人のやっているケーキ屋を冷やかしたりして、リムルは昼食用のご飯を子供達の分を含めて買っていく。

 前のピクニックでは魔物の襲撃があったりして、あまりゆっくり出来なかった。今回は前回の分まで楽しもうと気持ち多めに買っていく。

 

「ねえねえ先生、あれ買って!」

「そんなお肉ばっかりじゃ飽きるわよ。お菓子にして!」

「お菓子なんて食べた気しないだろ?」

「えっと、私もお菓子がいいな……」

「ほーらクロエもこう言ってるわ! 先生、マフィンとか食べたい!」

 

「はいはい、肉とお菓子な」

 

 さっきまで喧嘩していたにも関わらず、歓声を上げて喜び合う子供達。嬉しそうに笑う子供達を見て、リムルの頬も緩む。

 両手に大量の食料を持ったリムルは、

 

(買い過ぎた……)

 

 ちょっと張り切っちゃったかもしれない。かもじゃない、絶対そうだ。

 早くも後悔し始めているリムルとは裏腹に、子供達は元気いっぱいである。

 街の郊外へ出て、リムルと子供達はシートを広げてそこへ座る。

 たくさんの料理を広げ、どんちゃん騒ぎとまではいかないがわいわいと騒いで楽しい時を過ごした。料理を食べ終わり、のんびりと過ごしていると。

 そういえば、とクロエが声を上げた。

 

「リムル先生、部屋にあったフルートって先生のなの?」

「ん? ああ。あれは預かり物なんだ。俺のじゃないよ」

 

 何処か嬉しそうに問いかけてきたクロエに、不思議に思いつつ返答する。

 音楽とか好きだったのか? と思ったが、その話題に食いついてきたのはクロエだけではなかった。他の子供達のその話題に目を輝かせたのだ。

 

「先生フルート吹けるの!?」

「聞きたい!」

 

 ワクワクとした様子で乗り出してくる子供達に、リムルはいやいや、と手を振る。

 

「俺のじゃないから吹けないって。それにフルートなんか……」

「大丈夫よ! 吹いちゃ駄目ならリムル先生に預けたりしないもの!」

 

 遠慮よりも好奇心が勝つのか、アリスが勝手に持ち主――ラフィエル=スノウホワイトの心情を代弁した。本心はかの聖女しか分からないので、アリスの言は間違っていないかもしれないし、間違っているかもしれない。

 しかしまあ、元々はシズエがフルートを預かったのだ。シズエに託されたのがリムルなので、たとえ吹いてもいいとラフィエル=スノウホワイトが思っていたとしてもそれはシズエに対してである。

 リムルが持っている事はラフィエル=スノウホワイトが知るはずもないので、許可なんて絶対にされていない。

 が、子供達はそんな事は知らないので、遠慮なんて欠片もなくフルートをせがむ。

 

(ま、まあラフィエル=スノウホワイトなら許してくれるだろ。きっと、多分、だといいなあ……)

 

 根負けしたリムルは、心の中で軽く(スマン!)と謝りながらフルートを取り出した。太陽光で輝く銀色のフルートは、子供達の目をそれに釘付けにする。

 美しく、よく手入れされたそれの頭管部には細かい傷がついていて、よく目立つ。当然それは子供達の目にも止まり、

 

「リムル先生、何でここだけ傷だらけなんです?」

「うっ……」

 

 ミリムの登場にびびって地面に落っことしたから、なんて言えない。

 

「……色々あって、な」

 

 苦し紛れにそんな事を言って目を逸らす。子供達は適当に理由を想像してくれたようで、それ以上は深く聞いては来なかった。

 それに安堵して、掘り返される前に次の話題へ持っていこうとすると、ケンヤが何かに気付いたような顔をした。

 

「これ、シズ先生の持ってたのに似てない?」

「そういえば……」

 

 思い返せば、シズエは常日頃からフルートを持ち歩いていた。たまに聞かせて欲しいと強請って、少しだけだよと笑って演奏を聞かせてくれた。

 欲しいとワガママを言えば、これは預かり物だから他の人にはあげられないと断られた。

 シズエの意思を継いだというリムルだ。もしかして、このフルートは……

 

「シズさんに、持ち主に返して欲しいと言われてな」

「やっぱり!」

「また聞けるとは思ってなかった!」

 

 嬉しそうにフルートを見つめる子供達。

 彼等にとっては、そのフルートがシズエとの絆の証なのだろう。まるで縁結び――それは子供達とシズエを、シズエとリムルを、リムルと子供達を結び付ける。

 ラフィエル=スノウホワイトは縁結びの神様かもしれないなんて冗談混じりに思う。

 

「先生! フルート聞かせて!」

 

 そんな、縁を結んだ子供達のお願いを断れるわけもなく。

 リムルはフルートを口に運んだ。

 ずしりと見た目以上の重さがあるフルートに口付けると、何だか気分が高揚する。今ならプロにも引けを取らない演奏が出来るのではないだろうか?

 盛り上がった気分のまま、リムルはフルートを吹き鳴らした。

 

「〜〜〜〜♫」

 

 フルートは、鳴り響く。

 涼やかな音色は空気を揺らし――不意に音が割れた。揺れる音、不自然な高音を、それは響かせる。

 

「リムル先生……」

 

 子供達にとって、その音色はシズエのものではない。まったく異なる音色だった。

 そして恐らくだが、リムルの胃袋の中で眠るシズエが聞いたラフィエル=スノウホワイトの奏でた音色とも、全く違うものであろう。

 ハッキリ言ってしまえば、下手くそだった。

 

「…………しょうがないだろ。一回もやった事ないんだから」

「えー!?」

 

 方々からブーイングが上がる。

 フルートを口に付けてからはものすごく自信満々に見えただけに、子供達の期待は重かった。その後のがっかりは大きかった。

 そんな子供達の声はスルーして、リムルはフルートをさっさと仕舞い込む。これ以上、外に出していても意味がない。

 

「ほら、もうピクニックは終わり! そろそろ帰るぞ、日が暮れる」

 

 立ち上がって子供達を促すリムルに文句を言おうとした彼等は、しかし空を見て口をつぐんだ。空は既にオレンジ色――夕暮れ時である。

 よく見なくても、もう帰らなければならない時間だ。ここで文句を言っても怒られるだけで、なんの得にもならない。

 はぁい、といかにも渋々といった様子で子供達はシートやゴミを片付け始める。

 リムルもそれを手伝い、何故か上機嫌なクロエの隣でゴミ袋の口を縛る。

 

「……ん? その歌って」

 

 鼻歌のため、絶対の自信を持って言う事は出来ないが……それは、ある歌のように思えた。あの日に聞いた数曲の中にあったような。

 ラフィエル=スノウホワイトが甘美な声で歌い上げた、あの時の――。

 

「先生! 終わった!」

「あ、おう」

 

 思考はそこで中断される。

 ゴミ袋を持って告げる子供達へ意識を向けて、リムルは立ち上がる。子供達の荷物を持つと、リムルは先導して街へと歩きだした。

 その間にも子供達は楽しげに会話をしていて、それは聞いていて飽きない。この子達が心から笑える幸せな未来がずっと続けばいいのに、とそんな事を考えた。

 数年しか生きられない、異世界から来た不幸な子供がこれ以上増えない事を願う。

 

(あれ?)

 

 笑い合える未来を夢想していた最中、ふと疑問が脳裏を過る。

 

(部屋にフルートなんて、出してたっけ? ずっと仕舞ってたような……)

 

 ――まあ、気のせいか。

 

 リムルの後ろでは、クロエが幸せそうな笑みをうかべて、子供達と笑い合っていた。




一方その頃。

オリ主「なんか、ミリムが『心配しなくていいからな』って言って消えたと思ったら、変な奴(魔王クレイマン)の奴隷になってた。どうしたらいいと思う?」
「笑えばいいと思うよ」

魔王達の策謀についていけないラフィエル君。
知らない所で何かが起こって何時の間にか解決していた。いや欠片も何があったか知らんけど。
後日、知ってる前提で話されたラフィエル君は心の中でそんな事を思ったとか思わなかったとか。

現在のステータス




      全略






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