病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー   作:昼寝してる人

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災厄の前奏曲

 第15話 災厄の前奏曲

 

 イングラシア王国――五人の子供達との別れの日。

 子供達の疾患も良くなり、リムルがこの国に滞在する理由は無くなった。長い間、魔国連邦を開けていた事もあり、リムルは早々に戻らなければならない。

 引き止めるクロエにせがまれ、国を出る際にまたフルートを吹かなければならなかったのは少し苦痛ではあった。

 彼等とは非常にあっさりとした別れ(リムル談)になったのだが……時間をかけると離れ難くなる。それだって、素直なリムルの本音なのだ。

 彼は空間を操るスキルでさくっと魔国連邦まで帰ろうとした。しかし、

 

「……あれ?」

 

 スキルは発動しなかった。

 首を傾げるリムルへ、『大賢者』が広範囲結界に囚われた事を告げる。困惑するリムルの元へ、次はボロボロのソウエイが現れる。

 

「リ……リムル様!」

「ソウエイ!? どうしたんだ、その傷……!」

「これは分身体…。本体は無事ですのでご心配には及びません。それよりリムル様……敵です。それも想像を絶する強さの……! どうか、お逃げくだ――」

 

 ぱしゅ、ソウエイの姿が掻き消える。

 それにより危機感を覚えたリムルの背後に近付く人影。短い黒髪に、武装した姿。

 その姿は、シズエの記憶にあった女性と完全に一致していた。

 

「はじめましてかな。もうすぐサヨナラだけど」

「……何か用事ですか? 俺は冒険者のリムル。どなたかとお間違えでは?」

「間違っていないわ。魔物の国の盟主さん」

 

 その反応に、リムルは身構える。

 自然体で話しているように見えるが、その実彼女は、強烈な殺気をリムルへと放っていた。

 

「君の国がね、邪魔なのよ。だから潰すことにしたの」

 

 剣を構え、リムルを見下す坂口日向(ヒナタ・サカグチ)が告げる。

 

「そういうわけで、今、君に帰られるのは都合が悪いのよ」

 

 

 

 

 

「初めまして、西方聖教会聖騎士団長ヒナタ・サカグチ」

「……へぇ。物知りなのね魔物のくせに」

 

 皮肉なのか律儀なのか、わざわざ挨拶をするリムルに、ヒナタは冷めた目を送る。

 しかし会話を止めるわけにはいかない。状況整理のためには、口は動かさなければ。

 

「あんた達の教義が魔物の殲滅だってのは知ってるよ。で、何で俺が魔物だと?」

「密告があったのよ」

 

 リムルは、イングラシアの王都では常に人型で仮面をつけていた。密告などあるはずがない。それに、尾行している者がいるのならソウエイの分身体が報せてくれるはず。

 一体誰が、西方聖教会へ密告したのか?

 思考するリムルへ『大賢者』が告げる。

 広範囲結界の影響で魔力感知が機能しなくなったこと。知覚は肉体に依存することを。

 まだ戦ってすらいないのに、一気に不利になる戦況。

 

「そろそろ始めていいかな?」

「まず話し合いたいんだけどな」

 

 心の中で冷や汗を流すリムルに、更に『大賢者』が絶望の谷へと背中を押す。

 

《――警告。能力(スキル)各種に広範囲結界からの圧力を確認。魔法系統の能力(スキル)は全て制限を受けます》

 

「話し合う? 私とあなたが?」

 

 ヒナタは穏やかに微笑むと、次の瞬間にはぞっとする程殺意の籠もった目でリムルを睨みつけた。

 

「魔物の言葉に興味はない」

 

 ヒナタの刺突を、リムルが間一髪で躱す。普段であればもう少し簡単に躱せるのだが……体が重いのだ。これが広範囲結界の影響か。

 

「へぇ、よく躱せたわね。この中じゃ思うように動けないでしょうに」

「やっぱりこの結界もお前の仕業か」

「そう。西方聖教会が誇る究極の対魔結界。この聖浄化結界(ホーリーフィールド)内では魔素が浄化されるの」

 

 会話は続く、そして戦闘も変わらず。

 ヒナタが繰り出す刺突を、リムルも刀で受け、防御する。しかし、力も技術もヒナタが大きく上回っている。

 

「魔素を活動源とする魔物は存在維持に力の大半を使わざるを得ない。下位の魔物なら消滅するわね」

 

 ヒナタの剣ごと弾き、リムルはその場から大きく飛び退く。

 両者、武器を構え直して互いを睨む。

 

「さっき消えた君のお友達も本体じゃなかったみたいだけど、結界を組み上げてる私の部下を止めようとして大怪我してたわよ」

「こっちだって仲間が傷つけられて腹立たしいけどな。一応お前のことはシズさんから――」

「頼まれた、とでも言うつもり?」

 

 低く呟かれたその声に妙な迫力を感じる。

 息を呑むリムルに、鋭い睨みを効かせ、ヒナタは突き放すように告げる。

 

「その姿を見れば疑いようもないでしょう? 君がシズ先生と出会い、そして……命ばかりか、その姿まで奪ったという事実を」

 

 大きく息を吸い込んで、ヒナタは殺気をリムルにぶつけた。

 

「――あの傷だらけのフルートが、全てを物語っている」

 

 目を見開くリムルへ、ヒナタは肉薄する。

 先の比ではない素早く、そして何より連続で繰り出されるそれに対処しきれない。

 3撃ほど食らい、リムルは後方へと弾き飛ばされる。

 

(……なんだ!? 痛み?)

 

 ラフィエル=スノウホワイトのフルートについては後回しだ。それは何時だって確認できる。

 それより、と。リムルは胸元を抑える。痛覚無効であるスライムボディに痛みが走るのは、何故か……。

 

「たった三撃? ふぅん……少し甘く考えていたかな」

 

《告。精神体(スピリチュアルボディー)への直接ダメージを確認。耐性『痛覚無効』は適用されません》

 

「……あんまり喰らうとヤバそうだな」

「へぇ、気づいたんだ。七回の刺突で確実な死をもたらす終焉の技に。あのフルートに傷をつけるような間抜けだと思っていたけれど、意外と勘はいいのね」

 

 ピクリ、とリムルはその言葉に反応する。

 リムルが持っているフルートはシズエの遺品であり、本来は魔王ラフィエル=スノウホワイトの所有物だ。しかし、それ本体に特殊な効果はない……はず。

 ヒナタの語り口調では、まるであのフルートが何か特別な力を持っているように聞こえる。

 

「……あのフルートは、魔王のものだろう?」

「ええ、そうよ。正真正銘の悪魔殺しである、聖歌者ラフィエル=スノウホワイトの……ね」

「悪魔、殺し?」

 

 初めて聞く話に、リムルは驚く。

 それに、聖歌者とは一体……あの美しい歌と、何か関係があるのだろうか。

 何かに訴えるように月へ向かって歌う、天使のような少女の姿を思い出す。

 

「彼女が持つフルートは、何のためにシズ先生に渡されたと思う?」

「……さあな。本人のみぞ知る、だろ」

「そうね。そうかもしれないわ。けれど、シズ先生は言っていた――あのフルートは、生き物を殺す力があると」

 

「…………え?」

 

 そんな声を漏らしたのは、リムルか。それとも遥か彼方にある教会に住む聖女か。

 どちらであろうが、リムルが驚愕に目を剥いた事に違いはない。あの美しい少女が、そんなにも物騒なものをシズエに渡していたなんて。

 

「まあ、君は使えていないようだけど」

「本当なのか? それは」

「ええ。出来れば君から回収しようと思って……何処に隠し持っているか、教えてくれるかな」

 

「――断る」

「でしょうね」

 

 ヒナタの剣を、下へしゃがみ込み、躱す。

 

「本当はね、聖騎士団長の私が出るまでもない仕事なの」

 

 上から突かれそうになり、縦回転しつつ避け――そこで一撃。残り三回で、リムルは死ぬ。

 

「私が出向いた理由は一つ。自分の手で君を殺したかったから」

 

 ヒナタの攻撃が、リムルの胸元に入る。これで、あと二回。

 

「……そうかよ。せいぜい悪あがきするさ。素直に死んでやるほどお人好しじゃないんでな。なんなら、そのフルートを使うのもいいかもしれない」

「君には使えない」

「どうかな」

 

 リムルから、火球が放たれる。

 それを余裕の表情で躱しながら、ヒナタは溜息を吐いた。くだらない、そう言わんばかりに。

 

「この聖浄化結界(ホーリーフィールド)で苦し紛れの魔法? 宣言通りの悪あがき……」

 

 ヒナタの背後では、いまだに炎が燃えている。それに気付いた彼女が振り返ると、そこには。

 

「炎の上位精霊……!?」

「イフリート、ヒナタの動きを止めろ!」

 

 刀を収め、リムルは取り出したフルートを振りかぶる。まさに物理である。決して、それが本来の使い方ではないだろう。

 しかしそれは、リムルだって百も承知である。戦いの雰囲気で何か覚醒とかしてくれないかな、という希望的観測でやってみただけだ。

 

「へぇ…。先生に憑いていた炎の上位精霊を使役しているなんてね」

 

 振り向きざまに、一閃。

 あと一回でリムルは死に絶える。

 

「意表をついたつもりかもしれないけど、まだ足りないわよ」

 

 彼女の余裕の態度に、リムルは困惑する。

 イフリートは、聖浄化結界(ホーリーフィールド)の影響を受けない。そのため、リムル以上の脅威のはずだ。

 だというのに、彼女はイフリートを意に介していない……。

 その時、イフリートの様子が変わった。咄嗟の判断でイフリートを胃袋の中へ戻した。

 

《解。イフリートは『強制簒奪』の影響を受けた模様。魔力回路が繋がっていたため、抵抗(レジスト)に成功しました》

 

「……お前、イフリートを奪おうとしたのか」

「正解よ。ユニークスキル『簒奪者(コエルモノ)』でね」

 

 笑って答えを告げるヒナタ。それはまるで、リムルなど敵ではないと言外に示していた。

 

「小細工じゃ勝てそうにないな」

「あら、笑える。勝てる気でいるの? あと一撃で君は死ぬのに?」

 

 煽るように返すヒナタに、リムルは無言のまま走り出す。肉迫し、その姿を半スライム状に変化させる。

 ヒナタも同時に剣先をリムルへと向けて――

 

「死になさい! 七彩終焉刺突撃(デッド・エンド・レインボー)!!」

「目覚めろ、『暴食者(グラトニー)』!!」

 

《了。速やかに実行に移ります》

 

 リムルの指示を受けて、『大賢者』が起動する。

 それは完全なるスライム状へと変化し、そしてまた形作られていく。

 

「……信じられない。少し驚いたわ。七撃目を受けてなお死に抗うなんて。……いえ、やはり既に死んでいるのね」

 

 ヒナタの目は冷静にそれを見ている。

 リムルが今まで喰らってきた魔物を全てを腕や背中から生やした、異形の姿を。

 

「君は最期まで面倒な相手だわ」

 

 その姿を見て、ヒナタは溜息を吐いた。

 リムルを殺す事が一番の目的ではあるけれど、二番目の目的は果たせそうにないと。

 

「……完全に消滅させないと、世界の危機になりそうね。フルートは諦めるしかないわ。――精霊召喚」

 

 幾人の精霊を呼び出し、ヒナタは言葉を紡ぐ。

 最強の攻撃手段であるそれを、発動させるために。

 

「神へ祈りを捧げ給う。我は望み聖霊の御力を欲する。我が願い聞き届けたまえ。万物よ尽きよ」

 

 それの名は――

 

「――霊子崩壊(ディスインテグレーション)!!」

 

 ジュラの森大同盟、盟主。

 魔物の国、ジュラ・テンペスト連邦国、国王。

 リムル=テンペスト――死す。

 

「……敵討ちなんて望んでいなかったかもしれないけど――さよなら…………先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだあれ、怖すぎだろ」

 

 キュートなスライム。

 リムル=テンペスト、(ギリギリ)生存。




一方その頃。

オリ主「なんか凄まじい誤解が生まれてる気がする」
「それね、キミが気づいてないだけで事実なんだよ。キミの世界の悪魔が……ウンタラカンタラ」

フルートは、悪魔による『死歌』の効果がついている。ただしその効果が表れるのは、ジャイアンリサイタル並みの即死演奏の場合のみ。頑張ったら誰でもやれる。
ちなみにラフィエル君には出来ない。

現在のステータス





      前略





 備考:次回か次々回には盛大な勘違いが待っている。聖女、炸裂! ただし外面に限る。

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