病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー   作:昼寝してる人

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魔王誕生

 第17話 魔王誕生

 

 リムルの眼下には、数多の兵が行軍している。

 それはファルムス王国による軍勢であり、リムルが真なる魔王へ進化するための必要な条件(タネのハツガ)である人間の魂一万名以上の生贄(ヨウブン)でもある。

 彼等は魔国連邦へ一方的な宣戦布告を行い軍事行動を起こしている。挙げ句の果てにリムルの庇護下にある魔物達を多数殺害するという暴挙にまで出ているのだ。

 もはやリムルが慈悲をくれてやる義理などない。

 ちょうど、ベニマル達から魔国連邦を覆う結界の魔法装置を破壊したとの『思念伝達(れんらく)』も入った。

 

 ――そろそろ、始めようか。

 

 リムルは大規模な結界を展開させた。魔王クレイマンの配下だった魔人ミュウランから得た大魔法:魔法不能領域(アンチマジックエリア)である。

 これは、ただ単に念の為に施しただけだ。空間転移など、それによる離脱を防ぐために。

 それ以外では、この魔法は必要ない。ただ音色を聞かせればそれで済むのだから。

 魔王ラフィエル=スノウホワイトのフルート。

 それは、その笛を聞いた者を永劫の眠りへと誘う死音。聞く者全ての命を奪う、呪いの横笛。

 リムルの記憶領域からラフィエル=スノウホワイトの可能な限りの情報を解析した『大賢者』によって、それは使用法は判明しているのだ。

 フルートに口付け、リムルはそれに壊れんばかりの息を吹き込む。

 

 たった一楽器にも関わらず、思わず耳を塞ぎたくなるような不協和音が、空気を轟々と揺らす。

 それは勿論リムルの眼下に位置するファルムス王国軍の耳にも入ってゆく。そして――真っ赤な花火が、地面で次々と咲き誇る。

 まさに、地獄絵図。

 阿鼻叫喚と化したそこでは、異形の人間が這いずり回っていた。

 

 脳味噌が爆発し、脳汁を撒き散らしながらじたばたと駄々を捏ねるよう跳ねている者。

 身体が内側から破裂して、あらゆる穴という穴から血を垂れ流しながら発狂する者。

 四肢を欠損し、あまりの激痛にのたうち回る事すら出来ず、涙を流しながら絶叫する者。

 

 ありとあらゆる痛みを一万以上の人間達に与えたのは、たった一つのフルートだということをこの場にいる者で理解しているのはどれ程だろうか。

 吹き鳴らした本人であるリムルは当然把握しているが――それ以外となれば。恐らく、理解できている者などいないだろう。

 ただ何か勘付いたとしても……"微睡みの暴虐者"が生み出した惨劇と酷似している、くらいであろう。

 あの暴虐者が、魔国に味方している――などという勘違いをするかもしれない。実際は、借り物のフルートを吹き鳴らしたに過ぎないのだが。

 

 リムルはフルートを仕舞い、眼下を見下ろす。

 実際の死歌では瞬時に死へと誘うのだが、その効能を付与したフルートでは苦痛を与える事を優先させるようだ。

 確かに苦しんで貰いたいが、復讐よりも蘇生が大事。これで逃げられてしまっては困るのだ。……逃げられるような怪我でも、精神状態でもないだろうが、念には念を入れなければ。

 苦しむ人間達を見て結構すかっとしたので、次はサクサクと殺していく事にしよう。

 そう考えたリムルは、自らが考え出した新型の魔法術式を展開させる。

 物理魔法:神之怒(メギド)

 既に『大賢者』による最適演算は終えており、自在にそれを落とす位置を調整できる。

 よって、リムルは一際立派な馬車や天幕――国王が居そうな場所を除いて、全ての命を蹂躙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファルムス王国国王、エドマリスは目の前の光景が信じられなかった。

 いきなり不快な音色が聞こえたかと思ったら、周りに居た兵の身体が次々と気味の悪いオブジェへと変化していったのだ。

 そして自身の身体にも、それは訪れた。

 ビキビキと身体中の血管が浮き上がり、心臓が激しく動きだす。普段の数倍の血量に血圧。ぶちぶちの体内の血管が耐えきれずに破裂し始めた。

 

「ひ……ひぃいおおおおお!?」

 

 腕から、足から、胴体から……血管の数十ヶ所が破裂し、流血する。

 理解の及ばぬ恐怖に、エドマリスは悲鳴を上げた。それはまるで獣のような鳴き声で、這う這うの体でこの場から逃れようと本能だけで動き出す。

 しかし、それは悪手以外の何物でもなかった。

 エドマリスが天幕から出ようとしたちょうどその時に、リムルは「さっさと殺そう」と攻撃手段をフルートから自作の魔法に変えたのだから。

 

「ヒィ!」

 

 光の乱舞。

 ほんの数回、光が走った。

 ただ、それだけの事。それだけの事だったというのに。

 天幕から外を見てしまったエドマリスは、更なる絶望に身を落とす。

 先程まで醜い声を上げていた己の部下達は皆、一様に沈黙しており……その様子が何よりも雄弁に物語っていた。

 あの光によって、全員が命を落としたのだと。

 恐怖に支配されたまま、エドマリスは頭上から降りてくる漆黒の着物を纏った人物を見上げる。

 全ての事を為したのは――間違いなくこの人物だ。魔王のごとき風格を持つこの者が、この惨状を生み出したに違いない。

 そして、この恐るべき人物に愚かにも刃を向けたのはエドマリス自身であり――

 

「あ、あああ………」

 

 ――心が、折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムルが地上に降りると、そこでふらりと目眩がした。一体なんだ、と苛立ちながら『大賢者』に問いかけようとすると、先を越して世界の言葉が響く。

 

《告。進化条件(タネのハツガ)に必要な人間の魂(ヨウブン)を確認します……認識しました。規定条件が満たされました。これより、魔王への進化(ハーベストフェスティバル)が開始されます》

 

 ふざっけんな、とリムルは思った。

 ぐにゃりと身体が崩れ、スライムへと戻る。そして強烈な眠気がリムルを襲う。

 

(まだ、まだだ。まだ国王を捕まえてない。捕まえておかないと――)

《告。目の前に居る男がファルムス王国国王であると断定します》

 

 え、マジ? ヤバいじゃん。

 リムルは慌てたが、『大賢者』は大して騒ぐこと無く既に戦意は挫いていると告げた。どうやら先程の攻撃で完全に心が折れているらしい。

 ほっと安心したが、まだギリギリ残っていた『魔力感知』に一人引っかかった。生き残りがいたのだ。

 その者はフルートの演奏が終わってからこちらに転移してきたようで、死体に混じって死んだ振りをしている。大魔法:魔法不能領域(アンチマジックエリア)外に転移し、そのまま徒歩で結界内に侵入したのだろう。

 ついでに、国王は目の前にいるが他の豪華な天幕や馬車の中にも生き残りはいる。皆それなりに地位は高いのだろうが、リムルにとってはその命に価値はない。

 

(ちょっとこの眠気なんとか出来ないか?)

《告。魔王への進化(ハーベストフェスティバル)は、途中で停止不能です》

 

 じゃあ仕方ない。

 リムルは相棒の言葉をあっさり受け止め、生き残りについては他の者に頼むことにした。

 影からランガを呼び寄せ、リムルは自分を町まで運ぶよう命じる。ついでに目の前に居るファルムス王国国王らしい男も連れて行く。

 

(あ、そうだ――)

 

 あの生き残り、もしかしたら殺せるかも。

 神之怒(メギド)で虐殺した時、ちょうど手に入れたスキルがあったことを思い出したのだ。

 何人もちまちま殺しに行って貰うより、こちらの方が確実であろう。

 

《問。ユニークスキル『心無者(ムジヒナルモノ)』を使用しますか? YES/NO》

 

 YES。

 死体に混ざって死んだ振りをしている者を除いて、天幕や馬車に居た者は一人残らず死に絶えた。

 残り一人――どうやら心は折れていないようだ。仕方がないので、生き残りは悪魔でも召喚して捕獲してもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い悪魔は歓喜した。

 つい先日、自分を差し置いて偉大なる召喚主(マスター)に召喚された黒の眷属のことなど、すっかり忘れてしまうくらいに。

 身の程知らずにも召喚に応えようとする悪魔を蹴散らして、黒い悪魔は配下二人を連れて顕現する。

 ぷるぷるとしたボディを持つ、尊大な態度の召喚主(マスター)

 ようやく、ようやくこの日が訪れた。

 少し前に黒の眷属にブチ切れて、聖女呼ばわりされている娘に愚痴り倒していた時とは比べられないくらい、喜色満面であった。

 勿論、そんな裏事情など知るはずもないリムルは、魔王への進化(ハーベストフェスティバル)による眠気で頭が回らないまま命令する。

 

「おいお前ら、死んだふりして隠れているヤツが一人いる。そいつを生かして捕らえて、このランガに届けろ」

 

 その言葉を聞いた黒い悪魔は、待ち望んでいた主からの命令に歓喜する。

 シズエ・イザワの死からずっと執着していたスライム――いや、魔王リムル=テンペストから、ようやく存在を認識して貰い、その上命令すら頂いた。

 これ以上の幸福があるだろうか。もう死んでも良い。いや、これから配下の末席に加えて頂きたい。

 そのために、偉大なる召喚主(マスター)が常に気にかけている魔王ラフィエル=スノウホワイトともパイプを作っておいたのだ。

 完璧である。

 必ずその席をもぎとってみせる。黒い悪魔は決意を新たに、歓喜と共にリムルへ挨拶をしようと口を開く。

 

「クフフフフ。懐かしき気配、新たな魔王の誕生。実に素晴らしい! これほどの供物、そして初仕事。光栄の極みで、少々張り切ってしまいそうで――」

「御託はいいから、さっさと行け」

「――ッ!? しょ、承知致しました……」

 

 待ちわびた召喚に饒舌に語っていれば、リムルはそれを遮って言った。人型であれば、しっしと追い払う仕草をしていそうな言い草である。

 黒い悪魔は初めてそんな杜撰な対応をされた事と、随分前から執着していた存在に適当にあしらわれた事にショックを受けつつ了承する。

 恭しく一礼する悪魔を最後に、リムルの意識は闇に落ちた。 




一方その頃。

オリ主「あっ……魔王の指輪(デモンズリング)なくした……?」
「エッ」

ラフィエル君の台詞を真に受けたせいで、身内認定した相手以外には辛辣になったリムル。ディアブロさんにも優しくしたげてよお!
ちなみに現在、ラフィエル君は慌てて指輪を教会の中で探し回ってます。そんな事より反省しろ。

 現在のステータス



       全略





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