病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー   作:昼寝してる人

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舞い降りた聖女/念願の生活を手に入れたかった

 

 第1.5話 舞い降りた聖女

 

 その日、神父は何時ものように起きて、祈りを捧げて、朝の散歩を終えて教会に帰ってきた。

 そして何時ものように教会の扉を開け……そこには絵画のような光景が広がっていた。

 

 純白の聖女。

 

 そうとしか言い表せない少女が、教会の中で祈りを捧げていた。なんと美しく、清廉な女性。その祈る姿をどれだけ眺めていただろうか。数十分、あるいは数時間だろうか。

 はっと我を取り戻した時には、心配そうな顔をした聖女に顔を覗き込まれていた。慌てて挨拶して、自分の先程の醜態に羞恥する。だらしなく口を開けて見惚れていたりはしなかっただろうか。そんな間抜けな顔を、この美しい聖女に見られてはいないだろうか。

 

「勝手に入って申し訳ありません。もしよろしければ、ここが何処なのか教えて頂いても?」

 

 そんな心配は彼女の言葉で掻き消えた。

 ここが何処なのか分からない。それは、記憶喪失と言うやつではなかろうか。では、この聖女は住む所も、食事にも衣服にも困っているのでは?

 それはいけない! このように神に愛されたかのような少女に、そんな苦労をさせるなど神父として、人として許すわけにはいかない!

 

「ここはジュラの大森林近くの草原です。もし宜しければですが…、この教会で暮らしては頂けませんか?」

 

 自分はもう老いぼれ。

 いつ天の迎えが来るかも分からぬ身。故に、この教会と共に朽ちていくのだと思っていた。それでも清掃は怠らなかったが。もし、この出会いが神の思し召しだというのならば。

 彼女に知識を与え、生きる術を教え、そして……この教会をくれてやれと、神は言っているのではないか。

 自分が明日の太陽を見ることができるか分からぬ身であるのも、すぐに彼女へと住処を譲り渡せるからではないか。

 これはもはや、運命としかいいようがない。

 

「え……よろしいのですか? 見ず知らずの私に、そこまでして頂くなんて……」

 

 目を丸くして驚く彼女に、神父は頷く。

 美しい聖女。記憶喪失でありながら、自分の身の安全よりも神々への祈りを捧げた清廉なる聖女。

 彼女へ善意を向けるのは、ただそれだけで理由になる。神々に愛されし乙女。それこそが彼女なのだと、神父は確信していた。

 けれど、きっとこの聖女は理由なくこの待遇を受け入れることが出来ないのだろう。

 

「私はもういつ死ぬかも分からぬ身。それ故に、この教会を朽ちさせることしか出来ません。けれど、貴女がいればこの教会は生きていける。私が死んだ暁には、この教会も差し上げます。どうか、ここで暮らしてはくれませんか」

「そういう事なら……是非もありません」

 

 神父の作った理由に納得した聖女が、微笑みながら了承する。慈愛の笑みを見た神父には、それがこう言っている気がした。貴方の意思と共に、この教会を主を引き受けましょう――と。

 

「あ、貴女の……貴女の、名前は?」

 

 歓喜に打ち震えながら、畏怖と共に訪ねたそれに、柔和な笑みで返って来た単語を舌の上で繰り返す。繰り返し転がしてみる。

 

「ラフィエル=スノウホワイト」

 

 美しい聖女の御名だった。

 

 スノウホワイト様は、よく学び、よく吸収した。知識も技術も、まるでスポンジが水を吸うごとく吸収した。流石は天に愛された御方だ。

 神父はそう感じ、彼女と出会えた幸運を噛み締めた。

 特に、満月の夜。

 その日は彼女にとって特別な日なのか、彼女は満月に向かって歌うのだ。美しく甘美な歌声は、空気を通って辺りの生きとし生ける者の心を揺らす。そしてその歌声が止む時はまるで生まれ変わったような心地になってしまう。

 本当に、その歌を聞けるだけで幸せだと感じてしまうほど…美しいのだ。

 ――だから。

 その歌を聞きながら、美しい聖女を見ながら、ゆっくりと死にゆく事ができる自分は、一体どれほど幸運なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1話 念願の生活を手に入れたかった

 

 いい加減にしてくれよ。オレが一体何したっていうんだ。ちょっと神様怒らせて殺されかけただけじゃないか! 何で訳わからん場所で迷子やらなきゃいけないんだよォ!(半泣き)

 誰か助けてくれよぉぉぉ……!

 内心で号泣しながら果てなき草原を歩き続けること数時間。西側にあった太陽は沈み、そしてまた上りだした頃に、ようやく建物が見えてきた。

 …………。

 教会かよおおおお!! おまっ、これだけ歩いてきて、こんなところにポツンと教会かよおおお! 誰が来るんだよこんなとこにある教会にさあ!

 オレだよ!!(怒)

 いいよ教会でも嬉しいよありがとう。だってもうこれ、無理だもん。教会あるなら人いるだろ、人。聞こう場所。ほんでさっさと帰ろ……。いや別に帰らなくてもいいのか? いやでもオレの将来の為の投資金が教会にあるから帰らないとじゃねぇか。

 早く行こ。誰かにオレの金使われる前に早く帰ろう。足早に教会に向かい、扉をノックする。リテイク。何で誰も出て来ねぇんだよ!!

 出ろやオラァ! いるのは分かってんだよ、はよ開けろよこっちは急いでんだ! 開けろおおお!

 開いた。

 中には誰もいなかった。

 

 嘘だと言ってよバーニー……。

 

 こんなところにポツンとあるんだぜ? めっちゃ綺麗な教会がだぞ?

 誰かいると思うじゃんッ……! いないだなんて、露ほども思ってなかったよお……(泣) これからどうしたらいいんだ……。

 神様、めっちゃ謝るからオレを助けて下さい。世間知らずのオレがこんなところでサバイバル生活だなんて死ぬ未来しかみえない。正直いねーだろとか思っててごめんなさい! 全然信仰心持ってなくてごめんなさい!

 謝るから許して助けて神様!!

 心の中で謝りながら必死に祈っているが、何も起こらない。神様なんていなかったんや……。

 諦めて祈るのを止めて振り返ると、そこにはポカンとした爺さんがいた。 

 ……いたなら声かけろよ! 怖かっただろっ!

 

 ちょっとイラッしたが、ここで人を逃すわけには行かない。必死で媚を売って情報を得ようとしたが、なんとこの爺さん、YOUうちに住んじゃいなYO! なんて言ってきた。絶対嘘やん。太らせて食う気だろ、オレ知ってんだからな!

 なんて思っていたら違った。なんだよ爺さん、自分の命より教会が大事なんて頭おかしいんじゃねぇの? まあオレからすれば万々歳ですけど! なにせジュラの大森林なんて、都ではまるで聞かない地名が出てきたのだ。こりゃちょっとやそっとじゃ帰れんわ。それならここで悠々自適な生活させてもらおうじゃねぇか!

 夢にまで見た食っちゃ寝する生活だ! ひゃっほーう! と思ったらなんか勉強させられた。

 爺さんお前、そんなに教会好きなんか……。そこまでして教会を守りたいのか……。でも思うんだけど、教会守るのに王族とか名前覚えるの必要なくね? やる気でねっすわ……適当に言ったら合っちゃった。爺さんが驚いてるけどマグレなんだよ。次は言えない。でも勉強したくないから黙っとこう。めんご。

 それにしても全然習慣抜けねぇんだけど。朝昼晩の祈りをやらないと落ち着かない身体になってやがる……くっ、あの爺さんの洗脳めっ! ここでもオレを苦しめるか!

 昼飯食いたいけど腹減らないから食えないジレンマ。辛い。オレも昼飯食いてぇよお! 食わせてくれよお! 勉強嫌だよ! ダラダラしたいんじゃあ!

 

 はー……歌お。

 下手くそだけど歌うのは嫌いじゃないんだよなあ。満月に向かって叫ぶように歌うのがめっちゃ好きなんだよね。まあ誰もいない時に歌うんだけど。爺さんが寝たのを確認してからやってっからね。

 だって下手くそって言われたくないし。オレのガラスのハートがブロークンしちゃうし。オレは繊細なんだよ……。

 ところで今日、爺さん起きてくんの遅いな。何時もはオレが祈り終えた時にはもう起きてんのに。ははーん、あの爺さんついに死んだな? まったく年なのに毎日無茶しおるから……。

 

 ガチで死んでた。

 嘘でしょ冗談だったのに何死んでんの。起きろよ爺さん、オレまだ世間知らずのままだよ。まだまだ沢山教える事がいっぱいあるって言ってたじゃん。

 この教会の管理の仕方、まだ最後まで聞いてないよ。早く起きて教えろよ、なあ……。

 オレ、今まで会った人間の中で、一番あんたのこと好きだったんだぜ? だからさ、もっと話聞きたいし、しゃべりたいのに。

 ――何で死んでんだよ、バカヤロー。

 

 爺さんが死んでから数ヶ月経った。

 案外普通に暮らせてる。何でだろ。あん時はめっちゃ悲しかったんだけどなあ。

 ちなみに爺さんは教会の庭に埋めた。良さげな石を探し回って、ちゃんと石碑にした。爺さんの墓に祈るっていう日課が増えた。ぐうたら生活が遠のいたぜこの野郎。ばーかばーか。

 

 なんて現実逃避してきたが、やっぱり無視出来ねぇわ。ほんと、なんか知らんやつが喧嘩してるんだよな。他所でやれよ。

 ピンクの奴と赤い奴が空でドンパチしてやがるんだ。地上の迷惑考えろってんだ。絶対あいつら頭おかしいぜ。だって飛んでるもん。人間って空飛べるものだっけ? いや飛べねぇよ。つまり奴等は人間じゃない……? 怖っ、関わり合いにならんとこ……。

 

 つーかいつまでやってんだよあいつら。ホントもう誰の家の制空権を取り合ってんだ。オレの家の制空権だよ。オレのものだよ。

 ていうか流れ弾に当たりそうで怖いんだけど。恐怖で心が擦り切れそうだ。教会の壁も流れ弾に掠りすぎて擦り切れそう。教会とオレの心に防壁(サンクチュアリ)張りたいんだけど。

 聖典に乗ってる技(例:防壁(サンクチュアリ))って絶対出来ないけど、あったらマジ便利だよね。まあ無いんだけどさ。はー早くどっか行かねぇかなあいつら。

 

 あっ、なんか金色の奴も来た。うっそだろまだ続くの? 飛び入り参加の奴も交えて三つ巴っすか? オレ死んじゃうかもしれない……。

 とか思ってたら、あの金色は仲介しにきたらしく、喧嘩は終わった。全く来るのが遅いんだよ! ナイスゥ! やれやれ、ようやく教会の外に出れるか……と思った瞬間、オレの平穏は再び崩れ去った。

 

「邪魔するぜ」

 

 さっきまでオレの家の上で喧嘩していた赤いのとピンクの、そして仲介していた金色が教会にずかずか入ってきやがったからだ。

 お前らさっさと家に帰れよォ! こっち来んな!




「美しい歌じゃ……」
オリ主「喧嘩売ってんのか?(迫真)」

 もし爺さんが本人に感想を伝えた場合の反応。
 音感死んでんじゃねぇのラフィエル君。君の歌の上手い下手の基準は一体なんなんだ。


 現在のステータス

 name:ラフィエル=スノウホワイト
 skill:ユニークスキル『聖歌者(ウタウモノ)
   ユニークスキル『拒絶者(コバムモノ)
 secret:『悪魔契約』
     『悪魔共存』
     『禁忌の代償』
 備考:『拒絶者(コバムモノ)』の権能で悲しみを拒んだため、大した精神的ダメージはなかった。

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