病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第19.5話 宴の前に
リムルが
しかし――一席だけ、妙におかしい。
一番手前、下座にある席には座布団が敷かれ、膝掛けが用意されているのだ。しかも、円卓にはその席の前にだけ
その席の隣に案内されたリムルは疑問符を浮かべつつ、腰を下ろす。
意識を周囲に向けてみると、ラミリスがおかしな席の前にヒポクテ草を置いてから自らの席へ着いた。
(……? あの席の魔王はいじめでも受けてるのか?)
前世で机の上に花を置くというイジメを思い出したリムルは、困惑気味にそう考えた。が、いくらなんでも能天気なラミリスがそれに加担しているとは思えない。
恐らく、何かしらの事情があるのだろう。まるで理解出来ないが……。
最初からいた魔王ギィ・クリムゾンの観察を終えた頃、新たな魔王が入ってくる。大男――
彼も、リムルの隣の席に茶色の袋を置いてから席に着いた。本当に、このおかしな席は一体誰の席なのだろう。
もしかして魔王クレイマンの席か? ご愁傷様ですの意味を込めてやってるのか?
若干混乱していたリムルだが、どう考えても魔王の考える事など分からないので放置する事にした。
次に会場入りしたのは金髪の美男子――
彼は自分の席へ一直線に進み、ラミリスの隣の席へ腰掛けた。
(あれ? 魔王が全員やるわけじゃないのか?)
おかしな席には目もくれずに席へ座った魔王ヴァレンタインに、リムルは首を傾げる。が、その疑問もすぐに氷解した。
魔王ヴァレンタインの従者であろう銀髪の美少女メイドがどろりとした赤黒い液体の入った試験管のようなものを、その席の前へ置いた。
やっぱり嫌がらせかもしれないと、リムルは思った。
魔王ヴァレンタインというより銀髪美少女メイドの観察を終えた時に入ってきたのは、
彼はどこか高級感のある小石を、おかしな席の前に置くとラミリスの横で立ち止まって絡み始めた。
しばらく談笑した後、ディーノは席に座って眠り始めた。
その後に入ってきたのは
初対面の他人には惑わされなくなったらしい。これにはリムル本人ですら内心驚いていた。
というか、リムルは魔王フレイよりもその従者であろう
どう考えても魔王カリオンだった。
(あのオッサン、何やってんの?)
真顔のままリムルはそう思った。口に出さないように飲み込むのに、信じられないくらい神経を使った。
そして、魔王フレイはリムルの隣のおかしな席には何も置かずに自らの席へ座った。カリオンではない従者も特に何のアクションもない。
その後に魔王レオンが登場し――シズエ・イザワに頼まれた事を口にすると、彼は普通に断り冷静に返した。
そしてリムルの隣の席に錠剤を置いて、そことは逆にあるリムルの隣に座って沈黙する。
(…………こいつも何か置いてったぞ……本当に何の儀式だ?)
《解。
本当に何なの? と放置していた疑問も帰ってきたのでリムルは頭を抱えたくなった。
しかし、今は魔王クレイマンを倒す事が目的だ。この疑問はあとで聞けば良い。かなり気になるが。
そこで、リムルには配下の者達から報告が届いた。魔王クレイマンの本拠地を陥落させ、
その報告を聞き終えた頃、魔王クレイマンと魔王ミリム・ナーヴァが会場入りを果たした。
「さっさと歩け、このウスノロ!」
ミリムを、クレイマンが殴った。
ミリムが、ではない。クレイマンが、殴ったのだ。
逆であれば、それは日常風景である。暴虐のミリムと呼ばれる彼女が暴れるのであれば、普通のこと。
それが何があったのか、ミリムは殴られても返り討ちにせず文句も言わずに席に座ったのだ。
明らかに異常である。
魔王の面々ですら戸惑うような表情を見せている。その中でギィだけは表情を変化させずに口を開いた。
「おい、ラフィーはまだか?」
沈黙が降りる。
全員がリムルの隣のおかしな席へと注目し、困惑気味の表情を見せる。
リムルだけは状況を理解する前に驚いていた。
(えっ!? ここ、ラフィエル=スノウホワイトの席!?)
その通り。
十大魔王が一人、ラフィエル=スノウホワイト。
――堂々の遅刻である。
「ミザリー、迎えに行け」
「はい」
しばらく経ってもラフィエル=スノウホワイトは現れない。
ギィが命令し、ラミリスとリムルを連れてきたメイドが彼女を迎えに行く事になった。
慌てて身支度を整えたのか、現れたラフィエル=スノウホワイトは服装こそキチンとしているものの、髪が少し跳ねていた。
なんというか、まるで
ただのドジか、何か急用で遅れたとか、そのあたりだろうと魔王達は推測した。
「お休みになられていました」
「は?」
「誤解です。私は眠っていたわけではありません。ただ目を閉じていただけです。本当です」
が、ミザリーによって暴露された真実に呆然とする。声を出したのはギィだけだが、他の魔王の表情はほぼ同一だった。
ミザリーの冗談を疑った彼等だったが、ちょっと焦ったような口調で弁解するラフィエル=スノウホワイトを見て、なんとも言えない顔をした。
しかしそれも、彼女だって人間なのだから、たまにはそういう事もあるだろうと納得される。むしろ今まで一度も失敗していなかった方がおかしいのだ。
納得の顔を見せた魔王達に、ラフィエル=スノウホワイトは自分に都合のいい解釈をしたのか、自分の席に向かった。
椅子に座り膝掛けをかけると、目の前に置かれた物を見て眉を下げ、
「毎度言っていると思うのですが――」
「気持ちだろ。貰っとけ」
「そうよラフィー。頑張って育てたのよ、その草」
「我々の気持ちがいらないとでも?」
「
「言っとくけど、突き返されたら俺だって傷付くからね?」
「――有難く頂戴します」
申し訳なさそうに口を開いたラフィエル=スノウホワイトは次々と放たれる押しを受けて、一度口を噤んだ後にそれらの物品を受け取った。
そのやり取りはどうやら
(本当にラフィエル=スノウホワイトって、他の魔王から気に入られてるんだなあ……)
その魔王ラフィエル=スノウホワイトが敵に回るかも知れない――
三獣士の一人であるフォビオの話を思い出し、リムルは気を引き締めた。もし彼女が敵対する場合、古参の魔王は敵に回るかも知れないのだ。
それくらい、彼等はラフィエル=スノウホワイトを気に入っているように見える。
だからこそ、彼女の真意を探り、慎重に動かなければならない。リムルだって、彼女を敵として見たくなんて無いのだから。
カリオンを除いた魔王が全員揃って、ようやく――
第19話 大誤算からの大遅刻
「お迎えに上がりました」
「…………ゑ?」
教会の寝室で惰眠を貪っていたオレは、突然目の前に現れた緑髪メイドに困惑した。ゆさゆさと体を揺すられて起きたのだが、まるで訳が分からない。
嘘です。
わかってる、わかってるよ? この娘はギィのところのメイドで、つまりオレは……今日、予定があったという事だ。
知りませんけど??(真顔)
あのさぁ、そうやって連絡した気になって突撃訪問する奴っているよね。迷惑なんだよ分かってる?
現に! 今! オレが迷惑してるッ!
そもそも何時だと思ってるんですかねえ? あのね、日付が変わって一時間経ってるくらいの時間帯なんですよ。つまり深夜。
草木も眠る丑三つ時。
そんな時間に呼び出そうとしてるんじゃねぇよ! ぶっ殺すぞ、ああん!?(ブチ切れ)
ふざっけんじゃねぇぞ、表出ろや!
思わず枕をメイドの顔面に叩き付けようとした。でも、その前にオレは頭を抱えたくなった。
「
嘘やん。
そんなの聞いてないよ……。誰? オレを騙そうとしているのは!
すみません、
やばいって……! 絶対あの魔王達は激怒ぷんぷん丸だ……死んじゃう(確信)
今日はボクの命日なんだねブラザー……死ねよ(唐突な暴言)
というかこれ今から支度しても完全に遅刻じゃね? こないだ遅刻した新参の魔王がブチギレ魔王にバラバラにされてましたけど?
え? 死にに行けと申すか?
……嫌でござる嫌でござる! 絶対に行きたくないでござる!
助けてドラえもん!! 誰だよドラえもん、無理だろロボットには。
もう駄目だ、諦めよう。現実は非情なんだよ。
オレはじっと微動だにせずに待っているメイドに圧迫感を感じつつ、素早く身支度を調えた。
メイドが出した門を潜り、オレはそっと会場入りする。まだ何で遅れたとか聞いてこないで下さい。
今、考えてるから。殺されないような完璧な言い訳を考えてるから。
「お休みになられていました」
はァ? おまっ、ちょっおまっ、ざけんなよてめぇ! 何ぬかしてくれとんじゃあ!?
「は?」
ほーら、ギィが殺気立ってるじゃん。どうしてくれんのホント?
お前は人の命を何だと思ってるんですか? オレみたいな弱っちい人間はねえ、殺気だけで死んじゃう事だってあるんだから!
お前らみたいな中身ゴリラには分からないかもしれないけれども!!(皮肉)
内心泣きながら、オレは必死に弁解する。
頼むから殺さないで下さい。ほんと、ガチで。何でもするから!
オレの必死の弁明に思うところがあったのか、魔王共はそれぞれ納得した顔を見せた。何だよお前ら、話せば分かるんじゃねぇか(熱い掌返し)
よっしゃ、話が終わったならオレは席につこうじゃないか。
オレは座布団と膝掛けが用意されている椅子に座ると、目の前にいつもの光景が広がっている事にウンザリした。
こんなガラクタいらねぇんだよ……。
「毎度言っていると思うのですが――」
オレは恒例の言葉を吐く。
まあ言ったところで、これが次回から無くなった事なんてないんだけど。
お前ら、オレにこんな嫌がらせして楽しいか? オレは楽しくない。
ふざけんな、死ね(直球)
「気持ちだろ。貰っとけ」
気持ちだけならいいんだよ。むしろ気持ちだけにしてくれ。
こうやっていらねぇモン渡されても処分に困るんだよ。なんなの? 何がしたいの?
「そうよラフィー。頑張って育てたのよ、その草」
草じゃん。
どう足掻いても草だよね。頑張って良く見ようとしても、草じゃねぇか!
お前ね、草なんて育ててどうすんの? 育てるなら、もっとこう……桃とか栗の木とかを育てろよ!
「我々の気持ちがいらないとでも?」
いらないけど?
お前ね、オレにこんな気持ち悪い血液を渡して何がしたいの?
あとオレ、バレンタインに話してるんだけど。お前に言ってるんじゃないんだけど。
「
そうだね! 気に入らないね!
お前この……何? いつも茶色い袋に入ってますけど、いつも中身、黒い塊だよね?
毎度見繕ってるって、お前の目には何が映ってんの? お前の目ん玉はスーパーボールか何かか?
「言っとくけど、突き返されたら俺だって傷付くからね?」
お前に至っては石だよね。
ラミリスは育てた草だからまあ気持ちは入ってるだろうけど、お前は石だよね?
来る途中の道で拾いましたって事だろ、これ。突き返されても文句言える立場か!? お前が一番ダメなんだよ、はっ倒すぞ!!
――が、そんな事を最強の一角である魔王の皆さんに言える訳もなく。
「――有難く頂戴します」
お前ら全員死んでくれ。
言いたい台詞の代わりに、オレは感謝の言葉を吐き出したのだった。
ところで今日の議題って何なの? 場合によっては帰りたいんだけど。
「ラフィエル=スノウホワイトの真意は――?」
オリ主「帰っていい?(本音)」
駄目です(即答)
今まで無遅刻無欠席を貫いていたラフィエル君の突然の遅刻にカリオン以下魔王は警戒を強める。一体何を企んで……!?
ただ惰眠を貪っていただけで、特に深い意味は無い(本人談)
現在のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:カリオンがいない(いる)事と、リムルが隣にいる事には、まだ気付いていない。
▼ラフィエル=スノウホワイト式・贈呈品定め▼
ギィ・クリムゾン――
ラフィエル君視点――お冷や
ラミリス――ヒポクテ草
ラフィエル君視点――雑草
ダグリュール――滋養に良い根菜(全て黒色)
ラフィエル君視点――
ヴァレンタイン――特殊な血液
ラフィエル君視点――消費期限切れの血液
ディーノ――貴重な鉱石
ラフィエル君視点――その辺の石ころ
レオン・クロムウェル――風邪等に効果のある錠剤
ラフィエル君視点――ゴミ(ラフィエル君の世界では錠剤なんてなかった)