病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第20.5話 真実
ギィの配下のレインというメイドが、涼やかな声で
その紹介の時間に、リムルはちらりとラフィエル=スノウホワイトを覗き見る。彼女は手を擦り合わせ、口から吐き出した息をその手に吹きかけていた。
寒そうな姿にリムルは胃袋に毛布か何かがないか探そうとし、その前にミザリーが暖かい紅茶を彼女の前にそっと置いた。
「ありがとうございます」
「いえ」
それに気付いたラフィエル=スノウホワイトが柔らかい笑みを浮かべる。
颯爽と立ち去りギィの元へ戻ったミザリーを見送り、ラフィエル=スノウホワイトは両手でカップを持つ。そのままゆっくりと熱い紅茶を飲んで、ほっと息を吐いた。
その始終を見ていたリムルは、宴はこれからだというのにうっかり毒気を抜かれてしまった。……クレイマンの説明がすぐに始まったので、それもほんの一時だったが。
魔王クレイマン。
彼の説明では、こうだ。
魔王カリオンがリムルを唆し、魔王を名乗るよう仕向けた。そしてファルムス王国を焚きつけ、ジュラの大森林へと侵攻させた。それを迎え撃つべくリムル達に協力を申し出て、人間に手出しした。最後に――ファルムス王国に勝利したリムルが、魔王を僭称した。
それを聞いて不快げな顔をするリムルだったが、流石にここで暴力にうって出るような真似はしない。
一瞬、この机を蹴り上げてクレイマンの顔面に叩き付けてやろうかと思ったのだが、
「――とこの様に、私は証言を得たのです。ですが、それを知らせてくれた私の配下ミュウランは、そこのリムルという痴れ者によって殺されました。そこで私は復讐を決意したのですよ」
そこで一瞬、クレイマンはちらりと伺うようにラフィエル=スノウホワイトを見た。その視線で、リムルは憂鬱になりながらラフィエル=スノウホワイトを最大限に警戒する。
彼女がクレイマンの味方になっている、あるいは共謀している可能性が高まったからだ。
しかし、当の本人はギィのメイド二人にお菓子を差し出され、体に良いお茶を用意されたりと甲斐甲斐しく世話をされていた。
「そこのリムルは、カリオンと共謀して私を殺そうとしていました。ミュウランが最後の力で、私に"魔法通話"で知らせてくれたのです」
感極まったような仕草をするクレイマンに、リムルはイライラしながら小さく舌打ちした。それが聞こえたのか隣にいたレオンが真顔でリムルを見たが、リムルは無視した。
そこまででもリムルを苛立たせるには十分だったのだが、彼の話はまだ続いた。
カリオンが裏切った。それに激怒したミリムが獣王国ユーラザニアを滅ぼし、カリオンは死亡した――
「え?」
そこで小さな驚きの声が上がる。
その声の主は、ラフィエル=スノウホワイト。目を丸くしたラフィエル=スノウホワイトは、クレイマンの隣の空席を見てからフレイの従者を見る。
そして、困惑を滲ませながら沈黙した。
(……知らなかった? 彼女が?)
リムルも彼女と同様に困惑する。
ラフィエル=スノウホワイトが魔王クレイマンと共犯なのであれば、カリオンが死亡しているという報告は受けて然るべきである。
それなのに、それを知らない――そしてカリオンがこの場にいる事に気付きながらも沈黙を守る、という事は。
(ラフィエル=スノウホワイトと魔王クレイマンは、共犯だとしても、その思惑が一致していない可能性が高い)
それはつまり、ラフィエル=スノウホワイトを敵に回さずに魔王クレイマンを潰すという作戦の勝算が高くなる事を意味する。
態度や表情に嬉しさが滲むのを抑え、リムルは魔王クレイマンだけを潰す段取りを立て始める。苛立ちを発散させるための戦闘行為は必須だとして……、やはり何事にもまずはラフィエル=スノウホワイトをこちら側に引き込むべきだ。
そのためには、彼女の思惑の内を知らなければ行動のしようもないのだが――
「ミリムの行動は私を思っての事だったのです。けれど、証拠もないのにそれはまずいと私が窘めました。それ以降ミリムは私を慕ってくれるようになったのです。……彼女からもそう聞いているでしょう? ラフィエル」
「…………そうですね。貴方の言うとおりです」
(――思惑が、読めない)
魔王クレイマンの偽りの供述を、ラフィエル=スノウホワイトが肯定した。その事実は魔王達の信用を、リムルではなく魔王クレイマン側へと寄せた。
場の空気が有利になった事を悟ったクレイマンは、嬉々としてリムルの処分を提案し始めた。渋い顔をするリムルが、悔しく思っていると勘違いしたのだ。
実際は、ラフィエル=スノウホワイトの考えがまるで分からない自分にムカついていただけなのだが。
「以上で、私の話は終わりです。これで皆様にも御理解頂けたと存じますが、そこのリムルなる卑小な魔人は、魔王を僭称する愚か者。粛正するのがよろしいかと――」
その言葉で締めくくったクレイマンは、かなり上機嫌だった。何もかもが自分の計画通りに進んでいるからだ。
古参の魔王は、どういう訳かは知らないが魔王ラフィエル=スノウホワイトに関しては全幅の信頼を置いている。そこを突いたのだ。
自分が言った通りの事を言うようミリムに命令し、ラフィエル=スノウホワイトがその問答に関しての事をYES/NOで答えるようにラフィエル=スノウホワイトとの会話を誘導する。
そうすれば、ラフィエル=スノウホワイトは不信に思っても真実であるYESとしか答えられない。彼女は、嘘の吐けないという聖女の特性を利用されたのである。
「それでは次に、来客よりの説明となります」
「一番最初に聞いておきたい事がある」
リムルからの説明へと移ろった時に、彼はラフィエル=スノウホワイトの思惑を見破り行動するという行動方針を転換する事にした。
簡単に神算鬼謀をめぐらす魔王の相手などしていられないのだ。腹の探り合いやら駆け引きなど、そんな七面倒くさいものはくそ食らえ。
長々と語ってやるつもりなんて、毛頭ない。そもそもクレイマンの話が長すぎるのが悪いのだ。
そんな言い訳をどこぞの誰かに向かってしつつ、リムルはラフィエル=スノウホワイトと視線を合わせた。
「ラフィエル=スノウホワイト。お前の目的は何だ?」
「……目的、ですか? それは――何故?」
「俺はお前を敵に回したくない。が、クレイマンは潰す。それは決定事項だが、お前の思惑が分からないから迂闊に動けないんだ」
ほぉ、と感心したような声が、何処からか漏れた。
直球でラフィエル=スノウホワイトに問いかける……それは、彼女にとって最もやりづらい事なのだという事を、古参の魔王達は知っている。
だからこそ、リムルの行動に感心したのである。ああやってみせれば、ラフィエル=スノウホワイトははぐらかす事が出来ない。
それは本人が眉を寄せて唇を引き結んだその顔が、しっかりと物語っているのだ。
「…………。………、……ありません」
「は?」
「目的なんてありません」
紡がれた言葉は、リムルではなく他の魔王ですら絶句した。その言葉は確実に嘘だ。
聖女である彼女は、嘘をつかない。だというのに、彼女はそんな事を言うのだから。
ぷいっと顔を背け、これ以上は何も言わないと宣言するように黙りこくる。その姿に、リムルは追求しようと口を開く、が。
《告。重要な報告が発生しました》
(……何だ?)
《命令されていたラフィエル=スノウホワイトの教会付近に張られた異空間の『解析鑑定』が終了しました。それに付随して行っていたラフィエル=スノウホワイト本人の解析結果によって判明した事を報告します》
思考加速を行い、リムルは
《前回の
(……病弱の聖女、か)
《しかし、異空間の維持には膨大な
その報告に、リムルの顔色は悪くなる。
まさか、とは思うが……いや、そんなことはない。ラフィエル=スノウホワイトは最強の魔王の一角。そう簡単には、……死んだりしない。
《個体名:ラフィエル=スノウホワイトの生命力は既に一割を切っています。あと数年もしないうちに死亡するでしょう》
(――――ッ!?)
《異空間には『解析鑑定』を
それは、つまり。
今回、彼女が積極的に事件を掻き乱したのは――!
《解。間違いなく、異空間についての隠蔽を確実に行うためでしょう》
ああ、もう。
助けたいと思った少女は、誰にも救いを求めようとしないまま死にに行こうとしていた。彼女が無意識だとしても、救いを求めている事は分かっていたのに。
それなのに、自分がやった事は彼女を疑うことだけだった。自らは彼女に救って貰っておきながら。
(……本当に、馬鹿だ)
決意しておいて、シズさんに約束しておいて。
何も出来ずに、壊れそうな程優しい少女を死なせてしまうところだった。
そんなこと、絶対に許されるはずがない。
彼女には幸せになる権利がある。たくさんの人を救ったのだ。不幸な死なんて、させるものか。
必ず助ける。
絶対に、一人でなんて逝かせない。
「異空間……」
もう、それをなしにして生きていたって、いいだろう。ずっとずっと、命を削ってきたのだから。
リムルが零した言葉に、ラフィエル=スノウホワイトが驚いたような顔でリムルを振り返って、見つめた。
どうして知っている、そう言わんばかりに。
だから返す。
彼女の思惑を全てぶち壊すために。
「隠蔽なんてさせてやるかよ。クレイマンを潰したら、お前は俺の国に連れて帰る」
「…………へ? な、何を?」
目に見えて動揺するラフィエル=スノウホワイトを視界から外し、リムルは胃袋から取り出した水晶球を円卓に転がした。
その水晶球はとある映像を記録したもので、魔法効果を発動させてやれば再生される。それは間違いなく魔王クレイマンの偽証を証明するものだ。
「魔王クレイマンを倒して、俺は新たな魔王になる。それに異論はあるか?」
「なっ!? 貴様――」
「ふっ。いいだろう。クレイマンを倒せたのなら、お前を新たな魔王として認めてやる――が、一つ条件だ」
魔王クレイマンを潰すなんてさっさと終わらせてやる。今はこんな奴よりも優先したい相手がいるのだから。
早くしないと手遅れになってしまうかもしれないのだ。
魔物の世界は弱肉強食。
ならば、口先でどうこう言うよりも腕っ節で証明した方が良い。その考えで、リムルはクレイマンの証言を水晶球一つで口論を強制終了させて告げたのだ。
そして、その考えは間違っていなかった。クレイマンは憤慨していたが、ギィは楽しげに笑みを刻み了承したのだ。
「条件?」
「お前が知った事を教えろ。ラフィーに関することだろ? お前らもそれでいいよな」
ちらりとギィが魔王達を見る。
一斉に視線がラフィエル=スノウホワイトとリムルの間を行き来し、頷く。どうやら異論反論よりも好奇心が勝ったようだ。
クレイマンだけが何か文句を言っていたが、唯我独尊やマイペースを地でいく魔王の耳になど入らない。
既に舞台は出来上がったのだ。
(まあ……こんなに簡単に事が進んだのは、ラフィエル=スノウホワイトの効果だろうけどな)
心優しい聖女は、傍若無人の魔王達の心さえも掴むのだ。末恐ろしい事に、本人にはまるで自覚がないのだが。
第20話 不安は遅れてやってくる
あー帰りてぇな。
ていうかオレさ、ここに居る意味ある? ないよね? アッじゃあ帰りますね(笑顔)
駄目でした。ちょっと腰を上げようとした瞬間、ギィに何してんの? みたいな顔された。帰ろうとしているんだッ!!
そもそもここ寒いよ。オレだけ座布団と膝掛け用意して貰ってる手前文句は言えないんだけどさ……。
この時間にやる意味ある?(真顔)
こんな深夜にやってたら風邪引いちゃうだろうが! オレの体の弱さを舐めんなよ!? 倒れても誰かが責任とってくれるんだろうなァ!?
……やっぱいいです。魔王に責任とられたら、オレ、もっとお腹が痛くなる気がするから。魔王ってほんと、存在するだけで害だよね。消えてくれ。
ガタガタと寒さに震えながら脳内で文句を言いまくっていると、ギィのメイドが温かい紅茶を入れてくれた。ありがとうございます!
ごくごくと飲んで、なんか舌が痛いなと思ったら火傷してた。どうしてくれんの?(責任転嫁)
痛くてクレイマンの話にまるで集中出来ない。あ、そうだ。お冷やがあったよねそういえば。飲んだら痛みがすっと引いた。すごい流石お冷やすごい。
ここでようやく一息ついた。ていうか寝起きに来たからお腹空いたな……もう
帰って果実食べて寝たい(本音)
クレイマンの話をBGMに、もうこのまま寝そうだと危機感をビンビンに感じていたちょうどその時、ギィのメイド二人がケーキやお菓子を持ってきた。
何だよお前ら、今日はやけに気が利くじゃねぇか! あっ、これパサパサして美味しくないからいらねぇわ(失礼)
お茶とお菓子で眠気が飛び、頭が覚醒したオレは、ようやく真面目にクレイマンの話を聞く事にした。なんでもカリオンが死んだらしい……え?
「え?」
思わずカリオンの席を見る。いなかった。エッ嘘、あいつマジで死んだの? 知らなかったんですけど……何で誰も教えてくんないんだよ!?(自業自得)
……
もういい、お前らの話なんて聞かない。
どうせ聞いてても分からないしな。もういいよどうでも……え?
カリオンの席から視線を外した瞬間に目が合った。
これ黙っとかなきゃ駄目なやつ? 正直、全力でおちょくりたい。でもそんな事したらマジギレからの惨殺でジエンドなので絶対にやらない。そもそも表情と口が言うこと聞いてくんないしな。
「ミリムの行動は私を思っての事だったのです。けれど、証拠もないのにそれはまずいと私が窘めました。それ以降ミリムは私を慕ってくれるようになったのです。……彼女からもそう聞いているでしょう? ラフィエル」
……え?
え、あ、な、何? 全然聞いてなかった。カリオンに気をとられてて……。何でお前オレに話振ってくるんだよ!(逆ギレ)
ふざけんなよお前! お前の話なんか知らん! 聴いてなかったからな!
いや、ほんとどうしよ。めっちゃ注目されてるじゃんか。クレイマンお前だけは絶対に許さない死ね。
「…………そうですね。貴方の言うとおりです」
何を返せば正解なのかが全く分からない。
そんな時にはとりあえず同調しておけば会話らしくなるって、オレ知ってるんだ。実際、今回もこれで何とかなった。完璧だな!
なんて思っていたのが悪かったのだろうか。
クレイマンがターンエンドし、リムルとか言う魔人……あれ? どっかで見たような……?
……お前あん時の属性てんこ盛りスライムじゃねぇか!! え? お前のせいで今回の
オレはなぁ、
ギルティだ、ギルティ! お前の罪を数えろォ!
「それでは次に、来客よりの説明となります」
「一番最初に聞いておきたい事がある。ラフィエル=スノウホワイト」
ほんともう勘弁して(涙目)
何なの? 魔王(自称含む)って皆オレのこと嫌いなの? いい加減にしろよ! 弱い者いじめは駄目だってママに教わらなかったのか!? オレは爺に教わったぞ!
「お前の目的は何だ?」
「……目的、ですか?」
何の事?(真剣)
確かに魔王を殺したい、世界滅べ、人類など死に絶えるが良いとは常々思っているが目的ではないし。むしろ願望だから目的とはまるで違う。
というかこれ、他人に知られてたら普通に死ねるんだけど?? 知らないよね? 知らないって言って!
「(そ、)それは――何故(知りたいんだ)? (本当は読心術でオレの本音を知ったからとか……?)」
読心術とかこの世界にあるなら、オレはもう生きていけない。死ぬ。
というかオレ、こいつと会ったのあの時が初めてだよね? もしかしてあんだけ泣いてたのにオレの心を読心してたん? 泣いた。
「俺はお前を敵に回したくない。が、クレイマンは潰す。それは決定事項だが、お前の思惑が分からないから迂闊に動けないんだ」
何を言っているのか分からない。
オレだって他人を敵に回したくなんてないよ。ていうかクレイマンを潰すなんて……オレの関係ないところでなら勝手にやってくれ。
オレに害がないなら問題ないから。じゃあなクレイマン。惜しい人を亡くした……。
…………注目は集まったまま。え? 何で!?
オレ何か忘れてる? 何か聞かれた? 待って、思い出すから待って!!
も、目的? まだその話やってたの? ええ……。
「……ありません」
「は?」
「(いや、だからぁ!)目的なんてありません(って言ってるだろ!)」
何回言わせんだ!!(半ギレ)
ムカついたので顔ごとリムルから背けてやる。大体お前、オレに目的があったとしてもお前に何か関係あんの? ないよね。
はー……おうちかえりたい。
ちゃんと話が通じないよ……いや、他の魔王よりは断然通じるんだけどね?
やっぱり人と話すって面倒くさいな(コミュ障)
「異空間……」
はい? 何で教会の話が出てくんの?
びっくりしてリムルへ振り向くと、リムルは何故かものすごく真剣な顔でオレを見ていた。
「隠蔽なんてさせてやるかよ」
……!?
はっ、えっ、なっ……え!?
な、何でお前、オレが
「クレイマンを潰したら、お前は俺の国に連れて帰る」
「…………へ?」
それはつまり、ブチギレって事ですか?(半泣き)
古参の魔王であるオレが、魔王の証とも言える
そりゃそうだよね、自分がこれからなる予定の魔王にオレみたいなのがいたら怒るよ。
だが聞いて欲しい。
望んでなった訳じゃないんですけど??(真顔)
オレを責めるなら、オレを魔王にしやがった三人を責めて貰おうか!
「絶対、助けるから」
「な、……何を?」
というか、何から?
するりとオレの頰を撫でていったリムルの視線は既に別の方へと向いている。
なんか妙に真剣な顔してたけど……、…………もしかしてオレ、本気で何かやばかったりする?
「絶対に死なせない」
オリ主「もしかして、オレやばい?」
おめでとう!!(歓喜)
ようやくラフィエル君、他人と普通に意思疎通が出来るようになったね! そしてようやく現実を少しでも見てくれてありがとう!
ちなみに『解析鑑定』を
現在のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:他人に対してだけ怖がってたラフィエル君。そろそろ自分の