病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第22話 少女の秘密
可も無く不可も無く、その戦闘は終わりを迎えた。
ある世界線のように途中でミリムが「ワタシを操るのは無理なのだ!」なんて言い出したりしなかったし、カリオンが「おいおい誰が死んだって?」と登場してきたりもしなかった。
ただ単純に、操られた(フリをしている)ミリムの相手をヴェルドラに任せ、配下には配下を当たらせ、リムル本人はクレイマンをフルボッコにした。
リムルがラミリスの世話を任せたベレッタは、参戦しようとしたもののギィに理由も聞かれず却下されていた。
その戦闘は、完全にリムル陣営の者達だけで成立していて、クレイマンは完全敗北を喫したのだ。
それは偏に、ただ心優しい少女を救うため。
他者のためにその身を削り、全てを隠してその命の終焉を迎えようとしていた儚い少女を救うため。
彼女には、もう時間がほとんどない事を知っていたから、出来るだけ早く戦闘を終わらせたのだ。
少しでも目を離せば、その姿を眩ませてしまうような気がしたから。
クレイマンを『
その顔色は酷く悪く、汗が噴き出している。何処からどう見ても体調が悪い。
真っ青になったリムルを不信に思った魔王の面々も、その視線の先を見て騒ぎ出した。
「ラフィー!? おい、大丈夫か?」
「これ、クレイマンとかカリオンとか言ってる場合じゃないよね?」
「なんでもいいから寝かせるのよ! あと水! 水を飲ませるのよさ!」
がたんと音をたてて立ち上がったギィを筆頭に、それぞれ魔王達がうろうろと無駄に彷徨ったり心配そうにラフィエル=スノウホワイトの顔を覗き込んだりと忙しなく動き始めた。
ラフィエル=スノウホワイトを乱暴に扱った前科のあるギィをラミリスが蹴り飛ばす。そしてベッドは何処にあるのかをギィに問いかけた瞬間、どすんと音が響いた。
彼等が音に気を取られた瞬間に、リムルは魔王達の間を縫って魔王の壁を通り抜けると、ラフィエル=スノウホワイトを抱き上げた。そのまま元いた場所まで戻り、先程『胃袋』から出したベッドに寝かせる。
流れるように、同じく『胃袋』から出した濡れタオルを額に置いて栄養補給液(テンペスト産)を飲ませる。
小さく喉が上下したのを見て、リムルはようやく安堵の息を吐き出したのだった。
「すげーな……」
「俺達が右往左往してたのはなんだったんだよ?」
「流石はリムルなのだ!」
「まあそうよね。アンタなら何とかするってアタシも分かってたわよ? …………あれ? ミリム?」
「え?」
「えっ?」
リムルの完璧な介抱に、魔王達が尊敬の眼差しを送ったのも束の間。
当然のように会話に混ざっていたミリムを見て首を傾げたラミリス。全員がミリムを見つめ、「え? さっきまで操られてたよね?」と言わんばかりの表情を見せる。
ラフィエル=スノウホワイトがベッドで眠った事に一安心したのか、ミリムはふふんと胸を張って告げた。
「ラフィーには言っていたのだが、操られたフリをしていたのだ! クレイマンのあの方とやらがラフィーを狙っているらしくてな、それを探っていたのだぞ?」
「あん? クレイマンの野郎、ラフィーに手を出そうとしてやがったのか?」
「うむ。まあラフィーのアレは知らないみたいだったのだ」
「知ってたら手を出そうとはしねーだろうよ」
ミリムとギィの会話の応酬には、頷く者と首を傾げる者とで反応が別れた。第二世代以前と以降で、知識に差があるのだ。
ラフィエル=スノウホワイトが何故、"微睡みの暴虐者"と呼ばれているのかを知っているか否か。
ただそれだけの差ではあるが、それを知ると知らないとでは大きく違う。知っているからこそ、彼等は彼女に対して信頼を置けるのだから。
無論、シズエやリムルといった例外もいるが……まあそれは例外でしかない。
「しかし、ラフィーにも困ったもんだな。こいつが遅刻とは何事かと思ったが、体調が悪いのに無理して来やがったか。遅刻したのは直前まで休んで隠し通すつもりだったんだろうよ」
「全くなのだ! ただでさえ身体が弱いのに、ワタシに黙って無理をするとは信じられないのだ」
いや、別にお前に言う必要なんてないよね? という言葉が口から出かかったギィだったが、言えば言ったで面倒臭くなるのは分かりきっていたので黙り込む。
そして、魔王達をスルーして、真剣にラフィエル=スノウホワイトを眺めているリムルを横目で見やった。
何に気付いているのか、じっくりと聞くつもりではあるが、その前にやることが一つ。
「で、カリオンにフレイ。お前らは何を警戒してやがるんだ? 体調を崩してるラフィーを睨む理由を聞かせて貰おうじゃねーか」
「え? カリオン? どこに居るのよ?」
「…………」
本気で言っているおとぼけ妖精を無視して、ギィは
その隣にいるフレイも、内心で苦々しく思いながらも、外面では優雅に取り繕っていた。
「……一つ聞かせて貰える?」
「言ってみろ」
「何故、古き魔王の貴方達はラフィエル=スノウホワイトにだけ、そこまで親身になるのかしら」
妖艶な微笑みを浮かべつつ、フレイは油断なく周りを見据えて問いを投げかけた。
「ハッキリ言って、異常だわ」
このまま命を落としても不思議ではないくらいの言葉だったと、フレイ本人ですら理解している。だからこそ、隣にいたカリオンは驚いた。
彼女は自分の命すら、この質問という名の賭けのチップにしているのだ。
カリオンは息を飲み、彼女の優雅な横顔に見惚れた。それと同時に、彼も覚悟を決めた。彼女がここで殺されるのなら必ず自分が守ってみせると。
例え、己の命を散らしたとしても。
「――ああ、そうか。端から見りゃ、そう思われるか」
そんな悲壮な覚悟を決めていた彼等は思い切り肩透かしを食らった。彼等の目の前に、納得したような表情で頷き合っている魔王達の姿があったからだ。
「そういや俺も、ギィやミリムが世話してるのを見た時は正気を疑ったよね」
「うむ。本人と少しでも腹を割って話さない限りは勘違いしても可笑しくはないだろう」
「本物の善人が存在するなど、ラフィーを見ないと信じられぬものよな」
ディーノを起点として、古き魔王達が和気藹々と話し始める。昔はああだった、こんなことがあった、と互いにラフィエル=スノウホワイトと接して起こった事を語り合う。
そんな光景に、カリオンとフレイは言葉を失って立ち尽くす。
魔王同士がこんな風に笑い合っている姿など、見たことがなかったからだ。
「質問の答えはこれでいいだろ? さっさと話せ、時間が押してるんだからよ。ラフィーの体調だって芳しくない」
「…ええ。事の発端は、ラフィエル=スノウホワイトがカリオンを嵌めて襲った事よ」
「あ? ――それ、本当にラフィーだったか? 瞳の色は?」
フレイの言葉に首を捻り、暫く後にギィはほぼ正解に近い答えを導き出していた。
ラフィエル=スノウホワイトが、そんな事をするわけがない。そんな確信があったからこそ、彼はそこまで辿り着けたのだ。
しかしギィのように導き出せる存在は少ない。話を聞いていたカリオンは眉を寄せて口を挟んだ。
「俺が嘘をついていると?」
「お前の勘違いだって事なのだぞ、カリオン。恐らくお前を嵌めたのは、忌々しいアレに違いないのだ」
不快げにそう言ったカリオンに返したのは、ベッドの傍でリムルやラミリスと共にラフィエル=スノウホワイトを見守っていたミリムだった。
ラフィエル=スノウホワイトの左手を握りながら、ミリムは指を立てて説明する。ギィやラミリスを筆頭とした――古き魔王と口裏を合わせた嘘をつく。
「ラフィーにはそっくりさんがいるのだ。それの性格はこの世の悪を煮詰めたような醜悪さでな、ラフィーとは違う血のような赤い瞳が特徴なのだ。――お前を嵌めた奴は、赤い瞳をしていただろう?」
「それは……確かに、そうだが――。なら、何故隠していたんだ、ミリム?」
「ラフィーかどうかを疑って、ラフィーを襲う輩が出ては困るからな」
その理由に納得は出来なかったが、理解は出来た。ここで食い下がったところで意味は無い。カリオンはそこでがしがしと頭を掻いた後に溜息を吐き出した。
色々とあったが一応は親しいミリムと、自分が認めた魔物の国の主であるリムル。
双方が入れ込んでいる上に体調を崩している少女に、これ以上疑い続けるのは止めた方が得策であろう。
それは、フレイも同様。彼女も眉間を押さえながら、「……そう、わかったわ」と返していた。
「だがミリム。俺の国をぶっ壊してくれた件に関しては後でじっくり話して貰うからな」
「むうっ!? カリオン、ラフィーに比べればそんな事はどうでも良かろう!?」
「良くねーよ!!」
「二人の件が片付いたなら、本題だ」
ギィはそんな喧嘩は無視し、強引に話の主導権を奪う。体ごとラフィエル=スノウホワイトが眠るベッドへ視線を向けた。
「新たなる魔王、リムル=テンペスト。お前はラフィーの何を知った? ――答えろ。嘘を吐く事は許さん」
じっとラフィエル=スノウホワイトを見つめていたリムルの伏せられた瞳が、顔を上げたことで露わになる。
ゆっくりと上げられた視線が、ギィの視線と交差する。お互いに譲らない沈黙が数秒続き、リムルが意を決したように口を開いた。
「単刀直入に言う。ラフィエル=スノウホワイトは、このまま俺達が何もしなければ、数年以内に死亡する」
――空気が凍った。
そう錯覚してしまうくらいに、その場には恐ろしい程の殺気が渦巻く。それを放出しているのはギィだけではなく、古き魔王達も同様である。
その殺気に応戦の構えを見せる配下のシオンとランガを手で制し、リムルは無言のまま、じっと彼等を見据える。
「嘘なら殺す。……続けろ」
「ああ。ラフィエル=スノウホワイトの住む教会の周囲には結界――本人は異空間と呼んでいるものがあるのは知ってるか?」
続きを促したギィに頷き、いまだ殺気が支配する空間でリムルは話す。ここで怖じ気づいてしまったら、彼女を助けられないから。
ここを乗り切れないくらいでは、きっと優しい少女が無茶をした時に止められない。この程度、鼻歌交じりに潜り抜けられるくらいにならなくては。
「知ってるぜ。たまに迷い込む人間もいるんだろ」
「そう。それこそが、異空間の本質なんだ。異空間は、迷える人々を導き救うために作られた。そして、それを維持するためには――」
「――ラフィーの
正確な理解を示すギィに、リムルは頷きで返す。
ラフィエル=スノウホワイトならばやりかねない――そんな思いが籠もった溜息がそれぞれの口から吐き出される。
その場の空気は弛緩するとまではいかないまでも、凍るような殺気は収まった。
「なるほど……、ここ最近のラフィーはおかしな動きをしてると思ってたんだ。ようやく合点がいったぜ」
「え? どういう事よ、ギィ?」
「あいつの
その言葉にはっとして、カリオンは記憶を探る。
ラフィエル=スノウホワイト(偽)にやられて一度は国に帰ったが、その後に会った彼女を思い出す。
どこか疲れたような顔で、何度も目をこすっていた。応答だって、変に違和感があった。
唖然とした顔を見せたカリオンに確信を強めたギィは、リムルに視線を戻した。
「――だが、それならオレ達が最初に気付いたはずだ。何度もあそこには足を向けてるからな。何故オレ達が気付かず、お前だけが気付いた?」
「迷える
その言葉を聞いた者達から、ギリギリと奥歯を噛み締める音が漏れた。
何も知らないままに、自分達の大切な少女が死んでしまうところだったのだ。己の力不足を呪ってしまうのも無理はない。
それぞれの呪詛を聞き流し、ギィは呟いた。
「ラフィーが今回の
過ぎた献身も考え物だ。
憂い顔のギィはとことん絵にはなるが、この場合はどうでもいい。
考えを切り替え、ギィはリムルに問いかける。
「ラフィーを死なせないためには?」
「異空間を消して、またあの異空間を出現させないように見張っておく必要がある。異空間さえなければ、生命力は削られないし、徐々に回復するはずだ」
「――つまり、ラフィーを引き取って面倒を見れば良いわけだな。よし、その役目オレが引き受けてやるよ」
先程とは比べ物にならない殺気がギィを襲った。
一部を除いた古き魔王達が凄まじい形相でギィに睨み付けながら、殺気を叩き付けているのだ。
「馬鹿を言うな! ラフィーの面倒なら、ラフィーの唯一であるワタシが見るのだ!」
「ちょっと!! ミリムなんかに任せられる訳ないでしょ? アタシが見てあげるわ! ベレッタもトレイニーもいるしね!」
「待て、それなら妾の――ロイ、必ずぶんどってくるのじゃ」
「御意。……私のところには
うっかり口出ししてしまった者もいるが、とにかく荒れに荒れる。
今にも戦闘が始まりそうな険悪な空気に包まれたその場は、鶴の一声で終焉を迎えた。
「なあ、俺の国に来るよね?」
「……そ、そう、ですね」
喧騒によって起こされた、顔色の悪いラフィエル=スノウホワイトが、リムルの言葉に頷いたのだ。
オリ主「ヴェルドラならオレの隣で寝てるよ」
「この雰囲気の中で寝る普通?」
殺人を目の前で見てしまったラフィエル君、起きたらその犯人に「来るよね(圧力)」されてしまい、ガクブルしながら言いなりになってしまった。
しょうがないね!!
現在のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:脱・引き篭もり計画が始動された。