病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
だって勇者の話が三話もあるんだからさ……しょうがないね。
或る勇者の話①
第25.5話 邂逅
魔王を名乗れば、因果が巡る。
それは、自称でも他称でも関係などない。それは、勇者でも同じ事。
勇者には、魔王には、必ず対となる者が存在する。
そう――ラフィエル=スノウホワイトでさえも。
彼女が、対となる勇者に出会ったのは、ざっと数百年ほど前の事だ。
ラフィエル=スノウホワイト。
訪れる先々で国を滅ぼしてまわる、災厄の魔女。微睡みの暴虐者たる、少女。つまりは、絶対悪である。
滅ぼされた国々の怒り、嘆き、悲しみ。それは、どれ程のものになるだろうか。残された家族は、どんな思いで生きているのか……あの魔王は知っているのか?
いや、知っていたところで、許されるはずがない。あんな理不尽な暴虐の化身を生かしておいてなるものか。あれは、必ず抹殺してしまわなければ。
それが人類のためだ。
――とある勇者は、そう考えていた。
"微睡みの暴虐者"ラフィエル=スノウホワイト本人と出会うまでは。
その勇者は、過去に魔王によって家族を殺されていた。魔王に、というよりは……魔王の攻撃の流れ弾、あるいは余波で、というべきだろうが。
故に、勇者は魔物の善性を信じない。たとえ、ラフィエル=スノウホワイトが"病弱の聖女"と呼ばれて敬愛されていようと、だ。
けれど、何故だろうか。
あの魔王には、敵意を向ける事が出来ないのは……。剣を向ける事が、出来ないのは。
ラフィエル=スノウホワイトの居城――教会のある異空間へ赴くためには、ある手順を踏む必要がある。その手順を知るのは至難の技だが……裏を返せば、知ってさえいれば、何処からでもあの魔王の元へ行ける、という事だ。
そして、勇者は長い時間をかけてその手順を知るに至った。歩数、歩幅、道の曲がり方、曲がる方向、ある歩数で扉を閉開する回数。
その全てが、ラフィエル=スノウホワイトが設定した基準を満たした時だけに、異空間へと辿り着けるのだ。
「ここが……魔王の教会」
森に囲まれた円状の草原地帯。そのど真ん中に、白亜の教会が佇んでいた。
爽やかな風が勇者の頰を撫で――泣き声が、風と共に耳へ届く。一瞬で顔を強張らせ、勇者はその場から駆け出す。
やはり聖女と言われても魔王は魔王。これだから魔物は、許されない。
この誰かが助けに来るはずもない異空間で、罪なき人々を甚振って愉しんでいるに違いない。ああ、下衆が!
ギリギリと奥歯を噛み締めて、勇者は教会の裏手へ回った。そこにいたのは、間違いなく魔王ラフィエル=スノウホワイトに相違なかった。絵画で出回るその姿と一切の違いはなく――
「ええ、今までよく頑張りましたね。大丈夫、きっと神は貴方をお見捨てになどなりませんよ」
「うっ、ふぐっ……う、あああ……」
――そこにいたのは、泣きながら魔王に縋り付く幼子だった。
幼子は、その瞳から大粒の涙を溢れさせ、鼻水まで垂らしながらも号泣していた。言葉にならない、意味をなさない声を発しながら、ただただ泣き続ける。
そのぐしゃぐしゃになった顔を魔王の胸へ押し付けて、喚き続けていた。魔王の背中へ小さな手を精一杯伸ばして、しがみつくようにして抱きついている。
そんな、幼子を。
まるで慈母のような優しさで満たした微笑みを向けて、抱きしめていた。服が涙と鼻水で汚れる事にも頓着せず、ただ慈愛に満ちたその姿は。
まるで、まるで、まるで。
(本物の、聖女みたいだ)
魔王、なのに。
数多の国々を滅ぼした、災厄なのに。
どうしてあんなに優しい?
――違う。
違う、魔王がそんな事をするわけがない。だって、魔王は気まぐれで国々を滅ぼすような、そんな理不尽な存在なのだ。
だからきっと……アレは、自分を惑わす罠。
魔王のような存在が、あんな風に幼子を優しく抱きしめるはずなどない。
殺せ。今なら殺せる。
どうせまた、あいつは国を滅ぼすに決まっている。あいつは自分の事しか考えない、災厄なのだから。
そうに決まってる。
だから、だから――はやく殺さなければいけないのに。
(迷ってる? 勇者が……?)
そんなわけない。
そんな事、あっていいはずがない。
だって勇者は人類を守る最高戦力なんだ! 強大な力を持つ者が、弱きを守る。そんな存在が!
魔王を殺す事を戸惑うなんて、あっていいわけがない!
殺せ、殺せ、早く殺せッ!!
アレが完全に油断しきっている今がチャンスだっ! はやく!!
目が、合った。
零れ落ちる涙で潤みきった瞳が、驚愕に見開かれる。
その瞳には恐らく、鬼のような形相で剣先を魔王に向ける自分が映っているのだろう。
気づかれる前に殺さなければ。はやく、しないと。
「だめええええええッッ!!」
「っ!?」
絶叫が上がる。
魔王に抱きしめられていた幼子が、魔王を突き飛ばして、魔王を守るように両手を広げて勇者の前に立ち塞がった。
勇者は、目を見開く。
(何故、庇う!?)
相手は魔王だ。人類に仇なす、憎き敵だ。倒すべき、絶対悪なのだ。……その、はずだ。
どうして魔王に背を向ける? 殺されるかもしれないのに。
どうして魔王を庇う? 殺すべき相手なのに。
どうして勇者を、睨む? 助けに来たのに。
わからない。わからない。わからない。自分は幼子を助けようとして、魔王を殺そうとしているだけなのに。
混乱で頭が上手く働かないまま、勇者は魔王へ視線を向ける。この状況でも、脅威から注意を逸らすことは出来なかった。
それが、勇者の混乱に拍車をかけた。
魔王は自分を突き飛ばした幼子に驚いた顔を見せていた。そして、自分を見て……悲しげな顔を見せたのだ。
何故? 何故、そんな、諦めきった顔をする? まるで、まるで……自分が殺されるのを、当然のように思っているかのようではないか。
訳が、わからなかった。
「お姉ちゃんは悪くないもん!! ずっとわたしを励ましてくれたもん!! お姉ちゃんはっ、何も悪いごとじでないでじょッ! こ、ごわい人はっ……ど、どっがいっでよお!!」
幼子が、叫ぶ。
がたがたと震えて、目から鼻から大量の液体を垂れ流して、それでも魔王を守るために叫んだ。
唖然とするしかなかった。
どうして、魔王を守ろうとするのか、分からなかった。
「そ、そいつは魔王なんだ。わ、かってるのか? 君は……魔王を、庇っているんだぞ!?」
「じっでるもん!!」
「し、知っているなら、何故……」
「怖い人の方が、お姉ちゃんのごどじらないぐぜにっ! お姉ちゃんがやざじいごと、知らないのに! ――
訳が分からない。
自分は勇者だ。魔王を殺すためにやってきた。人類を守るのが勇者の役目だから。
なのに、魔王を庇う幼子に、責められている。嫌いだと叫ばれている。
どうして、こうなっているのだろうか。
「いけませんよ。剣先を向けられていては、危ないのですから」
混乱する勇者の耳に、鈴のような声が入り込んだ。
はっとして魔王を見ると、幼子を自分から守るように抱きしめていた。
何故……魔王が、人を守るのだ。
魔王は、自身に剣先を向ける勇者に微笑みを見せた。
「話をしましょう。この子のためにも、それがいいのでしょうから」
勇者は……剣を、鞘に納めた。
第25話 勝ち確
知ってるか? うちの教会に来るのは魔王や勇者だけじゃないんだぜ。普通の人も来るんだ、結構。前の世界と同じく、懺悔教室的なことをやらなきゃいけない。オレの時間がごりごり削られていく。
はーっ……最初に悩みアリアリっぽい人が来た時に、珍しくオレの機嫌が良かったからお悩み相談してあげたのが悪かったか。
一人にやると、他の人にやらないとかってさ、なんか妙な罪悪感あるじゃん? それでズルズル続けてるんだけど……もう、辛いっす。
というか何で来れんの? ここい空間に隔離してるんですけど。とか思って聖書を調べたら出てきたわ。
そりゃ来るよね。だって聖書に乗ってる魔法で隔離したんだもんよ。聖書はお人好し物語しかねぇから、悩みのある人間や絶望しとる奴は救う系の話しかねぇんだわ。だからこの異空間も、悩みある奴はミラクルパワーでここに飛ばされてくるらしい。
はァ? 聞いてねぇよ! 先に言えや!!
おかげでオレは週一くらいで来る悩み多し老若男女の支離滅裂な話を根気強く聞いて適当なアドバイスをくれてやる日々を送っている。
まあ、魔王の相手するよりは疲れないからいいんだけどさ。
そんなこんなで、今日も今日とて聖歌隊らしくお悩み相談。今回の仕事相手は何時もよりも面倒臭いこと請け合いの幼女だ。
ガキって嫌いなんだよね、あいつら普通の人の支離滅裂以上に訳分からん事を言いよるから。解読するのに何時間かかると思ってんの?(真顔)
しかもあいつら、遠慮の欠片もなく鼻水とか涎とかオレの服にべったり付けて帰るからね。きったねぇな、誰が洗濯すると思ってんだ!? オレだよ!
信じられない。
オレが懇切丁寧に事情を聞いてやって、適当に慰めの言葉をかけてやってるにも関わらずのこの暴挙である。いい加減にしろ。
大号泣するクソガキを嫌々抱き締めながら、早く終わんねぇかなとぼんやりしていると、なんとこのクソガキ、オレを突き飛ばしてきやがった。
お前殺されたいの?(マジギレ)
怒りのあまり呆然としてしまっていると、何故かクソガキはオレに背を向けて叫び始めた。ヒステリックですか? 勘弁してくれ……。
とか思ってたらなんかすげえ形相の完全武装した人間が剣を向けてきていた。誰かと思ったが、どう考えても勇者である。
オレを殺そうとしてくるのは勇者しかいないからな、すぐに分かったよ(遠い目)
冤罪で指名手配されてる人の気持ちが、とてもよく分かる。お前ら全員地獄に堕ちろって思うからね、本気で。
やってないって言ってるのに聞く耳持たないからなあ……この世界の奴とは話が通じない。悲しいことだけど、これが現実なんだよ。
話が通じるのはクロノアくらいである。だから、あいつ以外と意思疎通するのは半ば諦めているのだ。しょうがないよね、話が通じないんだから。
「お姉ちゃんは悪くないもん!! ずっとわたしを励ましてくれたもん!! お姉ちゃんはっ、何も悪いごとじでないでじょッ! こ、ごわい人はっ……ど、どっがいっでよお!!」
えっ、何? クソガキお前、もしかしてオレのこと庇ってくれてんの?
今までのガキはそんなこと絶対にしてくれなかったのに。むしろオレの後ろに引っ込むようなファッキン野郎ばっかりだったのに。
やばい、ちょっと感動するわ……。
「そ、そいつは魔王なんだ。わ、かってるのか? 君は……魔王を、庇っているんだぞ!?」
うわ。
勇者の奴、プルプルしてる。
今まで問答無用で斬りかかってきた勇者しか見てないから、こうやって勇者がプルプルしてるのを見るとものすごく愉悦を感じる。
いいぞクソガキ、もっとやれ!
もっと困らせて涙目にしてやるんだ。あいつら調子乗ってるからな、ちょっとくらい痛い目見せてやろうぜ(他力本願)
「じっでるもん!!」
「し、知っているなら、何故……」
「怖い人の方が、お姉ちゃんのごどじらないぐぜにっ! お姉ちゃんがやざじいごと、知らないのに! ――
クソガキがそう叫んだ瞬間、勇者の殺気がぶわりと放出された。気絶するかと思った。
勇者を見てみると、瞳の焦点が定まっておらず、どこからどう見てもヤベえ目だった。駄目だ、これ以上やったら返り討ちにされてしまう……!
そう悟ったオレは、さっとクソガキを盾にするように抱き締める。いざという時はクソガキを囮にして逃げる算段を立てつつ、勇者の正気を取り戻すべく話しかけた。
「いけませんよ。剣先を向けられていては、危ないのですから」
はっとしたような顔で剣先を地面に向ける勇者。どうやらオレの意図はきちんと伝わったらしい。
そうだ、お前が攻撃するならオレはこのクソガキを盾に使う。やれるもんならやってみろ!(煽り)
「話をしましょう。この子の(身の安全の)ためにも、(オレの平穏ためにも)それがいいのでしょうから」
勇者は、剣を鞘に納めた。
勝ったな(確信)
「魔王なのに、どうして――」
オリ主「クソガキを殺してもいいなら、どうぞ」
堂々といたいけな幼女を肉壁として使おうとする人間の屑。そんなんだから勇者に襲撃されてるんだって気付いた方が良い。
勇者(性別不詳)、さくっとやっちゃって。
現在(過去)のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:最近、食が細くなって三食ご飯じゃなくて間食だけで済ませてる駄目人間。