病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第26.5話 邂逅
白亜の教会へと招き入れられ、勇者は魔王ラフィエル=スノウホワイトと向かい合って小さなテーブルを囲んだ。
そのテーブルの上には上品な香りの紅茶と、素朴な焼き菓子が置かれていて、ラフィエル=スノウホワイトからの歓迎の意を感じる。
渋い顔でそれらを見やり、いまだに警戒しきった幼子の様子に落ち込む。威嚇する猫のようにフーフーと荒い息を吐き、幼子はいつでも勇者に飛びかかれるように準備していた。
そんな幼子とは対照的に、ラフィエル=スノウホワイトは穏やかな笑みを浮かべて紅茶に口付けている。……自分を殺そうとしている相手が、目の前にいるというのに。
意思が、意図が、まるで読めないのだ。
魔王と呼ばれ、暴虐の限りを尽くす理不尽な存在でありながら――敵対している人間と机を囲む寛容さ。その眼差しや雰囲気から滲む、くすぐったいほどの暖かさ。
訳が分からない。今まで会ってきた魔王は邪悪な存在だった。だから迷うことなく刃を交えてきた。生きている事が奇跡なくらい、惨敗した事もあった。
だというのに、この魔王は……そんなものが感じられないのだ。
「貴方は私を殺しますか?」
ぐるぐると果てなき思考が、ラフィエル=スノウホワイトの問いかけで停止させられる。意識を彼女自身に戻した勇者は、唇を引き結んだ。
もしここで殺すと言えば、隣の罪なき幼子と交戦しなくてはならない。けれど、殺さないだなんて口が裂けても言えない。
自分という勇者は、魔王を殺すためだけに生きている。簡単に存在意義を奪われては、たまったものではない。
では、なんと答えるか?
「…………」
「問いを変えましょう。貴方は私を殺せますか?」
選んだ沈黙は、即座に返ってきた問いかけで選択肢を再度提出される。
殺せるか、だと?
そんなもの、当然殺せるに決まっている。自分は勇者で、目の前の少女は魔王なのだから。
故に、是の言葉を口から吐きかけた時、ふと思い至った。ある噂が、あったのだ。
魔王ラフィエル=スノウホワイトを殺すのなら、まず他の魔王を殺さねばならぬ。かの魔王は、全ての魔王の逆鱗である。
ただの戯れ言と切って捨てたその噂が、もし本当だとしたら?
ここでラフィエル=スノウホワイトを殺してしまえば、自分だけでなく自分の友人も同僚も、ともすれば国すらも存続が危うくなるのではないか。
実際、魔王ラフィエル=スノウホワイトに手を出そうとした者が、他の魔王に横槍を入れられる事は少なくない。
目の前の魔王は、それが分かっているからこそ、言っているのではないか。
――お前は、全てを失う覚悟はあるのかと。
そんな覚悟、あるわけがない。勇者は、もう二度と何かを失う事がないよう、闘っているのだ。守る覚悟はあれど、失う覚悟など、ない。
青くなり、握った拳を震わせる勇者に、ラフィエル=スノウホワイトは嘲るでも見下すでもなく、微笑んだ。
「それでいいんです。貴方はとても優しい人。だからきっと、幸せになれる」
「は……? 幸せ?」
柔和な笑みを浮かべる少女を、勇者は見つめた。隣の幼子も、不思議そうに彼女を見上げている。
ラフィエル=スノウホワイトは、テーブルの上の焼き菓子を摘まむと、それを自分の口に放り込む。
「はい。幸せです」
本当に幸せそうに微笑みながら、ラフィエル=スノウホワイトは焼き菓子を口の中で転がす。たったそれだけのことで、幸福を感じているように。
勇者は目を見開いて彼女を見つめ、その視線をテーブルの上に落とす。
(……誰かと机を囲んで、食を共にする。それが、この魔王にとっての幸せだというのか?)
それとも――
頭に浮かんだ妄想を、振り払う。そんなありきたりの光景が、幸せだなんて認めない。
だってそんなの、苦労しなくたって手に入る。幸せというのは、そんなに簡単に手に入るものではないのだから。
幸福は、苦労しなくては手に入らないのだ。
「そんなもの、幸せなんかじゃない」
「……負け惜しみですか?」
「ち、がッ――!」
「ならば、何故認められないのでしょう」
家族と卓を囲める世界中の人が不幸だと、そう思っているのかと言われたような気がして、勇者は言葉を詰まらせる。
違うと言えればそれですむのに。たった一言が言えなくて、声が擦れる。
だって、彼女の言う通りに認めてしまえば、誰とも卓を囲めない自分が、まるで、まるで――!!
「認めてください。貴方は……」
「違うッ!」
幸せなんかじゃない。そんなものはまやかしで、たった一時の快楽に過ぎない。その時が過ぎればまた圧倒的強者の蹂躙を待つばかりの不安な日々に逆戻り。
ほんの一時だけの安心などを、幸せなどと烏滸がましい。虫唾が走る。
椅子を蹴り飛ばして勇者は立ち上がる。
驚いた幼子を気にする余裕もなく、勇者はラフィエル=スノウホワイトの胸ぐらを掴んだ。
そのまま何か感情のままに怒鳴りつけようとして、閃光が視界を埋め尽くした。
「あっ……お、ねえちゃんッ!!」
幼子の悲鳴で、勇者は感情を押し殺して冷静さを取り戻す。頭を振って視界を元の状態に戻し、周囲の状況を確かめようと辺りを見渡して、見つけた。
真っ赤な液体で床を汚しながら、力なく倒れているラフィエル=スノウホワイトを。
先程までテーブルを囲んでいた少女の無残な姿に勇者は唖然と立ち尽くす。そして、はっと我に返って走り寄る。
彼女を抱き起こしたと同時、勇者の耳に馴染みのある声が聞こえた。
「やってやったわ!」
「奇襲は成功だ。ここまで手傷を負わせられたなら」
「後は貴方で何とか出来るわね。勇者――」
……そう、だ。
ここに来る前に仲間に告げていたのだ。
もし、一刻以上の時が経っても帰らなければ、奇襲を仕掛けて欲しいと。
少しでも隙を作れたら良し。もし手傷を負わせられたなら御の字。
そう、自分が、告げたのだ。
勇者の息が、微かに乱れる。
自分が出した指示のせいで、この少女は死にゆくのだ。抱き起こした事で触れた彼女の身体は酷く痩せ細っていて、強く握れば折れてしまいそうなほどで。
こんなにも脆く今にも壊れそうな少女を、殺そうとしていたのか。そして、自分のせいで、今すぐにでも死にそうになっているのか。
勇者の腕が震え、動揺を必死に押さえつけようとしているその隣で、幼子が泣き叫ぶ。
なんで、どうして、――なんで、こんなに酷いことするの。
その言葉は、勇者の心を切り裂いて、蹂躙していく。
「……なんだ」
「!!」
息も絶え絶えで、ラフィエル=スノウホワイトは微笑んだ。ゆっくりと視線を背後の仲間達へ移し、そして自分と目を合わせる。
彼女は、どこか安心したように、呟いた。
「ちゃんと……いたんじゃないですか」
(…………あ)
そこで、気付いてしまった。
彼女は、ラフィエル=スノウホワイトは、自分に発破をかけようとしていたのだ。
幸せを問いかけ、試し、自らつかみ取るように。同じテーブルを囲める、大切な人を。
そして、勇者に仲間がいて――安堵したのだ。
「ッ……ばかやろう」
自分を殺そうとした相手に、そんな慈悲をかけるな。
今にも死にそうな癖して、他人の心配なんかするな。
もっと、自分を大切にするべきだろう。
「死ぬな――ラフィエル=スノウホワイト!!」
背後で困惑し、動揺している仲間達なんて気にかける暇も無く。
勇者は、涙を流しながら叫んだ。
そして、その願いは。
真っ赤な液体が、勇者の身体に降りかかった事で、答えは出された。
「……え?」
思考が停止し、勇者はゆっくりと振り向く。
そこには勇者の仲間も、泣き叫んでいた幼子の姿もなく、ただ血の海と肉塊だけがあった。
床に転がる目玉と、目が合う。
それは、さっきまで自分を睨んでいた幼子の瞳とそっくりで……。
「どうした、情けない顔をして。願いが叶って、良かっただろう?」
――そこには、純白の衣装を血で汚した少女がいた。
ゆっくりと近づいた少女は、先程までと違って酷く恐ろしく、まさに魔王といった雰囲気で。
血塗れた両手で勇者の頰を包み込み、それは歪んだ笑みを浮かべて言った。
「――喜べ、勇者」
第26話 ラフィエル君、初勝利?
クソガキを盾にして教会の中へと勇者を誘導する。これでも襲撃歴は長いからな、対策もバッチリなわけだ。まあ教会の中だけだけどね。流石に外までは無理だわ。
でも安心しろ、オレの教会の守護は完璧だ。何せギィが暴れても大丈夫だったからね!
いやー、こんなすごい事できるなんてすごくない? 有能すぎてスマンな!(ドヤ顔)
教会の中に入ったのでクソガキはお役御免である。適当に放置して、勇者のご機嫌取りのために紅茶と焼き菓子を皿に入れてテーブルにつく。
ふっ……完璧だ。
満足してご機嫌のまま紅茶を飲む。うん、自然で出来た茶葉を使ってるだけあって本当美味しいよね。まあね、オレが森でわざわざ摘んで作ってるから? 美味しいのも当然なわけで……美味しくないとか言ったら殴る。
さて、そろじゃあ本題に入ろうか。
「貴方は私を殺しますか?」
「…………」
は? 何無視してくれてんの? 殺すよ?(不可能)
お前っ、人の家に土足で入り込んできた癖にお茶までご馳走になってるんだぞ? なのに家主の質問を無視するとか頭おかしいんじゃねぇの?
よおし、なら質問を変えてやる。絶対に答えるしかない質問してやる。
「問いを変えましょう。貴方は私を殺せますか?」
そう。
さっきまで気付かなかったけど、隣でクソガキが威嚇している今、お前はこの質問に殺せるだなんて口が裂けても言えんのだ!
おっ、おっ? おら、言えるもんなら言ってみろ! クソガキに嫌われてもいいのならなァ!(嘲笑)
勇者は人気商売ですから? クソガキに嫌われたらやっていけないもんなあ、カワイソー。
青い顔で震えだした勇者に、オレは満面の笑みを見せる。
「それでいいんです。貴方はとても優しい人(煽り)。だからきっと、(オレは)幸せになれる」
「は……? 幸せ?」
「はい。(オレの)幸せです」
焼き菓子を頬張りながら、唖然とする勇者を見る。もうこれだけでご飯三杯はいける! 人の不幸ってどうしてこんなに美味しいんだろう。
今まで煮え湯を飲ませられていただけに、心底嬉しくて仕方ない。ボクは今、最高に幸せです。
満たされてる。オレは最高に満たされている……!
「そんなもの、幸せなんかじゃない」
ああん?
「……負け惜しみですか?(失望)」
「ち、がッ――!」
がっかりだわー。
こんなんが勇者とかがっかりにも程がある。馬鹿なの? ちゃんと現実を見ろよ。
ほら、隣にクソガキ。目の前に幸せ最高潮のオレ。
どう考えてもオレの勝ちです。
「ならば、何故(素直に負けを)認められないのでしょう」
いつもはオレが逃げるから、勇者の不戦勝となっているけれども? 今回はクソガキという盾装備があるから立ち向かったんだよオレは。
そして戦いという形ではないものの、オレが勝利した。潔く認めろ! オレに負けたという事実をッ!
「認めてください。貴方は……」
「違うッ!」
オレに負けたんだよォ!(煽り)
と言おうとしたら、勇者の奴は椅子を蹴り倒し、鬼の形相でオレの胸ぐらを掴んだ。
暴力いくない! 負けたからってこういう事するのは良くないと思――!?
「え…?」
鋭い痛みが走ったと思ったら、何時の間にか床に倒れていた。
呆然としながら痛みが走った箇所に手を当ててみると、そこには大穴が開いていて、かなりの勢いで血が噴き出していた。
同時、凄まじい痛みが全身に走る。
痛すぎて悲鳴も上げられない。泣きそう。ていうか泣く。
止めろ勇者触んな、痛いからほんと止めろ殺すぞてめぇ!!(迫真)
ていうか何で? 教会の中にいりゃ守護は完璧なんじゃなかったん? この嘘吐き! 誰だよ大丈夫だって言ったの! ……オレです。
…………誰だよ、オレの教会に勝手に入ってきたの。霞む視界の中、人影の会話を聞いて悟る。そりゃそうだよな。
「……なんだ(やっぱり)、ちゃんと……(仲間が)いたんじゃないですか」
そりゃ普通の勇者が一人でいるわけないよ。
奇襲くらい考えて然るべきだった。ちゃんと最後までクソガキを抱き締めておくんだった。
ああもう無理、力が抜ける。
死にたくない。
まだ死にたくない生きたい。
クソ勇者め……オレが死んだら枕元に毎晩立ってくれるわ!(怨嗟)
「…………え?」
悪魔「さあ、どう遊んでやろう」
満面の笑みでVサインを見せ付けようとしたラフィエル君、死す!
次回、悪魔か勇者のどっちかがフルボッコにされる。どちらにしろラフィエル君が目を覚ました後に呆然とする展開。
現在(過去)のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:勝利を確信して煽ってたらカウンター食らった人。