病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第28.5話 フルートの役目
それは、幾千億もの世界線のうち、平和な世界が訪れた数少ない世界線での物語。
魔王リムルが台頭し、ラフィエル=スノウホワイトが誰も気付かぬまま儚く散る事がなかった、そんな世界での穏やかな日常の話だ。
東の帝国と魔国連邦が終戦し、戦乱からはほど遠い穏やかな時間を刻む未来。
そんなある日のお茶会だった。
魔王……というには優しすぎて、もはや魔王ではなく聖女の通り名が通称となってしまっている少女と、比喩ではなく世界を救うキーマンとなった勇者。
そんな二人の、和やかな日常を垣間見てみよう。
「美味しいねえ、ラフィエルさん」
「そう言って貰えると、早起きして作った甲斐があります」
ほわほわと気の抜けた笑顔で、クロエは目の前にあるケーキをつつく。
そのケーキはとても凝っていて、最初から最後までラフィエル=スノウホワイトの手作りである。本人の張り切りようが感じられて、クロエの頬は更に緩んでしまう。
何せ、ラフィエル=スノウホワイトがここまで凝った物を出すのはクロエだけなのだから。
他の人に対しては大量生産の出来る簡単なクッキーやケーキで、ここまで手の込んだ物を出しているのは見たことがない。
ギィにも、ミリムにも、ラミリスにも――リムルにだって出さないのだ。
優越感に浸ってしまっても仕方がないだろう。
目の前にいる誰にでも優しい博愛の少女が、自分だけを特別扱いしているなんて。舞い上がってしまう。
「えへへ……でも、作るのは大変なんじゃないかな? あんまり無理しなくても…」
「まさか。貴女が喜んでくれるのなら、これくらいなんて事ありませんよ」
「そ、そっかぁ」
嬉しさを隠しきれないといった風に、にへらと緩みきった表情で幸せそうにするクロエ。
自分の言ったにも関わらず、もしこれで「じゃあ止めますね」なんて言われたらショックは大きかっただろう。
だが、ラフィエル=スノウホワイトはむしろクロエを更に喜ばせる事を言うのだ。
緩みきった顔を抑えようと、クロエは紅茶を飲んで昂ぶった気を落ち着かせる。
自然の香りがするそれは、ラフィエル=スノウホワイトが好んで淹れるものだ。それを知った過保護な魔王が入手に躍起になって、一時は市場価格がとんでもない事になったのはご愛嬌である。
そんな紅茶を飲んで、クロエは一息ついてから話を変えようと話題を探す。ニコニコと微笑んでいるラフィエル=スノウホワイトに居心地が悪くなったのだ。
探し始めてしばらく、そこでふと思い出した事があったので、口に出した。
「ねえ、ラフィエルさん。あのフルート、わざとリムル先生に渡したの?」
「フルート……ああ、あれですね」
ちらりとラフィエル=スノウホワイトは棚の上に置かれた金色の装飾が施された箱を見やる。そこにはかつてシズエの手に渡り、リムルへ預けられた彼女のフルートが収められている。
そのフルートには、悪魔による『死歌』の効果が付与されていた。今ではただのフルートに過ぎないが、知る人が知れば数億とくだらない価値がつけられる。聖歌者の称号は偉大なのだ。
「あのフルートに『死歌』の効果が付与されていたこと、ラフィエルさんは知ってたよね?」
「…………」
クロエの問いに、ラフィエル=スノウホワイトは微笑んだまま何も言わない。沈黙は是なり、確信を得たクロエはやっぱりと呟く。
そうだと思ったのだ。わざわざ呪いのフルートなんて代物を用意して、あんな惨劇を作り出すなんて。暴虐者としてラフィエル=スノウホワイトを知っている者なら、すぐに推測するだろう。
この惨劇は、たかがスライムのリムルではなく、魔王ラフィエル=スノウホワイトが齎したものだと。
けれど、それは違う。
元々、リムルにはあの惨劇と同等以上の状況を作り出す事は出来たのだ。けれど、彼はその前にラフィエル=スノウホワイトと衝撃の出会いを果たしている。
泣いて縋ったあの時と同じように、無意識にラフィエル=スノウホワイトとの繋がりを示すフルートを使ってしまったに過ぎない。
元は平和な世界に住んでいた人間が、万の軍勢を皆殺しにする緊張の時に、安らぎを求めてしまうのは当然である。
そして、そうなると分かっていたのがラフィエル=スノウホワイトだった。
「本当に、優しいんだから。悪役を引き受けようとしたんでしょう?」
人間と仲良くしたいという、リムルの願いを叶えるために。
あの惨劇を生み出したのはジュラの森大同盟の盟主リムルではなく、魔王ラフィエル=スノウホワイトであると誇示するために。
あくまでリムル達は人間に危害を加えておらず、魔王が気紛れに人間を殲滅させたと思わせるために、あのフルートをリムルの元へ渡るように仕向けた。
それが、あの事件の真実。
謎のまま忘れ去られてしまったフルートは、きっとそんな役目を担っていたのだ。
「まあ、ヴェルドラさんの復活なんていう過去にない例外のおかげで、意味がなくなっちゃったけれど」
「……そうですね」
しかし、それ以前にあの惨劇の目撃者を全員皆殺しにするなどという暴挙を犯したリムルのせいで、その目論見は呆気なく破綻しているのだが。
ちょっと落ち込んだ様子のラフィエル=スノウホワイトには、言わぬが花というやつだろう。
くすくすと笑って、クロエはケーキを頬張った。
甘くて優しい――そんな味がする。
(幸せ、だなあ)
魔王とテーブルを囲んで、勇者は幸福を噛みしめた。
第28話
今日は久しぶりにクロエと会う日だ。数える程しかいない話の通じる相手なので、つい浮かれてしまうな。
魔王もあれくらい頭を柔らかくして話して欲しいもんだ。お前らの常識、オレの非常識だから!
珍しく朝早くから起きて、オレはせっせとキッチンで動き出す。クロエは友達だから、最高のもてなしをしてやるぜ。
え? 魔王共? 作り置きのお菓子でも出しときゃいいんじゃねぇの?(興味ゼロ)
そんなことよりクロエだ。なんとあいつ、実はクロノアと同一人物だったのだ。な、なんだってー!?
時間軸がどうたらこうたらと言っていたが正直これっぽっちも分からないので理解するのは放棄した。しょうがないね。
まあそんなことはどうでもいいのだ。
大事なのはクロノアもといクロエは話の出来る常識人な友人だということだけ。本当に……人外と話をする時に通訳してもらって感謝してもしきれない。
あんなに出来た人間がいるなんて、ちょっと今でも信じられない。だがいる。それが全てなのだ。
昔は神様なんていないと思っていたけど、本当に実在したし、こんな欠点のない人間だっているだろう。
そんな完璧人間ことクロエとお茶会をするのだから、気合いが入って当然である。
ケーキだって素材から厳選した。紅茶だってリムルに全力でお願いして手に入れた茶葉を用いてのものだ。
うむ……早く来ないかな。
「こんにちは! お邪魔します」
全ての準備を終えてそわそわしながら待っていると、教会の扉が開いて、お待ちかねの人物が入ってきた。
機嫌良さげに入ってきたクロエは、オレと目が合った瞬間にぱっと花が咲いたような笑みを見せた。
ああ……こうやって滅茶苦茶好意的に接してくれる人なんてクロエ以外にあんまりいないから、正直すげえ嬉しい。
他の奴等も好意を全開にして接してくれてもいいんだよ? 腹黒そうに笑いながら接してくれるおかげで、オレは常に胃薬を常備してるんですけどね(皮肉)
まあアイツらの事はどうでもいいや。
ポットからカップに紅茶を淹れて、テーブルの準備をしてから、クロエの正面に座る。
「美味しいねえ、ラフィエルさん」
「そう言って貰えると、早起きして作った甲斐があります」
これだよ、これ……。
オレが求めてる反応はこれなんだよ!!(必死)
ギィとかさ、あいつらはオレがお菓子を出してやるのを当然みたいに思ってやがるからさ。お礼の一つも言わねぇし、美味しいの一言もないんだ。
そんなんだからラミリスに48の必殺技を使えば倒せるなんて言われるんだよ。本人の前では絶対言わないけど。
あ、ミリムは別だよ? あいつはちゃんと美味しいって言うから。だが教会を破壊する事は断固として許さない(真顔)
「えへへ……でも、作るのは大変なんじゃないかな? あんまり無理しなくても…」
なんてこと言うんだ(憤慨)
クロエに本気のおもてなしをしないなんて、ちっぽけなオレのプライドでも許されることじゃない。
オレはな、本気でクロエには感謝してるんだ。あんな話が通じない人外(魔王)と渡り合ってオレを守ってくれた事……これくらいじゃ足りないかもしれないけど、ちょっとずつ恩を返していくって決めたんだ!(キリッ)
「そ、そっかぁ」
と言うことを要約して告げると、クロエは嬉しそうな顔をした。
こういう素直なところに好感が持てる。魔王のみんなも見習おうね(皮肉)
照れを誤魔化すためか、紅茶を飲んだクロエが話題を変えてきた。
「ねえ、ラフィエルさん。あのフルート、わざとリムル先生に渡したの?」
「フルート……ああ、あれですね」
何の事だと思ったが、そういえばフルートも何やかんやあったな。
聖歌隊に入る前に音楽の練習のために使っていたフルートは、シズエに貸してから何があったのか、今では魔王になってるリムルの元へ渡った。
何で見知らぬ魔王に渡してんのシズエ?(怒)
とは思ったものの、怖いのと優しいのを共存させているリムルでマシだったと思う。
あれが他の魔王に渡っていてみろ……死んじゃう。
「あのフルートに『死歌』の効果が付与されていたこと、ラフィエルさんは知ってたよね?」
あー、それな、リムルからフルートの経緯を聞いた時に初めて知ったんだよね。
え? オレ今までそんな物騒なもん吹かされてたの!? あんのジジイ、次会ったらぶっ殺してやる!
――なんて思ったもんだ。
でもあれ吹いても何ともないよね、何もないのオレだけ?
悩んでいて回答を先送りにしていたら、クロエが話を進めた。
「本当に、優しいんだから。悪役を引き受けようとしたんでしょう?」
何の事ですか??
え、何……知ってたら優しいってどういうこと? 悪役なんて好んでやろうなんて馬鹿いるわけねぇじゃん、聖人君子じゃないんだから……。
…………えっ、本気で言ってる?
嘘だろクロエ違うって言ってくれ。何でそんな訳分からん事言うの。
あの魔王共の影響を受けるのは止めて!(涙目)
「まあ、ヴェルドラさんの復活なんていう過去にない例外のおかげで、意味がなくなっちゃったけれど」
「……そうですね」
泣きそう。
「特別扱いなんて、嬉しいなあ」
オリ主「頼むからあいつらと同じになってくれるなよ」
クロエへの好感度が高すぎる件について。
どうやらその理由は他の知り合いと比較して見ているからのようで……?
だが最近は魔王達の影響も受けている模様。まあショックはあるが好感度は下がらないと思われる。
現在(未来)のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
secret:『神々の祝福』