病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第40.5話 腹黒狸
七曜の老師が一人、日曜師グラン――グランベルはラフィエル=スノウホワイトを睨み付けた。
彼女に宛がった部屋には、赤髪の男が存在していて、ラフィエル=スノウホワイトの対面に腰掛け談笑している。
その男は、グランベルの策略によって火曜師に殺されたはずの聖騎士ギャルドだった。あれが生きていては計画に支障が出る。
早急に消してしまわなければ……既にラフィエル=スノウホワイトに計画が悟られてしまったかもしれない。いや、それはいい。
そこまでならば、まだ取り返しがつく。
しかし、ギャルドからラフィエル=スノウホワイトに七曜に狙われた事が伝わり、それがあの魔王ルミナス・バレンタインに漏れたら。
その場合はグランベル、ひいてはシルトロッゾ王国諸共ロッゾ一族は滅ぶ。
ラフィエル=スノウホワイトという存在は、諸刃の剣である。彼女が好意的に接している相手に、あの理不尽の権化たる魔王達は手を出さない。
しかし、彼女に害なした者は悉くが魔王達の手によって報復を受けている。
ラフィエル=スノウホワイトは魔王達の最大の弱点にして、究極の逆鱗でもあるのだ。
「忌々しい小娘が……」
どうやって取り入った、という疑問は湧くものの彼女の行動次第で破滅が目前のグランベルにはその疑問は打ち捨てるしかない。
何とかして、魔王ルミナスに情報が伝わる前に阻止しなければならない。
ラフィエル=スノウホワイトが己の膝元にいる事に、まだ魔王ルミナスは気が付いていないのだから。
彼女をこのルベリオスに連れてきたのは、グランベルの独断――要するにロッゾ一族のために動いたのであって、ルミナスのためではない。
そのため、彼女の存在は秘匿しなければならない上に、秘匿したままこの問題に対処しなければいけなくなっているのだ。
自らの行動が徒になった事に苦虫を噛み潰したような顔をして、グランベルはその部屋へ赴く。
何とかしてラフィエル=スノウホワイトを言いくるめ、二度と余計な真似をしないように部屋に縛り付けておかなくては。
ギャルドは単純な男だ、適当に誤魔化せば何とかなるだろう。
――問題は、ラフィエル=スノウホワイトなのだ。
ノックをして、彼女の返答を確認してから部屋へ踏み入る。
柔和な笑みを浮かべるラフィエル=スノウホワイトとは対照的に、ギャルドはグランベルの顔を見た瞬間に椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。
「落ち着いて下さい、ギャルド」
ギャルドが敵意を向けてくるのは想定の範囲内。そこで宥めるのは自分のはずだった。
だが、現実はどうか。
落ち着けと彼を宥めたのは、ラフィエル=スノウホワイトだった。
「だがッ……!」
「黙って、深呼吸――落ち着きましたね」
何か言いたげな顔で黙り込むギャルドを椅子に座るよう促し、ラフィエル=スノウホワイトはグランベルにも椅子を勧めた。
それは、あまりにも普通。普通で、当たり前の礼儀ではあるが……明らかに異常だった。
この状況下で、日常的な態度を崩さない。
グランベルにとって、ラフィエル=スノウホワイトは偽善者だった。偽善者で、ただ周りに褒められたい尊敬されたいばかりに、そんな真似をするだけの、少女。
しかし――
(――ただの偽善者ではなかった、と。一体何を考えている?)
少女は、何処にでも居るような偽善者ではなかった。その崩れない穏やかな笑みの裏で、どんな思考がされているのかは分からない。
ただ、彼女の読めない表情はよく見かける。彼女は、腹黒い狸達とそっくりだったのだ。
この話し合いは、気が抜けない。
情報を引き抜かれないように最大限の注意を払い、彼女からは出来るだけ多くの情報を奪う。それと同時に、ギャルドに関しての事を言い含めなければならない。
何という大仕事。
(聖女などと、どこの節穴が宣ったのだ)
この小娘はそんなものとは似ても似つかない。
まさに食うか食われるか。この席に着いた時点で勝負は始まっている。
訝しげなギャルドは放置しても構わない。後でいくらでも言い含められる。
だからこそ、今はラフィエル=スノウホワイトに集中しなくては。
「先日ぶりですね、グラン。今日は……彼の事でしょうか」
初っ端からぶっ込んできたラフィエル=スノウホワイトにグランベルは好々爺の笑みで対応する。
グランベルの目に油断はなく、つけいる隙を探しながらそれに返答する。
「その通り。ギャルドには
「おや、そうだったのですか。大事な役目があるのなら、もっと大切にしてあげて下さいね」
ギャルドが殺されかけた事など知っているだろうに、この口ぶりである。白々しいにも程がある。
ラフィエル=スノウホワイトは用意されていた紅茶に口付け、ちらりとグランベルを見やる。
仕方なしにグランベルは紅茶を一口飲んで、話を続ける。
「善処しよう。それで、彼は返して貰えるのかね?」
「勿論、構いませんよ。どうぞ、連れ帰って下さい。ええ、是非に」
ピクリとグランベルは眉を上げる。
ラフィエル=スノウホワイトからすれば、ギャルドは生きた証人である。絶対に手放したくない相手のはずだ。
それなのに、ギャルドをグランベルに引き渡す事を手放しで喜ぶ――むしろ連れて行けと言わんばかりの態度。
(何を、企んでいる?)
神算鬼謀を簡単にやってのける。そうリムルに評されたのはラフィエル=スノウホワイトである。
その事をグランベルは知る由もないが、彼は魔王ルミナスという前例を知っていた。
人間を家畜のように平穏な社会で飼い殺すために、宗教の神として降臨するなどという馬鹿げた事をやってのけた魔王を、知っている。
だからこそ、グランベルは警戒する。
魔王ルミナスと同等の、目の前の少女――魔王ラフィエル=スノウホワイトを。
「………? どうかしましたか、グラン。用は済んだのでは?」
話は終わった。
ギャルドを連れて、さっさと出て行け――
暗にそう伝えてくるラフィエル=スノウホワイトに、グランベルは舌打ちしそうになった。
不安が、広がる。
本当にこれでいいのか、と。
当初の予定通りのはずだった。
ギャルドをラフィエル=スノウホワイトから引き離し、秘密裏に始末する。そしてラフィエル=スノウホワイトは今まで以上に厳しく監視して、勝手な行動を制限する。
だからこそ、このままギャルドを連れてこの部屋を出て行けばいい。
しかし、この不安は何だ?
まるで――誰かの手のひらで踊っているような、得も言われぬ感覚は。
ラフィエル=スノウホワイトが望むままに、ギャルドを始末してしまって、本当に大丈夫なのだろうか。
「…………いや」
結局、グランベルは。
「暫くは貴殿に預けておく事にしよう」
その不安を抱えたまま、ギャルドを殺すことは出来なかった。
そして、ラフィエルスノウホワイトから情報を引き出す事も、ルミナスと接触しないように言う事も。
ギャルドを言い含める事も、何一つ達成する事は敵わなかった。
「――は??」
という、思わずといった様子で漏れた声に、気が付く事も。
第40話 言い訳をさせて下さい
仕方なしに助けた兄ちゃんの名前はギャルドっていうらしい。
聖騎士で、バレンタインの懐刀的な存在らしいヒナタ・サカグチの部下の一人だとか。
ふーん、ほーん、興味ねぇな。
頭を下げて感謝してくる奴を積極的に追い出そうとは出来ないから、成り行きで一緒にお茶を飲む。
出してやったお茶菓子をもっさもっさ頬張って、時々咳き込んで紅茶を一気飲みするギャルド。作法を知らん奴だな、だが美味そうに食うから許そう。
腹が空いていたのか、大量に口の中へ消えていくお茶菓子。
見ていて清々しい姿にぼーっと見ていれば、食べ終わったギャルドが話しかけてきた。
「本当に、助けてくれて有難う御座います。ラフィエル=スノウホワイト殿」
「(長いから)ファーストネームだけで良いですよ。敬称も(気疲れするから)結構です」
オレがしんどいからね(本音)
魔王か! 殺す! って奴が一番ウザくて一緒にいたくない。怖いし。
貴女がラフィエル様ですか!? ってのが二番目に鬱陶しい。尊敬してますビームを放ちながらずっと見てくるから監視されてる気分になるじゃん。ゴロゴロさせろ!(怒)
適当でいいんだよ、適当で。
その辺リムルは満点だったな。だがそのポイントは監視と行動制限を与えたマイナス点で地に落ちている。お前ほんとね、そういう所だよ?
「いや、そういう訳にはいかない。貴女は人間とはいえ魔王で、その上命の恩人なのだから、むしろラフィエル様と呼ばせて欲しいくらいだ」
あ、あ、暑苦しいっ! そして何よりウザい! オレが良いって言ってんだからいいだろうが!
はい、お前パンチの刑な。
机の下にあるギャルドの足を蹴り上げようとしたら、ノックの音が聞こえてきた。
返事をすれば入ってきたのはオレをここに連れてきてくれたジジイもといグラン。
…………あっ!!(焦り)
やっべ、ギャルド勝手にここに連れてきた事バレるやんけ! バレたら、バレたら……追い出されるかもしれない。
それはいけない!
何とかして誤魔化さなきゃ、オレ追い出される!
今だけは言う事を聞いてくれない表情に感謝しつつ、必死に言い訳を考えていたらギャルドが椅子を蹴倒して立ち上がった。
は? ふざけんなよお前、死んで?(真顔)
「落ち着いて下さい、ギャルド(必死)」
「だがッ……!」
うるせぇ、黙ってろ!!
「黙って、深呼吸――落ち着きましたね」
よーし。
落ち着いたなら黙ってろ、いいな?
オレがここに住むのを継続できるかが掛かってるんだからな、分かったら変な事を言うんじゃねぇぞ。
オレがグランを何とかして追い出すまで何もするな。
「どうぞ座って下さい、グラン」
胡麻すりしておかなければ! 媚売って、出来るだけグランの機嫌を上げとかないと!!
お茶菓子を勧めてもみるが、グランの反応は芳しくない。甘いのは嫌いか……ちっ。
この手のジジイは婉曲した物言いは嫌いだと聞く。仕方ねぇ、単刀直入にいくか(覚悟キメ)
「先日ぶりですね、グラン。今日は……彼の事でしょうか」
そう言えば、グランは機嫌よさげに笑顔になった。やっぱりバッサリした物言いが好きらしい。
おーけー、そんな感じで頑張るわ。
「その通り。ギャルドには大事な役目があるのだよ」
「おや、そうだったのですか」
初耳。
つーか大事な役目があるならもっとちゃんと守ってやれよ。こいつ死にかけだったけど。
オレが助けてやったからね、感謝してくれてもいいんだけど?(チラッ)
と言うことを要約して言ってみたら笑顔のままちょっと怒気を漏らしつつ紅茶に口付けていた。
上から目線すぎたかもしれんな。でも本当の事だよね! オレは悪くないね。
「善処しよう。それで、彼は返して貰えるのかね?」
えっ!?
この兄ちゃんを連れ帰ってくれんの!?(歓喜)
ちょうどうざってぇな、はよ帰れと思ってたんだ。こいつ様付けすんなって言ってんのに、様付けしてくるもん。
あと見た目が熱血系で長時間一緒にいるの嫌だなって思ってたんだ。
「勿論、構いませんよ。どうぞ、連れ帰って下さい。ええ、是非に」
むしろさっさと連れ帰ってくれ。これでやっと人目を気にせずゴロゴロ出来る。
今、心からの笑顔を見せている気がする。
上機嫌で紅茶を飲んでいると、何故かグランもギャルドも出て行かない。
「………? どうかしましたか、グラン。用は済んだのでは?」
「いや、暫くは貴殿に預けておく事にしよう」
「――は??」
いや、さっさと連れて帰れよ!! 何あいつ、意味分かんねぇんだけど?
「聖女? はっ、その目玉は飾りか?」
オリ主「グラン爺さんの機嫌を損ねたら追い出されるかもしれん!(焦り)」
ラフィエル君は聖女じゃないんですよ。ニートだからね。
す、すごい……! 流石は支配者の一族の長にして元勇者。この短時間でラフィエル君の本質を見抜いただと!? こいつ――出来る!(確信)
現在のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:同居生活(強制)がスタートした。もうニート生活には戻れない。