病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第4.5話 唯一の甘え
勇者クロノア、あるいはクロエ・オベールにとって、ラフィエル=スノウホワイトは母であり、姉である。幾数もの世界線、何度も巻き戻った世界の中で、いつだって優しく包み込んでくれた。
自分にとっては見知った人間であっても、彼女にとっては初対面である。それでも、それなのに、彼女はどの時間軸でも、温かい笑顔で受け入れてくれた。
それにどれだけ救われたか。それに、どれだけ泣きたくなったか。
きっと、今目の前にいる彼女は知らない。
「初めまして。私、クロノアという者です」
だから、微笑む。本当の名前は言えない。だけれど、遠くない未来には、きっと――。
きっと、彼女に本当の名前を言えるはずだから。
そのために必ず、破滅の未来を回避する。ユウキ=カグラザカ……全ての原因である彼を倒す。そのためだけに、ずっとずっと過去と未来を旅しているのだから。
「クロノア……最近よく聞く名ですね」
「色々と活動してるから、かな。あなたの名前を教えて貰っても?」
知っている。昔からずっと。
それに、この時間軸でも彼女は有名だ。美しい、病弱の聖女。あの惨劇を覚えている者は、微睡みの暴虐者と噂する。
彼女も自分が有名なことは分かっているのだろう。驚いたように目を丸くし、ふわりと微笑んだ。
「ラフィエル=スノウホワイトです。貴女は……私と戦う気はないのですね」
「それは勿論。でも……少し、話がしたい」
「そういう事なら、喜んで」
彼女はクロノアに席を勧め、自らはお茶の準備をするために教会の奥へと入っていった。数分後、甘い香りと共にティーセットを持った彼女が戻ってくる。クロノアの対面に腰を下ろして、ケーキを一つずつ自分たちの前へ置く。
そして、ようやく顔を上げてクロノアを目を合わせた彼女の瞳には、確かな親愛があった。ドキリとクロノアは心臓を跳ね上がらせる。
まさか、気付かれた? 勇者クロノアが、時を越えたクロエだということに……。
時折、ラフィエル=スノウホワイトはクロノアの正体を知っているような素振りを見せる事がある。大抵は初対面から平常に接してくるのだが……ごく稀な時間軸では全て知っているような顔をする。
今回のように、まるで元々知り合いだったかのように、親愛を見せる。その時の世界は――いつも、大抵が上手く行く。けれどやはり、最後には失敗してしまう。
――でも、今回こそは!!
「必ず……リムル先生を」
「助けたい人がいるのですね」
ハッと、いつの間にか俯けていた顔を上げる。最後の言葉を口に出していた。咄嗟に口を塞いだが、時は巻き戻らない。戻しても、無意味だろう。
恐る恐る、彼女の顔色を伺う。優しく包み込むような、柔らかい笑み。そんな笑顔で、慈愛に満ちた瞳が、向けられていた。
「あ……」
全てわかっている。そう言いたげな。
だから、今だけは気を張り詰めずに肩の力を抜きましょう。そんな優しい言葉が。
この事は、ふたりの秘密ですね。――なんて。
数多の世界を見てきて、一度だけ言われた言葉が脳裏を過る。それが救いになった。だから頑張ってこれた。でもまた、擦り切れそうになって。
……でも、頑張れる。
優しい優しい、私だけが知っている、たくさんの言葉。何時だって誰にだって優しい彼女が、自分にだけ言ってくれた救いの言葉。
また心配されちゃった。でも嬉しい。
だから戦う。強くなる。全ては、破滅する未来を回避するために。
勇者として、大好きな人の命を落とさせないために。
第4話 悪魔から見た
悪魔が見たラフィエル=スノウホワイトという存在は酷く厄介な存在だった。聖歌隊の中でも随一の歌声を持ち、謙虚で驕りにくい。
全く、籠絡が効きにくい少年で、酷く梃子摺ったものだ。そして……こちらの世界に来る時には、訳の分からない声が聞こえ、悪魔の力は更に効きにくくなった。
《確認しました。ユニークスキル『
それからは悪魔契約を交わし、何とか融合の難を逃れたものの、上手いこといかない。その代わりとでもいうように、ラフィエル=スノウホワイトには幸運ばかりが舞い込んでいる。
見知らぬ老人には、この世界の知識と技術、そして教会を譲り渡された。環境も良い。全く、悪魔から見て不愉快極まりない。
その後、ラフィエル=スノウホワイトが気に入っていた老人が死んだ。それに歓喜した悪魔だったが、
《確認しました。ユニークスキル『
ガッカリである。
それから、この世界での最強の一角であろうと悪魔の目を持ってして言い切れる実力者に気に入られる始末。ますます悪魔の手が出しにくくなった。
ミリム・ナーヴァはともかく、ギィ・クリムゾンとラミリスはきっと気付いている。ラフィエル=スノウホワイトの真価を。
あの地形を変動させた攻撃の嵐の中で、ほんの少しの傷だけで、綺麗なまま佇む白い教会。それは、偶然ではありえない。
ラフィエル=スノウホワイトによる防御結界――彼女が
それを行使しているのが、行使する事が可能なのが神々の寵愛を受けし者。究極の力でなければ防ぐ事が出来ない攻撃を、ユニークの力で防いだ謎の人間。
それが、ラフィエル=スノウホワイトである。
ラフィエル=スノウホワイトを受け入れず、危険因子として魂だけを殺してくれれば御の字。
そう思っていれば、予想外なことに悪魔が顕現できるチャンスが訪れた。なんと、あのラフィエル=スノウホワイトが人間に処刑されかけているのだ!! 契約者の身体の命の危機が訪れた場合、悪魔は顕現する。その契約が生きてきた。
歓喜と共にその国を蹂躙し、眠る。
そのせいであの三人には自分の存在を勘付かれてしまったが、大した事ではない。契約がある限り、奴等が悪魔に手を出す事は出来ないのだから。
それに、嬉しい誤算もあった。
あの一度の顕現のおかげで、悪魔の力は増大した。
元々、ラフィエル=スノウホワイトを呪い続けて時折、体調不良を引き起こしたりなどしていたが、これからは違う。
呪いは常にラフィエル=スノウホワイトの身体を蝕み、ほんの些細なことで戦闘不能になるほど、脆弱な身体に落とし込む。
そしていつの日かは分からぬが、その身体がボロボロになり、たとえ悪魔が顕現したところで治らぬ身体になっていれば……悪魔の勝利だ。人間は肉体と魂、どちらかが欠ければ死ぬのだから。
それから、数百年が過ぎた。
良く分からぬ魂をした女が訪れるなど、興味深い事はあったが、それほど特筆すべき事はない。
数百年の間に何かと便利な魔法を聖書から抜き出して覚えたようだが、ラフィエル=スノウホワイトにとっては意味がないだろう。
その魔法では、悪魔の呪いは解けない。
しかし、あの聖歌者であろうとも何度も家を襲撃されるのには嫌気がさしたのか、ラフィエル=スノウホワイトは周辺の土地ごと教会を異空間に隔離した。
ある一定の手順を踏まなければ、教会に辿り着けない仕組みだ。だが、一定の手順を踏みさえすれば、どんな場所からでも来れる。
本当に、ラフィエル=スノウホワイトの成長を嫌でも見守らなければいけないというのは、不愉快極まりない。
真・第4話 エンジョイ引きこもり生活
教会ごと異空間に隔離するという離れ業を取得した俺氏、順当に人間を止めていってる気がする今日この頃。マジで出来ると思わなかったんすよ……。
いやね、最近になって聖書に乗ってる技、リアルで使えるなって気づいたわけだ。そしたらさ…なんか、空間を隔離する魔法とかいうのがあるじゃん。
やるよね。
ほら、最近は物騒だからさ。オレの家に突撃してオレを殺そうとしてくる奴の多いこと多いこと。まあ、大抵が他の魔王が茶ぁ飲んでる時に来るから、不法侵入しとる魔王が勝手に追い払ってくれるんだけど。
そこだけは感謝している。だが、オレを魔王にしたあの三人だけは絶対に許さない。絶対にだ。
そんなわけで一人の時間が恋しい。ほぼ毎日といっていいほど魔王が来おる。最近は十大魔王とか総称されてるらしい。
が、どうでもいい。
とりあえず一人になりたい。アイラブ一人フォーエバー。
はーっ……静かな空間、最高ですぅ……。
なんて思っていたのが悪かったのだろうか。盛大にガラスが割れるような音が響いた。
慌てて窓から顔を出して外を見ると、そこには見慣れた桃色の髪が揺れていた。
「ワタシが遊びに来てやったのだ!」
太陽のように輝く笑顔は、僅か2日ぶりで。
お前ほんとなんなの?(激怒)
「とても大切で、大好きな人」
オリ主「常識的な人とか初めて会ったかもしんない。仲良くしとこう」
悲しいすれ違いだった……。
クロノアが常識的で良心的な模範的行動を見せるとラフィエル君の好感度は爆上がり。RTAをする時は参考にしよう。
現在のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
ユニークスキル『
エクストラスキル『魔力感知』
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:魔王襲撃や勇者襲来、あとは熱出して死にかけた時の経験のおかげで魔力を感知できるようになったらしい。