病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー   作:昼寝してる人

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開国祭2日目/

 第57.5話 開国祭2日目

 

 開国祭、二日目。

 天候に変わりはない。

 この日は武闘大会本選が行われる。予選――バトルロワイヤルに勝ち残った八名による、一対一の決闘形式の大会である。

 それに興味はなかったギィとヴェルザードは早々に町へ下り、屋台巡りを楽しむ事にした。メイド二人にもこの国の味のレシピを覚えさせようと画作しているのは二人しか知らない。

 しかし、ラフィエル=スノウホワイトは武闘大会を見に行くため彼等とは別行動をとっていた。貴賓席には突貫ではあるがラフィエル=スノウホワイト専用の席が出来上がっている。勿論一番の位が高いことと、噂払拭のための仲良しアピールのために、リムルの隣が彼女の席である。

 

「おはようございます、リムル」

「おう、おはよう」

 

 既に席に座っていたラフィエル=スノウホワイトが、やって来たリムルに会釈する。片手を上げてそれに応えたリムルが席に座ると、彼女は客席を見渡した。

 客席は今の時点でもほぼ満席で、恐らく席に向かっている者や立ち歩いている者が座れば満席になるだろう。要するに大盛況だ。

 

「……もうそろそろ始まりますね」

「ああ。そういえばあいつらは来なかったけど、ラフィーが来たって事は誰か応援してる奴でもいるのか?」

 

 瞬間、ざわざわと賑やかだったその場が静まり返った。何だかんだでリムルとラフィエル=スノウホワイトの関係性を探ろうと耳を澄ませていたのは一人二人ではなかったようだ。民衆の大半は勇者マサユキではないかと期待に満ちた目で彼女の言葉を待っている。

 そんな彼等の反応に、リムルは会話の選択肢を完全に失敗したと後悔していた。まさかただの雑談がここまで興味を惹くとは。

 申し訳なさそうに目で謝罪するリムルを見て、ラフィエル=スノウホワイトは微笑みながら普段通りに会話に応えた。

 

「特に応援している人はいませんが、先日のバトルロワイヤルにギャルドが出たようなので覗きに来たのです。期待に添えなくて申し訳ありませんが、まだ本選に出る人も知りませんから」

「ああ……ま、そりゃそうか。あー……と、本選には勇者も出てるみたいなんだけど、大丈夫か?」

「質問の意図を図りかねますが、応えるとするなら一言だけ。私にとっての勇者は、昔日に出会った彼女だけです」

 

 他の勇者は私にとって勇者ではありません。

 出場している勇者の方には失礼かもしれませんが、と彼女は締めくくった。魔王と名乗れば、勇者と名乗れば因果が巡る。彼女は自らの勇者と既に出会い、完結してしまっているのだろう。だからこそ、他の勇者は彼女の認識下において勇者ではないのだ。

 

 感傷に浸っている彼女の横顔に、少しの嫉妬が湧き上がる。彼女に思われる勇者が、羨ましくなる。

 ここにギィ、あるいは他の古参の魔王がいればきっと教えてくれただろうが、生憎ここに彼等はいない。ラフィエル=スノウホワイトに、特別な誰かは存在しないことを。

 

 ラフィエル=スノウホワイトにとっての勇者は、彼女の信仰する神そのものなのだということを。

 

 ほんの少しの嫉妬を滲ませたリムルは、軽く頭を振って感情を霧散させる。過去の人間をどう思っても仕方がないのだ。

 控えめに深呼吸をして、前を見る。

 ようやく、舞台中央に選手達が入場してきた。

 

「ギャルドがいませんね。負けてしまったのでしょうか」

「まあ、いないって事はそうなんだろうな」

 

 よく目立つ特徴的な赤髪が見えない。ラフィエル=スノウホワイトは少し残念そうな顔をして、すぐに気持ちを切り替えたのか選手紹介を聞き始めた。

 

「最初に紹介するのは、一番人気のこの人でーす!! 昨日の第一試合の覇者、その名は、勇者、マ~サ~ユ~キ――ッ!!」

 

 ちらりと隣のラフィエル=スノウホワイトを見てみると、何か興味を持った素振りはなかった。本当に自らの勇者以外の勇者には大して関心はないのだろう。

 いつも通り、博愛に満ちた眼差しを勇者マサユキに送っているだけだった。

 特に変わりはなく、ラフィエル=スノウホワイトが誰かに興味を示すこともなく、選手紹介は終わりを迎えた。

 

「じゃ、俺はちょっと挨拶に行ってくるから」

「分かりました。ここで見ていますね」

 

 リムルは貴賓席から舞台へと"転移門"を繋げると、シオンと共にそれを潜り抜けた。割れんばかりの歓声に応えるリムルを見て、ラフィエル=スノウホワイトは小さく息を吐いた。

 

「何かありましたか」

「え? いえ……問題ありません」

 

 何処か疲れたように体を弛緩させたラフィエル=スノウホワイトだったが、ソウエイが影から声をかければすぐさま姿勢を正した。声をかけない方がリラックス出来ただろうかと、ソウエイは眉を下げた。

 しかしその瞬間、ラフィエルスノウホワイトの右の瞳が赤く染まり鈍い光を放った。その赤い目は彼女本来の青い瞳とは別の生き物のように動き、影の中のソウエイを捉えた。

 

「ッ!!」

「ソ、ウエイ? どうかしましたか?」

 

 思わず影から飛び出したソウエイを驚いたように見つめるラフィエル=スノウホワイト。彼女の右の瞳は既にいつもの美しい空の色へと戻っている。その瞳には敵意も殺意も悪意もなく、ただただ純粋に彼のことを心配する色を灯していた。

 

「いえ、……気のせいだったようです。申し訳ありません。どうぞ、武闘大会を引き続きお楽しみ下さい」

「…………そうですか。それなら、良いのですが」

「はっ」

 

 影に沈んだソウエイから目を離し、ラフィエル=スノウホワイトの視線は舞台へと戻る。そこに一瞬感じた底無しの憎悪は欠片も感じられない。

 

(……気のせい、だったのか?)

 

 確かにあの時感じたものは、一体何だ。

 訳の分からない不気味なものを抱え、ソウエイは任務と並行して思考に沈む。後程、リムル様にも伝えた方がいいだろう、とその思考には終止符を打った。

 その思考の間にリムルの挨拶は終わっていたようで。民衆と選手達の無言の要望に思念伝達で相談したソーカとリムルは、ソウエイへとその旨を伝えるよう命令した。

 

「ラフィエル様」

「はい。やはり何かありましたか?」

「いえ、そのことではなく」

 

 首を傾げたラフィエル=スノウホワイトに、客席の民衆と選手達の要望を告げる。曰く、ラフィエル=スノウホワイトにも挨拶を頂きたいと。

 

「私の挨拶、ですか。それは……必要ではないと思いますが……」

「はっ、確かにその通りです。しかし、その有無で試合の士気は雲泥の差かと」

「そうでしょうか? まあ、減るものでもありませんから構いませんが」

 

 本当にそんなことで変わるのだろうかと不思議そうなラフィエル=スノウホワイトが、転移門を潜る。リムル同様に割れんばかりの歓声が彼女を迎えた。

 その歓声がなかなか止まず、今回はと司会のソーカが何とか歓声を止ませた。リムルから場所を譲られたラフィエル=スノウホワイトは最初の選手――マサユキと目を合わせた。

 

「勇者マサユキ、でしたね」

「あ、はい」

「頑張ってください」

 

 可も無く不可も無い挨拶というか応援に、民衆だけではなくリムル達も「え? それだけ?」という反応をしてしまう。それに気付いたのか、ラフィエル=スノウホワイトは暫く考えてから、一つ頷いた。

 

「では次の……"狂狼"ジンライ」

「いや待てよ。もうちょっとマサユキさんに……」

「そう言われましても、初対面ですし、言うことは特にないのですが……。他の初対面の方も同様に」

 

 確かにそうだけども、とジンライは言葉に詰まった。そもそもラフィエル=スノウホワイトは好意で挨拶をしてくれているだけで、事前に何の用意もしていなかったのだから仕方ないといえば仕方ない。

 ただ、あのラフィエル=スノウホワイトから直々に貰えるのだからと少し欲が出てしまったのだ。

 

「まあ……そうですね。ただ応援だけというのも。それならば、貴方達から要求をお願いします。優勝したらという形になりますが、私に出来ることなら何でもしましょう」

「何でもは良くないだろ」

 

 食い気味に口を挟んだリムルに、ラフィエル=スノウホワイトが首を傾げると同時、次の選手がソーカからマイクを奪い取った。

 

「何でもと言ったな、聖女よ! ならば、俺が優勝したら、その身を俺に捧げろ!」

 

 ――瞬間、怒声と罵声が響き渡った。

 流石に魔王の治める国の開国祭ということで物を投げるような者はいなかったが、暴動が起きても可笑しくはない騒ぎだ。

 他の選手でさえも信じられないものを見る目で選手ガイを見つめている。リムルでさえ怒りが一周回って呆然としてしまっているのだから、無理はない。

 この騒ぎ、どう収めるか?

 

「申し訳ありませんが、既にこの身を捧げている御方がいらっしゃるので」

 

 その場が凍った。

 あの美しい純白の聖女が?? 自身を捧げた男がいる?? 嘘だろ??

 そんな言葉が無音の中で皆の脳内でぐるぐると回る。ありえないと否定したいのに、言っているのは当の本人である。

 白目を向いて気絶する信奉者が出始めた。静かに場が混乱し始める。

 誰もが口を開けない中、馬鹿(ガイ)が叫んだ。

 

「はあ!? どこの男だよ!」

 

 聖女の癖になんて阿婆擦れ、という言葉は魔王とその配下の殺意の籠もった眼光によって口に出す事だけは阻止された。

 

「男、かは知りませんが……神様ですけれど」

 

 あっ、そういう。

 無言のまま阿鼻叫喚に陥っていた場がすっと元に戻る。気絶した信奉者は揺り起こされ、真実を教えられて涙を流した。

 

「それで……貴方の要求ですが。耳の調子が悪かったことにさせて頂きます」

「は? ふざけ、」

「はいはーい! ガイ選手はそこまで!」

 

 ラフィエル=スノウホワイトの意図を読み取ったソーカが、ガイからマイクを奪い返す。わざとぶっ飛んだ発言をしてその場の主導権をガイから奪ったのだ。そして今の発言は、何も聞こえなかった事にする……要するに本人がお咎め無しにしたという事。それはつまり、リムル達がガイに罰を受けさせる事も許されない。

 ガイはその事に全く気付いていないが、他の選手達はその意図に気付いている。優しすぎると眉を寄せる者はいない。何故ならば、これからは武闘大会。合法的にガイを私刑に出来るのである。

 ただ、優し過ぎるが故の儚さを持つ彼女が、何故私刑を許すのか。浮き出た疑問は、即座に解消された。

 

「神の顔はそう何度も続きませんよ。少し反省するべきです――心当たりは、おありですね?」

 

 凪いだ瞳には怒りも侮蔑もない。先程の失礼極まりない言葉は一切気にしていないようだ。彼女の言葉にその場の人々は困惑するが、それも束の間。

 全力でラフィエル=スノウホワイトに感謝し、ガイに向かって中指を立てる女性の声が多数上がった。要するに、彼女に向かって放った言葉を様々な女性にも言っていたということだ。

 恐らく相談されていたか、その現場を見たことがあるのだろう。本人は天狗になってしまい、ただの言葉は届かない。ならば一度、その最強であるという自負を根本から叩き折るべきだと考えたのだろう。

 ならばこそ。ラフィエル=スノウホワイトによって課せられたその役目、必ずや果たして見せよう。彼女を敬愛する者はやる気を漲らせ、戦意を向上させた。

 

「では、次の選手……と言いたいところですが、ラフィエル様のお言葉に従い、最初のマサユキ選手から優勝した暁の要求を聞いていきましょう!」

「えっ、あ、あー……じゃあ握手をお願いします」

「はい、分かりました」

 

「ではジンライ選手!」

「マサユキさんと同じでいいぜ」

「そうですか?」

 

「はーい次! も同じでいいですね、ゴズール選手!」

「はっ! では大変烏滸がましいかと存じますが、どうか今後もお姿を拝見したく思います」

「……つまり定住して欲しいと?」

 

「それなら問題ありませんね! ではメズール選手!」

「えっ」

「くッ! ゴズールめ、同じ考えだったか!!」

「…………」

 

「では獅子覆面(ライオンマスク)選手!」

「そうだなあ、俺様が勝ったら俺の大将のところに遊びに来てくれや」

「? ミリムならこの国に」

 

「はいはーい!! ゴブタ選手お願いしまーす!」

「そっすねぇ……あんまり無理言うとリムル様怒るっすから……」

(うんうん、よく分かってるじゃないかゴブタ君!)

「じゃあ握手をお願いするっす! それならいいっすよね!?」

「別に構いませんよ」

 

「では最後にゲルド選手!」

「お久し振りですね、ゲルド。お仕事は順調ですか?」

「お久し振りです。仕事の方も、あの時貴女と話したおかげで――優勝の願い、ですか。ならば――あの時話した場所で、今度は相談ではなく、お茶をご馳走させて頂きたい」

「それはそれは……ええ、喜んで」

 

「さ、流石真打ち……優勝の要求も真打ちだったようです!」

 

 ラフィエル=スノウホワイトの挨拶、もとい優勝の要求も皆決まり、彼女は貴賓席へと戻った。そして舞台上では対戦相手の選定が始まる。

 トーナメントになっており、本日は六試合。明日が決勝戦となっている。四試合が午前、二試合が午後だ。

 ――そして試合は、何かイレギュラーがある事もなく順調に進んだ。

 全てが何事もなく、ただ一つ不可解な事があったとすれば、ソウエイの報告だけである。

 

 

 

「ラフィエル様の右の瞳が一瞬だけ赤く染まり、何か別の生き物の目になったかのような――ほんの一瞬だけでしたが」

「ふーむ……とりあえず、ラフィーには何時もより気を配っておこう」

 

 

 

 





 name:ラフィエル=スノウホワイト
 skill:ユニークスキル『聖歌者(ウタウモノ)』↔『死歌者(ウタウモノ)
   ユニークスキル『拒絶者(コバムモノ)
   ユニークスキル『上位者(ミオロスモノ)
   ユニークスキル『寵愛者(ミチビクモノ)
 secret:『悪魔契約』
     『悪魔共存』
     『禁忌の代償』


!!開国祭で悪魔は出て来ません(予定)!!
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