病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
運命の人/ストレスマッハ
第5.5話 運命の人
その日、リムル=テンペストは武装国家ドワルゴンに滞在していた。ゴブリン村へ技術者をスカウトするためだ。まあしかし、今は少し休憩中というか、ある一件のお礼にと、エルフの店で羽休めをしていた。
リムル=テンペスト。
ぷるんとした流動体を持つ者。要は、スライムである。それでいて、地球の日本という異世界からの転生者だった。
それから時は進み、エルフのおねえさんに"運命の人"とやらを占ってもらう事になった。
そこに映ったのは、黒髪の女性。片頬に火傷の跡がある、綺麗な人だった。
「おい、その人もしかして……"爆炎の支配者"シズエ・イザワじゃねえか?」
お礼のため、とエルフの店へ誘ったドワーフ、鍛冶師カイジンが言った。シズエ・イザワ。名前の響きからして、リムルと同郷である可能性が高い。本来なら井沢静江と表記されるのだろう。
「有名なのか?」
しかし、それは情報を得なければ確定にはならない。リムルがカイジンに問うと、頷いて軽い説明を始める。
「
「英雄……」
あの女性が英雄。
恐らく同郷である彼女には、会ってみたい。
「スライムさん運命の人、気になるんだ?」
「え? あ、いや」
くすくすと楽しそうに聞かれたリムルは視線を泳がせる。そこで、黒髪の女性――シズエ・イザワが映っていた水晶に、また誰かが映っている事に気がついた。
「あれ、…二人目?」
「スライムさん、運命の人多いね。モテモテだ」
「そんな事ないけど……」
実際、生前のリムルは独身貴族。誰かと初体験をしたということもない。その事実からそっと目を逸らし、水晶へ関心を向けた。
次は誰が映るのか、誰もが興味深く伺っている。
そして、皆の関心を受けた水晶は、一人の美しい少女の姿を映し出した。
ベッドの上で坐り込む少女。恐らくは寝室にいるのだろう。薄暗い部屋にいる彼女の顔はまだ見えない。今見えるのは、純白の衣装を身に纏った小柄な少女という事だけだ。
少女が、ほんの少し顔を上げた。
リムルの周りのエルフのおねえさんや、カイジン達が息を呑んだ。
リムルは、驚いてその少女を見つめていた。周りの様子にも、気が付かない。
衣装と同じ、いや、それ以上の艶と上品さを持ち合わせている白い髪。そして、宝石が詰め込まれたかのように美しい、青い瞳。その瞳から柔らかそうな頬を伝って流れ落ちる――涙。
どうして泣いているのか。綺麗な服装や身体の汚れからして、恵まれた環境にあるはずだ。一体、何が彼女に涙させるのか。悲しませるのか。
わからない。分からないけれど……もし力になれるのなら。助けたい。その涙を拭ってあげたい。
そう思うのは、人として、男として間違っていないはずだ。
「なあ、この人の事知ってるか?」
だから聞いた。
先のシズエ・イザワの事もある。もしかしたらこの少女のことも知っているかもしれない。希望的観測で、リムルは彼女について問いかけた。
そこでようやく、リムルは呆然とした顔の周りに気が付いた。リムルの声ではっと我を取り戻したエルフのおねえさんが、頬を上気させた。
「す、すごいよスライムさん! あの人が運命の人だなんて!」
「いいなあ……」
リムルは一躍、羨望の的となっていた。
へ? と首を傾げる(比喩)リムルに、苦笑したカイジンが口を開いた。
「その方の名前は、ラフィエル=スノウホワイト。病弱の聖女とも、微睡みの暴虐者とも言われる、魔王の
「えっ」
ポカン、と今度はリムルが呆然とする番だった。
第5話 ストレスマッハ
この世界では初めて会ったかもしれない常識的な人間、クロノアと出会ってから三百年が過ぎた。クロノアは何か、魔王の一人であるバレンタインのとこで何年か眠るらしい。訳わからんな!
勇者ってそんな事しなきゃなんねぇの? しんどいな、オレは絶対やりたくねぇわ。
しかし三百年もありゃ色々と情勢は変わるわな。なんかヤバイ存在がジュラの大森林に封印されたらしい。ジュラの大森林ってオレが元いた草原のお隣じゃね? やっべー……引っ越してよかった。
あと何か、オレが滅ぼしたとか暴れたとか言われてる場所が増えた。なんで?(真剣) オレはただ……いろんな国に遊びに行ってるだけなのにッ!
こういう事が続くとさ……外行く気力死ぬよね。もう、ニートになるしかないよね。
しかも何か変な事があって、熱も何もないのに、二、三日くらい眠ったままとかあったし。その後、何故かあの三人が喜んでたけど。やっぱ頭おかしいんじゃ……。
でも一番嬉しい事はあれだな。
常識的な知りあいが増えたこと。クロノアなんだけど、あれから結構な頻度でうちに来るようになった。オレからしても仲良くしたいからよくお茶していた。
そしてつい数十年程前の事だが、幼女をつれたクロノアがやって来た。幼女の名前はシズエ。シズエ・イザワ。
いまでは立派に大人の女性に成長しているが、かなり仲良くさせて貰っている。
まぁ……一時期はクロノアは何処にいるの、教えて、とか半狂乱になって聞いてきたけど。知るわけねぇじゃん、オレだって何時も教会で来るの待ってるよ。
つーか教会から出るなんて、散歩の時くらいしかねぇわ。順調に引きこもり生活を謳歌している……と、思うだろ?
違うんだなぁこれが。
今も現在進行形で楽しい平穏生活をぶっ壊されているところだし。ふざけんなよ魔王この野郎。何時になったら、お前らはどっか行くんだよ。
オレの家に居座るの止めてくんない? 誰がお前らの茶ぁ出してると思ってんだ? おもてなしの精神なんざなぁ、もう死んじまったよ!!
ちょいちょいじゃれ合いとか称して、教会のすぐ側でとか、教会の中でとかで喧嘩始めるし……うちを破壊すんじゃねぇぞゴルァ!
はー……辛い。
つーかお前らうちに来すぎだろ。絶対に一日一回は誰か来てるんですけど。しかも今日は多い。なんでやねん、ミリムとギィ、更に……何か、最近魔王になった奴だから名前覚えてない奴二人。計四人。
涙が出そうだ。
まだ新米魔王の方はいい。よくないけど。あいつらは一応、教会を壊したりしねぇから。オレを命の危険に晒したりしないから。
問題はあの二人だ。ピンクと赤の、平気でここら一帯を更地に出来る奴等だ。実力的にも、精神的にも。こないだ、オレのお気に入りのマグカップ壊して、「ごめーんテヘペロ」みたいなノリで謝ってきたぞ?
謝ったら、どんだけふざけた謝り方でも許してもらえるとでも思っとんのか? 許すわきゃねぇだろ、このクソ共がァ――ッ!!
ほんともう、やだこいつらぁ……(泣)
なんて内心思っていたところで、反抗期どころかガン付けてるレベルのグレ具合の表情筋は一切オレの言うことなんて聞いてくれない。
表情に出ねぇから、誰も迷惑だってハッキリわかってくれないんだぞ? いいからとっとと表(情)に出ろやァ!!
無限の堪忍袋と呼ばれるラフィエル様でも、ブチ切れる事だってあるんじゃよ? いいかてめぇら、イキってられんのも今のうちだからな……。今後オレが謎の大覚醒をしたら、目にもの見せてくれるわ!
というわけだからマジ、オレが激怒して覚醒を遂げちゃう前に帰ってくれるかね?
あ、無理っすか……。
というか、さっきから新米魔王二人にすげえガン飛ばされてるんだけど。何なん? 教会破壊しねぇから大して気に留めてなかったけど、もしかしてそれで怒ってんの? 器ちっさ!
あの翼の生えてる人外姉ちゃんは見た目ではそこまで怒ってる風には見えないけどオレには分かる。空気を読む天才だからな、オレくらいになると雰囲気で怒ってる事くらい分かるんだ。
あの姉ちゃん名前なんつったっけ? ふ、ふ……フライ? なんかそんな感じだった気がする。よくよく考えてみるとしっくりくるわ。間違いなくフライだな。うん。
それでもう一人……なんか厳ついおっさん。ちょっと獣要素がある、特筆すべきことはないおっさん。おもっくそガンつけてくれるじゃねぇか、おお?
やんのかゴルァ! 頭脳戦なら脳筋になんざ負けねぇからよお、相手してやろうじゃねぇか! 頭脳戦でな! ……肉弾戦? ちょっと何言ってるか分かんないです。
ええと、名前は確か……か、か……かる? かり? そう、カリ……なんちゃら。
フライとカリ何とかは、あんまり構わなかったから怒っているのかもしれない。構ってちゃんかよ。
つーか初対面の時の三人にも思った事だけど、口付いてんだから喋れよ。目は口程に物を言うっていうけど、オレは目で言われてもニュアンスくらいしか分からんのじゃ! 言葉で伝えろカス!
なんて思ってたらちゃんと言ってくれた。お? 何々、お前ほんとに強いのかって?
強いわけねぇだろ、何言ってんだお前。
頭ん中にある味噌を発酵しすぎたんじゃねぇの?
本気で何言ってんだこのおっさん。
とか思ってたら、ミリムがものすごい形相になった後、一瞬でカリ何とかの首を掴み上げた。
エッ……幼女がおっさんを掴み上げてるこの構図、恐ろしいんですけど……。
「ラフィーを潰すつもりなら、ワタシが相手になってやるぞ? カリオン」
あっ、そうだこのおっさん名前カリオンっていうんだ。おけおけ、把握。
これからは魔王の名前はちゃんと覚えるから、その怒気しまってくんないかな、ミリム。ちょっと、オレの手がプルプルしてんの見えない?
なんかマジギレしてるミリムにそんな口を聞ける訳もなく、オレは黙ったまま座り込んでいた。
「おいおいミリム、その辺にしとけよ。あんまり教会のもの壊すとラフィーが泣くぜ」
泣かんよ。
お前らの好感度が深淵の奥底まで墜落するだけだ。元々そこまで好感度高くねぇけどな。
つーか止められるんなら最初から止めろよギィ。お前そんなんだから、何とかいう皇帝との勝負に決着つかねぇんだよ。
はぁ――ッ!(諦め)
何かよくわからんが、とりあえず認めてやるとか言ってカリオンが帰った。その際にミリムがキレてカリオンの顔面にパンチをいれていた。カリオンは数百メートルくらい吹き飛んだ。さよなら。
フライも帰った。なんかちょっと同情されていた気がする。あと、名前はフライじゃなくてフレイだった。惜しかったな……。
そして問題の二人だが……なんか、泊まるとか言い出した。
はん?(真顔)
訳わからんこと言うなや……。
ガチで泊まりおったぞあの野郎共。
信じられねぇ。あいつら、本気で教会に泊まりやがった。オレの安住の地が侵されるゥ……! いや別に安住じゃねぇけど。最近は魔王共が屯ってるから、全然安住じゃないんだけども。
あいつらの相手ほんと疲れる……。必死で教会やオレが壊されないように気ィ遣ってたからさぁ、ようやっと一息つけるわ。
教会の奥の広い部屋に二人を押し込んで、オレは一人で寝室のベッドに這い上がった。寝る時まであんなんと一緒にいたくねぇわ。適当に理由ぶっこいて抜けてきたっつーの!
ああぁ……やっと肩の力を抜ける。長々と息を吐きだしたその瞬間、腹に激痛が走った。
「(だああああっ!? いた、いたたた、ちょっ、死ぬゥ! 痛い!)〜〜〜ッ!!」
これ絶対ストレスだ!
最近溜まってたストレスが、今日の盛り盛りストレスで一気に爆発したんだ!
やべぇよ、これ絶対に胃に穴開いてるって! だから魔王がここでお茶すんの止めろって言ったんだ! 言ってないけど!
うああああ、クソ痛え! 涙出そう……。
「(駄目だ、意識飛ぶわ)」
枕に顔面から突っ込んだ。
起きたら朝だった。腹はまだちょっと痛かった。
「出来るなら助けてあげたい」
オリ主「【急募】ストレスで死にそう【胃薬作り方】」
リムルと出会ったら、更に胃薬は必要になる。
そもそもラフィエル君の胃にダメージを与える奴等とのエンカウント率が既に……。ラフィエル君の胃に安息はない(無慈悲)(悪魔の呪いは関係ない)
現在のステータス
name:ラフィエル=スノウホワイト
skill:ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
ユニークスキル『
secret:『悪魔契約』
『悪魔共存』
『禁忌の代償』
備考:感知系は『上位者』に統合された。
いつか覚醒するどころか、既に真なる魔王に覚醒している。ラフィエル=スノウホワイトの意思さえあれば
追記:ユニークスキル『