病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー   作:昼寝してる人

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ギャルドの思惑

 第62話 ギャルドの思惑

 

 ラフィエル様から儀礼用の美しい純白の布をお借りし、聖女代理としての命を果たすために魔王リムルと共にイングラシアへ向かう。

 それが俺に課せられた、西方聖教会の件を除けば、初めての仕事だ。ラフィエル様は自分の事は適当に済ませてしまうため、俺が自ら志願して身の回りの世話をしていたが、それはラフィエル様から課せられた仕事ではない。

 正真正銘、これがラフィエル様の配下としての初仕事である。

 

 まあ……世話といっても、たまにラフィエル様が生成する謎の物体を作らせないためでもある。

 例えばハーブティーを淹れたら、何故かドロドロの汚泥が出来ていたりしたのだ。

 今までラフィエル様に淹れて貰っていたお茶は大変美味で見た目だって美しかったのに、何故か稀に手順も何もかもが同じなのに謎の物体が生成される。

 その上、謎の物体はおどろおどろしい気配を放ち、同じ言葉を繰り返す。今まではラフィエル様が気付かないうちに俺が処理していたのだが……あの謎の物体に気付いてしまっただろうか。

 

 出来れば言葉を話す前に処分していたら良いのだが。あの謎の物体はラフィエル様への殺意を持て余しているようだった。

 聖歌者というのはよく分からないが、おそらくはラフィエル様のことなのだろう。憎い、気味が悪い、殺してやると繰り返すそれを気付けばゴミ箱に投げ捨てていた。

 マグカップごと投擲してしまったので、ラフィエル様に気付かれる前に新しいマグカップを補充するのに苦労した。

 あれは不気味で、怖気が立つ。ラフィエル様ならば大丈夫だとは思うが、少し心配だ。ただ、何故ラフィエル様があれを生成してしまうのかは……分からない。

 

 ともあれ、俺がいない場所の心配をしても仕方が無い。まずは自分の仕事をしっかりやらなくては。

 イングラシアでは魔王リムルと共に最高級の宿屋(ホテル)が用意されていた。が、相手は本当にラフィエル様が来ると思っていたのか、魔王リムルと配下達、ラフィエル様、ラフィエル様の配下という三部屋が予約されていた。

 あまりにも対応が違いすぎると憤る配下達を宥める魔王リムルの様子を見ていたが、ふと思う。もしここに、実際にラフィエル様がここに来ていたら――?

 この部屋割りは、魔王リムルとラフィエル様の間に亀裂を入れる事が目的だったのかもしれない。明らかに意図的な行為に、魔王リムルは溜息を吐いていた。

 だがラフィエル様はこの場にはいない。部屋割りを魔王リムル、魔王リムルの配下達、そして俺に分ける事にした。

 

 荷物を置いて会議のために思考を回転させていると、魔王リムルが部屋を訪れた。

 これから町へ下りて服飾関係の店に行くが、一緒にどうかという事らしい。流石というか何というか、一大事の前に観光とは余裕だ。魔王とは皆、こんなにも心に余裕があるのだろうか。少し羨ましい。俺は割といっぱいいっぱいなのだが……。

 まあ、部屋で固まっていても出来ることは出来ない。外に出てリラックスするのも良いだろう。同行する旨を伝え、俺はラフィエル様の美しい髪に酷似した布を羽織った。

 

 店に着くと、シュナ殿が服飾に魅了されていた。俺達の中では唯一の女性だからだろう。

 あまり服には興味は無いが、ラフィエル様に恥を掻かせるような格好は出来ない。そのため俺も礼服を持ち込んではいるが、如何せん堅苦しいのは慣れないものだ。

 魔国連邦(テンペスト)の店で適当に買った服を普段は着回しているが、これがもう動きやすい上に着心地が良いのだ。

 何故か魔王リムルには会う度に渋い顔をされるのだが。このジャージというものは魔王リムルが考案したと聞いているのに何故そんな顔を……?

 

 魔王リムルが配下達三人に服をプレゼントするようだ。俺は外で待っていようと思ったのだが、ものすごい笑顔の魔王リムルに腕を掴まれた。

 店の中に引き摺り込まれて問答無用で服を着替えさせられてプレゼントされてしまった。ジャージの方が動きやすいのだが。そう言えば、あれは家着だから外で着るものじゃないと渋い顔をされた。

 ラフィエル様は俺が気に入っているのなら構わないと許してくれていたのに。いや、ラフィエル様はかなり他人に甘い。本人が良いならと許してくれていたのかもしれない。

 

 自らの主の他人に対しての甘さを改めて実感していれば、魔王リムル達の着替えも終わったようだ。店を出て異世界人が経営していた喫茶店へ向かう。

 ここでヒナタ様と待ち合わせをしているらしいが、まだまだ来られる気配はない。

 ヒナタ様が来るまでに情報を共有するようで、俺がいてもいいのかと聞けば会議にも関係するから聞いておけと返された。

 ラフィエル様もそうだが、この魔王も存外人に甘い。うっかり魔王という事を忘れてしまいそうになる。だがまあ、ちゃんと気を引き締めなければ。

 

 なんでも開国祭では金銭関係のトラブルがあったらしい。その元凶が恐らくはミューゼ公爵となるそうだ。彼を探っていれば目の前で死んだ、と。

 なるほど……全く分からない。正直こういうものは得意ではない。頭で考えるよりも戦う方が得意なのだ。まあこの中では俺が一番弱いのだが。

 しかし、狙撃? とは一体――と思ったら、ヒナタ様が合流した。話は一度流れ、昼食後に再開となった。

 昼食後の話は国同士の駆け引きの内容も含んでおり、ついて行けなくなった俺は早々に話を聞き流す事にした。

 

 翌日。

 会議の開催場所に着いて早々、魔王リムルは絡まれていた。助け船を出そうとは思うものの、俺は俺で絡まれていたので出来なかった。

 だからラフィエル様は不在だと何度も言っている。体調が優れないので俺が代理で――話を聞け!!

 人の話を聞かずに自分の考えだけが全て正しいと思い込んでいる相手と話すのは酷く疲れる。そもそも病弱と名高いラフィエル様が絶対に来るなどと何故思うのか。

 聖女と祭り上げるのならば、庇護を頂きたいのなら、相応の態度を見せるべきだ。何故甘い汁だけを吸えると思ったのか理解が出来ない。

 だがこれも、ラフィエル様から頂いた初仕事である。我慢に我慢を重ねて対応し、穏便に追い払う。深呼吸して怒りを静めていると、お前も大変だなと言わんばかりの魔王リムルと目が合った。

 

 そして始まった会議。

 まず始めに議題に上がったのは、聖女ラフィエル=スノウホワイトの代理を認めるか否かであった。認めない者が多数……という訳ではなかった。

 この世界ではまず見たことが無い――ラフィエル様を拝見した者は除く――純白のマントが、何よりもラフィエル様の代理としての信憑性を有していたからだ。

 そのため反対したのは魔王リムルに絡んでいたような立場だけが大きい頭の弱い者達だった。

 

 曰く、ラフィエル=スノウホワイトに配下など聞いたことがない。

 曰く、お前は元は西方聖教会の騎士だろう、魔王リムルとグルなのではないか?

 曰く、ラフィエル=スノウホワイト本人でなければ、認められない。

 

 大多数は代理を認めているが、立場の大きい者が異を唱えているために無視出来ない、といった様子だ。ああいう輩を説得するのが一番骨が折れるのだが……。

 眉を寄せてどうするのが手っ取り早いか考えていると、魔王リムルがもう一つの証拠を見せてやると良いと言ってきた。

 フルートの事だろうか? あれは本当に、見た目は何処にでもあるフルートなのだが……。懐から取り出すと、ざわりとその場が騒がしくなった。

 

「あれはまさか――」

「魔王ラフィエル=スノウホワイトが国を陥落させた時の?」

 

「――″死歌のフルート″だというのか!?」

 

 ああ……、そういえば確かに。

 俺からすれば、人の傷を癒やす聖歌のフルートなのだが、彼等は違うのか。あの始まりの物語で描かれたフルートがあまりにも印象に残っているから。

 なんというものを持たせているのだと戦いている議員達を見ると、遣る瀬ない。本当は美しい音色を奏でるもので、恐ろしいものではないのに。

 吹いてみるといいわ、それで効果があれば確かな証拠となるでしょう――とヒナタ様が言った。あの人は俺が持つフルートの効果が治癒だと知っているから軽く言っているが、他の者はそうではない。

 真っ青な顔で代理を認めるから早く仕舞えと叫んでいた。

 

 まあ多少の脅しにもなったし、これなら魔王リムルもスムーズに加盟して帰ることが出来るだろう。

 そう、思っていたのに。

 馬鹿な議員のせいで魔王リムルは激怒し、挙げ句の果てに魔王討伐などと嘯く阿呆まで現れてしまった。こんな時、俺は一体どんな顔をすればいいのだろう。

 正直、もうどうにでもなれといった心情なのだが頭を空っぽにして放棄するわけにもいかない。

 ヒナタ様を見たら何だかんだあの人も頭にきていたのか、イングラシア最強とか言っていたライナーを投げ飛ばしたところだった。シュナ殿はあの霊子崩壊(ディスインテグレーション)で相手の身ぐるみを剥いでいたし、女は怖いという事しか学べない。

 

 何故俺はこの場にいるのだろう――そう思っていたら、魔王リムルが議員達を威圧し始めた。そうすると何故か、俺に助けを求める議員が出始めた。

 訳が分からない。何故かここで助けを求めて、助けを貰えると思ったのか。

 自らの欲求だけを突きつけ相手を見極める事も、相手の人となりを知ろうとする事もしなかったお前達の自業自得だろう。

 人であろうが魔王であろうが関係はない。先に礼を失したのはお前達だ。

 そう突き付ければ、彼等は黙った。

 

 これで取り敢えずは片がつくだろうか。そう思った瞬間に明確な殺意を感知した。それはヒナタ様も同じようで血相を変えたが、この場には怪我をした者すらいない。

 一体何が――と思えば先日話していた銃が原因だったようだ。しかも魔王リムルがさらっと妨害して助けた相手に恩を売り、犯人の確保にまで動いていた。

 改めて感じたが、とんでもない魔王である。

 やっぱり俺は、というよりラフィエル様だっていなくても普通に自力で解決したのでは? いやまあ、ラフィエル様を呼んだのは議会側だが……まあ、意味は無かったようだ。

 

 とりあえず会議は終わり、俺達は喫茶店で寛いでいた。しばらくしてから合流したソウエイ殿の話によると、下手人はなんとグレンダだった。

 一応は同僚だったので顔を合わせたことは何度もあるが、まさかそんな武器を持っていたとは。肉体的にはそこまで強くないので何故この地位にとは思っていたが、そんな隠し武器があったのなら納得だ。

 ヒナタ様を含め、魔王リムル達はグレンダの尋問に行くようだが、俺は早めにラフィエル様の元へ帰らなければならない。

 ラフィエル様から出来るだけ早く戻るよう言われているし、一人になると途端に自分のことを適当に済ませかねないのだ。

 その旨を伝えると、魔王リムルはソウエイ殿の分身体を護衛につけろと言った。無理を言って配下を借りたのに一人で返す訳にはいかないと。

 それは確かに。頷けば、分身体のソウエイ殿は影に沈んだから気を付けて帰れよ、という言葉に勿論ですと返し、俺は帰路を急いだ。

 いつの間に影に沈んだのか分からなかったが……本当に魔王リムルの配下もとんでもない。まあ、気にしていても仕方ない。

 下手人も捕まり、もうこれ以上はないだろうと油断していたのが悪かったのだろう。まさか黒幕からもう一人派遣されているとは考えもしなかったのだ。

 

「やっ、こんにちは。ちょっと大人しくしてくれるかい?」

「は?」

 

 イングラシアから出る、まさにその直前だった。笑顔の少年が顔を出したのは。

 黒髪黒目、異世界人特有の色彩を持っているその男は、

 

「ゆ、ユウキ・カグラザカ――?」

「グレンダが丁度リムルさん達の気を引いてくれて助かったよ。何ならラフィエル=スノウホワイトが留守番してたのもラッキーだったかな」

 

 そ、れは、つまり。

 ユウキ・カグラザカはグレンダとグルで……いや、目的は異なるのか? だがそれでも、何かしら繋がりがあったのは間違いないだろう。

 奴の目的は――話の内容から察するに、俺か?

 何故というのは、考えても分からないだろう。ならば逃げるか、それとも。

 

「一人になってくれたのは本当に良かった――流石にリムルさんを相手にするのはキツいけど、君一人誘拐するくらいは、ね」

 

 殺すのではなく、誘拐だと?

 何故そんなことを……ラフィエル様と魔王リムルの仲に亀裂を入れるのが目的ではないのか? それならば誘拐ではなく俺を殺した方が手っ取り早いはず。

 何故そんな遠回しの手段を取る?

 だが……わざと奴の手中に落ちれば、情報を仕入れる事が出来るかもしれない。魔王リムルだけならばともかく、ラフィエル様にまで手を出そうとしている相手を放置するわけにはいかないだろう。

 いや、そもそもラフィエル様は魔王リムルの事を気に入っているようだし、魔王リムルだけが対象であっても情報は掴んでおくべきだ。

 幸い、俺の影にはソウエイ殿がいる。彼から魔王リムルへ情報は伝わるだろうし、わざと手中に落ちるのもアリ、か。

 

「……そう簡単に、俺を連れて行けるとは思わないことだ」

 

 だが、それなりの演技はしておくべきだろう。

 ここはイングラシア――自由組合総帥(グランド・マスター)のテリトリーだ。演技といっても、本気でやらねばやられるのは此方だろう。

 恐らくソウエイ殿は俺の意思を汲み取って動かずにいてくれているのだと思う。でなければ、早々に動いているだろう。

 心の中で感謝を告げ、俺はユウキ・カグラザカに得物を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここ最近、どこか不自然で、薄気味悪さを感じる。

 そんなラフィエル様から、しばらく離れられると安堵してしまう自分が、嫌になった。

 

 

 





 name:ラフィエル=スノウホワイト
 skill:ユニークスキル『聖歌者(ウタウモノ)』↔『死歌者(ウタウモノ)
   ユニークスキル『拒絶者(コバムモノ)
   ユニークスキル『上位者(ミオロスモノ)
   ユニークスキル『寵愛者(ミチビクモノ)
 secret:『悪魔契約』
     『悪魔共存』
     『禁忌の代償』
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