病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー   作:昼寝してる人

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そっくりさん

 第67話 そっくりさん

 

 地盤が崩落した。

 動揺するギャルドの真横を、ユウキが駆け抜けていった。その体に傷はなく、五体満足――要するに無傷だった。

 さっきまでは満身創痍で、動く事すら難しかったはずなのに、どうやって?

 混乱すると共に、この場からの脱出を試みるギャルドの視界に入ったのは、一つの瓶。その瓶の形には、見覚えがあった。

 

(あれは――魔国連邦(テンペスト)印の完全回復薬(フルポーション)!? 隠し持っていたのか!)

 

 考えてみれば、ユウキが完全回復薬(フルポーション)を持っていても可笑しくはない。

 彼は自由組合の頂点に位置する総帥(グランドマスター)である。そして、表向きには魔王リムルと親しい仲として振る舞っていた。

 魔王リムルから、自由組合として完全回復薬(フルポーション)の買取をしているのだとして、それを自らの懐に入れる事も容易であっただろう。

 そもそも彼は自由組合の頂点に立てるほどには実力があるのだ。もしかすると、攻撃に屈するフリをして逃げる隙を伺っていたのかもしれない。

 そしてギャルドが作った隙をこれ幸いと利用して逃げ出したのだ。

 ギャルドが立ち塞がる事すらも想定の内であったかもしれないと思うと、頭が痛い。

 

 そもそもユウキは敵だ、ラフィエル=スノウホワイトに殺人を犯してほしくはないと考えていたとはいえ、それなら自分がユウキを殺しておけば良かったのでは……?

 今更脳裏に過ぎった考えに、ギャルドは首を振ってその考えを捨てる。

 たらればの話をしたところで何になる。するのであれば未来の話だ。

 崩れ落ちるその場から、必死に出口へ駆けていく。ラフィエル=スノウホワイトかもしれない誰かは、一足先にこの場から消えていたため、この場には今、ギャルドが一人取り残されているのだ。

 天井から降ってきた瓦礫を避け、壊れていく足場に埋もれないよう、すぐに足を上げて前の地を踏む。まるで地面に溺れないように泳いでいる気分になってしまう。

 必死の思いで抜け出した地下。

 振り返れば既に瓦礫で埋められてしまっていて、先程までいた場所――確かマリアベルは墳墓と言っていたか――は、もはや見えもしない。

 

「ラフィエル様……それに、ユウキ・カグラザカは何処に……?」

 

 影も形も見えない二人を探そうと、ギャルドは遺跡の中を駆け出した。

 

 

 

 悪魔は思う。

 そういえば人間は悪知恵を働かせる小賢しい生き物だったなと。

 ここしばらく表に出ていなかったために、すこんと抜けている知識があるらしい。まったく困った弊害だと、悪魔は鼻を鳴らした。

 まあ、それでも構わない。

 表に出てこられたのなら、こっちのものだ。

 

 例え、殺そうと思っていた獲物が逃げても。

 殺そうと思っていた獲物が、魔力爆弾で地盤を崩落させて、ギャルド諸共生き埋めにしようとしてきても。

 悪魔にとって、それは別にどうでもいいのだ。

 必要なのは、求めるものは。

 忌々しい聖歌者ラフィエル=スノウホワイトの死――そして、人間共が苦しみ、喘ぎ、絶望に崩れ落ちる姿こそ。

 それこそが、悪魔の求める幸福なのだ。

 

 

 まあ、無論。

 この人間共というものは、悪魔がいた世界の悪魔以外の知的生命体という意味であって、たとえエルフだろうが魔物であろうが、悪魔にとっては人間なのである。

 この世界の悪魔は……なんとも言い難いが。

 だからこそ。

 ラフィエル=スノウホワイトと面識がある人間だからこそ、心砕く人間だからこそ。

 こうして、壊し甲斐があるというものだ――

 

「は……カガリさん?」

「なん、なんで――あんたが、そんなこと」

「聖女なんじゃ、なかったのかよ!?」

 

 遺跡の外。

 リムルがミリムの元へ向かった頃合いを見計らって、悪魔はその場へ降り立った。

 感じたことの無い気配に警戒するシオンとゴブタは、その人物を見て目を見開いた。

 何せそこにいたのは美しき聖女、ラフィエル=スノウホワイトその人だったのだから。

 間違いなく彼女本人だというのに、何故――こんなにも、悪意に満ちた目をしているのだ。

 二人が困惑している間に、悪意はその両手から力を抜いた。すると、首を掴まれていた二人は地面に落下する。

 なんの抵抗も無く地面へ転がった二人の顔は、酷く見覚えのあるもので。

 調査団のリーダーであったカガリと、敵の親玉と思われる少女マリアベル。

 動揺し、声を荒らげる調査団の顔を見渡して、悪魔は愉悦の笑みを浮かべる。

 

 そう、これだ。

 この顔が見たかったのだ。

 

 優しくしてくれた、魔王でありながら高い人徳を持つ聖なる人。その人物が、自分達を率いてきたリーダーの死体を粗雑に扱う。

 それだけで、それだけなのに。

 笑ってしまうな、本当に。

 ほんの少し、乱暴に振る舞うだけで裏切られた顔をする。自分は何も、言っていないのに。

 殺したのはラフィエル=スノウホワイトでも、悪魔でもない。マリアベルはユウキに、カガリはマリアベルに殺されたのだ。

 だというのに、勝手な憶測だけで判断する、この愚かな人間達のなんて醜いことか。

 

「あんなに優しくしてくれたのは、演技だったの?」

 

 そんな訳はない。

 ラフィエル=スノウホワイトの献身は本物である。

 だが、それを悪魔は口にしない。ラフィエル=スノウホワイトは聖女である。しかしだからこそ、その存在を貶める事は悪魔の望むところだ。

 口元を歪ませ、人間共を見下ろして。

 ダメ押しにカガリの死体を足蹴にしてやれば、どうだ?

 

「その人から、カガリさんから離れろ!!」

「今まで騙して楽しかったかよ、嘘吐き野郎が!」

 

 怒りの形相で武器を持つ調査団の面々に、悪魔は堪えきれずに笑い声を上げる。

 高らかに上がる哄笑に、止めようとしていたゴブタやシオンは思わず得物を握ってしまう。

 ――それ程までに、敵意と悪意に塗れた声。

 ラフィエル=スノウホワイトの慈愛の声とはまるで違う、別人のような、美しい聖なる声。

 そして、ふと気付くのだ。

 あの少女――今の今まで、声を出していなかった、と。

 

 少し空白があれば、ほんの少し冷静さを取り戻せば。

 ああ、ああ、何ということだろう。

 状況だけで、自分達は彼女の説明も何もかもを聞かずに、カガリを殺したのはラフィエル=スノウホワイトだと思い込んでいた。

 その場には、確かな敵であるマリアベルの死体もあったのに。

 マリアベルにカガリが殺され、その場に辿り着いたラフィエル=スノウホワイトが仇を取ってくれたなんて、そんな事も有り得るのに。

 どうしてラフィエル=スノウホワイトだけを疑ってしまったのだろう。

 

 無意識に、彼女を敵だと、魔王だからと思っていたから?

 あんなにも優しくしてくれたのに。

 人類への献身を知っていたのに。

 魔王だからなんて、それだけで――?

 だったら自分には、自分達には、この場にいる資格なんてないのではないか?

 何せここを調査させてくれているのは魔王ミリムと、魔王リムルだ。

 魔王だからと二人が大切に扱っている彼女を敵視した自分達は、どうすればいいのだ。

 ……もはや、挽回の余地はないのか?

 

 にやにやと、悪魔は嗤う。

 彼等の思考を読んで、その状況へと誘導した自らの手際を称賛しつつ、人間の不幸を嘲笑う。

 まったくもって、魔王の称号と聖女の称号は使い勝手が良い。

 聖女にすり寄ってきた人間に優しくした後に魔王らしく暴虐を振るえば、すぐさま恐怖と絶望、そして裏切られたと勝手に思い込むのだ。

 勝手に期待して勝手に裏切られた気分になっているだけのくせに、なんとまあ。

 しかしそれもまた、愉快。自業自得であろうとも、悪魔にとっては最高の娯楽である。 

 

……ふん、ようやく本命が来たか

 

 背後からの殺気を感じ取り、愉悦に打ち震えていた悪魔はひょいと身を屈める。

 正確に首を狙われた悪魔は特に何とも思う事なく立ち上がる。

 不快をあらわにして、リムルは悪魔に剣先を突き付けていた。

 

「――お前が、ラフィーのそっくりさんってやつか」

 

 悪魔はラフィエル=スノウホワイトの記憶を探る。

 そっくりさんとは、どういう事だ?

 しかしラフィエル=スノウホワイトの記憶にそれらしき記憶はない。当然だ、魔王達の宴(ワルプルギス)で交わされたその会話は彼女が眠っている間になされていた。

 彼女の身を守るために、比較的新しいまだ信用足りない魔王に吐かれたその嘘は――調査団の面々に衝撃をもたらした。

 

「ま、待って下さい、魔王リムル様。そ、そっくりさんって、どういう――?」

「ああ。俺もこの間魔王達の宴(ワルプルギス)に出た時に聞いたんだが、ラフィーの姿をしていて、随分と性格が悪いそっくりさんが居るそうだ。その特徴は――血のように赤い瞳」

 

 悪魔の目に、視線が集まる。

 鬱陶しそうな顔をした悪魔が顔の近くで手を振り払えば、すぐに視線は霧散した。しかし、調査団の面々の顔は明るくはなかった。

 偽物の言動に踊らされ、なんの罪も無い聖女ラフィエル=スノウホワイトを悪と断じて罵った。

 先の場に彼女がいなかったとしても――この胸に残る罪悪感も後悔も、消えはしない。

 

 そんな調査団の姿に訝しげな顔をするリムルだったが、それよりも目の前の悪魔の方が大事だったらしい。

 ラフィエル=スノウホワイトの評判や人徳を傷付ける、この偽物をどうしてくれようか。

 腰を落とし、地面を蹴り上げ、正面から勢い良く突っ込んだリムルは、悪魔に向かって刀を下から斬り上げた。

 

「ええい、待つのだこの大馬鹿者め!」

 

 カウンターを返してやろうと堂々と待ち構えていた悪魔共々、リムルは肩透かしを食らった。

 リムルの攻撃から悪魔を庇ったのは、魔王ミリム・ナーヴァだった。

 

「おい、何で庇うんだよ! お前が言ってたラフィーのそっくりさんってこいつなんだろ?」

「それはそうだが、攻撃するのは止めるのだ! ワタシの竜眼(ミリムアイ)で見えているのだから、お前も見えない訳じゃないだろう?」

 

 何の話だ? と困惑したリムルを見て埒が明かないと判断したのか、ミリムは大声で宣言した。

 

「ここはワタシの領地なのだ! 勝手な事は許さん。ラフィー……のそっくりさんは、ワタシが相手をする!」

 

 

 




変化ない限り今回からステ省略。
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