病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第68話 予定不調和
魔王ミリム・ナーヴァ。
その幼い体には、見た目とは程遠い力が宿っている。それこそ世界が崩壊しかねない程の——特S、
星王竜ヴェルダナーヴァの一粒種。
彼女が対峙するのは、美しき純白の聖女に取り憑く異界の悪魔である。
「ワタシがって……俺もラフィーのそっくりさんには物申したいんだけど?」
「お前は加減しそうにないからダメなのだ!」
疑問符を浮かべるリムルに背を向けて、ミリムはさっさと会話を打ち切った。
何せ今回は千載一遇のチャンスなのだ。ラフィエル=スノウホワイトの内側にこびりつく悪魔は、彼女が表に出ている時はどう足掻いても消し飛ばす事は出来なかった。
しかし! 今回表に出ているのは悪魔である。
であるならば——カリュブデュスの時のように、カオスドラゴンのように。
表の悪魔だけを消し飛ばし、あの優しくて弱っちい人間を無事に救い出す事だって、出来るのではないか?
勝算はある。
同じ魔王となったリムルが何を出来るのかも理解している。知っている。そして、ミリムが出来ることは、一番得意としていることは、二つ名の通り破壊である。
しかしその頭も、悪くは無い。
あの悪魔は、
ミリムだけが知っている。
その特異なる竜の眼をもって、彼女の巣食うナニカの正体も正しい殺し方も、全てを網羅している。
だからこそ、ミリムには何も出来なかった。他に方法があるかもしれないと躍起になった事もあった。それでもラフィエル=スノウホワイトから悪魔を引き剥がす事は出来なかった。
しかし、今は違う。
何という幸運か、今ミリムの傍には
そう、魔王リムル=テンペスト。
——死者の蘇生を可能とする、ミリムの
で、あるならば。
やるべき事は簡単だ。悪魔をラフィエル=スノウホワイトから引き剥がすのは簡単だ。
ラフィエル=スノウホワイトを殺し、リムルにラフィエル=スノウホワイト単体の、蘇生を頼めば良いのだ。
最終的に傷が残らなければ無事といって差し支えないだろう。我ながら冴えている、とミリムは自画自賛した。
ちなみにだが、それなら蘇生の秘術を持つ魔王ルミナスに頼めば良いのではと思うかもしれない。既に頼んだ。答えは不可能だった。
それは何故か——ラフィエル=スノウホワイトの魂を感知する事が出来ないから、だった。
悪魔として活動している姿を目にして、その体に宿っている魂や
故にルミナスには、ラフィエル=スノウホワイトの蘇生は不可能である。
しかし——元異世界人、それも究極の力に覚醒したリムルであるならば?
可能性はある。
ラフィエル=スノウホワイトが悪魔に表を譲っている時に体から魂が離脱しているとしても、悪魔が引っ込めばラフィエル=スノウホワイトがすぐに表に出てくる。
そこから導き出されるものは、離脱していたとしても……その魂は感知出来ずとも体の近くにある、ということだ。
ならば。
空間ごと魂さえも喰らう事の出来るリムルと、相性が抜群に良い。
例えリムルにラフィエル=スノウホワイトの魂を感知出来ずとも、それは胃袋の外の話。胃袋内部ではリムルこそが絶対者。感知出来なかった魂さえも胃袋の中ならば感知出来るようになるであろう。
つまり、だ。
ミリムはただ力を解放すればいい。
ラフィエル=スノウホワイトを殺害する。出来るだけ——傷が無ければ良し。
説明する時間も惜しいため、リムルにはぶっつけ本番でやって貰うが、まあ何とかなるだろう。リムルだし。
ミリムはそう自己完結し、威力減退効果のあるナックルを装備したまま、悪魔を殴り付けた。
「ふん……そう簡単に当たらせはしない。何を考えているかは知らないが、久方振りに表に出たのだから早々に引っ込みはせんぞ」
ミリムの攻撃を衝撃を食らいつつも受け止めた悪魔は、鼻を鳴らしてそう吐き捨てる。
元々悪魔はミリムの相手をするつもりは無かったのだ。悪魔にとっての本命は、リムル=テンペスト。
悪魔から見れば、リムルは勇者に次ぐ憎々しい相手だったのだ。
初めは勇者によってラフィエル=スノウホワイトへの呪いを全て肩代わりされ、今も尚妨害され続けている。そして次はリムルだ。
呪いは勇者を介しているため非常に軽微となっているが、塵も積もれば山となる。悪魔の呪いと教会の結界の代償によって衰弱死する予定であったラフィエル=スノウホワイトを救い上げた忌々しいスライム。
表に出たら必ず嬲り殺してやると息巻いていたが、まさかミリムに邪魔されるとは。
予定とは大幅にズレこんでしまった。それもこれも、全てあの忌々しい勇者のせいだ。
本来ならば、あの魔物の町とやらで大暴れしてやる予定だった。魔物も人間も虐殺し、遺跡から帰ってきたスライムを盛大に煽ってやるつもりだった。
そのために、リムルや主戦力が国の外へ行くタイミングまで普段以上に呪いを送り、ラフィエル=スノウホワイトを体調不良にしていたのに。魔物の町から出ないように仕向けてやっていたのに。
あの日だけ、勇者が邪魔をしてくれたおかげでラフィエル=スノウホワイトはリムルの元へ赴き、ミリムの気まぐれでこの遺跡に来てしまった。
おかげでスライムではなくミリムの相手をしなければならなくなった。
まったくもって不愉快だ。あのクソ勇者め、いつまで居座るつもりだ。さっさと輪廻に行け。
「やはり手加減するとなかなか効かないのだな……ならばワタシもちょっぴり本気を出すのだ! 原型さえ留めていれば
不穏な気配を察知した悪魔が攻勢に出た。
大きく口を開けて放たれた死歌はミリムに直撃し、その身をふらつかせた。
ぐるりと回転する視界と、麻痺したように自由に動かぬ体。思考さえも空白が生じ、ぱちんと心臓が弾けそうになって、
「——ミリム!」
意識が元に戻る。
先程までの不調は何だったのかと思う程にあっさりと。
ふらつくミリムを心配したリムルが声をかけたのだが、その一瞬でミリムは死歌の効果を打ち破ったのである。
(効きが、悪いな。ギィ・クリムゾンに直撃させた時もだが、何故死なない? 聞けば死ぬからこそ、悪魔の歌は『死歌』と呼ばれているというのに)
力の効きの悪さに考え込む悪魔。
そういえば勇者が一時的に覚醒した時も、死歌の直撃を食らったにも関わらず生きていた。いくら覚醒したとはいえ実力では悪魔よりも下であったのに。
ということは、もしや、死歌はこの世界とは、相性が悪いのではないか?
それならば、忌々しい聖歌者の聖歌だって効き目が薄くなるべきなのに——この世界でも、神々の加護の効果があるというのか。
なんと悍ましい。世界が変わって尚、あのような慈悲なき存在に力を与えられているとは。
「うむ、油断したのだ。次はない、行くぞ!
「——ッ!」
ミリムの手元には凝縮された魔力。
それが一気に拡散された瞬間に、悪魔は必死の形相で『
ユニークの力では、全てから身を守る事など出来はしない。
戦闘で考え込むという愚行をしたのは己だが、そもそも相手が悪いのだ。悪魔が相手をしたかったのはリムルであって、ミリムという竜ではなかったのに……!
「む、むう……これで倒すつもりだったのだが」
困ったのはミリムである。
ふうふうと息を荒らげつつもその場にしっかり両足をつけて立っている悪魔に、頭を悩ませた。
これ以上の威力となると、うっかりリムル達やダークエルフ達も巻きこまれてしまうかもしれない。しかし、これ以上のチャンスは後にも先にもないかもしれない。
「…………リムル! ここが壊れたら、国経由で建て直しを頼むのだ! それと、しっかり結界を張っておくのだぞ?」
「え?」
「——
——ラフィエル=スノウホワイトの体は、消し飛んだ。
ように、思われた。
「ま、まに、間に合った…………のか?」
遺跡の出入口。
息を乱しているギャルドが数秒前に投擲したのは、ラフィエル=スノウホワイトがよく持ち歩いている聖書である。おひとつどうぞと渡されていた物が、こんな所で役に立つとは。
ミリムの攻撃が彼女に当たる寸前に投げ入れたものだから、恐らく聖書は粉微塵どころか灰になっているだろうが。
ラフィエル=スノウホワイトではない誰かは気付かなくても、その内いる彼女には伝わったはず。
ほんの瞬きの間に垣間見えた知的な青い瞳は、きっと見間違えじゃあなかった。
何故魔王ミリムがラフィエル=スノウホワイトかもしれない誰かと戦っているのかは分からない。でも、彼女の体は間違いなくラフィエル=スノウホワイトなのだ。
殺させる訳にはいかない。
ラフィエル=スノウホワイトは神の御業が使える。
あの聖書には、あの危機から脱せる美しき神の御業があるはずだ。
だからきっと、生きているはず。
探さなければ。きっと傷だらけだ。敵の手に落ちた者の手を借りたくはないかもしれない。それでも、
「——貴女はきっと、俺の手を拒まないのだろうな」
今作と並行してちまちま書き貯めたいので、次回作のアンケートに協力お願いします。活動報告でアンケとってるのでそちらから……反応なかったら勝手に好きなの書きます(予防線)
↓アンケの活動報告↓
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