病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第70.5話 異空間手順
「後ろを向いて視界を閉じて下さい。さもなくば結婚して貰います!」
切羽詰まったような叫びに、ギャルドは勿論、リムルとミリムも反射的に後ろを向いて目を閉じた。そこで、ん? と首を傾げる。
結婚が脅し文句とは、どういう事だろうか。
困惑する三人は、静かに記憶を思い起こす事にした。
ミリムの計画頓挫によって姿を消したラフィエル=スノウホワイト。その居場所はリムルの
万が一、ラフィエル=スノウホワイトが異空間を再度使用した場合にすぐ気付けるように警戒を、と念押ししていた事が、こんな形で役に立つとは。
リムルは恐らく異空間で体を休めているだろうラフィエル=スノウホワイトを迎えに出向く事にした。あの場所には既に教会はなく、室内で休む事など出来はしないだろうから。
さっさと
「いつもいつもリムルだけズルいのだ!」
「出来れば俺も連れて行って欲しい。早いうちにラフィエル様と話がしたいんだ」
という二人の熱い想いに負け、3人で向かう事になったのだ。そしてミリムの知る、前に
しかし、その方法で異空間に辿り着くことは無かった。最後の一歩を踏み終えたその場で、景色は変わる事なく――彼らは立ち尽くしたままだったのだ。
「何故行けないのだ!?」
「前はこれで行けたはずなんだけど……」
地団駄を踏んで怒りを顕にするミリムと、原因は何だと考え込むリムル。
そんな二人に首を傾げ、ギャルドは口を開いた。
「前は? ラフィエル様は、例え同じ物でも同じ鍵をつけるような無警戒な方ではないと思うが」
「確かに、そうだな」
そしてその場に沈黙が降りる。
「…………ギャルド君。キミ、何か異空間への行き方のリズムとか、心当たりはないかね?」
「えっ」
「ほら、ラフィーの唯一の配下だし。ノーヒントであんな複雑なの推測しろってのは無茶振りだろう? 何かこういうリズム好きそうとか、鍵にしてそうとか、そういうのない?」
「そ、そう言われても」
そもそも本人の事を詳しく知らなかったからこそ、腹を割った会話をしなかったからこそ、こうなっている訳で。
というのは流石に言えず、返答を濁しつつギャルドは頭を回す。記憶を掘り起こし、何かヒントはなかっただろうかと探すも特にめぼしい記憶はなく。
「あまり……心当たりはない。でも、その、異空間に行ったのは咄嗟の判断だったと思う。だからあまり複雑なものではなく、単純な方法なんじゃないだろうか」
「うーむ」
確かにミリムの攻撃を回避するために咄嗟に発動したのなら、一瞬で難解なものを設定するのは難しいはず。しかし簡単なもの、と言われても現状それを推測する事は不可能に近い。
であるならば、もはや他の方法で試すよりないだろう。
今現在、リムルな知っているのは迷い子としての強制召喚くらいだが……と、そこではっと気付いたリムルは、
(そういえば、フォビオがカリュブディスに取り込まれていた時に異空間に一度入ってたよな? あれはどうやっていたのか分かるか?)
《解。個体名:ラフィエル=スノウホワイトの固有結界は迷い子の救済を目的とした異空間です。そのため意思ある者の選別を可能としていますが、逆に意思無き者の選別・排除は不可能です。加えて
(……俺達には出来ないって事か?)
《是。前回の解析結果から有効な方法を抽出、推奨します。実行しますか?
え、マジで?
もう別の方法で行き方分かってるの?
という言葉が喉まで出かかったが、
そして未だにうんうんと考え込んでいる二人へ笑顔で振り返った。
「二人とも、異空間に行く方法が分かったぞ」
「何!? 本当なのか!?」
「こんな短時間……一体どのような方法で?」
(どんな方法なんですかね、
《解。個体名:ラフィエル=スノウホワイトが異空間を行き来している方法を流用します》
「それはだね、ラフィーが異空間を行き来してる方法を流用するんだ」
「ラフィエル様は好き勝手異空間を行き来できると思っていたが、必要な手順があったのか……」
「リムルよ、ラフィーは一体どういう手順で行っているのだ?」
(どうなんですか
《解。異空間は個体名:ラフィエル=スノウホワイトの所持するユニークスキル『
(なるほど……つまり?)
《解。フルートで『
「――と、いう訳だ」
成功した。
第70話 勇者と竜
(どうして………………?)
宿の一室。
豪華な一人部屋という高待遇に胃を痛めながら、彼は現実から逃げていた。
柔らかいベッド、半分体が沈むソファ、靴を履いたまま歩くのが忍びないカーペット、壁に飾られた知らない絵、猫足のテーブル。
それらをぐるぐる眺めて、こんな良い部屋に泊まれるような人間じゃないんですと目が死ぬ。
この間の、同郷の魔王リムルとの晩餐は美味しかったし、その後の砕けた会話はとても居心地が良かった。
だが己は勇者である。
泣いた。
魔王と勇者が敵対するとか流行らないでと嘆きながら、勇者と呼ばれつつも平凡な男子高校生である彼はそっと震える足に手を添えた。
もはや産まれたての小鹿もドン引きの震え具合に、彼は涙を流しかけ、ぐっと我慢した。
ここで相手を刺激する訳にはいかないのである。
何せ、彼はもう知っている。
『
魔王リムル、その配下達の圧倒的な強さ、そして――天災とされる暴風の竜を、知ってしまっている。
だからこそ、彼は腰を低くして接するのだ。
「あの……何の御用ですか……」
目の前の美しき女性に、折れそうな心を叱咤して。
蒼い髪は腰まで届き、左右の頭部で一部纏まった髪は少しの枝毛もない。金色の瞳はうっとりと細まっていて、隠しようのない好意をさらけ出している。
その妖艶な女性からは、とんでもない強さを持つ者特有のオーラが溢れていて、凡人でしかない彼の心をキュッとさせた。
そして、彼はその金色の瞳とよく似た瞳を見た事がある。そう、暴風竜ヴェルドラである。
つまり――彼女はヴェルドラと同じ竜種なのだ。それに気付いた貴方はSAN値チェックです……というナレーションが脳内を走り、彼は卒倒してしまいたかった。
が、出来なかった。
機嫌を損ねたらジエンド。この周辺の安寧は彼に掛かっているのだ。
「ええ、ルドラ。勿論用はあるわ」
☆人違い――
漫画ならそれで終わりなのに現実はなんてクソッタレなんだと、彼――勇者マサユキ――は激怒した。美しき女性に見られて気持ちは萎んだ。
しかしここで訂正しておかねば、後々知られたら逆ギレされるかもしれない。
「多分勘違いしてると思うので言いますけど、僕はルドラじゃなくてですね、マサユキって名前なんです」
「そんなこと知っているわ、当然でしょう」
「??????」
じゃあなんでぼくのことるどらってよぶの????
思考回路が溶けたマサユキは訳の分からなさに理解する事を放棄した。
そもそもこの人と接点なかったでしょ、何でこんなに親しげなんだろう。こんな美女一度会ったら絶対忘れないのに。
「何処かで会ったことありますかね……?」
「貴方とはないわ。これが初対面よ」
そんなことある???
「あの……自己紹介とかして貰ってもいいですか?」
「そういえば、まだだったわね。私はヴェルグリンド。灼熱竜ヴェルグリンドよ」
「………………帝国の守護竜? とかで聞いた事あるんですけど」
「ええ、やっていたもの。でも帝国にルドラはもういないのよ。だから辞めたわ――今は貴方に協力してあげる。何でも言っていいのよ、ルドラ。叶えてあげる」
(ルドラじゃないし、僕関係ないし、助けてリムルさん!!!!)
勇者マサユキ一行の次の目的地が