病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー   作:昼寝してる人

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去年もそうだったけど八月って忙しいんですよね!!!(言い訳)


偶像の瓦解/郷愁

 第72.5話 偶像の瓦解

 

 一歩踏み出し、ギャルドは美しい笑みの仮面を被ったまま変わらない己の主を真っ直ぐに見た。

 よくよく見れば、彼女の瞳の奥は赤黒く濁っていて……恐らく本調子ではないのだろう。彼女の体に巣食う悪魔の影響が、まだ治まっていないのだ。

 しかし、それは好都合かもしれない。

 影響がまだ残っている、ということは、聖女らしくないラフィエル=スノウホワイトの本音を聞ける可能性がある。さっきまでだって、かなり時間をかけて言葉を選んでいたように、ギャルドには感じられた。

 魔王リムルや、魔王ミリム相手にはどこか親しい他人同士という距離感のある会話が見受けられたが、ギャルドには素直に心を許されているような近く早いレスポンスだった。だからこそ、今のラフィエル=スノウホワイトの違和感に気付けた。

 彼女は今、聖女としての言動を崩さないように、時間をかけて考えてから言葉を発している。

 ならば、そこに糸口がある。

 ギャルドは彼女に、美しく慈愛溢れる聖女として残って欲しいのではない。ラフィエル=スノウホワイトとして、残って欲しいのだ。

 

「どうか聞いて欲しい、ラフィエル様」

「……いいえ。もう話す事はありません」

「ラフィエル様には俺に話すことなどないかもしれない。だが、俺には話す事があります。貴女について聞きたいことも、聞いて欲しいことも、たくさんある」

 

 その言葉に、ラフィエル=スノウホワイトは一瞬だけ目を丸くした。ような、気がした。

 ギャルドは、ぐっと奥歯を噛み締めて、昂った感情を鎮めて冷静さを取り戻す。

 ラフィエル=スノウホワイトは聞かれたことにしか答えない。自分のことについては。

 彼女は人に救いの言葉を与える人間だ。だからこそ、きっと新鮮だったのだろう。驚いたのだろう。人ならざる者、救いを求めない魔王のような人外以外から、人間から、自分のことについて聞かれることなどなかっただろうから。

 だから、そうだと分かるからこそ、ギャルドは言葉を重ねるのだ。

 

「今までは何も聞かなかった。俺はただ、貴女に命を救われただけの人間だったから。そんな権利などないと思っていたし、何より聞くのが怖かった。……俺は、貴女が怖かった」

「……そうですか。いえ、そうでしょう。当然です」

「俺は、ラフィエル=スノウホワイトという存在が、神のように清廉潔白で、全てを愛して、誰かを救うことを厭わない、とても偉大で美しい人だと思っていた」

「…………」

「勘違いだった。そんなことはなかった。そもそも、そんな矛盾だらけの存在がいるわけがない。貴女の傍にいることで、ようやく理解できた」

 

 無言のまま、じっとギャルドを見つめる深海のような瞳は、感情を映さない。

 そこで言葉を途切れさせ、ギャルドは激しく脈打つ心臓を深呼吸して抑え込み、真っ直ぐにラフィエル=スノウホワイトを見た。

 

「誰かを救うということは、誰かを見捨てるということに、他ならない」

「……取捨選択、断捨離です。私を責めたいのでしたら――」

「いいや、責めない。貴女に命を救われた従者の身で、そんなことはしない」

「貴方は、私の配下ではありません」

 

 ラフィエル=スノウホワイトが言葉を考える暇もなく反射的に出した言葉に、ギャルドは唇を噛んだ。

 分かっているのだ。

 何故、そんなことを言うのかなんて。

 理解していて、その言葉を投げつけられることも覚悟していた。

 しかし予想するのと、実際に言われるのでは訳が違う。ずきずきと疼く胸の痛みで、涙が出そうになる。

 

「……今はそうでなくても、少なくとも過去はそうだった。貴女が俺を傍に置き、世話する事を許したのだから」

「…………」

「だから、元従者としての言葉を聞いて欲しい。全力であっても敵の手に落ちてしまうような弱くて不甲斐ない元従者の、情けない頼みを聞いてはくれないか」

「……………………いいでしょう。聞いてあげます。聞くだけですよ」

 

 わざとらしく意地悪そうな言葉を放ったラフィエル=スノウホワイトは、少しだけ居心地が悪そうにたじろいだ。

 ギャルドの後ろにいる2人の視線が、妙に生暖かかったのだろう。

 

「……俺は、貴方ともっと話がしたい。今まで時間があったのに話さなかった事を後悔している。敵に潜入するにも、先に貴女に話して許可を取るべきだった。無許可で潜入してこのザマだ。こうして話が出来ること自体が奇跡だと思う」

「はい」

「でも今、話が出来て嬉しい」

「は、……はい?」

「二度と話せなくなることを覚悟していたんだ。貴女の優しさに漬け込んだこと、許してくれとは言わないが」

 

 それから、ギャルドは話した。

 あの時のラフィエル=スノウホワイトが怖かった。ああしてくれて嬉しかったし、その時はしょっぱい思いをした。

 なんて、他愛ない話。

 そんな話をされるとは思わなかったのか、ラフィエル=スノウホワイトはどこか拍子抜けした顔で相槌を打っている。

 そしてギャルドは散々に自分の話をしてから、ラフィエル=スノウホワイトに本題へと切り込んだ。

 

「それで、最後に今の事を。――この異空間から出て、また貴女に仕えさせてはくれないだろうか」

「そうですか……え?」

 

 先程までと同じように相槌を打っていたラフィエル=スノウホワイトは、驚いたように顔を上げる。

 

「俺は貴女の食の好みはそれなりに知っている。冷たいお茶は苦味があるものが好きで、暖かいお茶はどれでも飲むものの、特に甘いものが好き。食べ物は固いものより柔らかいものが好きで、ブロッコリーは触ると崩れるくらい茹でたもの以外はあまり食べたくないんだろう。ベタベタしたものやネバネバしているのも嫌いで、チーズや納豆の入った食事はいつもより食が細くなる。……何か間違っているものは?」

 

「…………よく、観察していますね。強いて言うなら、冷たいお茶は総じて苦手です。苦味があるお茶は冷たいお茶の中ではマシ、というだけです」

「そうか。……ありがとう、今後は暖かいお茶を淹れよう」

「今後……」

 

 呟いて、ラフィエル=スノウホワイトはきゅっと口を引き結んだ。

 

「ラフィエル様」

「……なんでしょう」

「俺は、貴女とお茶を飲むのが好きだ。暖かいお茶に、蜂蜜を入れて飲むとほっとする」

 

 きっとそれは、初めて出会った時に彼女に淹れて貰ったからだろうけれど。

 机を囲んでのティータイムは、ギャルドにとっては暖かくて好きな時間だ。日向ぼっこをしてウトウトしている時と似たような感覚だといえば、分かりやすいだろうか。

 

「俺はもっと、貴女のことを知るべきだ。怖がる前に、歩み寄るべきだったんだ。あんな思いをして、後悔するのは二度と御免被る。だから、貴女のことを教えて欲しい」

「…………仕方がない人ですね。本当に、貴方は残酷な人です」

 

 ラフィエル=スノウホワイトは、苦笑する。

 そして何処か嬉しそうに、ギャルドへと歩み寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第72話 郷愁

 

 

「どうか聞いて欲しい、ラフィエル様」

「……いいえ。(オレには)もう話す事はありません」

 

 話すことなど何も無い、ということだ。わかったらとっとと帰るんだ!

 オレがどれだけ我慢をしてやっていると思ってるんだ?? 今度はお前らが我慢する番だろうがッ!

 

「ラフィエル様には俺に話すことなどないかもしれない。だが、俺には話す事があります。貴女について聞きたいことも、聞いて欲しいことも、たくさんある」

 

 お??

 なんだか普通に会話が出来た気がする。

 最近は本気で主語が足りねぇ会話しかしてなかったからびっくりした。

 これだけの言語力があるなら何でもっと前から頑張ってくれなかったんだ?? は??(半ギレ)

 肉壁くんは今後はちゃんと喋るとして、他の奴らも見習って!!(大声)

 

「今までは何も聞かなかった。俺はただ、貴女に命を救われただけの人間だったから。そんな権利などないと思っていたし、何より聞くのが怖かった。……俺は、貴女が怖かった」

「……そうですか。いえ、(お前はオレのことを裏切ってたから)そうでしょう。(肉壁する相手を鞍替えしたんだから怒られるのを恐れるのは)当然です」

 

 言っとくけどまだ許してないからな!!(机バン)

 幼児でも言えるごめんなさいをまだ聞いてねぇからなオレは。謝るまで許さんからな。

 まあ許したところで、お前らとサヨナラするのには変わりないけどね!!(ドヤ顔)

 

「俺は、ラフィエル=スノウホワイトという存在が、神のように清廉潔白で、全てを愛して、誰かを救うことを厭わない、とても偉大で美しい人だと思っていた」

 

 誰それ。

 オレの知ってる人??(困惑)

 何でそんな風に思われてんのか訳分かんねぇな。そりゃあ見てくれは、清廉潔白で偉大で美しくて麗しいだろうけれども??

 しばらく一緒にいたら分かるだろお前。オレの言うことを聞かない悪いお口はアレだが、滲み出るオーラとかその他諸々で察せるだろ。

 あっもしかして頭が悪かったりする??

 

「勘違いだった。そんなことはなかった。そもそも、そんな矛盾だらけの存在がいるわけがない。貴女の傍にいることで、ようやく理解できた」

 

 おっ、そうだな。

 でも自分が言うならともかく他人に言われると腹が立つから平手打ちしていいか? 

 ていうか理解してるなら、何でその話をわざわざ蒸し返すんだよ。

 

「誰かを救うということは、誰かを見捨てるということに、他ならない」

 

 うん???

 あっ、そういうこと?(察し)

 

「……取捨選択、断捨離(を無料相談でオレは提案しただけであって、実行したのはそいつら)です。私を責めたいのでしたら――」

 

 オレを責める前にそいつらに文句行ってこい!! その間にオレは逃げるから!!

 

「いいや、責めない。貴女に命を救われた従者の身で、そんなことはしない」

「貴方は、私の配下ではありません」

 

 積もり積もった苛立ちと言葉を遮られた怒りで、ついぷっつんしてしまった。

 そりゃあ、極端に言えば誰かが生きたら他人は死ぬ。なんてことはあるだろうけど、そんなのこの世の道理だろ。オレには関係ない。

 そもそもこの世界弱肉強食だし、オレは相談に乗っただけで実行すると決めたのはそいつらだ。オレの関係ないところで何が起ころうと知ったこっちゃねーよ。

 普段から言ってるだろ、殺し合いとかはオレの目に入らない所でやってくれってな。

 聖歌隊にいる時だって、誰かが死んで責める奴は、いつもオレばっかり責めやがって。

 歌が下手なのに聖歌隊に所属してて悪かったなこんちくしょう、オレだって辞めれるならとうの昔に辞めてたわボケ!(マジギレ)

 まあそれはともかく、オレだけ責めるな。相談に乗っただけでオレは悪い事なんかしてねぇからな!! 責めるのはまずそっちだろ常識的に考えて。

 あとお前、オレの肉壁くんであって従者とかじゃねぇから、そこんとこ把握しとけよ!!

 

「……今はそうでなくても、少なくとも過去はそうだった。貴女が俺を傍に置き、世話する事を許したのだから」

 

 えっっっ(驚愕)

 傍に置いて世話していいよって言ったら従者判定されんの?? 初耳なんですけど???

 

「だから、元従者としての言葉を聞いて欲しい。全力であっても敵の手に落ちてしまうような弱くて不甲斐ない元従者の、情けない頼みを聞いてはくれないか」

 

 えっっっっっっ(驚愕)

 お前オレが知らねぇうちに敵の手に落ちてたの?? 初耳なんですけど???

 報連相ちゃんとしてくれないと困るんだが??

 

「……………………(熟考)。いいでしょう。聞いてあげます。聞くだけですよ」

 

 とりあえず聞くだけな。

 なんか色々よく分かんないから、聞くだけだから。お前らの所には戻る予定はないから、そんな期待の籠った目で見るんじゃねぇ。

 背筋が凍るし鳥肌が立つから止めろ!!

 

「……俺は、貴方ともっと話がしたい。今まで時間があったのに話さなかった事を後悔している。敵に潜入するにも、先に貴女に話して許可を取るべきだった。無許可で潜入してこのザマだ。こうして話が出来ること自体が奇跡だと思う」

 

 ふーん。

 全部初耳。

 は? 潜入とか聞いてないんだけど?? リムルお前目ぇ逸らしたって意味ねぇだろこっち向け。おい。

 

「でも今、話が出来て嬉しい」

「は、……はい?」

 

 なんで??

 

「二度と話せなくなることを覚悟していたんだ。貴女の優しさに漬け込んだこと、許してくれとは言わないが」

 

 そっか……まあオレは理不尽共以外には何時だって優しいからな、目を瞑ってやろう。そう、寛大な心でな!(ドヤ顔)

 でも敵の手に落ちた? とはいえ裏切ってたことに関しては謝るまで許さないからな。

 

 ウン……話長ぇ。

 いきなり今までの思い出語られて、ここはこう思ったとか言われても困るんだよな。ふーん、で??? としか思えねぇんだわ。

 一体オレに何を期待してるのか、ハッキリ言って貰おうじゃねぇか!!!

 …………お前いつまで話すんだよ………(疲弊)

 

「それで、最後に今の事を。――この異空間から出て、また貴女に仕えさせてはくれないだろうか」

「そうですか……え?」

 

 適当に相槌売ってる時に本題に入るな(半ギレ)

 

「俺は貴女の食の好みはそれなりに知っている。冷たいお茶は苦味があるものが好きで、暖かいお茶はどれでも飲むものの、特に甘いものが好き。食べ物は固いものより柔らかいものが好きで、ブロッコリーは触ると崩れるくらい茹でたもの以外はあまり食べたくないんだろう。ベタベタしたものやネバネバしているのも嫌いで、チーズや納豆の入った食事はいつもより食が細くなる。……何か間違っているものは?」

 

「…………(気持ち悪いほど)よく、観察していますね。強いて言うなら、冷たいお茶は総じて苦手です。苦味があるお茶は冷たいお茶の中ではマシ、というだけです」

「そうか。……ありがとう、今後は暖かいお茶を淹れよう」

「今後……」

 

 何故今後の話をしている???

 お前と今後なんてないに決まってるだろ、ぶっ飛ばすぞお前。

 何回言わせんだこの野郎。

 

「ラフィエル様」

 

 なんだよ。

 

「俺は、貴女とお茶を飲むのが好きだ。暖かいお茶に、蜂蜜を入れて飲むとほっとする」

 

 えっ。

 ふ、ふーん。

 ハーブティーや普通のお茶はともかく、甘い系統のお茶とかは皆不評だったんだけど。蜂蜜はまだマシだけど。出来るなら他のやつがいいって言われるレベルだけど。肉壁くんは味覚バカってことだな。

 ……元の世界では甘いお茶が普通だったし、オレも蜂蜜入りとか、普通に好きなんだけど。

 肉壁くんはお客さんとか媚びる必要ないから、オレの基準をゴリ押ししてた訳だが、…………気に入ってたのか。

 甘いのは、誰も美味しいって言ってくれなかったのに。

 

「俺はもっと、貴女のことを知るべきだ。怖がる前に、歩み寄るべきだったんだ。あんな思いをして、後悔するのは二度と御免被る。だから、貴女のことを教えて欲しい」

「…………仕方がない人ですね。本当に、貴方は残酷な人です」

 

 うん、まあ……つまりオレにも郷愁の念があったってことなんだよなあ。

 ぶっちゃけ、昔のオレのことや故郷のことを話した事はほぼない。シズエくらい、か?

 だから、まあ、ほら。

 配下の肉壁くんに免じて、ちょっとだけ譲歩してやろうな!!(ヤケクソ)

 

 でもリムルとミリムの前で断れない状況にして泣き落とし染みた残酷なことするの本気で止めろ。

 

 

 

 

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