病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第76.5話 他力本願
目を覚ましたギャルドは、ぼんやりと天井を見つめた。天井のシミを数えようかと思ったが、ラフィエル=スノウホワイトによって管理されている教会の天井にはシミ一つなかった。
疲弊しきった体を起き上がらせて、ギャルドは夢の内容を反芻する。どうすれば、いいのだろう。
元勇者は、主であり恩人であるラフィエル=スノウホワイトのために、死ねと言った。死んででも、助けろと。
悪魔は、裏切れと、見殺しにしてしまえと言った。わざわざ命をかけるほど、共に居た訳でも忠を誓った訳でもないだろうと。
そのどちらにも、ギャルドは頷く事が出来なかった。
ギャルドは、まだ死にたくない。救われた命といえど、無為に散らすなど愚の骨頂。老衰まで生きたいと思うのは、人として当然のことだ。
だからといって、ラフィエル=スノウホワイトを見殺しになんて出来ない。救われた恩があり、傍に置いてくれていたからこそ見えた彼女の本質もある。
自分は死にたくない。ラフィエル=スノウホワイトにも死んで欲しくない。
ならば、どうするのが正解なのだろうか――?
「――答えは簡単です。人に頼れば良いのですよ」
「へ」
迷って迷って迷った挙句、本人に相談するという本末転倒もいい所な事をやらかしたギャルドは、ラフィエル=スノウホワイトの答えに間抜けな顔を見せた。
勿論、元勇者や悪魔、彼女の死についての話はボカして話したものの、内容から自分自身のことだとラフィエル=スノウホワイトは気がついているはずだ。
それなのに、その事には言及しなかった。しない上で、確かな助言をギャルドに授けたのだ。
「た、頼って、いいのだろうか」
「何故いけないのですか?」
心底不思議そうな顔で首を傾げたラフィエル=スノウホワイトに、どこか肩の力が抜ける。
(……そうか。頼っても、いいのか。というか、この相談すら頼っているようなものだな)
そんな事にと気付かないとは、大分弱っていたらしい。そう自分を分析しながら、ギャルドはラフィエル=スノウホワイトに頭を下げる。
感謝の言葉を口にすれば、ラフィエル=スノウホワイトは微笑みながら首を横に振る。気にするな、という事らしい。
「ラフィエル様」
「はい、何でしょう」
「今から、頼りに行ってきます。傍から離れる事を許して欲しい」
「許します。……早く帰って来るんですよ」
再度ラフィエル=スノウホワイトに頭を下げ、ギャルドは教会から飛び出した。
元勇者と悪魔から出された宣誓と誘惑についての答えはまだ出ていない。けれど、それでも。自分を含めて誰も死なないように、最善を尽くそう。
そのために、まず最初に頼るべきは、協力を申請するべきは――魔王リムル、だ。
「まあ、ギャルド殿。どうかされましたか?」
「っと……ハルナ殿。少し、魔王リムルに相談があってな。少し時間を頂きたいのだが、今は問題ないだろうか?」
「リムル様ですか? リムル様は今、魔王ギィ・クリムゾン様とお連れの方をお相手しておりますので、時間を開けてからの方がよろしいかと」
「そうか……感謝する。ならしばらくしてから」
「リムルざんは、い゛ま゛ずか!!」
「えっ、勇者マサユキ!?」
「ど、どうしたんすか? リムル様に用事っすか?」
「相談がっ……うぅ、会わせて下ざい……!」
「えーと……少々お待ちを」
えぐえぐ泣きながら突撃してきたマサユキに、ギャルドは動揺し、たまたま通りがかったゴブタが対応し、ハルナがリムルへ連絡をとった。
どう考えてもギャルドよりマサユキの方が重要度が上なので、申し訳なさそうなハルナに早く連れて行ってやってくれの気持ちを込めて視線を向ける。
頷いたハルナがマサユキをリムルの執務室へ連れて行った後、ギャルドは残ったゴブタと顔を見合せた。
「何の用なんすかね?」
「いや、俺にもさっぱり分からない、がッ……!?」
本能的な脅威を感じ取り、ギャルドは慌てて背後を振り返る。そこには、当然のように
金色の瞳で二人に流し目を送り、たった一瞥で関心を失ったように視線を外して二人の間を通り抜ける。
ゴブタもギャルドも互いに得物に手を添えていたが、漠然とした恐怖に、本能から鳴り響く警鐘によって、その得物を抜く事が出来なかった。
美しき女の足音が聞こえなくなった頃、冷や汗が吹き出してその場に崩れ落ちる。からんと廊下に得物が転がって、顔を上げれば目の前のゴブタも似たような有様だった。
「な、何なんすか今日は……厄日っすか……」
「ヌオッ!? こ、この
疲れきった顔で呟くゴブタに、なんの事かと訪ねようとしたその時。
金髪の美丈夫――暴風竜ヴェルドラその人がやってきた。
「あ、ヴェルドラ様。リムル様は執務室にいるっすよ」
「うむ。もう行ったぞ。しかしな、執務室に入る前に姉上がいる事に気付いて引き返してきたのだ。だというのに……こ、ここにもいるのか? 何処だ?」
「ま、まさか先程の女性、竜種――?」
「さっきの女の人、ヴェルドラ様の兄弟っすか? 確かリムル様の執務室に向かったと思うっすけど……あっ報告!」
慌ててリムルに思念伝達を繋ぐゴブタを尻目に、ヴェルドラは顔色を悪くして「リムルに我は迷宮にいると伝えておいてくれ!」と言い、そそくさと離れていった。
もしや苦手なのだろうかとギャルドは思う。
「なんかもう解決してるみたいっすね」
「は? も、もう解決!? ――なんというか、流石は魔王リムルだな……」
「まあ、リムル様っすから。多分今時間空いてるんで、ギャルドさんも何か用事があるなら今のうちに済ませた方がいいっすよ。じゃ、自分は仕事に戻るっす!」
「ありがとう。そうさせて貰う」
片手を上げて去っていくゴブタを見送って、ギャルドはリムルが居る執務室へと足を進める。
本当に解決したようで、執務室の外には剣呑な雰囲気はまるでなく。ギャルドは胸をなで下ろしてから、そっと扉をノックした。
「すまない、魔王リムル。ラフィエル様のことで相談が――」
第76話 ゆめみる
酷い夢を見た。
なんとも言い難い、酷く悪辣で信じ難い、最高に最低で、世の中クソ喰らえな感じの夢だ。
内容はすっぽ抜けて覚えてないけどな!! (笑顔)
しかしまあ、やな感じの夢だ。まるで自分が体験したかのような臨場感があった気がする。
そのせいか、妙に腹の奥が疼く。腹が減ってる訳じゃないんだけど、こうキュッとなる。
まあ害があるわけじゃないからいいけど。
ただ落ち着かない。
落ち着かなくて、そのせいで朝の三時に目を覚ましてしまった。早すぎるだろうオレ。もっと寝ろ。
寝れなかった。
寝れなかったから仕方なく起き出して蜂蜜入りハーブティーでも飲んでると、ぐらりと視界が揺れた、気がした。
「どうかしたの、ラフィー」
「いえ、先輩。なんでもありません」
……は? 何?
手からこぼれ落ちたティーカップがら音を立てて机の上に落下する。ハーブティーが広がって、机からぽたりと雫が落ちた。
一瞬だけ見えたのは、何時だって輝いていたはずの美しい金色の瞳。
見えたのは、確かに彼女だった。あのガヴリエル・アヴェルスだった。
聖歌隊を率いていた、かつてのリーダー。
いやおかしいだろ!!!!(机バンッ)
するりと言葉が口から出てきたのもおかしいし、そもそも何であいつが出て来るんだよ!!
もしかして最近ちょっと感傷に浸ってたりしちゃったから??? だからなの????
勘弁してくれそこまで恋しくは想ってねぇから!!
むしろ聖歌隊から解放されて万々歳って思ってるから!!!!(大声)
ていうかそもそも、オレは先輩と死ぬ程仲悪かったからな??? ぶっちゃけゴミ押し付けられたりとか、食べ物を無理矢理口に詰め込まれたりしてたからな??
確かに聖歌隊といったら、あの先輩くらいしか思い付かないけれども!!
ていうかあの人、遠征で死んだが????
オレが聖歌隊に入って卒業する前年の遠征でぽっくり逝ったわ。神の御許へレッツゴーしてしまった上に遺言的なアレでオレをリーダーに推薦するという嫌がらせを最期までやってくれたんですけど最高にクソ。
だからオレはガヴリエル・アヴェルスという人間が嫌いだ。
ていうかあいつとお茶した事なんてねぇんだよな。何でこんな幻覚見るんだ。まるで夢の続きみたいで大変気分が悪い。
――ああ、本当に、嫌な夢を見た。
「今から、頼りに行ってきます。傍から離れる事を許して欲しい」
別にいいけど、昼前に行くのは控えてくれる??
こっちは腹が減ってんだよ、さっさと用事済ませて帰ってこいよ。もしくは飯の用意してからっ……あっもう行きやがった!!!(半ギレ)
『転生したらスライムだった件』劇場版、2022年秋公開だそうです!!!!
知ってた人も知らなかった人も見に行こうね( ◜௰◝ )