病弱聖女と魔王の微睡み ー転スラ二次創作ー 作:昼寝してる人
第77.5話 即決即断
「なるほど、なるほど……。つまり、ラフィーが近い内に死んでしまうから、それを回避するために協力して欲しいと」
「……信じられない事は百も承知だ。だが!」
「いや、大丈夫信じるよ。あいつは前科があるからなあ」
頭が痛いと言わんばかりに顔を歪めたリムルに言い募ろうと、腰を浮かしつつ熱弁しようとしたギャルドは、苦笑したリムルに拍子抜けした。
その後に続いた言葉にしばし固まり、ギャルドはそっともう一人の魔王であるギィの様子を伺った。難しい顔をして眉を寄せている雰囲気から察するに、事実のようだった。絶句するしかない。
もしやラフィエル=スノウホワイトは、自分が思っていたよりも自己犠牲の精神が強いのでは……?
死んでしまう可能性の前科があるというだけで自己犠牲という可能性しか出てこないあたり、ギャルドもギャルドである。
「――情報があまりにも少ないな。おい、お前、ラフィーがどっか行きたいとか興味あるとか言ってた場所は知ってるか? 全部封鎖するからよ、リムルが」
「おい!」
ギィの無茶振りにリムルがキレつつ、ギャルドに視線を向ける。
確かに無茶振りではあるが、ラフィエル=スノウホワイトが不用意に出かけた先で死んでしまう可能性であるのなら、それで防げるのだ。しかし、それ以外の可能性での死であれば対策が他にも必要だが。
「行きたい場所……? いや、ラフィエル様は最近はハーブを育てたり料理をしたりするのに夢中になっているようだから、外に行きたいというのは聞いていない」
「ふぅん? なら外に出る可能性はないか。なら、……やはり
「はぁ? 俺の国の何処が悪いって言うんだよ?」
「ここ最近、何事にも争いの起点となっているのはお前の周辺だろう? リムルよ」
……ぐッ、とリムルは言葉に詰まる。
思い返せばそうと言えなくもないと思ってしまったからこそである。だが、リムルとしてはほとんど全部相手側がふっかけてきたり、巻き込まれる前に対処しただけなのだ。
とはいえ、それはリムルの主観。傍から見ればトラブル吸引地と言っても過言ではない。反論出来ないので、リムルは口を噤んだ。
「ええと、場所が悪いという事だろうか? しばらく別の場所へラフィエル様に移ってもらえば良いのか……」
「そういう事だな。オレのところは人なんて来ないからどうだ?」
「は? 駄目に決まってるだろ」
「お前の所よりマシだろう。何ならダグリュールやミリムの所でもオレは構わん」
眉間に皺を寄せたリムルは悩みに悩んだが、やはり領地が近いミリムの方がまだマシかと思いかけたその時、今まで無言で成り行きを見守っていたヴェルザードが口を開いた。
「順番に魔王の領地に泊まっていけば良いわ。それなら他の魔王も文句は無いでしょう」
「そりゃあ良い。リムルとラミリスを抜いて六人……いや、ディーノはダグリュールの居候だったな。なら五人か」
「…………まあ、仕方ないか」
ラフィエル=スノウホワイトの安全には替えられない。
あまり手離したくないものの、魔王の傍なら安全だろうと結論付ける。ギャルドと、当事者であるラフィエル=スノウホワイトを置いてきぼりにして、事の仔細はどんどん決まっていった。
安全面に配慮し、別の魔王の所へ行く時は滞在していた領地の魔王が送る事。定期的に他の魔王達にラフィエル=スノウホワイトの様子を報告する事。などなど条件の方も、二人の魔王によって出されていく。
形になったら、
「――そういえば、ラフィーに新しい指輪を渡していなかったな」
「今の今まで気付いてなかったのかよ……」
「必要性がなかっただけだ。ほらよ、ラフィーに渡しとけ」
指で弾かれた指輪を、ギャルドは難なく受け取る。まじまじとそれを見た後、そっと懐にしまっておく。ラフィエル=スノウホワイトには似合わないデザインであった。
言い争い、いや掛け合いをしている魔王二人に、ギャルドは咳払いをした。
「それで、魔王の元へ滞在すると言うのは、何時から?」
「ん? 決まってるだろ、今日からだ」
「……えっ、今日から!?」
「そう言ったぜ? ほら、ラフィーに支度しろって言ってこい」
ギィがニヤニヤと笑いながらそう言うと、ギャルドは慌てて部屋を飛び出して行った。結果、ギャルドはラフィエル=スノウホワイトの怒りを買うことになった。
第77話 クビにしよ
お腹が空きました。
ギャルドが教会を飛び出して早三十分。何時までも帰って来ない飯炊き男に愛想を尽かしたオレは、二日ぶりに料理をしようとフライパンを握った。はーフライパン本当に重いな。もっと軽量化してくれる???
そもそもギャルドの野郎、度々昼時やら夕飯の時に不在になりやがって。てめぇがいないせいでオレが自分で料理を作るハメになるんだが?(半ギレ)
はーーーー世の中クソ。フライパンにハーブを入れて炒めていると、嫌でも思い出す。これは死ぬ程ウザイ後輩の得意料理……栄養しか取れないハーブ炒め。嫌がらせで食わそうとするな。オレはこの味嫌いじゃないから食えたけど、嫌いだったら顔面に投げて返してたからな。良かったなあオレが優しい先輩で!!
でもハーブとフライパンと塩コショウさえあれば作れるお手軽料理(人気なし)だし、遠征先では大活躍だったけど。オレ以外は目が死んでたけど。
まあ何はともあれ、飯の時間だ。
皿に移して、フォークでつつきながらハーブ炒めを食べる。ちなみにオレの作れる料理はお菓子系を除いてこれだけだ。目玉焼きのアレ以来トラウマで他の料理が作れない。特に蓋をする料理は無理。やっぱハーブが最強なんだよ(目逸らし)
まあ人が作った料理は基本好きだけど。メシマズ以外。顎を酷使する料理以外。
もさもさハーブを食べきって蜂蜜入りのお茶を飲んでゆっくりしていると、教会の扉が勢いよく開いた。
「ラフィエル様! 今から
は?????(呆然)
なんで??????(困惑)
絶対に嫌だが?????(強い意志)
「もうすぐ魔王ギィが迎えに来ると……」
この世はクソ。
だから横暴魔王ってのは嫌いなんだ。歩く理不尽共め、いい加減にしろ! 何で毎度毎度オレを巻き込んでいくんだ……オレのこと嫌いなの? オレもお前らなんか大っ嫌いだよ!!!(大声)
勘弁してくれ。オレにどうしろって言うんだ? 何で急にそんな事になったんだよ。あいつらの訳分からん無茶振りを止めるのがお前の仕事だろうが!
使えねぇ野郎だな、クビにしよ……。こんなやつ傍に置いておいたのが間違いだったんだ。サヨナラ! 荷物纏めてさっさと出てけ!
出て行かされたのはオレだった。何で?? 言っとくけどね、教会の持ち主はオレだぞ。オレがあの爺さんから譲り受けたんだが?
着替えとお茶用の蜂蜜瓶を持たされて、何故かギャルドによってギィに引き渡された。は? え、なに、裏切りか? 謀反? こいつ何回オレのこと裏切れば気が済むの?
やっぱあの時許すんじゃなかったな!!(ブチ切れ)
はー甘ちゃんだったオレをぶん殴ってやりたい。そいつすーぐオレの事裏切るからって! そう言ってやりたいよなァ!!
もう二度とお前とは口きかねぇから。じゃあな、お前はギィと宜しくやってりゃいいよ。もう本気で怒ったから。
お元気でじゃねぇんだよ、なに? もしかしてオレがいつブチ切れて掴みかかるか賭けでもしてんの? 残念だけどオレの体はそんな品のねぇ事やってくれねぇんだわゴメンな!!(煽り)
「何言ってんだ、お前も行くんだよ」
「え?」
素っ頓狂な声を上げたのはオレとギャルドどっちだったか。
転送魔法陣に放り込まれ、ギィに文句を言う暇もなく、オレとギャルドは別の場所へ転移した。
「いっつ……ラフィエル様、お怪我は?」
「………………」
「ここは、何処の魔王の……?」
「………………」
「ラフィエル様?」
「………………」
とりあえず、怒りを示すために無視から始める事にした。