ガラル地方の化石ポケモン、設定がとても悲しいからせめて自分の想像の中だけでも幸せにしたくなった。そんな短編。
話の都合上ポケモン達が喋りますが、ポケモン達の間でのみ言葉として理解できている的なアレです。トレーナーには鳴き声として聞こえてます。
出てくる手持ちポケモンは作者の旅パ参考となっています。

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ぼくだけちがう

 ぼくは目を覚ますと、知らない場所にいた。

 

 見渡す限り茶色い大地。2人の人間。

 

 ――成る程、君はパッチルドンっていうんだ! 私はね……。

 

 すごく不思議だった。片方の人は、ぼくを見て何か考えていたようで……でも、すぐに悩む顔から笑顔に変わった。

 

 ――これからよろしくね、パッチルドン!

 

 ぼくよりも小さいボールをこつんと当てられると、ぼくの身体はまるっとボールの中に入っちゃった。

 

 

 そして今。トレーナーさん、という不思議な人と一緒に旅をしています。

 みんなとぼく、合わせて6匹と1人。みんなとぼくを見比べて気付いたことがあった。

 

 タイプ? 性別?

 そうだけど、そうじゃない。

 

 ぼくはみんなと違う。ぼくの半分はぼくじゃないから。みんなはみんなのままだけど、ぼくだけ違う。

 どうしてかくっ付いていた誰かの半分は、2本のあしじゃなくてヒレで、地面を歩くのに難しいです。

 ぼくはいつも寒くて震えています。あったかいところにいてもずっと寒いです。ぼくの半分はどこにいるんだろう。

 

 ずっと震えていて、歩くのも遅い。ぼくがもっと強くなったら、何とか出来るかもしれない。

 でも、どうがんばっても。ぼくはぼくのままだった。

 

 

 

 

 ――うん、ここでキャンプしようか。

 

 そうトレーナーさんが言うと、みんな待ってましたと言わんばかりにボールから飛び出してくる。

 

 ――パッチルドンはキャンプ初めてだよね? 任せて! とびっきりおいしいカレー作ってあげるから!

 

 どうやらぼくがする事はないようだ。えっちらおっちら歩きながら、みんなの所へ遊びに行こうとして。

 

 

 

『まあ! まあ! いけませんわ! そのような強い感情! 静粛にさせなければいけませんわー!』

 

 何故だかサイコキネシスで動きを止められて……あれ?

 

『乱暴をするとトレーナー様に怒られてしまいますの! それはいけませんの! だから皆様とお話しして静粛になるのですわ!』

 

 みんなの目の前に、ぽーんと放り出された。

 

『あいも変わらずおっかないな、ミブリム……。で、パッチルドンといったか。さて何をするべきなのか』

 

『どのような経緯でトレーナー様と旅をすることになったのかお話しすれば良いのですわ! それと! おっかないの部分は後できっちりお話を聞かせてもらいますからね!』

 

『む、それで良かったのか。……いやまてそれは言葉の綾というやつでな? って聞いておらんか、カレー作りを見守りに行っておる』

 

 

 全身を岩に包み、炎を燃やすポケモン。

 

『元は野生でな、その頃は洞窟に住んでいた。そしてどうして旅をすることになったか、か……その強さに惹かれたのよ。力だけではない、心の強さも併せ持ったその姿に』

 

 

 毒と電気を使いこなすポケモン。

 

『俺? あー……俺は元々預かり屋ってとこに居たんだが、アイツに譲られてよ。恥ずかしいがな、ちいせぇ頃の俺はクールとは程遠かった。でもアイツと一緒に鍛えあげた今の俺はサイコーにクールだ! ……でもよ、今でもほっぺすりすり使わされるのだけは勘弁して欲しいんだよな……相手を麻痺に出来るのは便利だ、ってのは何回も聞かされてるから分かってるんだけどよ……』

 

 

 紫色の炎をユラユラさせるポケモン。

 

『わたしはエンジンシティのジムにいたのよ。ジムチャレンジで倒されるのかなあと思ったらゲットされたの。あそこの生活も楽しかったけど、こうして旅をするのもとっても楽しいの! 心がメラメラするわ! 早く進化してシャンデラになりたいわ!』

 

 

 すらりとした見た目で水を操るポケモン。

 

『お前が自分を気にしている事を、トレーナーが気づいていないとでも思っていたのか? 丸分かりだったぞ。……お、おう、なんだその顔は。…………ええいそこまで衝撃的だったか! ふんむ!』

 

 驚きのあまり開いて閉じられなくなっている口。アゴが外れてしまうのではと不安になる程ぱっかり開いている。

 そんな姿を見かねたインテレオン。パッチルドンから漏れ出る電気に怯むこともなく、力を込めて、だが優しく閉じる。

 

『いいかよく聞け。オレは昔すぐ泣いた。トレーナーの姿が見えなくなったら泣いたし、大きな音が聞こえてきても泣いた! 何なら自分の技で驚いて泣いたこともある! でも今はこうして立派なインテレオンになってる。――今と昔が違っているのは皆同じなんだ。それにお前だけでその思いを背負うな。何のために皆がいると思っている? 足りないものを補い合う、そのための皆だ』

 

 

 ――パッチルドン、おいで!

 

 

『ほら、呼ばれてるぞ』

 

『せっかくのカレー、熱々の美味しい内に食べなければなりませんわ! 冷めるといけないのですわー!』

 

 ミブリムのサイコキネシスでまた移動させられる。

 

 ――わあっ!? ミブリム、乱暴にしたらダメだよ!?

 

『な、これも乱暴になるのですわ!? 反省するのですわ……』

 

 差し出されたのはカレー、という不思議な見た目の食べもの。恐る恐る、ぱくり。

 

「……パッチ! パッチ!? パチチチッ!?!?」

 

 まず思ったのはおいしい。次にからい。3番目にはとてもからい!

 口の中が燃えるようだった。はひ、ほひ、と口をぱくぱくさせることしかできない。でも口が勝手に次のカレーを食べて、でまたおいしいからいとてもからい、ってなって。

 

 ――えへへ。辛くて美味しくて、あったかくなるでしょ。

 

 ――パッチルドン、ずっと寒そうにしてたから。

 

 ああ、この人はずっと。ぼくを気にしてくれていたんだ。

 

 なんでだろう。寒くないや。

 身体はずっとぶるぶるしてるのに。なんでだろう?

 ふわふわで、ポカポカする。

 

「――パッチ!!」

 

 

 

 ぼくはみんなと違う。ぼくの半分はぼくじゃないから。

 でも、ぼくは皆と一緒になれる。みんなもぼくも、一緒に旅をして、一緒にご飯を食べて、一緒に頑張れる。

 ほら、今日も出番がやってくる。

 

 

 

 ――お願い、パッチルドン! 君に決めた!



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