夜の帳が下りた漆黒の墓地。本来静寂に包まれている筈のその場所からは、けたたましい物音が鳴り響いている。それは這いずり出る亡者の群れが鳴らす大地を割る音であり。あるいは首から上のない騎士が歩く際に鎧が鳴らす音であり。あるいは、あるいは、あるいは―
「きゃああああああああああ!」
「うぉぉぉぉい、びびってないでお前も手伝ええええ!」
第4ステージ【死霊跡地】。その名が示すとおり、死者や悪霊と言った敵が登場する墓地の中を進むステージ。秋津茜…ではなく隠岐紅音…でもないアダーフライの言うことが正しいならば、このステージでゲーム全体の折り返しとなる、んだが…
「す、すいませんサンラクさ「グゥゥァァァアアアアアア!」イヤアアアアアアアアアアア!」
これはかなりまずい。隠岐がこういったホラー要素に対して耐性がないというのは想定外だった。ええいそんないかにも女の子らしい叫び声を出すんじゃない、厳ついおっさんの姿でやられてもギャグにしかならないんだよ!
いやまあ怖いのは分からなくもない。俺も気を抜くとびくっとなるからな。ただ、実質俺一人でこのゾンビ共相手にするのは正直かなりきつい。というよりこのステージ、前回までのステージと比べてジャンルが違うのもそうだが難易度自体もかなり上がってる。第3ステージで武器を調達していなければ間違いなくゲームオーバーだった。
もしかして何かフラグでも踏んでたか?少なくともアダーフライのこの反応は、一度このゲームをクリアした者とは思えない。ここにくるまでも敵の配置や挙動が違うと言っていたし、その可能性は高そうだ。ただその条件は皆目見当もつかないし、このゾンビ連中が悠長に考える時間を与えてくれるはずもない。どのみちこのままでは辿る結末は見えている、突き進むしか道はないんだよちくしょう!
あぁもう、どうしてこうなった!
■
クターニッド戦を終え、ようやく一息つくことが出来た。これから黒狼とのいざこざが始まるかと思うと面倒でしかないが…
現在夏休み最終日の午後。ログアウトしてから一眠りし、今目覚めたところだ。とりあえずカフェインだ、今の頭では回る頭も回らない…
と、寝ぼけた頭で扉を開けたため、扉の反対側にいた人物に気付くことが出来なかった。
「きゃっ」
「うおっ」
ぶつかりはしなかったが、結構きわどかったな今の。というかこの子誰?
「あー、すまない、当たったりしなかったか?」
「えと、はい、大丈夫です!」
中学生くらいの女の子だ。瑠美の友人か?しかし、どこかで見たことある気がする、それも最近。声も聞いたことあるような…どこでだ?
と、ここで瑠美が駆け寄ってくる。やっぱ妹の友人だったか。
「二人とも何やってんのこんなところで」
「部屋から出ようとしたらぶつかりかけたんだよ。どこにも当たってないみたいだからよかったけどな」
「お兄ちゃん気をつけてよ?全国ベスト8の紅音に何かあったら大変だよ?」
「瑠美ちゃん大げさだよ、ぶつかってても何でもないって」
「まあそうなんだろうけどね、心構えの問題よ」
実際気を抜いていたのは確かだしな、言われてもしょうがないと俺も思う。
…ん?何か引っかかる。瑠美はこの子を「アカネ」と呼んだ。つまりこの子の名前は「アカネ」。これも最近聞いたことある…って待て。
顔に関してはお面をずらしているときにちらっと見た程度だが、それ以外の要素…声、話し方、そして「アカネ」という名前。すべての項目が当てはまるやつを一人知っている。というか、今朝までそいつと一緒にゲームをしてた。まさかこいつ…
「すまん、ちょっと聞いていいか?」
「?はい、なんでしょう?」
「間違っていたら申し訳ないんだが…もしかして、秋津茜か?」
「え…えぇっ!?どうして瑠美ちゃんのお兄さんがそれを!?」
おぉっと、ビンゴだったわ。聞いておいてなんだが、シャンフロのアバターとリアルの外見そのまんまだな。狐面被ってるのってもしかしてそれが理由なのか?いやそもそもアバター作成時に外見変えてりゃよかっただけの話だよな。ならなんで…駄目だ、いまいち頭が回らん。ひとまず後回しだ。
「いきなり聞いて悪かったな、今朝ぶりではあるがサンラクだよ」
「え、サンラクさん!?瑠美ちゃんのお兄さんがサンラクさんだったんですか!?お会いできて光栄です!」
すごいオーバーなリアクションで喜ばれた。そんなに喜ぶようなことか?いやまあ、ゲームの知り合いとリアルで会う機会なんて滅多にないか。俺もついこの前カッツォやペンシルゴンとあったばっかりだしな。それだって事前に会う約束してたわけだし、突然のことならこうなることもあるか。
「あ、自己紹介がまだでした。瑠美ちゃんと同じクラスの隠岐紅音といいます!よろしくお願いします!」
「あーうん、陽務楽郎だ。よろしく」
オキアカネか、なるほどね。それで蜻蛉に関連したプレイヤーネームで統一してるんだな。
と、ここで部屋の中にあるアレを見つけたようで、目を輝かせながら聞いてくる。
「あ、もしかして業務用のVR機ですか!?私初めて見ました!」
「…近くで見てみる?」
「いいんですか?ありがとうございます!」
開いてた扉から部屋に入り込みVR機を見つめている。本当に素直というか、表情に出るというか…、うん、やっぱこいつ光属性だわ。どこかの外道共にも見習わせたいもんだ。
「お兄ちゃん、紅音と知り合いだったんだ。さっきの話から察するにゲーム?」
「ああ、同じクラン…あー、チームというか団体というか、所属が同じなんだよ」
「ふーん…」
「なんか気になることでもあるのか?」
「いやそういうわけじゃないんだけど…」
そう言ったきりなにやら考え込む瑠美。途中で話し切られるとすごい気になるんだが。とここで秋津…隠岐紅音が棚の方を見ているのに気付く。
「あれ、これって…」
「どうかしたか?」
「サンラクさんって危牧もプレイされていたんですね!あ、これもやったことあります。やったことあるゲーム結構被ってるんですね!」
「は!?」
え、こいつ危牧経験者?ていうか秋津茜が示した奴ってどれも結構なクソゲーだぞ。そういやこいつ便秘もやってたな…実はクソゲーマーだったのか?それならばこいつの妙に高いプレイヤースキルにも納得がいく。その割に…うん、少々アレな部分が目立つのだが。
「すごいな、この辺りのクソゲー分かるなんて」
「そんなことないですよ。ランキングとかも中の上ぐらいが精一杯で」
「いやそれでも十分すごいから。危牧のあの極悪な災獣共はなかなか対処できないからな」
「できても中型までですからね。超大型相手はどうしても無理です!」
お、おお、なんというか、猛烈に感動している。クソゲーに関して、カッツォには俺が教えることばかりだし、ペンシルゴンは俺がやってるクソゲーに理解を示さないことも多い、幕末とか。尊敬している武田氏についても、リアルで交流を持っているわけではない。
そうしてみると、初対面とはいえリアルで対等にクソゲーについて話せるというこの状況は、経験してみると結構楽しい。学校とかでも趣味についてはほとんど話してこなかったし。
そう思っていたのは俺だけじゃなかったのか、隠岐のテンションも上がっている。それを見れば俺のテンションもつられてさらに上がるわけで…
「お兄ちゃんと紅音、すごく仲が良さそうね。ゲームの趣味も同じみたいだし…」
「へぇー」
クソゲートークに夢中になってて、後ろでどこか面白そうに呟く瑠美が何を言っていたのか気付かないままだった。