とあるステージのリプレイ(一部抜粋)
「ここが第四ステージか。死霊跡地で夜の墓場…アンデッド系の敵がメインか?」
「あ、あれ?私がやったときと違う?」
「?今までも違うことばっかりだったんだろ?」
「そうなんですけど、このステージ、確か夕暮れだったと思うんです。こんな風に真夜中じゃなかったはずです!」
「もしかしてステージそのものが違うってことか?このステージが特別?それとも何かのフラグ踏んだ…?」
「こ、こういう雰囲気は苦手です。私、肝試しやお化け屋敷とかも駄目で…」
「え、マジ?それなら俺がひとまず前に…って」
「「「「グゥゥゥゥァァァァアアアアアアアアア」」」」
「きゃああああああああああああああ!」
「きゃああああああああああああああ!」
「うぉぉぉぉい、びびってないでお前も手伝ええええ!」
「す、すいませんサンラクさ「グゥゥァァァアアアアアア!」いやぁぁぁぁぁあああああああ!」
「言ってるそばから!あーくそ、これ難易度おかしいだろちくしょおおおおおお!」
「だぁーもう、これ以上は無理!流石に敵の数多過ぎだろ!」
「サ、サンラクさんすいませんでした!私も戦います!」
「やっとまともに動けるようになったか!頼むぞ、こっから巻き返す!」
「はいっ!…大丈夫、大丈夫、こわくないこわくない…!」
「おいホントに大丈夫だろうな!?すごい不安になったぞ!?」
「い、いきます!やぁぁぁぁぁあああああああ!」
■
日曜日、ランニングシューズを履き外へ出る。VRゲームを楽しむのであれば、必要最低限の運動は行うべきだ。体調を崩すことがあればゲームを楽しむどころじゃないからな、健康管理には気を遣う。徹夜?睡眠不足?そんなもんエナドリで何とかなる。カフェインの神様を信じろ…!
準備運動をしてそのままスタート。走りながら今やってる二つのゲームについて考えをまとめる。
まずはシャンフロ。黒狼とのいざこざもようやく終わり、一区切り付いた感じだ。まあ聖女ちゃんの依頼などのやることも多くあるが、めんどくさい状況が一つ片付いたことには素直に喜ぼう。外道達はともかく、秋津茜やルスト、モルド達にも気をつけるように言ってあったからな。これであいつらも気兼ねなく行動できるだろう。ルスモル達はネフホロメインだからログイン率は低いだろうけど。
次にラインズ・ソルジャー。ようやく第四ステージクリアまでこぎつけることが出来た。第四ステージの最初はアダーフライが怖がって戦力にならず、一人で突っ込む羽目になった為もう駄目かと思ったが…びびりながらも支援に回ってくれたアダーフライのおかげで何とかなった。あれが体育会系の根性と言うべきものだろうか?何はともあれ折り返し地点。最初と比べゲームに対する慣れや理解も進んだことだし、攻略速度も上がってる。残りのステージもこの調子でいければいいのだが…。
というか、考えてみれば2つとも隠岐と一緒にやってるゲームなんだな。シャンフロはクランが同じだけで普段からパーティ組んでるわけでもないが、リュカオーンやクターニッドのユニークシナリオは一緒にクリアしたし、ラビッツユニークも発生させているから会う頻度はなんだかんだ多い。ラインズ・ソルジャーではここ最近毎日一緒に二人プレイで攻略してるし、リアルでも知り合いときてる。しかも瑠美の友人なわけで、ここまで来ると何か縁を感じたりもする。その理屈で行くとカッツォとペンシルゴンもそうなんだが…あいつらの場合は、縁は縁でも腐れ縁とかだな…
「あれ、楽郎さんじゃないですか?こんにちは!」
「うお、お、隠岐か!?」
「え、あの、どうされたんですか?」
「いや、何でもないぞ、うん」
「?」
びっくりした、丁度隠岐のことを考えてたときに出てくるもんだから何事かと思ったわ。
隠岐を見てみれば、俺と似たようなジャージ姿。この格好から察するに…
「隠岐も運動か?」
「はい、今日は日曜日で部活もないのでジョギングしてました!楽郎さんもですか?」
「おお、まあな。VRゲームを嗜む以上は健康な体を維持すべきだからな」
「そうですねっ、体は大切です!思いっきり動くのも気持ちいいですし!あ、そうだ!楽郎さん、どうせなら一緒に走りませんか!?」
「別にいいけど、俺そこまで早くないぞ?それこそ運動部の隠岐からすればかなり遅いペースになるだろうし」
「大丈夫ですよ、私もそれほど早いペースで走ってないですし。それに、一人で走るよりも、楽郎さんと一緒に二人で走った方が楽しいと思うんです!」
「…お、おう、そうか。じゃあ一緒に走るか」
「はいっ!」
こ、こいつは自然にこういうこと言ってくるな。一緒にゲームやってるときも思ったが、どういう育ち方をしたらこうも純粋に育つんだ?
そんなわけで並んで走っているわけだが…やっぱこいつはえぇ…!正直ついて行くだけで息が上がり始めているが、隠岐の方をチラと見てみると平然そうに見える。やはりリアルの体にはどうしようもない格差があるのか…!
しかしな、だからといってヘタレるつもりもないんだよ。こっちはゲームだと結構上からっぽい発言してるし、さっき速いペースで走ってないと言った隠岐のこのペースについて行けないというのも癪だ。イニシアチブは俺がとる…!
「あっ」
はははよっしゃあ俺が前に出たぞ、どうだまだ走れる…っておい、そんな平然と抜かすんじゃない。く、そっちがその気なら食らいついてやるよ!
「楽郎さんまだまだ行けそうですね!それじゃあペース上げましょう!」
え、嘘、まだ上がるの?流石にこれ以上あげるの無理なんだけど。あ、手引っ張るんだ、なんつーか柔らかい…いやそうじゃない、ちょっと待て、待ってください、これ以上は―!
□
「ぜぇー、はぁー…」
「す、すいません楽郎さん!ちょっとその、嬉しくなっちゃって…ごめんなさいっ!」
ひとしきり走り辿り着いた公園で息を整える。やってしまったと、後悔で胸がいっぱいになる。抜かれたことをちょっと悔しくも思い、だけど全力なその姿勢を嬉しくも思い…。とはいえ、それが楽郎さんに強要していい理由になるわけじゃない。
「気にしなくて、いい…。俺もまあ、見栄、張ったしな…」
「でも…」
「そこまで気にするなら、そうだな…。次のステージでは、今回のこと帳消しにするくらい、活躍してくれ…」
「あ…。は、はいっ!」
そんな私を、笑って許してくれる楽郎さん。正直、自分ではまだ後悔の念が残っているが、これ以上はきっと楽郎さんを困らせる。だから楽郎さんの言うとおり、次のステージ…第五異界で挽回しようと心に決める。
そう考えて、ふと思い至るのはラインズ・ソルジャーにおけるサンラクさんの挙動。最初のうちはサンラクさん何回か横移動しようとして死んでいたけれど、すぐにそんなことはなくなって…。今では前を走る私に的確に指示を与えながら、自身も積極的に攻撃を仕掛けている。自分も含めて多くの人が、このゲームに慣れるまで相当回数死んでいるのに。
それはもちろん、何が起きるかというのを正確に予測できた部分もあったのだろうが、きっとそれだけでもない。そう思ってサンラクさんに聞いてみたら「リアルに適性が必要なロボやらゴリラやら犬やら虫やら、普通じゃない挙動を経験していたのもあるかもな…」なんてどこか遠い目をしながら言っていた。どういうことなのかいまいち分からなかったけど、それでもたくさんの経験や努力を積み重ねた結果というのは想像できた。
そう、努力。ゲーム中敵がいないときなどはサンラクさんといろいろなことを話すけど、この人は本当にゲームが好きで、そのための努力を惜しまない人だとわかった。聞けば将来もゲームを満喫するために、学校の勉強も普段から怠らず、進学先も知り合いの人に相談に乗ってもらいながら既に決めてあるらしい。出会ったときから尊敬する先達であったけど、その念は日を追うごとに強くなってる。
そこまで考えた後、紅音は思う。どうして楽郎さんは―。
だがその考えは、楽郎の発言によりかき消された。
「…それにしても、第四ステージはすごかったな、ある意味」
「…うぅ。あれ、すごく怖かったです。私がやったときはあんなじゃなかったのに…」
「いやまあ、ゲームの変わりっぷりもそうだけどな。隠岐の悲鳴とかもすごかったぞ。なんというか、すごい女の子らしい悲鳴だったというか」
「ら、楽郎さん!私も女の子なんですよ!?」
「いやそうなんだがな。あのおっさんアバターでアレは卑怯だぞ、最早ギャグにしか見えなかった」
「ひ、ひどいです!そんなこと言うなんて!」
「実際被害被ったからなぁ、ほとんど一人で戦う羽目になったし。また悲鳴を上げることになっても、出来るだけ声は押さえてくれよ?」
「うぅー!」
◇
「…てわけでね、ひどいんだよ瑠美ちゃん!」
「あーうん、わかったわよ紅音」
昼休み、私は紅音と机を会わせてお弁当を食べている、のだが。今私の目の前にいる紅音はどうやら普段とはひと味違う状態のようで。うん、端的に言えば…惚気られているといってもいい。
いや、ゲームではともかく家で初めて会っていたときの様子を見るに、この二人相性良さそうだな、とは思った。あのお兄ちゃんがゲームの話題とはいえあんなに楽しそうに女子としゃべる姿は見たことがなかったし、このゲーム脳について行ける女性が今後どれだけ現れるかと不安にも思った。紅音にしても、いろいろと危なっかしいから悪い男にだまされたらと不安になるし。それこそ気が早いけど、もし紅音が私の義姉になるようなことがあればそれはそれで楽しそうだなとかいろいろ考えた。
だから始業式の日、お兄ちゃんから連絡が来て「ロックロールに行くから先帰るね!」と言い去って行った紅音を見て嬉しく思ったけど…正直想像以上だったわね。ここ数日、紅音がお兄ちゃんについて話すことが段々増えてきてる。付き合いはじめた、もしくは異性として意識してるんならまだ良かったけどね。
傍から見ているとすっごいモヤモヤすると言うか…。あ、一人教室から出て行った。まあバレンタインにお互い潰し合って何も出来てない男子達にはかなりきついだろうなあ。
「でも、一緒にゲームやってること自体は楽しいんでしょ?」
「うん!楽郎さん、いつも全力で楽しんでいるっていうのが伝わってきて、私も楽しくなるし、私ももっと頑張ろうって気になるんだよ!」
「そうなんだ。……ねえ紅音」
「どうしたの瑠美ちゃん?」
「………。ううん、なんでもない。一緒にゲームできる人が出来て良かったね」
「うん!」
お兄ちゃんのことをどう思っているかって聞いても、たぶんさっきと同じような答えが返ってくる。だから、もう少し踏み込んだ聞き方をしようかと思ったけど、やっぱりやめた。余計なことを言っても混乱させるだけのような気がしたし、それに…すごく幸せそうな紅音を見たら、それが恋慕でも尊敬でもかまわない気がしたから。