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最終ステージ・深淵。これまでのステージの総決算とでも言うべき敵やギミックをくぐり抜け辿り着いたラスボスである邪神・ヴィラルディアは、第一形態ではただの羽が生えた男だったが第二形態となった今では真っ黒なドラゴンへと姿を変えた。
ストーリーこそ結局分からずじまいだったが、ここに至るまでのボスラッシュに加え、このいかにも最終決戦と言った雰囲気はテンションを上げてくれる。それは神ゲーだろうがクソゲーだろうが変わらない、さっさと倒してエンディングを迎えさせてもらう!
『――――――――――――――――』
「どうしたどうしたァ、その程度じゃ落ちやしねえぞ!」
空中を駆け回りつつ両手に掲げる二刀を振り下ろし、攻撃の兆候が見られ次第即座に離脱。今大事なのは奴のヘイトが俺から逸れない程度にダメージを与えることだ、無理に攻撃を仕掛ける必要はない。
空中で前転、もしくは後転するたびにもう一度ジャンプが可能になるスキル【ロールスカイ】。予備動作がやや面倒な上に三半規管にダメージを受けるという欠点を持つが、それさえクリアすれば何度でも空中をジャンプできる優秀なスキルだ。これに、ジャンプするたびに空中でのダッシュが可能となるスキル【エアダッシュ】、滞空時間の延長と空中における姿勢制御に補正がかかる武器【空刃シルフィア】、横移動ペナルティの対策としてエリア外の色が変化して見えるスキル【エリアサイト】を組み合わせて使用。擬似的にではあるが高速で空中を移動することが可能となった結果がこれだ。
前のステージでシルフィア手に入ったのは僥倖だったな。Z軸の移動が出来ずともX軸とY軸を自由に移動できるこのコンボの存在はかなり大きい。何せ道幅が狭すぎて前衛二人とかやりたくてもやれなかったからな。だが今ならそれが出来る、空中から全体を見渡しながらっていうメリットまでつけてな!
「枠外からのレーザーが見えた!おそらく10秒後にくるから回避に専念!」
「はい!」
地上にいたらもう少し把握が遅れていたであろう攻撃を難なく回避。ここまでの戦闘から推測すれば、少しの間敵の支援攻撃はない。体力も大きく削れているし、仕掛けるなら今がチャンスなんだが…
「アダーフライ、チャージはどうだ!?」
「もう少しでっ………!、今溜まりました!いつでも行けます!」
「よし、ならこれで決めるぞ!」
「わかりました!」
右手に持つ【爆刃プロージア】の能力である爆炎球を相手の顔面付近で爆発させ、後方に全速で後退する。ラスボス故にダメージは大して入ってないが、それでもひるませるには十分だ。
『――――――――――――――――――!』
何やら敵意丸出しにしながら吠えているが…残念だったな。このゲームを始めたとき最初に決めたとおり、俺はあくまでサポート、本命はあっちなんだよ!
【覇刃グランカイゼル】。その特殊能力の発動のためにステージ開始時から装備し続けなければならず、装備中も敵に対して相当回数の攻撃を行う必要がある。他にもいくつか制約がある上にステージで一度しか発動できない訳だが…まあこの手の武器のお約束、その能力はこのゲームにおいて非常に強力だ。なんせこのゲームの行動範囲は直進方向に進むラインの中だけなんだからな。その範囲全体を埋め尽くす攻撃は避けようがない!
「覇刃奥義・【滅牙裂光刃】!」
掲げられた剣から膨大なエネルギーの塊が天空へと伸びてゆく。まっすぐに振り下ろされた刃はヴィラルディアへと叩きつけられ、そして…
「っしゃークリアしたぞ!やっぱクソゲーをクリアした瞬間っていうのは格別だな!」
「そうですね!すごくやり遂げたぞーって気分です!」
「おもえばこのゲームの挙動には戸惑ったもんだが、面白い経験が出来たよ。ラスボス戦の空中移動も正直ぶっつけ本番だったけど、試してみたら行けたしな」
「さっきのサンラクさんすごかったです!私だったら酔っちゃってたと思います!」
まあコーラシアス・ライラックと比べたら三半規管の負担も軽微だったしな。いやあれはあいつの軌道がおかしいだけか、操縦してるの俺だけど。
「アダーフライでもやれば出来ると思うぞ。なにげにプレイヤースキル高いしな」
「ありがとうございます!…でもどのみち、スキル自体を持ってないから試せません…」
「スキルの獲得に条件があるみたいだしな。アダーフライが最初にやったときと比べても結構違いがあるんだろ?」
「はい、一人プレイの時とは武器もスキルもこんなに手に入らなかったです!」
「となると思った以上にやりこみ要素も多いのか…。とはいってもあんまりのめり込みすぎてもシャンフロに支障が出るし、やりこみについてはまた別の機会だな」
当初の目的であったクソゲニウムの摂取という点はクリアしたしな。それに思ったよりも時間をかけてしまった。今の本命はシャンフロなわけで、そろそろ本腰を入れていきたい。
ただまあ、アダーフライ…隠岐と一緒にゲームをやるのは楽しかった。純粋なゲームの感想ではないが、今回の共同プレイは非常に満足できるものだった。こいつの総当たりなプレイスタイルは俺の周りにはいなかったし、全力でゲームを楽しむ姿勢にはこちらのテンションも引き上げられる。正直名残惜しくも感じるが、またこういう機会もあるだろう。
「なんにしてもお疲れ。このゲーム教えてくれてありがとな」
「いえ、喜んでいただけて私も嬉しいです!むしろ、私こそ一緒にゲームを遊んでいただいてありがとうございます!」
「いやいや、それ言い出したらこっちも高難易度でプレイできたし、一人プレイとはまた違う楽しみ方が出来たから」
「いえいえ、こっちもサンラクさんの動きを見せてもらってすごく勉強になりましたし!」
「いや……あー、これじゃ切りがないな。とりあえずあれだ、お互い様ってことにしとくか」
「あ、はい、そうですね!」
というか俺までこいつの光属性に巻き込まれてたか?外道共ならお礼を言うどころかそれをネタにマウントとろうとしてくるぞ?
「じゃ、そろそろ落ちるか。隠岐は明日も早いんだろ?」
「はい、部活の朝練があるので!大会のシーズンは過ぎましたけど、練習は欠かせません!」
「そか。まあ無茶しすぎないようにな。じゃあお休み」
「お休みなさい!」
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ログアウトして、ベッドで横たわっていた体を起こす。時間はもうすぐ23時。あんまり遅くなると寝坊しちゃうし、早く寝よう。そう考えてはみるけど、思い浮かんでくるのはさっきまでのこと。
ひとまず、サンラクさんに楽しんでもらえて良かった。一度クリアしたゲームではあったけど、一人でやったときよりも難しくかったし、なによりリアルで知ってる人と一緒にやるゲームはとても楽しかった。ゲームの中での知り合いならいないわけじゃない。シャンフロで知り合った旅狼の人達もとてもいいひと達だ。それでも、実際に顔を知っていて、尊敬してる楽郎さんとするゲームは特別だったと思う。
そこまで考えて、あることに思い至る。もうゲームはクリアしたのだし、サンラクさんもやり込みは別の機会と言っていた。なら、当面の間は楽郎さんと一緒にゲームをやる機会もないということ。シャンフロだって基本的には別行動だし。
「…………?あれ?」
どうしてだろう?そのことを考えると、少しさみしいと感じる。確かに一緒にゲームをやれないのは残念だけど、それをさみしいと思うのは…あれ?よくわからなくなってきた。
「こういうときは…うん、思いっきり走ろう!」
ちょっと遅いけど、悩んだままでいてもしょうがない。急いで着替えて、私は街へと駆けだした。