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――今の自分にできるのは、せめて過去の自分に誇れるようにいることくらいだろ?
あの時楽郎さんから聞いた言葉が、胸の内から離れない。
過去の自分。楽しそうにグラウンドを駆け回る友達を、ただ見てることしか出来なかった私。
やりたいことがあってもできなくて、それを面倒そうにしてる人をみると悔しくて。
それでも、自分には出来ないと諦めることしか出来ない自分が、嫌いだった。
小学校高学年の頃から体質改善の為に始めた陸上は、気がつけば私の生活の一部となっていた。
それは楽しいことばかりではなかったけど、今では私の欠かせない一部。
あの頃出来なかった挑戦を続けた結果、私の世界は広がって、いろいろな目標が出来た。尊敬する人が出来た。
あの頃の私から見て、今の私は、誇れる自分となっただろうか。
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日曜日朝方の恒例となった隠岐とのジョギング。今日は既に走り終わり、公園で休憩を取っていた。
「はぁー、はぁー、…あー疲れた」
「お疲れ様です!前よりもまた速くなってましたね!」
ここ最近、毎日走ってきたからな…。ただ、やはりリアルとゲームの格差はなかなか埋められない。前よりも食らいつけるようにはなってきたが、それでもまだ隠岐は余裕を残してるように感じる。うーん流石陸上部。
「なんにしてもまだまだだからな。とりあえず目標は隠岐に遅れないことだ。いずれ全力出させてやるよ…!」
「え、私が目標ですか!?」
「もともとは体力作りでやってたことだけど、こうやって一緒に走るようになったんだし、明確な目標はあった方がやりがいあるからな」
「えへへ、なんだが照れますね。私、いっつも追いかける側だったので、そう言われるとすごくくすぐったい気分です」
「全国ベスト8が言っていい言葉じゃないだろ。昔がどうだったかはともかく、今のお前は結果を出したんだ。もっと誇っていいんじゃね?」
「あ………。そう、ですね。私の尊敬する陸上選手も、同じようなことをいってました!ありがとうございます、楽郎さん!」
お礼言われることしてないんだけど…。まあいいや、こいつらしいし。
さて、体も整ったし、そろそろ帰るか……あ。
「そういや忘れてたな…」
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとな…」
瑠美から隠岐のこと名前で呼ぶように、って言われてたんだっけ。瑠美のことだし、明日学校行ったときにでも隠岐に確認するかもしれないな。となると、ここで名前呼びしていいか聞いといた方がいいか。
「あ、あのさ」
「はい?」
「あー、そのな…」
あれ、なんか続かない。おかしい、隠岐のことを名前で呼ぶだけ、の筈だ。なのにすごく緊張してる。この感じは何なんだ?
隠岐は言葉を詰まらせてる俺を見てキョトンとしている。このままでは埒があかない、さっさと言え!
「…あー、それじゃあそろそろ帰るか……紅音」
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「はい!お疲れさ……。あ、あれ、楽郎さん、今…」
「ああ、ずっと紅音はずっと楽郎っていってたけど、俺は隠岐のまんまだったからな。ちょっと今更感があるけど、嫌か…?」
「い、いえ、すごく嬉しいです…!是非そう呼んでください!」
楽郎さんから名前を呼ばれた。今までずっと名字で呼ばれてたから、名前で呼んでもらえて嬉しい、んだけれど。どうしてだろう、なんだか顔が熱い気がする!
「あれ、なんか顔赤くね?大丈夫か?」
「やっぱりそうですか!?あ、でも楽郎さんもですよ!?」
「え、マジ?いやでも風邪とかって訳でもないし…運動後だからか?」
名前を呼ばれた、ただそれだけで、どうして。そこまで考えて、ふと、ここ最近楽郎さんのことばかり考えてたことを思い出した。どうしてなのか今まで深く考えなかったけれど、そこに理由があるんじゃないかと思い――――――ようやく気付いた。
最初は、尊敬すべき先輩、だった。
別のゲームで再会した時には、一緒に強敵に、しかも立て続けに挑むことになり。
それを乗り越えたときには、尊敬の念はさらに深まっていた。
その後、友人の兄であることを知って。
初めて、リアルで知ってる人と、一緒にゲームをした。
休日には、競い合うように走るようになり。
時には、不安がる私を励ますように。
時には、疑問を投げかける私に、不器用ながらも優しく答えてくれて。
時には、初めて会ったときのような大胆不敵さで、我先にと前に飛び出していき―。
気がつけば、その人のことばかり考えている私がいた。最初は目標としていた人、憧れを抱いていた人。でも今は、それだけじゃない。もっと一緒にいたい、いろんな出来事を、分かち合いたい――――――――――――
あ、そうか、そうなんだ―――――――――
「どうしましょう!楽郎さん!」
「ん?」
どうしよう、止まらない。これは自分にとって、ううん、女の子にとって、とても大切なこと。
もしかしたら受け入れてもらえないかもしれない。そう考えると、すごく怖い。
だけど、止まりたくない。言葉にしなければ、いつまで経ってもこの思いは届かない。
そんなのはいやだ。少しでも長く、この人と一緒にいたい。
だから、伝えるんだ。私の正直な気持ちを、まっすぐな言葉で!
「どうやら、私は楽郎さんのことが好きみたいです!」
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……………
………………………
…………………………………
「……楽郎さん?楽郎さーん?」
「………ハッ!?」
いかん、思考がフリーズしてた。何のはなしだったっけ、思い出せ。えーと、どうやら紅音は、俺のことが好きらしい。うん、まとめるとすごい分かりやすいな。いやそのまんまかハハハ………え、もしかして、告白された?
「その、驚かせてごめんなさい! でも私、楽郎さんのことが好きで、ずっと一緒にいたいって気付いたら、伝えずにはいられなくて。だから楽郎さん、私と付き合ってください!」
紅音の表情は真剣そのものだ、嘘偽りの類いじゃない。ああいや、こいつはそもそも嘘とかつけないか。
いくらこういったことに縁がない俺でも分かる。茶化すことなく、自分の気持ちを正直に答えなければならない。
だから俺が紅音をどう思っているかを考えてみた―――――――驚くほど簡単に結論が出たのだが。
「……いいか紅音、前半部分については、とりあえず今は一度しか言わないからよく聞けよ?」
「はい!…前半部分?とりあえず今は?」
ああ、とりあえず今は、だ。正直かなり恥ずかしいが、これから先、多分何度も言うんじゃねえかな、なんて予感がする。
笑ったときの顔がまぶしくて、その…すごくかわいくて。
ちょっと抜けてるというか、発言の数々が少々アレなところも。…告白の返事をする相手にこれはひどいか。
頑張ってる人を応援するくせに、妙に負けず嫌いなところがあることとか。
純粋すぎるからか物欲センサー完全に回避してる…これ褒め言葉か?
いろいろあるけど、なにより、初めて会ったときから変わらない、何事にも全力でまっすぐなところ。
まあ、全部ひっくるめて。
「俺、陽務楽郎は、紅音のことが好きだ!! だから俺と付き合ってくれー!!」
「あ…………は、はい!こちらこそ、よろしくお願いしますっ!!」
そういって、紅音が俺に向かって飛び込んでくる。朝とはいえチラホラ人の姿も見えて正直恥ずかしいが、そんなことよりもこっちの方が大切だ。
さて、これからどうなるんだろうな?いや、考えるまでもないか。少なくともこいつと一緒なら…間違いなく退屈なんてものとは無縁の生活になるだろう。そんなことを想いながら、紅音を抱きしめ返した。
恨むぞ昨日の俺、なぜあんな大胆な告白返しをしたぁ…!いくらテンション上がってたからって、もっとやりようがあっただろっ…!
「よぉ青春少年、これから彼女とデートか?羨ましい限りだな」
「ドラマやアニメ張りの大告白だったんだろ?是非ともその内容を聞かせてくれよ」
まさかアレを聞いてる奴がいるとは。いや朝方とはいえ公園で、あんな大声を上げたんだから、仕方ない面もあるだろうが、なぜピンポイントであいつなんだ!
「いやぁ、まさかあんな場面に出くわすとは思わなかったわ。人生何があるか分からないもんだなぁ陽務?」
「人の告白場面を題材にしたポエムが世間から好評な奴はいうことが違うな雑ピィ…!」
「いや申し訳ないかなとも思ったんだけどな、これは形にして残しておくべきだとも思ったんだよ。録画したわけでも名前を出したわけでもないし、まあ許してくれ」
くそ、完全にマウントとられてるからダメージ全然入らねぇ!なんとか脱出を図りたいがどうする…?
「ていうかさ、校門の前にいるの昨日の子じゃね?」
「は?」
そういって校門を見ると、瑠美と同じ中学の制服を着た女の子が立っている。うん、紅音だなあれ。確かに部活ないなら一緒に帰るか、とは言ってたがもうきてたのか。ていうか雑ピ、この距離で、ちょっと見ただけの紅音を識別したっていうのか?地味にすごくねこいつ。
「え、どれどれ?……え、あの子?めっちゃかわいくね?」
「マジで?暁ハートさんの見間違いじゃなく?」
「なんだろう、純粋な怒りがこみ上げてきてるんだが」
ヤバい、なんかヘイトが溜まってきてる………いやまて、これはチャンスだ。今こいつらは紅音に注目してて俺への注意は散漫だ。脱出するなら今しかない。
「おい、あの子が本当にお前の彼女…てあれ?………あっ!」
「フレに呼ばれたんで部屋抜けますね^^」
「待てコラ、ってはやっ!」
ふはははは、紅音と一緒に走ってきたんだ、そう簡単に追いつけると思うなよ!
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初めてきた高校の校門で、楽郎さんを待ち続ける。なんだか注目を集めてしまっている気がするけど、これから楽郎さんと一緒にいられると思うと気にならない。部活が休みの時だけではあるけど、こういうときは目一杯楽しみたい。
「あ、楽郎さん!…あれ?」
「待たせたな紅音!早速で悪いが走るぞ!」
「え、わ、わ!」
そういって楽郎さんは私の手を握り、駆けだしていく。私の前を、私を引っ張っていくように。だけど、引っ張られてばかりなのは嫌だ。目標であり、大好きな人である楽郎さん。この人に相応しい私でいるために、いつだって全力を出すんだ!
「なんだかよく分かりませんけど、とにかく走ればいいんですね!得意分野です!」
自分のことが嫌いだった私は、もういない。あの頃の私に誇れるように、私はこれからも挑戦を続ける。
私の一番好きな人の隣で、ずっと!
こういう話を書いてみたい。そう思って始めた今作ですが、いざ書いてみると物語の執筆というのは本当に難しい。拙い表現や語彙・知識不足、ネタの引き出しの少なさ、原作の読み込みの甘さ、いろんなものが足りてないなと痛感しました。書き終えてから一度落ち着いて読み返してみると、「アレここいらなくない?いやここも…」といった感じになります。内容は誤字脱字くらいしか修正してないですが。
原作者である硬梨菜先生や二次創作をされている皆様をはじめとする、物語を描かれている人たちは本当にすごいなと思いましたし、今作を書いたのは自分にとってもいい経験になったとも感じました。そして、そんな今作でしたが、読まれた方に楽しんでいただけたのならとても嬉しいです。
一応、所々変更したとはいえ、予定していた場面まで書けました。今後は一話完結式の後日談、のようなものを書いてみたいとも思ってますが、結局のところどうするかは未定です。
最後になりましたが、ここまで拙作を読んでいただきありがとうございます!