作者がこういったお話を見かけないので書いた。
後悔はしていない。反省もしていない。
マスターに告白された。
まるで校舎裏に呼び出すようにして地下の倉庫に呼ばれ、告白された。
私の期待していた恋ではあったのだが、相手がマスターだとは思わなかった。
返事はその場で返すことができなかった。
マスターも落ち着いてからでいいといってくれた。
それから、しばらく部屋で考え込んでいた。
私だってマスターのことが好きだ。
ただ、
私はサーヴァントだ。
用が済めば座へ戻ることになる。
それまでに長くはかからないはずだ。
マスターが成人するあたりまでしかいることができないだろう。
そんなマスターにはもっとふさわしい人がいるはずだ。
マスターが好きだからこそ、付き合うべきではないと思っている。
マシュとかいいのではないだろうか。
デザインベイビーであるとはいえ、サーヴァントではなくれっきとした人間だ。
奇跡的に寿命の問題も解決したそうだし。
好きな人の幸せを願うことは当然だと思う。
私の知識もそう言っている。
すこし……いや、だいぶつらいけど、断ろう。
マスターは納得しないかもなー。
△▼△
念話でマスターを呼び出した。
前回と同じように地下の倉庫に。
「マスター。この前の返事のことなんだけど」
「ああ、待ってたよ。それで……どう、かな?」
「……ごめんなさい」
「……」
沈黙が続いた。
先に沈黙を破ったのはマスターだった。
「理由を聞いてもいいかな」
「……私がサーヴァントだから」
「それのどこがいけないんだ?」
「だって、この事件が解決されたら私たちは座に帰らなきゃいけないんだよ!だから……!マスターにはもっとふさわしい相手がいるはずなんだよ!」
「それは分かってるつもりだ。でも、鈴鹿の本心が知りたい」
「そんなの……そんなの言えるわけないじゃん!」
当たり前だ。
私だってマスターのことが好きだ。
本心をぶつけてやりたい。
……でも、マスターのことが好きだからこそ、ここは引くべきだ。
「……そっかー。鈴鹿に振られちゃったなぁ~」
「ちょ、そんな言い方しないでよ」
「でも事実じゃん」
「むむっ……」
「まあ、とりあえず鈴鹿の言ってることはわかったよ。だから、これからも俺の最高のサーヴァントとしてよろしく」
マスターは私の気持ちに気づいていたはずだ。
でも、深く追及してこなかった。
……そういう優しさに惚れちゃったんだろうなぁ。
△▼△
数日経ったある日、日本に微小特異点がみつかった。
場所はどこかの海辺らしい。
その調査に私とマシュとマスター、それにあの狐だ。
しかも水着だなんて。浮かれるにもほどがある。
「マスター?今回は大したことのない特異点でしょう?でしたら、任務はあの二人に任せて私たちはバカンスと行きませんか?」
「はぁ?!何ふざけたことぬかしてんの!」
「まあまあ。二人とも落ち着いて。今回は小規模だけど何も情報がないんだ。だから情報収集のために二組に分かれよう」
「それじゃあ、わたくしはマスターと」
「いや、玉藻はマシュと行動してほしい」
「ええぇ!!どうして!」
「玉藻とマシュは水着で海辺を散策できるけど、俺たちはできないからさ」
「えぇ~、そんな~」
「さあ、玉藻さん。行きますよ」
「あぁ~マシュさん、引っ張らないでぇ~」
騒がしい狐がマシュに引っ張られていく様は、ひどく滑稽だった。
「さ、行こうか」
「う、うん」
マスターと二人きり……。
この前の告白のせいなのか、少し意識してしまう。
「マスター。このチーム分けってさ、もしかして……」
「うん。鈴鹿の思ってる通りだよ。マシュも察してくれてたみたいだけど」
そんなことを言われると余計意識しちゃうじゃん……。
「情報収集も兼ねたデートのお誘い、受けてくれますか?」
「その言い方はずるいよ……」
内心うれしくてワクワクしているのは秘密。
△▼△
それから、近場の街でデートをしていた。
恋人とは言えない少し歪な関係だけど。
あまりにも楽しくて、この特異点に来た目的を忘れかけた頃にそれは起こった。
「ねぇ、マスター。次はあそこに行ってみない?」
「うん、いいね」
「じゃあ、それで――」
決まり、と言いかけた時だった。
パァン
銃声がした。
それを聞いた私は、自然とマスターの前に立ちふさがり、刀で銃弾を切り払おうとした。
だが、銃弾は刀で弾かれる事無く私に突き刺さった。
「ぐっ!!」
「鈴鹿?!」
魔術の込められた弾丸だったのだろう。
私にも結構なダメージがある。
……マズったなぁ。
「鈴鹿!大丈夫か?!」
「結構ヤバいかも……」
とりあえずマスターの安全のために撃ってきた人間を処理した。
ただ、あとから続々と来ているようだ。
「よいしょっと。とりあえず、マスターは二人を呼んで!私が時間を稼ぐから!」
「でも、その傷は?!」
「なんとかなるって。さ、早く!」
「わかった。でも、無理だけはしないでね」
そう言ってマスターは安全な場所に隠れ、二人を念話で呼んでいる。
「さーて。さっさと片づけてマスターとデートの続きと洒落込んじゃうよ!」
威勢を張ったはいいものの、実は結構ヤバかったり。
さっきのダメージが霊核に少し効いてるし。
でも、そんなことは気にしていられない。
マスターを守らなきゃ。
△▼△
数は当初の3分の1にまで減った。
しかし、大分旗色が悪い。
大したことのない特異点って言ったのは誰だっつーの。
私、満身創痍なんですけど!
「すいません、遅くなりました!マシュ・キリエライト、戦闘に介入します!」
「あらあら、いけませんねぇ。せっかくのバカンスをめちゃくちゃにするなんて許せませんわ!」
「来るのが遅いっつーの!」
とにかく、これでメンツがそろった。
「さーて、残りもちゃっちゃと片付けちゃうよ!」
浮かれた狐が突っ込み、私が切り払っていく。
そして健気に後ろから守ってくれるマシュ。
数がそろえばものの数分で片付いた。
「特異点の原因と思われる聖杯のかけらを回収しました。これにて任務完了です」
「おつかれ、マシュ。それで、この特異点はあとどれくらいでなくなっちゃうのかな」
「あと2,3時間かと」
「そっか。じゃあ鈴鹿、デートの続きといこうか」
「デート?今デートと言いましたねマスター?!どういうこ――」
「はいはい、玉藻さんと私は退場しましょうねー」
またズルズルと狐が引きずられて行っている。
やっぱり滑稽だ。
「さて。行こうか、マス……」
そこから先の言葉を紡ぐことができなかった。
急に力が抜けて、目の前も真っ暗になっていく。
さっき無理をしすぎたせいかな。
マスター、ごめん……。
△▼△
「……」
目が覚めた。
ここはどこだ。
ここがカルデアじゃないことはわかる。
だとすると。
「座に引き戻されていっているのかな……」
座に戻れば私はカルデアでの記憶を無くしてしまうだろう。
……忘れたくないなぁ。
特に、マスターの笑顔。
せっかく恋を見つけたっていうのに。
自然と涙がこぼれていく。
「マスタぁ……また会いたいよ」
やっぱりマスターのことが好きだ。
あの時、告白を受け入れておけばよかったなんて後悔するぐらいに。
……また、会えるかな。
その時は私から告白してやるんだ。
ああ。本当に会いたいよ。
『鈴鹿!鈴鹿!』
何か聞こえてくる。
『鈴鹿!鈴鹿!』
ああ、マスターの声だ。
すごく安心する。
……けれど、また意識が薄れていく。
今度こそ終わりなのかな。
ありがとう、マスター。
私に恋を教えてくれてありがとう。
そして私は意識を失った。
△▼△
「うぅっ……」
眩しい。
目を瞬かせながら、目を鳴らしていく。
「ここは?」
大分目が慣れてくると目の前には見慣れた天井が広がっていた。
「あれ?もしかすると……」
そう、カルデアである。
「え?!えええええええええええええ????!!!!??!?!?!??」
「ううん......あれ?鈴鹿……?」
え?なぜに?!
え?え?え?
混乱しすぎて正気(傍点)にも戻れない。
「よかった。鈴鹿が、目覚めてくれた」
私が目覚めて安心したのか、マスターにハグされた。
すると、不思議と私も落ち着いてきた。
どうやら私は座に帰ることはなかったようだ。
でも、いったいどうして……。
と、考えようとしたがやめた。
そんなことはどうだっていい。
今が幸せならそれで十分だ。
「マスター」
「なに?」
「私も、マスターのことが好き」
「そっか。じゃあ両想いだったってわけだ」
「うん。だから、私と付き合ってください」
「もちろん」
私の中の理性的な部分が何かを告げているような気がするけど、そんなことはどうでもいい。
だって、恋をするのに理性は必要ないから。
それに、マスターならなんだかんだ事件後も私を座に返してくれなさそうだ。
マシュにだって奇跡を起こしてくれたんだ。
きっと彼女である私だってそれを受ける権利があるはずだ。
だから、これからは自分の愛に素直になっていこう。
私の第二の人生は始まったばかりだ。
最後の所はちょっとご都合的かもしれませんが、多少大目に見てください。
個人的に鈴鹿はFGOでは最初期からずーっといたサーヴァントで、特に愛着がわいていたもので、こういった形で愛情を表現することにしました。
ちなみに宝具レベル以外はMAXです。
皆さんもぜひ、好きなサーヴァントへの愛情を表現してあげてください。