ハリー・ポッターRTA ヴォルデモート復活チャート   作:純血一族覚書

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小説パートです。長いです。投稿遅れて申し訳ないです。
本話には一部描写において、かなり強めの独自設定が含まれております。御了承願います。

ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる──アルバス・ダンブルドア。


私はマジックではなかった

 分霊箱。

 ホークラックスと呼ばれるそれを作るには、己が魂を分断する必要がある。

 本来、魂は完全な一体であるものだ。

 それを分断するためには、尋常の手段では不可能。

 最も邪悪な、悪の極みとも言える行為を為し得なければならない。

 例えば、殺人とか。

 

 

 

 

 

 ギルデロイ。

 ギルデロイ・ロックハート。

 

 魔法使いにして、探検家にして、冒険家にして、小説家。

 「マーリン勲章・勲三等受賞」、「闇の力に対する防衛術連盟・名誉会員」、「週刊魔女・チャーミングスマイル賞五回連続受賞」、エトセトラエトセトラ……。

 数々の逸話を持つ、現代の英雄にして──自己愛溢れるペテン師。

 そんな彼の「マジック」について騙らねばなるまい。

 

 

 ギルデロイが自らを特別な存在であると()()したのは、彼がまだ五歳の時であった。

 

 年の瀬近づく1969年の12月。コーンウォールの片田舎。

 空からはしんしんとみぞれが降っていて、屋外はまさに身を切るような寒さ。

 そんな何の変哲も無い日が、ギルデロイ・ロックハートのマジックの始点である。

 

 雪水で滑るレンガの上をおっかなびっくり歩くコートを羽織った三人組。

 ギルデロイと彼の二人の姉だ。

 この日、ギルデロイの二人の姉達は、自然公園にあるとされる桜を観に訪れていた。

 ──無論、一般的な桜は春に花開くものである。

 しかし、ちょうど前日のワイドショーで「美しい冬桜特集」が組まれていたことは、彼の姉妹には幸運であり、同時にギルデロイにとっては不運なことであった。

 

 美しいものに目がないロックハート姉妹。

 その夜、姉妹部屋にて。姉達は互いの顔を見つめ合い、然りとうなづき呟いた。

 いこう。

 いこう。

 そういうことになってしまえば、末弟であり、彼女たちのおもちゃであったギルデロイには最早どうしようもない。

 ギルデロイには桜なぞには毛ほども興味がなかったため、本音を言えばどうでもよかった。

 だが残念なことに、彼には姉への拒否権など存在しない。年の差はドーバー海峡のように、彼と彼女達の立場を隔てていた。

 

 さて、そういった経緯で、彼らは桜が美しいことで有名な自然公園に向かったのだが。

 前述したように今は冬真っ盛り。

 あいにく桜はまだ春に向けてエネルギーを蕾に蓄えている最中。姉達の願望は叶わず、ギルデロイはただ意味もなく寒空の下を連れまわされただけであった。

 

「咲いてないね、桜」

 

 長姉が残念そうに首を振る。

 妹はぶるりと震え、言葉すくなげに寒いねとだけ返す。

 

 しょんぼりとうなだれる姉達。

 あまりの悲しみように、五歳の弟がどこかに行かないように握りしめていた手が外れてしまう。

 自由を得たギルデロイは、何も考えずに桜の元へ走り出した。姉達が止めるのも聞かずに。

 果たして彼は桜が見たかったのか、姉たちの願いを叶えたかったのか、はたまた自己の能力を誇示したかったのか。

 当時を振り返っても彼は自身が何を考えていたのかわからない。

 

 ──ただ、できる、という感覚だけが全身に染み渡っていた。

 常識も道理も吹き飛ばして、花が咲く、という確信を抱いていた。

 彼の血流を駆け巡る()()を振るいたいと感じていた。

 

 根拠のない全能感に押されて、ギルデロイは木の幹へとそっと触れる。

 

 ──瞬間。

 

 ギルデロイの小さな掌から、春の陽気が流れ出した。

 季節を数ヶ月先取りしたそれは、彼が触れていた桜の木を騙し尽くし、12月というのに花を満開にさせる力を持っていた。

 それは、まさに魔法のようだった。

 

「──わあ! ねぇ、ギルデロイ。それって、どうやったの?」

 

 何をしたかはわからない。

 だが、誰がしたかはすぐにわかった。

 弟だ、自分だ、ギルデロイだ。

 凄い凄いと抱きつかれる中、奇妙な快感をギルデロイは覚えた。

 

 

 

 思う存分季節外れの花見を楽しんだ後、彼らは家路へと歩き出す。

 自宅に着くや否や三人は、母親に霜に濡れた身体をタオルで拭き取られた。

 ひとしきり温まった後、夕食の時に、姉弟は彼らが体験した魔法的な出来事を両親に報告する。

 冬に桜が咲いた。しかも、ギルデロイがなんらかの超常によって咲かせた。

 彼らが話す、ともすれば子供の戯言と断じられてもしようのない非常識。

 それを彼らの両親は大真面目に受け入れた。

 その上で、彼らの母は耳を疑うようなことを口にする。

 

「ああ! ギルデロイ! ママは嬉しいわ。あなたが私の力を受け継いで生まれてきてくれて!

 ──実はね、ママは昔、魔女だったのよ」

 

 なんと、母親は魔女であったというのだ!

 

 

 

 その日以来、彼らの生活は一変した。

 

「さぁ、ギルデロイ。たぁんとお食べ。魔法使いは身体が資本。ホグワーツでも三食しっかり食べて、立派な魔法使いになるのですよ。

 ──ああ、お前達は適当に食べておきなさい」

 

 彼らの母は、あからさまなまでに、ギルデロイを依怙贔屓し始めたのだ。

 ギルデロイの母は、いわゆる血を裏切った魔女だ。

 彼女は魔法使いの家系に生まれ、魔法使いとしての教育を受けた純粋な魔法使いであり。マグルの夫と衝撃的な愛を紡ぎ、自身の魔法を捨ててまで彼と添い遂げた女でもある。

 全てを捨ててでも愛を選ぶ。

 そう語れば美談であるが、実際のところはもっと俗物的な話であった。

 彼女が夫に惚れた点はどこだろうか?

 性格? 能力? 資産? 直感?

 否、一言で言えば、顔である。

 当時のロックハート氏があまりにもチャーミングでハンサムであったために、彼女は一目で溺れてしまったのだ。ちょうど愛の妙薬、アモルテンシアを蜂蜜酒に盛られたかのように。

 彼女自身がアモルテンシアを夫に対して使わなかったのは、ひとえに彼女が真っ当な感性と倫理を持っていた故の幸運だろう。魔法的なあれこれを全く用いなかったかどうかは、彼女だけが知っている。

 

 とはいえ、きっかけはどうあれ、三人の子供を授かって幸せに暮らしているならば、十分美談と言えるだろう。

 だが、話はここでも終わらない。

 

 マグル・魔法族共に──概ね──平等に訪れるもの。

 時の流れとは実に残酷なものである。

 かつては百人が百人振り返ったロックハート氏の美貌も、加齢につれ七十人、五十人、三十人……と劣化し始めていた。

 もちろん、それで彼の妻から愛が失われたとは言わない。長年の連れ添いは、彼らの間に確かなものを築いていた。

 ……いたのだが、まさにそれはそれ、これはこれ、である。

 魔法使いにとって、魔法とは身体機能の一部である。手であり、足であり、血であり肉だ。

 マグル生まれが魔法に目覚めた時、彼らの世界が拡張するように、魔法使いが魔法を失った時、彼らの世界は縮小する。

 

 魔法。

 彼女の心のどこかは、失った半身を希求して止まない。

 

 そんな彼女の願望を、

 

「──ママ。今日ね、不思議なことがあったんだよ!」

 

 彼女の息子、ギルデロイは見事に叶えてくれたのだ。

 彼女の偏愛が、息子だけに与えられたのは──末路を考えれば姉弟皆にとって不幸だった。

 姉のみならず、ギルデロイにとっても。

 

 

 

 母の過剰なまでの愛を受けて、すくすくと育つギルデロイ。

 父親からの遺伝の賜物か、彼の相貌はだんだんと美しくハンサム顔になっていく。

 母親から遺伝した魔法力は、翳りを見せることなく、より強大に育っていった。

 そんな彼に歓喜した母は、より一層ギルデロイに()を注ぐ。彼女の目には、最早ギルデロイの二人の姉、つまりは自身の娘は映っていない。

 夫と自分の象徴を受け継いだ息子ただ一人にのみ、彼女の心は向けられていた。

 

「ギルデロイ、お前は特別なんだ──」

 

 毎日のように垂らし込まれる甘言。

 それを聞かされ続けたギルデロイの自身に向けた虚像は日に日に膨れ上がっていった。

 

 自分には、誰にも負けない美貌と魔法がある。

 それさえあれば、他人から認めてもらえる。

 他人から認めてもらえることは、酷く快感だ。

 ()()()、他人に認められたい。

 

 ギルデロイ・ロックハートがギルデロイ・ロックハートたる自我を得たのは、まさにその時である。

 

 

 

 ホグワーツから放たれたフクロウが彼らの家に降り立った時。

 ギルデロイと母は狂喜乱舞した。どこか白けた顔をした姉達を放置したままで。

 喜びが冷め上がる前に、母子二人は「漏れ鍋」を通ってダイアゴン横丁へと向かう。

 母親が結婚して以来久方ぶりに、彼女の杖を抜き放ち、石壁をととんと叩けば──

 

「わぁ──」

 

 そこに広がっていたのは、女にとっては懐かしき、少年にとってははじめての WIZARDING WORLD(魔法の世界)

 慣れ親しんだように横丁を案内する母を見て、ギルデロイは自分の母が特別であること、彼女の血と魔法を引いた自身もまた、特別であると感じた。

 

「なんとも素敵ですね、坊ちゃん」

 

 ローブを買おうと立ち寄った呉服屋にて、マダム・マルキンなる女主人には見目麗しいと讃えられる。

 それはおためごかしだったのか本心だったのか。定かではないが、彼と母親は大いに満足した。

 親子は足取り軽く次の店へと歩みを進める。

 次に買うのは魔法の象徴。杖だ。

 母が勧めたその店は、「オリバンダーの店」と言った。「西暦より昔から存在する高級杖メーカー」を標榜するかの店。

 「例のあのお方」の生誕より古くから存在する店というのは、マグルとして育てられたギルデロイにはこの上なく神秘的に映った。

 

「いらっしゃいませ」

 

 店に入ると、偏屈そうな老人がちょこんと椅子に座っていた。

 彼──オリバンダーという老人は、母の昔馴染みであったのか挨拶もそこそこに、何やら話を始める。

 ギルデロイがキョロキョロと店内を見渡して少し。

 

「それでは、お子さんの杖を選びましょう──」

 

 ギルデロイの杖選びが始まった。

 はじめに握らされたのはトネリコの杖──途端、不快感。自分には合わないとギルデロイは直感する。オリバンダーもそう思ったのか、すぐにギルデロイからひったくった。

 次に渡されたのは黒クルミの杖──うんともすんとも言わない。ギルデロイにとってはただの棒切れと変わらなかった。

 

 ああでもない、こうでもない。

 次々と杖が飛び交い、ギルデロイが老人の審美眼に疑念を覚え始めた時──

 

「これですな」

 

 ピタリ、と一本の杖がギルデロイの手にはまった。

 彼のマジックの始まり、桜の木を削ってできた彼だけの杖。

 ドラゴンの心臓を素材としたそれは、そこはかとなく彼に英雄性を感じさせる。

 

「おお、おお、桜の杖とは。ロックハートさん、桜の杖はこの店では希少じゃが、極東では偉大なる魔法使いの杖として尊敬されておりますじゃ。

 ──己が心を律する限り、その杖はあなたに応えてくれるでしょう」

 

 

 

 魔法の城・ホグワーツ。

 キングズ・クロスから旅立った彼がたどり着いたのは、まさしく魔法使いの総本山。

 そこにいたのは、彼が見たこともないほどに大勢の魔法使いたち!

 彼よりも歳をとり、腕を磨いた子供も掃いて捨てるほどいる。

 

 それでもギルデロイは自身がまさに天才的な英雄であると思い込んでいた。

 何故なら、彼が知っていた唯一の魔女がそう吹き込み続けていたから。

 叡智の寮・レイブンクローに配属された時にも、ギルデロイは自身の持つ魔法の才が認められたと自己認識した。

 ここでも、自分は特別であると疑わなかった。

 

 

 ──結論から言えば、それは誤りであった。

 

 ホグワーツではギルデロイは──やや優秀であるものの──凡才の域を出ず、無名で、少し顔のいい程度の、ただの子供であった。

 

 ──過去。例えばトム・マールヴォロ・リドルのように。

 ──未来。例えばハリー・ジェームズ・ポッターのように。

 

 真の意味で特別な、「選ばれし者」などではなかった。

 それはギルデロイにとっては受け入れがたい事実であった。

 

 認められない。

 ギルデロイは、将来の彼の()()を周りの生徒に吹聴して回った。

 

「僕はホグワーツにいる間に『賢者の石』を作る──」

「卒業したらまずはクィディッチのイングランド・チームにキャプテンとして招かれて、そのままワールドカップに出場するつもりさ──」

「ゆくゆくは魔法大臣になる予定だよ。もちろん最年少で──」

 

 虚飾、虚像、虚栄心。

 初めはただの口から出まかせだった。

 彼自身、真実ではない嘘だとわかっていた。

 ところが、一番身近でギルデロイ・ロックハートの()()を聞き続けるうちに、

 

「そうだ、僕──私は特別な魔法使いなんだ──」

 

 いつしか彼自身が、自らの()騙さ(貫か)れていた。

 

 

 自分を特集するためだけの、校内会報誌の刊行。

 魔法を用いたクィディッチ・ピッチへの巨大サイン。

 「闇の印」を彷彿とさせる、自身の肖像を模した印の打ち上げ。

 自分宛の八百通ものバレンタイン・カードの配送。

 

 ギルデロイは、誰もやらないような「偉業」に精をだす。

 皮肉にも、それはギルデロイの顔と名を校内に知らしめることとなった──勿論、好意的な視線は向けられなかったが。

 

 廊下を通る度に、ヒソヒソと誰かがギルデロイの事を噂する。

 ギルデロイの元を、多くのクラスメイトが離れていく。

 

 そんな風聞ではあったが、ギルデロイは概ね成果に満足していた。

 前者は「自らの魔法の才を讃えている」、後者は「劣等感に刺激されたものたちが、離れていった」などと誤認して。

 

 ギルデロイを見ていたのは、何も生徒だけではない。

 入学当初は「やや優秀」と評価していた教師たちも、いつしか「自惚れがちな厄介な生徒」と評価を改め、ギルデロイに素っ気なく接していた。

 たった一人を除いて。

 

「──ギルデロイ、忘却呪文はこう使うのですよ!」

「──ええ、ええ! フリットウィック先生! 勿論できますとも!

 3……2……1……オブリビエイト 忘れよ!」

「流石ですね、ギルデロイ!」

 

 レイブンクロー寮監。フィリウス・フリットウィック。

 「すべての生徒が試験に合格できるように教えてくれる」と称される彼は、たとえギルデロイであっても見捨てなかった。

 彼は、生徒をその気にさせるのが得意だ。

 上手くできた生徒にはお菓子を上げる、魔法の苦手な生徒でもわかるように根気強く教える、居眠りしがちな生徒のためにユーモラスに……。

 彼の授業は、全ての生徒が魔法を使えるように、をモットーに構築されている。

 その能力は、ギルデロイという「問題児」にも遺憾無く捧げられた。

 時には挑発し、時には煽て、時には協力を仰いで。

 ギルデロイが気持ちよく学べるように、フリットウィックは場を整える。

 

 七年の献身。

 長いホグワーツ生活の中で、さしものギルデロイも、フリットウィックの事はすっかり信頼していた。

 

「──卒業おめでとう、ギルデロイ」

「ありがとうございます、フリットウィック先生! 楽しみにしておいてください。すぐに吉報をお届けしますよ!」

 

 卒業の際、彼が礼を尽くしたのはフリットウィックだけだった。

 卒業の際、彼のことを祝ったのはフリットウィックだけだった。

 

 

 

 ホグワーツを出て、ギルデロイが取り組んだ一つ目の「偉業」。

 それは「輝かしく輝く髪」を約束する整髪剤の開発である。

 ギルデロイの持つ才の一つ、輝く美貌をより際立たせるためのマジック・アイテムの製造であった。

 学生の頃より密かに着手していた研究開発。

 卒業後、身軽になったギルデロイが手を尽くして作り上げたそれ。実際に使ってみれば、なるほどなるほど。

 確かに素晴らしい効能の整髪剤であった。

 

 しかし、これには無視できない問題があった。

 整髪剤は材料にオカミーの卵の黄身を用いて作られるのだが、卵の供給に難があった。

 オカミーとは、魔法省(M.O.M.)分類XXXXの、蛇に似た魔法生物である。

 近づくものに対して非常に狂暴に襲いかかるかの生き物の卵は、外殻が純銀でできていた。

 

 価格と入手難度。

 オカミーの卵は整髪剤という量産品に用いるには、あまりにも釣り合わない代物であった。

 その上、魔法界には既にフリーモント・ポッターが開発した「スリーク・イージーの直毛薬」のような魅力的な競合商品が存在した。

 ギルデロイの商品は、むやみやたらと高いだけで何の価値もなかった。

 

 失敗。

 ギルデロイのプロジェクトは、無残な結果に終わる。

 彼は二の矢を持っておらず、それどころかオカミーの卵を調達した浪費で、資金すらも失っていた。

 自暴自棄。

 

「──いらっしゃい」

 

 さんざんばらにうらぶれたギルデロイは、ファイア・ウィスキーでも引っ掛けようと、場末の酒場へと入っていく。

 駆けつけ一杯。

 ギルデロイがチビチビと火酒を舐めていると、何やら背後から話し声が聞こえてきた。

 

「──私はねぇ、あの泣き妖精『バンシー』と友達なんだよ!」

 

 なんて事はない。老婆の戯言であった。

 誰もが酒に酔った老人の()()()であると決め込んで、ろくに話を聞こうともしない。

 だが、たった一人──

 

「──ああ、お婆さん。相席いいですかね?」

 

 ──藁にすがった男がいた。

 

 

 その老婆の話は、真に迫っていた。

 夫に先立たれた際に、バンシーの泣き声が聞こえてきた事。泣き声の元へ向かったら、ちょうどバンシーと鉢合わせた事。なんだかんだ意気投合して、一夏の間仲良く過ごした事。

 微に入り細を穿つ語り口。

 話のうまさもさることながら、バンシーとの「偉業」もまた、嘘か真かは別にして、筋道だって信用に足る内容だった。

 ギルデロイが酒を奢れば奢るほど、老婆は口を滑らせる。

 聞き取った話のメモは、いつのまにか数十枚を超えていた。

 

「──そういうわけで、わたしゃあいつと仲良くなったんだ」

 

 気持ちよく話し終えて。老婆は夢の世界へと旅立っていった。

 気がつけば、他の客は皆店からいなくなっていて、バーテンもまた店の奥に引っ込んでしまっていた。

 あたりには、ギルデロイと眠る老婆しかいない。

 ここで、何が起こっても、ギルデロイにしかわからない。

 

 

 

 話は変わるが、ここで一つの邪法について紹介したい。

 

 分霊箱。

 ホークラックスと呼ばれるそれを作るには、己が魂を分断する必要がある。

 本来、魂は完全な一体であるものだ。

 それを分断するためには、尋常の手段では不可能。

 最も邪悪な、悪の極みとも言える行為を為し得なければならない。

 例えば、殺人とか。

 

 ──ところで、「最も邪悪な行為」とは何だろうか。

 殺人? 

 なるほど、そうだろう。分霊箱を作るものは、当然ながら命に執着している。命を奪うことが「最も邪悪な行為」と認識しても不思議ではない。

 だが、死を受け入れたものにとって、殺される事はある種の慈悲となる場合もある。彼らにとっては、殺人は「最も邪悪な行為」とは言えないだろう。

 

 「最も邪悪な行為」とは、絶対的・客観的なものではなく、相対的・主観的なものである、という解釈をするならば。

 

 ギルデロイ・ロックハートにとって、「最も邪悪な行為」とは何だろうか?

 

 誰よりも名声を求めた彼にとって。

 誰よりも有名になりたかった彼にとって。

 誰よりも褒めてもらいたかった彼にとって。

 

 ──「最も邪悪な行為」は、「誰かに忘れられること」である。

 

「オブリビエイト 忘れよ!」

 

 ──何処かで、魂の砕ける音がした。

 引き換えに、どこかの誰かが、一つ目の「偉業」を成し遂げた。

 

 

 

 それからというものの、ロックハートは毎年のように「偉業」を成し遂げていくこととなる。

 一つ目の「偉業」の際には夜も眠れぬ状態であったが、二度、三度と繰り返し、多くの人々の賞賛を浴びるにつれ、彼の良心が削れていく。

 「偉業」に用いられる彼の魔法は先鋭・純化して、研ぎ澄まされていくこととなったが、反面他の魔法の才は急速に失われていった。

 それは代償のようであった。

 例えば、とある闇の魔法使いが、父親譲りの美貌を失っていったように。

 

 

 

 七つの「偉業」。

 魔法的に最も強力とされる数の「偉業」をこなした時。

 ギルデロイは誰もが認める天才的な英雄となっていた。

 「マーリン勲章・勲三等受賞」、「闇の力に対する防衛術連盟・名誉会員」、「週刊魔女・チャーミングスマイル賞五回連続受賞」、エトセトラエトセトラ……。

 各界が彼を認めていた。

 それでも、ギルデロイの欲望は尽きなかった。

 

 ギルデロイが次に目をつけたのは、彼に比肩するであろう有名人。

 ハリー・ポッターであった。

 彼を新たな「偉業」とすることは流石に不可能ではあるが、彼を導いた、とすればより自身の名声が高まる。

 ロックハートは、彼を教える機会を得るために、ホグワーツのDADAの教授職を志願した。

 

 それは、なんの障壁もなく受け入れられた。いっそ、奇妙なまでに。

 

 

 

 奇妙。

 ホグワーツに戻った後も、その思いはますます強まることとなる。

 ホグワーツ教授の多くが、筆舌しがたいが、ギルデロイに対して妙に親切であり、甘いのだ。

 とはいえ、彼らがギルデロイのファンであるというわけではないだろう。

 スプラウト教授。「暴れ柳」損傷の修復を名乗り出た際には、ギルデロイの参加を拒絶した。頭ごなしにではなくやんわりと。

 マクゴナガル教授。厳格な教師である彼女であったが、ギルデロイの失敗を過剰に咎めようとはしなかった。それどころか、新任である彼に熱心に指導した。

 スネイプ教授。彼は他の教師とは違ってギルデロイに無関心であった。好んでも嫌ってもいない。だが、DADAの職を狙っている意地の悪い教授、という割には、なんというか手緩かった。

 

 何よりも、フィリウス・フリットウィック。

 彼はギルデロイに毎日のように話しかけてきた。

 

「ああ、ギルデロイ! 『雪男とのゆっくり一年』、読みましたよ! あれはいい本でした。

 特に雪男を撃退するシーン! 滑倒(かっとう)呪文の選択は見事でした」

 

 フリットウィックは会話の際、必ず彼の本から一つのシーンについて話す。

 例えば縛鎖呪文で小妖精を捕獲するシーン。

 例えば滑倒呪文で雪男を撃退するシーン。

 ギルデロイの「偉業」は、実際にノンフィクションの確かな「偉業」だ。

 小説のように加工されているとはいえ、学ぶべきところは多くあった。

 ギルデロイは、彼の話を聞いた後、自身の「偉業」について振り返り、それを授業に用いた。

 これにより、彼はホグワーツ教授として、それなりに認められる存在となった。

 生徒の信頼と、同僚の親切。

 打算なきそれは、ギルデロイのほつれた魂をゆっくりと繋ぎ合わせていった。

 

 秘密の部屋は開かれたり。

 継承者の敵よ、気をつけよ。

 

 「秘密の部屋」事件が起こった時、ギルデロイは内心怯えていた。

 正直逃げ出したいとも思っていた。

 だが、彼は半純血であり、マグル出身者ではない。

 社会的にも知られていたし、まぎれもない事実である。

 一応、彼の安全は保障されていたのだ。

 命の危険とホグワーツを逃げ出した時に失われる名声。その二つを天秤にかけた時、名声が優った。

 ギルデロイはホグワーツに残留する。

 

 マグル生まれしか襲われない。

 その法則がある限り、自分は安全だ。

 生徒が何人石になろうとも、ダンブルドアが追放されようとも。

 そう思い込んでいた。

 

 それは、唯一絶対のルールではない。

 ジニー・ウィーズリーが「秘密の部屋」に攫われた。

 彼女は由緒正しい純血の生まれであり、ギルデロイよりも安全なはずの存在であった。

 

「──大変失礼しました。授業の準備に手間取っておりまして……」

 

 マクゴナガルの招集に応じてギルデロイが駆けつけた時、ホグワーツ中の教授が集まっていた。

 彼がキョロキョロと見渡すと──いた、フリットウィックだ。

 遠く小鬼の血を引く教授は、ギルデロイに問いかけた。

 

「ああ、ギルデロイ。生徒がついに『秘密の部屋』に攫われてしまいました。君はどうしますか?」

「──────────」

 

 沈黙。

 答えられない。

 正直に言えば、今すぐにでも逃げ出したい。

 だが、それではギルデロイ・ロックハートの虚飾が剥がれ落ちてしまう。

 だから、答えられない。

 やっとの事でギルデロイが口にしたのは、先延ばしの言葉だった。

 

「よ、よろしい。では私が行きましょう! 部屋で準備をしてきます!」

「──そうですか。気をつけて!」

 

 フリットウィックは笑顔で答えた。

 あたりからほっと息をつく音が聞こえた。

 ギルデロイは背を向けて教授たちから逃げ出した。

 ──ひどく、惨めであった。

 

 

 部屋に戻っても、結論は出ない。

 引くべきか、残るべきか──進むべきか。

 彼が真に「偉業」を成し遂げたものならば、迷わず進むだろう。

 だが、ギルデロイには選べなかった。

 彼がホグワーツで一年間を過ごす前だったならば、迷わず引いただろう。

 だが、ギルデロイは選ばなかった。

 

 何も選べないギルデロイ。

 そんな彼を訪ねたのは、三人の学生であった。

 ハリー・ポッター、ロナルド・ウィーズリー、ズィラ・レストレンジ。

 才気を感じさせる、三人の若人であった。

 ギルデロイが教員として彼らを咎める前に、三人は誰とも言わず口火を切って話し始めた。

 

「先生。僕たち。知っているんです。

 ──『秘密の部屋』の場所も、怪物の正体も!」

 

 ──背筋が凍った。

 嘘だろう? そういった想いを込めて、ギルデロイが訊ねるが、帰ってくるのは理路整然とした回答。

 ギルデロイがかつて老婆から聞いた時のような、「偉業」の匂いがした。

 だが、それはまだ達成されてはいなかった。

 ギルデロイは真の「偉業」を果たしたことがない。

 ゆえに、ギルデロイは選択できない。

 

「うー、あー、その……。『秘密の部屋』、そう『秘密の部屋』だが……場所がわかっているといってもなにぶん──」

 

 煮え切らないギルデロイ。

 少年少女は、そんな彼を急かすように見つめてくる。

 

「────────────」

 

 それは、ギルデロイという虚像の英雄を信頼した目だった。

 同時。

 それは、ギルデロイには見覚えのある目だった。

 「偉業」を成し遂げた魔法使いたちが浮かべていた、自信に満ち溢れた目であった。

 

「──いいでしょう! このギルデロイ・ロックハートが、万事解決いたしましょう!」

 

 何故、そう答えたのだろうか。ギルデロイにもわからない。

 しかし、ギルデロイは選んで進んだ、それだけは間違いない。

 

 

 

 「秘密の部屋」についての生徒たちの予想は、まるっきり大当たりであった。

 場所も、怪物の正体も。

 

『TOM MARVOLO RIDDLE』

 

 ──ただ一つ、予想から外れていたのは、

 

『I AM LORD VOLDEMORT』

 

 「秘密の部屋」を開いた犯人についてだった。

 

 「例のあの人」。

 それは、ギルデロイにとっても恐怖の存在だ。バジリスクなんてものよりも、よっぽど恐ろしい。

 具現化した死の象徴であった。

 ギルデロイには何もできない。

 立ち向かうことも、逃げ出すことも、何もかも。

 ちょうど蛇に睨まれた蛙のように。

 

「こっちだ、トム!」

「ロン! ジニーをよろしくお願いしますわ!」

「杖さえ折れてなきゃ……! 二人とも、ごめん!」

 

 対照的に、三人の子供は勇猛果敢に挑んでいく。

 ハリーはバジリスクと一騎打ちに臨み。

 ズィラはトム・リドルとバジリスクの分断を図り。

 ロンは気絶した妹を戦いの余波から守るため、己が身を危険にさらす。

 無謀としか思えない行為だった。

 

 それは、グリフィンドールとレイブンクローの資質の差だろうか?

 ギルデロイにとってはそうは思えなかった。

 彼らが行なっていることこそが、「偉業」への第一歩なのだ。

 彼らの「偉業」と比べれば、ギルデロイの手にした「偉業」は、ひどくちっぽけなものに思えた。

 

 否!

 ギルデロイの「偉業」──彼が奪ってしまった「偉業」。

 きっとそれは、バジリスク討伐という「偉業」とも、なんら遜色ないものであっただろう。

 

 だが、それは最早失われてしまったのだ。忘れられてしまったのだ。

 ギルデロイ・ロックハートが忘れさせてしまったのだ。

 

 こんなにも凄いことだったなんて。

 こんなにも苦しいことだったなんて。

 こんなにも恐ろしいことだったなんて。

 ──話だけではわからない、実感を伴う体験。

 ギルデロイは、何も知らなかった。知らずに他者の「偉業」を愚弄し続けていたのだ。

 

 老婆の「偉業」を奪ってから十年近く。

 初めて、ギルデロイは己が行いに後悔した。

 杖を所有してから二十年近く。

 初めて、ギルデロイは己が虚飾を心から恥じた。

 

 ──己が心を律する限り、その杖はあなたに応えてくれるでしょう。

 並外れた自制心と精神力──とまでは口が裂けても言えないが。

 桜の杖が、ギルデロイ・ロックハートを初めて認めた瞬間であった。

 

 

 時は止まらない。

 ギルデロイが悩む間にも、無情にも戦況は悪化していく。

 ふと視線を上げれば、ハリー・ポッターが今まさにバジリスクに飲み込まれようとしていた。

 恐らくは手に持っている剣で刺し違えるつもりであろうが、それでも重傷──いいや、死は避けられないだろう。

 

 叡智の寮には似つかわしくないことではあったが。

 ハリーの危機を見た途端、考えるよりも先に、ギルデロイは杖を抜き放っていた。

 彼が選択したのは、彼の持ちうる中で、ある意味で最も慣れ親しんだ切り札だ。

 

「──オブリビエイト・マキシマ! 完全忘却せよ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 桜の杖から放たれた、ギルデロイが唯一誇れる魔法。

 閃光は「秘密の部屋」の闇を切り裂いて進み。

 バジリスクの強大な魔法抵抗を貫いて、かの毒蛇の王の思考、行動、所作、本能。

 その全てを、文字通り完全忘却させてのける。

 

 ──それは、ある意味で一つの「偉業」であった。

 

 

 

 「秘密の部屋」事件は解決した。

 バジリスクも、「例のあの人」も、ハリーたちの手によって打ち倒された。

 

「ロックハート先生。ありがとうございます。あの時魔法で助けてくれなかったら、死んでいたかもしれません」

 

 不死鳥に連れられて「秘密の部屋」を脱出する際、彼は少年に感謝された。

 ジニー・ウィーズリーを連れ帰った際、彼女の両親に礼を言われた。

 同僚たちにも褒め称えられた。

 

 嬉しかった。誇らしかった。

 きっと、最初からそれで、それだけでよかったのだ。

 

 

「──寂しくなるのう」

 

 校長室。

 ギルデロイ・ロックハートは、今世紀最大の魔法使い、アルバス・ダンブルドアと向かい合っていた。

 机の上には両断された日記帳と──ギルデロイの辞表が置かれていた。

 

「どうじゃ、ギルデロイ。もう一年やるつもりはないかね?」

「いえ、校長先生。私にはやるべきことがあります」

「ほう? 新しい本を書くつもりかね? タイトルは、そう、『バジリスクと──」

 

 男は手を挙げて、老人を制した。

 

「──本当は、分かっておられるのでしょう?」

 

 老人は、揶揄うような口調から一転。威厳ある態度へと変わった。

 

「うむ、知っておる。君が多くの罪もない魔法使いの記憶を『忘却』させたことは。

 ──そのうち、二人はわしの知り合いじゃ」

 

 やはりそうか。

 ギルデロイは、ホグワーツ教師から感じる違和感について、その理由の一端を知った。

 だが、腑に落ちない点もある。

 何故、ダンブルドアは彼を魔法省に突き出さなかったのか。

 何故、ダンブルドアは彼をホグワーツで受け入れたのか。

 意を決して、ギルデロイはそれらを校長に問いかけた。

 

「ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる。

 ──それは、教師にとっても例外ではない」

 

 そう語る老人の顔は、年相応に弱々しく見えた。

 

「君が教授職を希望してきた時、()()()()()助けてやりたい。そう思ったのじゃ」

 

 

 

「ギルデロイ!」

 

 ひとり、ひっそりとホグワーツを出て行こうとする彼を呼び止めたのは、小鬼の血引く男だった。

 

「これはこれは、フリットウィック先生。挨拶もできず、申し訳ございません」

「いや、いいさ……」

 

 沈黙。

 両者ともに言葉が見つからなかったのか、まごつくばかり。

 永遠とも思えたそれを破ったのは、教師であった。

 

「──ギルデロイ、君はこれからどうするつもりだね?」

 

 答えは決まっていた。

 

「──自首しますよ」

 

 フリットウィックが息を飲む。

 構わずギルデロイは続けた。

 

「私は取り返しのつかないことをしてしまいました。アズカバン行きは避けられませんし、避けるべきではないでしょう。

 だから、最後に、生徒の皆さんに私が教えられることは、これだけです。

 ──何をするべきでないか、どんな人間になるべきでないか、ということを」

 

 最後に、ギルデロイは名残惜しげにホグワーツ城を見る。

 魔法の城は、彼が初めて訪れた時と変わらず、不思議のままであった。

 

「お世話になりました」

 

 

 

 その後の顛末を語ろう。

 結論から言ってしまえば、ギルデロイ・ロックハートの自首は退けられてしまった。

 

 一つ、全ての推定被害者の記憶が修復不可能なまでに消去されており、ギルデロイによる犯行の立証が困難であったこと。

 一つ、ギルデロイ・ロックハートにマーリン勲章を授けた某大臣が、責任問題を恐れて、自身の保身に走ったこと。

 一つ、最新の「偉業」であるバジリスク討伐は、疑いようもなく真実であり、ホグワーツ関係者の多くが情状酌量の嘆願を求めていること。

 一つ、ハリー・ポッターの命を救ったこと。

 

 これらの積み重ねにより、ギルデロイは己が罪に向き合う機会すら奪われてしまった。

 

 

 紆余曲折の果て。

 現在、ギルデロイは聖マンゴ魔法疾患傷害病院のヤヌス・シッキー病棟で働いている。

 いうまでもなく、彼は癒者ではない。だが、()()()魔法について、彼は誰よりも知識を保有していた。

 この病棟には、彼の得意分野と関連する患者が多く訪れる。

 ギルデロイは、失われた記憶を復元する研究に携わっていた。いずれ、彼が奪ってしまったものを、取り戻すために。

 その傍らで、彼は癒者の手伝いもしている。

 

「ロックハートさん! この患者さんをお願いします!」

 

 ギルデロイ・ロックハートはマジックではなかった。

 

「おや、おばあちゃん。どうしました?

 ん? 痛い? いえいえ、気のせいでしょう。ほら、私の顔を見てごらんなさい?」

 

 全ての虚飾が取り払われた今、彼に残ったのは。

 父親譲りの美貌と。

 

「きっとすぐに、痛みなんて忘れてしまいますよ」

 

 母親譲りの──

 

「そうれ、3……2……1……。

 ──オブリビエイト 忘れよ!」

 

 ──彼だけの「偉業(マジック)」だ。

 




Tips:ギルデロイ・ロックハート

 虚飾の英雄、稀代のペテン師、忘却術第一人者。
 ギルデロイ・ロックハートという人物は、承認欲求の塊である。
 それは彼がまだホグワーツに入学する前、マグルの家庭で暮らしていた時に遡る。
 魔法使いとマグルの夫婦によく見られるイベントであるが、彼の両親も例に漏れず、少しの欠陥を抱えていた。
 魔法が使えないことへの強い不満。母のそれは、幼いギルデロイ少年の心を強く歪ませた。
 魔法の使えない姉達よりも贔屓にされたことで、少年は魔法がうまく使えれば他者からの賞賛を得られると誤認したのだ。
 (改稿版追加文・なお、ギルデロイ・ロックハートの家族構成は、稀に変動する。具体的には、彼の姉二人の存在がオミットされる場合がある。ただし、その場合においてもギルデロイの精神構成は変化しない)
 このことが、彼の人生に一生影を残すこととなる。
 このゲームにおいて、半純血の子供は幼少期の歪みを抱えていることが多い。彼もそんな一人であった。
 (中略)

 ここまでギルデロイ・ロックハートというキャラクター背景について語ってきたが、これからは性能について語ろう。
 目につくのは、圧倒的な忘却術の熟練度である。他の魔法が下手をすればホグワーツ低学年の平均以下であるのに対し、忘却術だけは、魔法事故リセット部隊の面々といったエキスパートをも越える能力値を示している。
 だが、これについても彼は滅多に使うことはない。なぜなら、忘却術の使い手という情報は、彼の真実を手繰り寄せ、嘘のヴェールを引き剥がすことにつながりかねないからだ。
 普段の彼は、ひょうきんなお調子者、率直に言えば間抜けといえる。
 しかし、「偉業」を蒐集する時と、彼の真実に迫られた時、狡猾な詐欺師としての貌を見ることができるかもしれない。
 もっとも、それを見たことをあなたが覚えている保証はどこにも存在しないのだが。

 〜ハリー・ポッター攻略最前線・第2版 より抜粋〜


 

秘密の部屋編、これにて終了です。お疲れ様でした。
書き溜めがつきましたので、次回投稿まで少々時間をいただくかもしれません。ご了承願います。

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近日、ハーメルンに音声読み上げ機能が導入されるとかなんとか。形式的にこの小説には非常に相性がいいですね。
というわけで作る人にお辞儀をするのだ、ポッター。偉大なるお方には敬意を払わねばならぬ……。


追記・謝辞
独立傭兵さん 様よりギルデロイ・ロックハートの挿絵を頂きました。
なんだこれは、たまげたなぁ……(感涙)。
この場を借りて厚く御礼申し上げます。お辞儀をするのじゃ、ハリー。
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