ハリー・ポッターRTA ヴォルデモート復活チャート   作:純血一族覚書

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小説(ストーリー)パートです。少し先(?)の時間軸です。
今までの小説パートとは毛色が違いますがご容赦ください。

特定キャラの言動がおかしい箇所がありますが、仕様です。
特定キャラが現在所持していないはずのものを所持していますが、仕様です。


最も邪悪なる魔術

「レモン・キャンデー」

 

 夜。ホグワーツ城。三階。

 誰もいない廊下、ガーゴイル像の前で、一つの音が響いた。

 ガーゴイル像はぴょん、と後ろに跳ねると同時、彼の後ろの壁が二つに裂け、螺旋階段が姿を現す。

 衣擦れの音。ひとりでに階段が動き出し、ガーゴイルは素知らぬ顔で彼の居場所へと戻った。

 螺旋階段の動きが止まり、再び衣擦れ、その先にある樫の扉が開かれる。

 

 扉の傍では、毛が半分ほど抜けた七面鳥のような鳥がすやすやと眠っていた。

 彼の毛が人の指のような形に沿ってわずかにへこむ。不死鳥は数度身じろぎし、再び深い眠りにつく。

 ごめんなさいね。呟きがぽつりと漏れる。

 そうして姿のない何者かは、ぐるりと室内を見渡す。

 歴代校長の肖像画──その多くは眠っているようだ──、実用的ながら気品感じるデザインの事務机、「組分け帽子」をはじめとする魔法道具が収められた棚。

 それから、部屋の中央には一台のガラステーブルが設置され、ふかふかのクッションのついた椅子が三脚置かれていた。うち一つはラージサイズの椅子である。

 今、この部屋には、姿あるものは誰もいなかった。

 

 

 

「──ここは校長室だ。その見窄らしいマントを取るべきだとは考えなかったかね?」

 

 誰もいないはずの部屋で男性の声が発せられる。

 女の声はそれに応えた。

 

「一理、ありますね。わたくしもいつまでも姿を隠したいわけではありませんし」

 

 ばさり。

 デミガイズのマントを翻し、黒髪の少女が虚空より出現する。

 少女はいそいそとそれを、背負った黒のリュックサックに詰め込んだ。

 やや小柄な彼女の身長もあってか、それは無意味に大きく、率直に言って似合っていなかった。

 

「よろしい。ブラックの末裔たるものが、招かれた茶会で『透明マント』を着て縮こまっているなぞ、いい笑いものだ」

「ご教授ありがとうございます。しかし、僭越ながら申し上げると、現在のレストレンジ家がパーティーに招かれることはあり得ないかと」

 

 少女はかぶりを振って続けた。

 

「叔母様方も、ナルシッサ叔母様──マルフォイ家の方はともかく、『血を裏切るもの』が呼ばれるパーティーなどとても、とても。程度が知れますわ。

 本家は……言うまでもありませんね」

 

 嘆かわしいな。

 ええ、まったく。

 肖像画と少女はわざとらしく揃って肩をすくめた。

 

「ところで、私はまだ君の名前を聞いていないが、最近のホグワーツでは目上のものから名乗るように教えているのか?」

 

 その言葉に、少女は囀りでもって返す。

 

「あら、これがパーティーならば、紳士が淑女に声をかけるのがマナーでは? それに、気の遠くなるような昔ならともかく、今時のホグワーツではマナー講座なんて行いませんわよ?」

 

 普段の少女を知るものであれば、ポリジュース薬を疑う程度には、棘のある言い方だった。

 睨み合い。先に折れたのは、意外にも肖像画だった。

 彼はもったいぶって、名乗りを上げた。ちくりと嫌味を添えて。

 

「よかろう、よかろう。物事を知らぬ子供に規範を示すのも私の職命か。

 私がフィニアス・ナイジェラス・ブラック。ホグワーツの元校長にして、君の血縁、ブラック家の者だ」

「ご丁寧にありがとうございます。もちろん存じ上げておりましたとも。あいにくお墓参りには行ったことありませんが。

 わたくしはズィラ・レストレンジ。貴方の来孫(らいそん)に当たります。

 ──お爺さまとお呼びしても?」

「ここはホグワーツで、私は元校長、君は一生徒──それも悪童、とびっきりのだ。もっと相応しい呼び名があると思わんかね?」

 

 それもそうですわね。

 肖像画の言を聞き、少女は前言を撤回した。

 

「──わかりました、()()()()()()

 ところで、話は戻りますが、ダンブルドア()()()()はどちらへ?」

 

 当て付け。

 肖像画はふんと鼻を鳴らし答えた。

 

「入れ違いだ。ダンブルドアは少し前にここを出て行ったとも。

 ──それとも何か? まさかまさか、たかだか規則違反の小娘一人のために、栄光あるホグワーツ魔法魔術学校校長が予定を合わせてくれるとでも?

 とんでもない傲慢だ」

 

 愚弄。嘲り。

 肖像画の笑みは、どこか少女によく似ていた。

 あら、まあ。少女はわざとらしく驚いた表情を浮かべる。

 

「てっきり、もっと実のあるお話ができると思っていたのですが……。

 ──それとも何ですの? まさかまさか、何も知らされてない? 校長の助言役たる貴方が? そのために肖像画に身をやつしたのでは?

 とんでもない怠慢ですわね」

 

 愚弄。嘲り。

 少女の笑みは、どこか肖像画によく似ていた。

 

「小娘、年長のものを敬おうという気持ちはないのか?」

「ええ、正直言って、全く。フィニアス・ナイジェラス・ブラック。ご高名はかねがねうかがっておりますわ。

 ──なんでも、ホグワーツ開校以来最も人望のなかった校長だとか?」

 

 肖像画は、物事を知らぬ愚物を見るような目で少女を高所から見下(みおろ)した。

 

()()! 人望ときたか。

 人望が能力を保証してくれるのか? 人望だけあればそれで十分と?

 ()()()教師なんぞになんの価値がある? たかだか三年生の小娘がホグワーツ魔法魔術学校の校長に教育を語る?

 ──お笑い草だ」

 

 その物言いに、待っていたかのように反証をあげようとして。

 

「……少なくとも、人望と能力を兼ね備えた校長が一人いますわ。アル────」

 

 ぷつり。

 まるでブレーカーが落ちたかのように、少女は頭を押さえて口籠もる。

 ヒートアップした肖像画はそれに気づかず、勝ち誇るようにくつくつと嗤い、言い放った。

 

「ふん、なんだ、言ってみろ。そら、早く。

 ……言えないのか? ブラック家の末裔たるものが、議論において言葉を詰まらせ、前言を翻──」

「──仮に!」

 

 少女は肖像画の演説に割り込んで、話題を逸らした。

 先程の発言はどこへやら。

 

「仮に、生前のブラック校長が偉大な人物だったとして!

 ……結局のところ、貴方ただの肖像画でしょう?」

 

 少女は、高次の者が低次の物に相対するように、自然と()()()見下(みくだ)した。

 その青い目は、どこか蛇の眼のようだった。

 少女の口が動く。

 

「どんな偉大な人物でも、死ねばおしまい。生きているものには敵いません。

 焚き付けにしてしまえば、それでお仕舞いです。

 ──実践、なさいます?」

 

 脅迫。

 なるほど、なるほどと、肖像画は少女に吐き捨てた。

 

「小娘、貴様は真実、親に似たようだな。ベラトリックスの奴めもレストレンジ邸にあった私の肖像画を焼きおったわ。

 ──たかだか混血風情に命じられおって」

「それでも、『闇の帝王』はスリザリンの血を引いておられるのでしょう? それほどの高貴な血筋ならば、半分だとしても無駄にぶくぶくと膨れ上がり、『血を裏切るもの』も数多くいるブラック家などよりよっぽど上等なものでは?」

 

 これまでの罵り合いの中で、最も熱のある返答。

 

「──救えんな」

「──救えないですわね」

 

 お互いがお互いを嘲り嗤う。

 それはどこか血筋を感じさせた。

 それはどこか血筋を感じさせなかった。

 

「──ダンブルドアから話を聞いておる。

 機知に富む才智、断固たる決意、あるのだろうよ。

 目的のためにあえて規則を無視する傾向、これも聞いた。

 純血、言うまでもない。

 なるほど、なるほど。スリザリンらしい性質を持っているようだな。

 だが、スリザリンの先達としては──」

「──フィニアス。残念ながら、彼女はそれでもグリフィンドール。わしの寮の生徒じゃ」

 

 少女の後ろから、老人の声が飛んでくる。

 少女を穢らわしそうに見つめ、肖像画は吐き捨てた。

 

「いらん、こんな小娘。話してわかった。性根が腐りきっておる。

 規則破りも合わせて、私が現役の頃なら、数日鎖で地下室に吊るしておるわ」

 

 あら。

 少女が口を挟んだ。

 

「おじいちゃん。それって、その……かなり倒錯した趣味でしてよ?」

 

 返事は返ってこなかった。

 

 

 

「──こんばんは、ズィラ」

「──こんばんは、校長先生。勝手に入室してしまい、申し訳ございません」

「構わぬよ、わしが席を外したのがまずかった。急に呼び出して申し訳なんだ」

 

 薄い微笑みをたたえて、なごやかに二人は話す。

 掛けなさい、老人はそう椅子を指し示した。

 ありがとうございます。少女は礼を言い、椅子に腰掛ける。

 

「この度はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

 

 少女の声は、なにかがおかしかった。

 

「何か飲み物はどうかね?」

「いただきますわ」

 

 少女は了承する。

 老人が立ち上がり、背後の棚に向かった。そこには飲み物がいくつか並んでいた。

 

「バタービールでよかったかの? ホグズミードで堪能する前の、先行体験というやつじゃ」

 

 ええ!

 少女は返事をし、それから彼女のリュックサックをゴソゴソと漁り始めた。

 お目当てのものが見つかったのか、にっこり嗤って提案した。

 

「そうそう! 最近ちょっと面白いカップをフレッド達から仕入れましたの。よければ楽しんでみませんか?」

「構わぬよ。どのような『悪戯』かのう」

 

 老人は少女の提案を了承する。

 少女が彼女のリュックサックからそれを取り出そうとして──。

 

 振り向き一閃。

 老人が手を翳し、金のカップに衝撃呪文を撃ち放つ。

 寸分違わず命中したそれは、少女の手から弾け飛び、樫の扉へと吹き飛んだ。

 衝撃音。目覚めた不死鳥が恨み節を上げる。

 

 

 ぱちくり。

 少女はたった今目が覚めたかのように数度目を瞬かせ、老人を認識し、慌てて挨拶した。

 先程の一連のやりとりで、手首の痛みひとつ彼女が感じなかったのは、まさしく()()だったのだろう。

 

「────?

 ああ! こんばんは、校長先生! この度はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

「──うむ、こんばんは、ズィラ。構わぬよ。今日は何も君の夜更かしに物申すわけではない。

 せっかくだから一緒に夜更かししよう、というお誘いじゃ」

 

 こうして夜会は開かれた。

 

 

 しばらくして。

 老人セレクションのお菓子を食べながら、これは美味しい、これは面白いと語り合って。

 少女は本題を切り出した。

 

「そうでした! 実は、その……校長先生に預かってもらいたいものが二つほどありますの」

 

 そう言って少女はリュックサックをゴソゴソと漁る。

 漁る。

 漁る……。

 「検知不可能拡大呪文」の掛かったリュックサックをひっくり返すような勢いで、漁り始めた。

 

「……あれ? あれ!? 確かに入れたはずでしてよ!?」

 

 誰が見ても明らかなほどに、いっそ憐れなほどに狼狽していた。

 見かねた老人は彼女に助け舟を出した。

 

()()、かのう」

 

 老人が指さす先には、床を転がるカップがあった。少女はそれに飛びつき、校長に差し出した。

 壁に衝突したのが嘘だったかのように、傷一つない美しい金のカップだった。

 なのにどこか穢れた印象を持ってしまう、不思議なカップであった。

 

「──こほん。

 まずはこちら、わたくしの金庫にずっと収められていた、さるお方が大切にしていたカップだそうです」

 

 気恥ずかしいのか、彼女の頬はうっすらと赤く染まっていた。

 それともう一つ……。少女は再びリュックサックからに手を突っ込む。

 

「あ、ありましたわ。こちらです」

 

 取り出されたるは銀色の髪飾り。思わず着けてみたいと思ってしまうような、見事な出来の髪飾りだった。

 

「こちらは……その……。夜更かしの旅の果てで見つけた、髪飾りです」

 

 少女は髪飾りをテーブルの上にことりと置いた。

 老人はそれを杖で浮かせ、全体を軽く検分し、やがて了承した。

 

「──それで、何故、おぬしはわしにこれらを預けようとするのかのう」

 

 本題。

 虚飾を許さぬその問いに、少女は滑らかに答える。

 

「いくつか理由がありまして……。

 まずは、その二つの魔法道具は、本来()()にあるべきものですよね……?」

 

 老人は首肯した。彼の背後の棚には、一本のゴブリン銀が納められている。

 

「うむ。ある意味で、これのあるべき場所はここじゃろう。()()()もすでに一つある。

 ──それだけかの?」

 

 半月メガネの奥底で、老人の青い瞳がきらりと輝く。

 そのように感じたのか、少女は目を伏せ、ぽつぽつと語り始めた。

 

「多分、お母様の教育の賜物だと思います。以前お話ししたように、わたくしはずっと、ずっと、『闇の帝王』がお戻りになられると考えておりました。

 そして、昨年度末、それは確信に変わりました」

 

 少女は、老人の背後、道具棚を指し示した。

 帽子、剣。

 その横に置かれた、一冊の両断された日記帳。

 それが答えだ、とばかりに少女は続ける。

 

「わたくしの家は()()()()()()()変わったところがありまして、ホグワーツの図書館にも置いていないような、珍しい本を持っていることがあります」

 

 そう言って、少女は再びリュックサックに手を突っ込む。

 数秒後取り出したのは、本能的に悍ましさを感じさせる──先程の二品ほどではない──黒い装丁の本だった。

 そのタイトルを『深い闇の秘術』という。

 老人の気配が僅かに変わった。

 少女は更に続ける。

 

「この本には……まあ、面白くないことがいくつも書かれていまして、その中の一つを『帝王』が用いているのかな、と。

 お母様もそう考えたかと思います」

「ふむ」

 

 ここで初めて、老人が口を挟んだ。

 

「一つ疑問がある。()()()にとって、不死のからくりは最も重要なものだと考えておる。当然ながら、その知識は一人で独占したいはずじゃ。

 ……腹心とはいえ、たかだか信奉者に不死の秘密を気取られるかの?」

 

 至極真っ当な問い。

 うふふ、と少女は笑った。

 

「ねぇ、校長先生? 確かに、『闇の帝王』の不死の方法は『秘密』ですわ。秘密ということはつまり、()()()が知っているということでしてよ」

 

 少女は机の上に目を向けて話す。

 目線の先には、銀の髪飾りがあった。

 『計り知れぬ英知こそ、()()()が最大の宝なり!』

 少女はその文言をじっと見つめていた。一度たりとも、老人の目を見ようとはしなかった。

 

「──そういうことも、あるかもしれんのう。続きを話しておくれ」

 

 内心はどうあれ、老人は受け入れたのだろう。

 それに気を良くしたのか、少女はバタービールの入ったグラスを一口傾け、騙り続ける。

 

「この前の『秘密の部屋』事件の際に、『帝王の日記帳』に触れる機会がありまして、その際にわたくしはふと思ったのです。

 ──ああ、似たようなものを知っているな、と」

 

 少女は砂糖羽ペンで金のカップを指し示して説明した。

 

「先程お話ししたように、こちらのカップは、わたくしの金庫の中にずっと保管されていました。

 お母様は決して触るな、とおっしゃっていましたが、やっぱり気になりますわよね?

 入学する少し前にカップに触る機会がありまして、その時に感じた気持ち悪さと『日記帳』が材質も違うのに同じだったのです」

 

 老人は一つ頷き続きを促す。

 老人がキャラメルの包装紙を開くのを見つめながら、少女は話した。

 

「髪飾りを見つけたのは、一年生の頃です。

 いつものようにわたくしがお城の探検をしていた時、8階の廊下で──」

 

 少女が言い淀む。

 老人は、その答えに先回りして告げた。

 

「ズィラ。『あったりなかったり部屋』のことじゃったら、わしはとうの昔に知っておる」

「──そうでしたか。残念です。あれはわたくしだけの『秘密の部屋』だと思っていましたのに」

 

 少しだけむくれる少女。

 老人は、ほっほと笑って大鍋ケーキを切り分けた。

 

「残念じゃったの。『あったりなかったり部屋』と呼ばれておるように、あの部屋は一度だけならば、存外多くのものにとって『秘密じゃない部屋』なのじゃよ。

 ──はい、お食べ」

「やっぱりほんとうに『秘密』なことなんて、そうそうありませんわね。校長先生はどのように見つけられたのですか?

 ──夜にこんなに食べて、太らないかしら……」

「おお、聞いてくれるかの」

 

 老人は手を叩いて話しだす。それは、彼のホグワーツ生に対する一つの鉄板ネタだった。

 

「それはあくる日のことじゃった。わしはとある重大な()()()()に襲われておっての。あの近辺の廊下をうろうろしておったのじゃ。

 そうしたら突然扉が出てきての。藁にもすがる形で扉を開くと壁一面に古今東西の素晴らしい()()()のコレクションが──」

 

 老人は、少女の顔を見て、すぐさま口をつぐんだ。

 少女に何を感じたのか。

 それは、『秘密』。

 

「話を戻します。()()()()()()()()

 それで、『必要の部屋』を何回も開け閉めしているうちに、倉庫のような部屋がありまして。

 好奇心がちょこちょこと動きまして、気がついたらこれを見つけていた次第ですわ」

 

 逡巡の後、少女はケーキを小さく切り分け、意を決して頬張った。

 老人も口に入れたケーキを嚥下し、続きを求める。

 

「それで、そんな二つの宝物。しかも一つは母君が大切にしていただろうものを、何故このわしに渡す?」

 

 少女はバタービールで喉を湿らせ、理由を答えた。

 

「ええ。お母様が大切にしていたものです。きっと、『闇の帝王』が大切にしていたものでもあるのでしょう。

 ── ()()()()、これらをダンブルドア校長先生にお預けいたします」

「──あいわかった」

 

 人の本心は、開かなければわからない。

 

 

 

 宴もたけなわ。

 

「……そうでしたわ。わたくし、校長先生に一つだけお伝えしなければならないことがありましたわ」

「ふむ。なにかのう?」

 

 帰り支度をしながら話しだす少女。老人は鷹揚に促した。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──そういうことで、いいんじゃな?」

「──そういうことで、お願いいたします」

 

 少女の首にかかった金のネックレス。胸元の砂時計は黙して語らず。

 そういえば、と少女は疑問を口にした。

 

()()()()、何故、わたくしは今日お呼ばれしたんですの? まさか本当に、お菓子品評会でして?」

 

 冗談だろう?

 少女のそんな表情に、老人はくすりと笑い、返した。

 

「そうじゃのう……。実のところ、もう用は済んでおる。否、済ませてくれた、というのが正しかろう。

 初めて会った日の話について、そろそろ詳しく話そうとしただけじゃ」

 

 そうですか。

 少女は少しうなだれて、老人に一礼した。

 

「それでは、お休みなさい。校長先生」

「うむ、お休み。今後は、夜更かしはほどほどにの」

「ええ、もちろんですわ!」

 

 老人は「開く」までもなく、嘘、と直感した。

 直感した上で、やはりそれを見逃した。

 

 あ、そうそう。

 少女はくるりと振り返り声を上げた。

 

「校長先生。校長先生はイギリスで最も偉大な魔法使いで、イギリスで最も尊敬される魔法使いですわ!

 ──それから、聞こえていらして! ブラック()()()()()! 今度のお休みに、お墓参りに行かせていただきますわね!」

 

 

 

「──ダンブルドア。あの娘、気が触れているのか?」

 

 会談を黙って聞いていたフィニアスは、ダンブルドアに問いかける。

 ダンブルドアは苦笑し代わりに弁明する。

 

「フィニアス、そんなことはないよ。ただ、今夜はちょっとばかし、『秘密』な事情があったんじゃろう」

「……『あの日』か? それならそうと言えばよかろう」

 

 1993年のイギリス魔法界から見てもあり得ない、100年前の骨董品のジェンダー観だった。

 ダンブルドアはぎょっとして呻いた。

 

「──フィニアス。倒錯しておるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜は終わらない。

 ズィラが退室し、フィニアスが沈黙してしばらく。

 ダンブルドアは大きめの椅子に語りかけた。

 

「……もうよかろう」

 

 返事がない。

 ダンブルドアは杖で椅子を突っついた。

 

「痛い!」

「そう思うなら、早く元に戻ればよかろうに」

 

 呆れ顔のダンブルドアに対し、椅子──ホラス・スラグホーンは、ズィラが座っていた椅子に座り込み弁明した。

 

「話が長すぎだ!

 誰もが君のように変身術を究めているわけではないんだぞ! ダンブルドア! 私は私自身のことを『校長室の椅子』だと思いかけていたじゃないか!」

 

 ゼイゼイと肩を怒らせるスラグホーンに対し、ダンブルドアはすまぬすまぬと平謝り。

 そして、本題へと移った。

 ダンブルドアは金の盃、銀の髪飾りを杖で指して問いかける。

 

「──これについて、どう思う? ホラス」

「これって、()()じゃないのか?

 アナグマの刻まれた宝石がついたカップ。ワシを象った髪飾り。

 伝承に聞く──」

「── 違うじゃろう?」

 

 スラグホーンが口早に語る言葉を断ち切って、ダンブルドアは彼を罪科へと向き直らせた。

 

()()()も歴史的には重要じゃろうが、わしが聞きたいのは、そっちではない。

 創始者の遺品が、このように悪しく変質した理由について、理由を考えたいのじゃ。

 ──おぬしの『秘密』を語るべき時が来た」

 

 夜はまだまだ更けていく──。

 

 

 

 




Tips:分霊箱

【画像:error! 参照先が見つかりません!】

 
 分霊箱を作成したキャラクター(以下作成者)は、分霊箱が存在している限り、死亡判定を無効化する。ただし、肉体の破壊判定は無効化されない。
 (中略)
 作成者以外のキャラクター(以下所持者)が分霊箱を所持している間、一定時間ごとに分霊箱と所持者で「対抗判定」を行う。判定に用いられる要素は
 ・分霊箱:作成時点における作成者の「死の呪文」熟練度、「闇の魔術」スペルツリー解放度、「魔道具作成」等
 ・所持者:「閉心術」・「守護霊の呪文」熟練度、「闇の魔術」スペルツリー開放度、「意思」ステータス等
 である。なお、分霊箱側の判定には、最終値に込められた魂の割合を乗じたものを用いる。
 「対抗判定」に失敗した場合、所持者は「理性判定」を行い、精神値を減少させる。
 所持者の精神値が一定値を下回った場合、分霊箱は「支配判定」を行う。
 また、作成者は分霊箱作成時に、キラーアクションを一つだけ設定できる。所持者がキラーアクションに該当する行動を取った場合、強制的に「支配判定」を行う。
 通常プレイ時において頻出する『ヴォルデモート卿の分霊箱』のキラーアクションは、「通常その分霊箱の用途となる行為」とされている。
 (例:『日記帳』に対する筆記、『髪飾り』、『指輪』、『ロケット』等装身具の装着、『カップ』を用いた飲食など)
 


 〜ハリー・ポッターβWIKI 「データ・解析」カテゴリ 『分霊箱』ページより抜粋〜

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