ハリー・ポッターRTA ヴォルデモート復活チャート   作:純血一族覚書

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小説パートです。


死喰い人の娘とネビル・ロングボトム

 ズィラ・レストレンジはネビル・ロングボトムのことをよく気にかけている。

 

「フィニート・インカンターテム 呪文よ、終われ!

 ──ふふっ、大丈夫かしら? ネビル?」

 

 ほら、今もだ。

 

 

 

 

 

「ばあちゃん。またトレバーがいなくなっちゃった」

 

 今思えば、それがネビル・ロングボトムのホグワーツ生活についた一つ目のけち(・・)だった。

 キングス・クロス駅、9と4分の3番線。ホグワーツ生とその家族が一堂に会するそこは、まるでマグル界の鉄道のようにごった返していた。彼らの所有するフクロウはホーホーと鳴き交わし、色とりどりの猫たちが自由気ままに歩き回る。ドジを自認しているネビルは、足元に注意しながら、おっかなびっくりそろそろと歩を進めた。ずんずん先に進む祖母を追いかけて。

 

「おっと、気をつけろよ」

 

 ……それがいけなかった。注意が地面に向き過ぎていたのか、目の前から来た大柄の少年──緑の意匠を纏っている。蛇寮だろうか──にネビルは激突してしまった。

 怒らせてしまってはいけない。そう考え、ネビルはペコペコと頭を下げる。相手もそんなさえないガキに興味をなくしたのか、ふんと鼻を鳴らして立ち去っていった。助かった、ネビルはほっと肩をなでおろした。

 安心したのもつかの間、ネビルはより大きな問題に気がついた。胸ポケットにいたはずのヒキガエルのペット、トレバーが姿を消していたのだ。今日彼がいなくなったのは、既に二回目だった。

 

 そうして、ネビルは急いで祖母に追いつき、ペットの不在を報告したのだった。

 フクロウをカートに乗せたメガネの少年がそばを通り過ぎるのを横目に、祖母であるオーガスタはネビルの泣き言にため息をつく。

 

「まあ、ネビル──」

「──ごめんよばあちゃん! もう行かなくちゃ! 探しておくけどもしホームにいたら捕まえてて!」

 

 いつものお小言だ。そう思ってネビルは、満員列車を理由に早々に話を切り上げる。祖母が二の句を継ぐ前に、彼は荷物を持ってホグワーツ特急へと駆け出した。

 人混みをかき分けて、進む、進む。背後からは数人の悲鳴が聞こえていた。

 

 特急の席は、何処もかしこも埋まっていた。まずは重いトランクをなんとかしようと思い立ったネビルは、空いているコンパートメントを探してホームを練り歩いた。

 満室、満室、空きがあるが怖そうな角刈りの上級生、満室、黒髪のオリエンタルな美人さん、満室……。駄目だ、何処もネビルには座れそうにない。

 やっとの思いで見つけたそこは、ホグワーツ特急の最後尾付近。ネビルはトランクを──近くの親切な三つ編みの少年に助けられながら──客室におさめてホッと安堵のため息をついた。

 さて次はトレバーを探さねば。そう思ったネビルだが、席を立とうとしたちょうどその時、コンパートメントの扉が開いて、栗毛色をしたふさふさした髪の少女が入ってきた。

 

「ここ空いてる?」

 

 ネビルの向かい側の席を指差して尋ねた。

 

「他はどこもいっぱいなの」

 

 そう言って少女は、ネビルの返答を待たずして席に腰かけ、彼の方を見据えてきた。そして少女は、間髪入れずに話し出す。

 

「私、ハーマイオニー・グレンジャー。あなたは?」

「えっと、僕はネビル。ネビル・ロングボトム」

「そう、よろしくネビル。ところであなた、魔法族の家の子? 何かもう魔法は使えるの? それにご両親からホグワーツについて何か聞いてない? 特に組分けのこととか。どこの寮がいいとか知らない? もしかしたらテストがあるんじゃないかと思うと……ああ、心配だわ! まだ(・・)私、教科書の暗記しか(・・)していないのに!」

 

 ネビルが一言話す間に、少女──ハーマイオニーは口を三度は開いた。その口から見える前歯は、やや大きかった。

 あまりの口撃に、ネビルは全てを聞き取ることができなかった。かろうじて覚えている内容にのみ、少年は答える。

 

「うん。親戚みんな魔法使いだよ。それと魔法だけど──」

 

 ネビルはちょっぴり嘘をついた。

 

「──子供は魔法を使っちゃいけないって、ばあちゃんが言ってたんだ。だから僕はまだ何も使えない」

 

 いや、嘘というには語弊があるか。確かに未成年の魔法使用は禁止されているが、ホグワーツ未就学の子供は罰されることはない。

 だが、ネビルの意識にあったのは、そういった法解釈のあれこれではなく、単なる見栄だった。

 

 ネビル・ロングボトムに魔法力が確認されたのは、彼が八歳の時である。大叔父であるアルジーが誤って彼を二階の窓から転落させた際、彼の体がまり(・・)のようになる形で発現した。

 これは魔法族の子供としては、非常に遅い発現である。彼の親族は皆、ネビルが魔法力を持たないスクイブではないかと疑っていた。大叔母のエニドに至っては、彼がホグワーツに入学できないと考えて「クイックスペル」を取り寄せていたくらいだ。

 だからこそ、その時のロングボトム一族の喜びはひとしおだった。厳格な祖母であるオーガスタでさえ、その時ばかりは涙を流してネビルに抱きついたほどである。

 しかし、彼の魔法力が他の子供より劣っているのは事実だ。その上おっちょこちょいでもあった。故に、ネビルはこれまで呪文の練習を一度もさせてもらえなかった。箒に乗ることも禁止されていた。それどころか、彼個人のための杖すら買い与えられていない──それについてはネビルも賛成したのだが。

 

 そんなわけで、恐らくはマグル出身であろう少女に対し、ネビルはちょっぴりばかり見栄を張ってしまった。

 なおも何事かを口挟もうとする少女に対し、ネビルは彼の抱えていたタスクを口にして遮った。

 

「ごめん。さっき僕のヒキガエルがいなくなっちゃったんだ。これから探さないと」

 

 ネビルの言葉に、手荷物から本を引っ張り出していた少女は、顔を上げて提案した。

 

「あらそう。よければ私も手伝いましょうか? 私も列車の中を歩いて回る予定だったの。色んな人にホグワーツのことについて聞きたかったし」

 

 ありがたい提案だった。少年が快諾すると、少女はさっさと客室を出て行った。ネビルは慌ててその後を追いかけた。

 

 

 

「駄目ね。どこにもいないわ。……ほら泣かないで、ネビル! 次はあっちを探してみましょう」

 

 捜索は難航していた。トレバーの不運を考え泣きべそをかくネビルに、いつのまにかローブに着替えたハーマイオニーが叱咤し、指示を出す。いつのまにか主体が逆転していた。ネビルがふと覗いた窓の外には、薄暗く不気味な森が広がっていた。

 いくつかあるコンパートメント群を、ハーマイオニーと手分けして探す。その中の一つにノックして入ると、中ではメガネの男の子と赤毛の男の子が百味ビーンズを食べていた。メガネの子を、ネビルはどこかで見かけた気がした。

 

「ごめんね。僕のヒキガエルを見かけなかった?」

 

 二人は首を横に振った。それを見たネビルは無性に悲しくなり、ついには瞳からは涙がこぼれ落ちてきた。

 泣き言を漏らす少年に対し、メガネの子が「きっと出てくるよ」と励ましの言葉を贈る。ネビルはそれに一言感謝を述べ、見つけたら教えてくれるよう頼んで客室を後にした。

 外に出て辺りを見渡すと、ちょうどハーマイオニーが別のコンパートメントから出てきたところだった。彼女は駆け寄ってきて話が出した。

 

「そっちはどう、ネビル。見つかっては……いないみたいね。大丈夫よ、きっと見つかるわ」

 

 そう言ってハーマイオニーは先ほどネビルが捜索した、男の子たちのコンパートメントへと入っていく。ネビルが止める間もなかった。

 中では赤毛の男の子が何やら呪文を唱えようとしていた。

 

「お陽さま、雛菊、とろけたバター。デブで間抜けなネズミを黄色に変えよ」

 

 ……失敗。

 ハーマイオニーが呪文に対する講釈を垂れる。流れのままに彼らは名乗り合い、ネビルはそこでようやく赤毛の子の名前がロン・ウィーズリーであることを知った。

 そしてなんと! メガネの男の子はあの(・・)ハリー・ポッターだったのだ!

 

 ハリー・ポッター。生き残った男の子。「例のあの人」を倒した偉大な子供。

 幼い頃からネビルは彼について、祖母によく聞かされてきた。彼の両親はネビルの両親と共に「例のあの人」の軍勢と戦ってきたこと。ネビルとハリーは同い年であるということ。

 そして祖母は決まって言うのだ。「お前もハリー・ポッターのように、なすべきことを成せる魔法使いになるのですよ」と。

 ただ、魔法力に劣っている自覚のあったネビルは、こうも思っていた。きっと自分と彼では、パフスケインとヌンドゥほどに違うのではないか、と。

 

 ……どうやら当のハリー本人は、そんな彼の逸話が本になっていることを知らなかったらしい。呆然としているハリーをよそに、ハーマイオニーはネビルの手を引っ張った。

 

「──行きましょ。ネビル」

 

 コンパートメントの外に出るや否や、彼女は続けて口にした。

 

「残念だけどもう時間ね。そろそろ切り上げましょう。あなたは着替える必要もあるし。……大丈夫よ。きっと先生方に言えば見つけてくださるわ」

 

 そう言って、ハーマイオニーはスタスタと立ち去った。後に残されたネビルは、泣きの一回とばかりに未捜索のコンパートメントに向けて歩みを進める。

 怖い人だったら嫌だな。ふとそう思ったネビルは扉の窓から中を覗き見て……思わず自分の目と脳を疑った。

 

 そこに座っていたのは、黒髪で切れ長の目をした、彼が写真で見たことのある(・・・・・・・・・・・・)、恐ろしい女だった。

 

 慌てたネビルは、我を忘れて自らのコンパートメントに駆け戻り、ハーマイオニーが来るまでずっと震えていた。

 いや、そんな、まさか、あり得るはずもない、だってあいつは今もアズカバンにいるはずじゃないか────。

 学校に着く直前に森番からトレバーを渡してもらった時もなお、彼は心の中で祈っていた。

 どうか、自分の目が錯乱していただけでありますように、と。

 

 

 

レストレンジ(・・・・・・)・ズィラ!」

 

 ──願いは叶わなかった。

 レストレンジ。ベラトリックス・レストレンジ。ズィラ・レストレンジ。

 新聞で祖母に見せられた女そっくりの少女が、組分け帽子を被っていた。目を瞑っているその少女は、どこからどう見てもベラトリックスにしか見えない、まさしく生き写しだった。

 死喰い人の娘。ベラトリックスの娘。両親を壊した奴らの娘。本人ではないとわかっていても、ネビルにはそれがたまらなく恐ろしい。

 

「──しかし君の夢は紛れもなく勇気に満ちておる。それならば、グリフィンドール!」

 

 だからこそ、帽子の選択は意外だった。十中八九、スリザリンと思っていたのに!

 そして、「自分にはふさわしくない」という理由にもう一つ、「少女が恐ろしい」という理由が、ネビルのグリフィンドールを選べない理由に加わった。

 少女の組分けが終わって、次は誰だ?

 

「ロングボトム・ネビル!」

 

 僕だ。

 ネビルはオタオタと帽子の下に向かって歩くが、途中でつんのめって転んでしまった。

 

「落ち着くのです。ロングボトム」

 

 式の進行をしていたエメラルド色のローブを着た魔女が手を差し伸べてくれたことが、唯一の救いだった。

 帽子をかぶる。途端に、ネビルの視界は暗闇に覆われた。

 低く重苦しい声が、少年の頭蓋に響き渡った。

 

「フーム。なるほどなるほど。純血ではあるがそれを重視してはおらず、才能の欠片はあるが今はまだ形にならず、勇気の燭台はあるが火が灯されておらぬ。……さて、どの寮が相応しいかな?」

 

 ──僕はグリフィンドールには相応しくない。ハッフルパフで構いません。

 

「そうかね? 君が自分で思うほど、君の勇気は捨てたものではないよ。それに、ヘルガの創った寮は決して劣等などではない」

 

 ──なら他の寮を! 僕はレストレンジが怖いんだ! 僕は戦う勇気なんて持っていない! それどころか機知も、狡猾さも、忍耐さえも!

 

本当に(・・・)? 本当に(・・・)君は何も持っていないと? よく思い出してみたまえ」

 

 ──僕は……。

 

 ネビルのローブのポケットにある、杖とガムの包み紙(お守り)が、ほんのりと熱を帯びた気がした。

 

「そうだとも。我があるじが小鬼を真に打ち倒さなかったように、敵と戦うことだけが勇気ではない。戦うべきでないときは杖を収めることもまた勇気なのだ」

「故にこそ、君のような者が真にゴドリックの寮にふさわしい。

 ──グリフィンドール!」

 

 信じられない! まさか自分がグリフィンドールに選ばれるなんて!

 呆然としたネビルは、帽子を被ったまま歩き出す。慌てて駆け寄ってきた黒髪の魔女が、帽子を彼の頭から取り上げた。ほんの一言囁いて。

 

「おめでとう、ロングボトム。オーガスタも喜びますよ」

 

 ミネルバ・マグゴナガルの声を背に、ネビルは獅子寮のテーブルに向かった。

 大広間がしんと静まりかえるのも気にせず、彼は知己であるハーマイオニーの元へ向かおうとしたが。

 

「おめでとう。ミスター・ロングボトム。これからよろしくお願いしますね?」

 

 彼女の隣に陣取っていた、レストレンジがニコリ(ニヤリ)笑い(嗤い)かけてきたのを見て、足がすくんでしまった。それはどうしようもなく、日刊予言者新聞に載っていたそれと同じだった。

 思わずネビルは、近くの席──彼女達から離れた席に腰を下ろしてしまう。

 

 ──大丈夫だ。まだこれからだ。

 ネビルはそう自分を励ました。

 

 

 

 ……結論から言ってしまえば、ネビルの心配事は全くの杞憂だった。ズィラ・レストレンジは全く暴力的ではなく、それどころか周りのグリフィンドール生に──一部からは半ば煙たがられていたのに──自分から友好的に関わろうとしていた。

 かくいうネビル自身も、命を助けられたことがある。

 

「アレスト・モメンタム! 動きよ、止まれ!

 ──ふぅ。大丈夫ですか? ミスター・ロングボトム?」

 

 六メートルもの高さから転落した時。教員ですら対応できなかったネビルのトラブルに、それは見事な魔法で対処してくれた。突然だったせいで無傷とは言えず、手首を捻挫をしてしまったが、それでもネビルは彼女に心から感謝した。

 

「ありがとう、レストレンジ。僕のことはネビルでいいよ」

「ふふっ、どういたしまして、ネビル。わたくしのこともズィラと呼んで構いませんわ」

 

 医務室に連れて行かれる直前、ネビルが見たのは彼女の綺麗な微笑みだった。

 

 

 ネビルとズィラが和解した。それを機に、多くのグリフィンドール生、ひいてはホグワーツ生が、彼女に対して友好的に──あるいは普通に接し始めた。

 一月が過ぎ、二月が過ぎ。ハロウィーンも終わった11月には、ズィラは最早他のグリフィンドール生となんら違いがなかった。

 より正確に言えば、ハーマイオニーに匹敵するくらいの成績であり、社交的で上級生ともよく話す彼女は、皆の人気者だった。

 ネビルにとっても彼女は既にレストレンジの娘ではなく、友達のズィラだった。

 

 そんなある日。肌寒くなってきた11月の月夜。ハリーが翌日にクィディッチの初試合をするということで、ネビルは自分が出るというわけでもないのに緊張していた。

 開幕戦がスリザリンというのもあって、相手選手に攻撃されないか、ブラッジャーに当たって怪我をしないか。ハリーのことが心配で、眠れやしなかった。

 ネビルは徐に自分のベッドからまろび出て、談話室へと降りていった。特に理由があったわけではないが、なんとなくじっとしているのも嫌だった。

 談話室には当然ではあるが誰もいない。暖炉の火がパチパチと燃える音が聞こえるだけの、静かで薄暗い部屋だった。ネビルは一人、ソファーに座って物思いに耽る。

 

 十分かはたまた一時間か。ただじっと炎を見つめていたネビルに、ようやく睡魔が訪れた。

 さて、そろそろ眠るか。ソファーから腰を上げ、自分たちの部屋に戻ろうとした時。

 

 ばたり。

 「太った婦人」の肖像画が開く音がした。反射的にネビルは物陰に身を隠して、息を潜めた。

 

 談話室に入ってきたのは、ヌラヌラとした不気味な物体だった。ちょうど暖炉の揺れる炎で照らされ、尚且つ集中して注目していなければ気がつかないような存在だった。ネビルは思わず叫びそうになる声を、ばっと両手で押さえた。

 それは声を止めるのには成功したが、代償としてネビルの腕は壁にぶつかり音を立てた。

 少年は息を飲む。ひたすらにじっとそれ(・・)を注視した。

 そして彼は耳にした。

 

「──ポルターガイストの仕業かしら?」

 

 ズィラ・レストレンジの声を。

 

 

 

 それからも変わらず、ネビルとズィラはよくやっている。よくやってはいるが、少年にはあの日の夜のことを問いただせなかった。それはただ、恐ろしかった。

 そんな折、ネビルは一つのことに気がついた。ズィラがよく関わる人は、なんというか、皆凄い人ばかりなのだ。

 

 ズィラはハーマイオニーといつも一緒にいる。

 ──ハーマイオニーはマグル生まれにも関わらず、学年一番の才女だ。

 

 ズィラはロンとも仲がいい。

 ──ロンの視野はとにかく広い。ほとんどのグリフィンドール生は、彼とチェスをしてそれを思い知った。

 

 ズィラはパーシーによく授業について尋ねに行く。

 ──パーシーは監督生で、首席間違いなしとされる秀才だ。

 

 ズィラは双子と悪戯をして遊んでいる。

 ──双子はホグワーツのムードメーカーで、とにかく顔が広い。

 

 ズィラはオリバーに箒を教えてもらっている。

 ──クィディッチ・チームのキャプテンである彼のことは、学校の誰もが知っていた。

 

 ズィラはマルフォイとも友好的だ。

 ──悔しいが、マルフォイ家が名家なのは否定できない事実だ。

 

 そして、ズィラはハリーの親友だ。

 ──生き残った男の子。言うまでもない。

 

 

 ……ではネビル・ロングボトムは?

 ズィラ・レストレンジはネビル・ロングボトムのことをよく気にかけている。

 

「フィニート・インカンターテム 呪文よ、終われ!

 ──ふふっ、大丈夫かしら? ネビル?」

 

 ほら、今もだ。

 それは何故だ? ネビルは未だ一度も加点されたことのないような、誰もが認める劣等生だというのに。一体ネビルのなに(・・)が彼女の琴線に触れたのだ?

 ネビル本人には語るべき特別なことが何一つないということは、彼自身が誰よりも知っていた。

 考え過ぎかもしれない。だが、あの日の夜のことがそれを杞憂だと断じさせてはくれなかった。

 

「ありがとう。これで普通に歩けるよ」

「どういたしまして。ドラコにはこんなことやめるように言っておくわ。……まぁ無駄でしょうけど」

「だろうね……。──あのさ」

「なにかしら?」

 

 意を決して問いただそうとしたネビルを、ズィラは真正面から見据える。

 その顔はベラトリックスそっくりだ。だがその切れ長の青い目だけは、彼女の母とは違っていた。

 ネビルを見つめる青い瞳。それがどこか爬虫類のように──蛇のようにネビルは錯覚した。

 

「ううん、なんでもない」

「そう? ふふっ、ネビルったらおかしな人」

 

 ネビルが今日も問いただせずにいると、ズィラはクスリ(ニヤリ)微笑って(嗤って)その場を後にした。

 

 グリフィンドールは勇気あるものの寮。対応する四大元素は火。

 ネビルの勇気の燭台には、火が灯されてはいなかった。

 

 

 

 ──今は、まだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




Tips:ネビル・ロングボトム

 「もう一人の予言の子」・「選ばれなかった男の子」・「真のグリフィンドール生」。
 育成優先度・最高。最初期には誰よりも劣るステータスであるが、愛情もって育て上げることで、作中でも最高位の能力に成長するだろう。能力傾向としてはやや防御寄り。盾の呪文を教えるが吉。グリフィンドールの剣の能力を最大限に引き出せる数少ないキャラ。
 特殊イベント・「変化した予言」。このイベントを発生させるには、第一次魔法戦争時にヴォルデモート卿陣営の最高幹部に昇格する必要がある。その状態でヴォルデモート卿の好感度を規定値以上にすることで、彼の意思決定に携わることが可能になる。デフォルトではヴォルデモート卿は自身と同じ混血を予言の子として選択するが、プレイヤーの行動如何によっては純血の子供を選択させることができる。
 編集談「ネビルというキャラは、多くのグリフィンドール生が『攻め』の勇気を重視する中で、数少ない『守り』の勇気を重視するキャラですね」

〜ハリー・ポッター 攻略ガイドブック・人物の巻 より抜粋〜


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