アリュード・マクシミリアン伯ー妖精麗人の愚直なる復讐ー   作:護人ベリアス

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誕生アリュード・マクシミリアン伯

「策…ですか?」

 

「オラリオに戻るための、ね。」

 

そう言ったシルは徐に立ち上がると、備え付けてあった箪笥へと向かう。何があるのだろうと不思議そうにリューはシルを眺めていると、しばらくしてある物を携えてリューの元に戻ってきた。

 

「…まさか…」

 

「そう。まさかのまさかだよ。」

 

リューは嫌な記憶を思い出すような表情をシルに向けるもシルはニコニコしたまま笑みを崩さない。

 

シルの持っていたのは燕尾服と眼帯。

 

 

「リュー。またアリュード・マクシミリアン伯になろう。」

 

 

アリュード・マクシミリアン伯。

 

それは以前リューがシルと共にカジノに潜入した時に用いた偽名。

 

ついでに言うと男装までさせられて、助けた女性に男性と勘違いされた挙句告白寸前の状況にまで陥った、リューとしてはあまりいい思い出のない名前でもある。

 

ただそんな嫌な記憶を抱え、嫌そうな顔をしながらもリューはそのシルの提案の利点欠点をすぐさま見抜いて見せた。

 

「男装…確かにオラリオに再び戻るにはそれくらいの偽装は当然必要です。ですが実在する人物の偽名で調査して結論を出すまでの間誤魔化せるでしょうか?以前は一夜のみの偽名でしたが、真実を知るにはそれなりの時間が…」

 

「あぁ。その点なら大丈夫。マクシミリアン伯はフェルナス伯領の伯爵で白聖石の山を掘り当てたおかげでカジノで豪遊できるまでになった…という設定を前使ったよね?どうやらそのせいでつい先日隣国にその利権を巡って侵攻されて国は滅亡。マクシミリアン伯本人も奥さんのシレーネ夫人と一緒に行方が分からないまま。恐らく戦闘に巻き込まれて亡くなったんだと思う。」

 

「つまり私とシルがその二人を装うことは可能…いえ。それどころか国の再興の支援の要請を名目にギルドに接近する機会も得られるのでは?」

 

「あっ…そこまで考えてなかった…前の時の成功にあやかれたらなぁ…とかリューの男装もう一回見たいなぁ…というぐらいで…てへっ。」

 

「てへっ…ではないですが、ともかくシルの提案は理に適っています。ギルドに接近すれば情報の集まりも早いでしょうし、まず私の投獄に直接関わったと分かっているのはギルド長ロイマン。ギルドから情報を得るのは必須です。その偽名は有効に生かすことができるでしょう。」

 

シルの詰めのない策にリューは呆れながらもシルの策がシルの予想以上に役立ち得ると考えたリューは満足げにそう言う。ただふとリューは新たな懸念を思い付く。

 

「ただ…旅費などの資金はどうするのですか?ギルドと接触を取ろうにもかなりの資金が必要になるような…」

 

「その心配はしなくて大丈夫。私がリューの必要な資金全部工面して見せるから任せて!」

 

「…その自信は一体何処から出てくるのですか?まさか違法に調達を?」

 

資金面を心配するリューにさらりと自信げに問題ないと言ったシルにリューは疑惑の目を向ける。それにシルは鋭く返した。

 

「そう言うリューだって法とか今までほとんど気にしてなかったよね?例えその行為が人助けで正しいとしても、ね。そのリューの理論だとリューを助けるためにお金を集めるんだったらいいということにならないかな?」

 

「うっ…」

 

過去のリューを持ち出して指摘するシルに自らの過去を鑑みると批判することができないと悟ったリューは口を噤む。そんなリューにシルはニコリと微笑んだ。

 

「うーん…時が来たら分かる、と言っておこうかな?少なくともリューが嫌がるような方法で集めるわけではないのは約束するね。とにかく幾らでもお金なら工面できるから心配しないで!」

 

「はぁ…時が来れば…ですか?…分かりました。お願いします。」

 

「それでよし!リューは今はこれからのことだけ気にしていればいいよ。」

 

リューの納得した様子にシルは満足げに頷く。そしてリューはまだ懸念があるかと考えたが、特段今は思い浮かばないので早速行動を起こそうと決める。

 

「では早速準備を整えましょう。すぐにでもオラリオに向かいます。」

 

「もぅ…そんなに焦らなくてよくない?…と言っても聞かないもんね。リューは。」

 

「私の意志を尊重すべき、とシルが仰るならば。そして一応私としては傷などが癒える前にオラリオに到着した方が国が滅び命からがらオラリオに逃げ延びた、という設定に現実味が帯びるかと思いますが?」

 

「うーん…リューの体調を考えれば、止めるべきだけど…わかった。リューの言う通りだよ。すぐに準備しよう。辛かったら手伝うから言ってね?」

 

「ええ…きっと大丈夫だと思いますが。」

 

そう言ってリューはベッドから降りて立ち上がろうとする。そんなリューを気にかけながらシルもまた準備のため腰を上げる。

 

だがその時シルはふと気づく。

 

準備とは何をするのだ?ほとんど持ち寄る物もないのに?

 

そうシルが疑問を抱く一方、リューは一度辺りを見回す。それからシルの方を見るとポツリと呟いた。

 

「…準備すること…あります?」

 

「…特別ないような…あっ!」

 

「あぁ…」

 

シルが何か閃いたという表情を浮かべた瞬間ニヤリと笑ったことでリューは一つちょっとだけ厄介なことが一時的に頭からすっぽり抜け落ちていることに気付いた。

 

 

「リューは男装しなきゃ!」

 

 

 

⭐︎

 

 

 

「…本当にこれだけでバレないものなのでしょうか…?」

 

「さぁ?運次第?」

 

「…かもしれませんね。」

 

場所は迷宮都市オラリオの城門前。

 

そこには馬車に乗った商人や冒険者志望らしき軽装の若者などが長蛇の列を作っている。

 

その中に馬を引きながら並ぶ二人の男女がいた。

 

男は土埃や血で薄汚れたタキシードを纏っていて、その左目には眼帯がされている。眼帯にその顔の一部を隠されているものの見るからに美形の青年であることが見て取れ、その風貌は周囲の視線を引き寄せずにはいられない。だが男は厳しい表情を浮かべて辺りを警戒し、その隠されていない右目が発する鋭い眼光はその集まる視線を散らすのに役立っていた。

 

一方の隣に立つ女の纏うドレスもまた土埃で汚れているだけでなく胸元やスカートの部分に破れが見受けられる。それがまた妖艶さを醸し出し周囲の視線を集めそうだったが、隣の男の眼光が光っているため彼女を見ようとする者は少ない。それに気付いて安心しているのかは分からないが、彼女はずっとニコニコしながら隣の男との談笑を楽しんでいるようだった。

 

その男女の正体は言うに及ばずリューとシルであった。

 

「…シルが散々お楽しみになった成果であるこの男装。役に立って頂かなければ、困ります…」

 

「ふふん。私の自信作だよ?バレるわけないと思うなー」

 

リューのボソリと呟いた嫌味をシルは笑顔で受け流す。そう嫌味を零すリューもそれほど嫌そうな表情を浮かべているわけではなかった。

 

以前と同じくリューの男装を監修したのはシル。以前と同じようにリューを弄って楽しんでいたわけであるが、それがリューに少しでもその瞬間だけは色々忘れて笑顔になってもらえたら…と思って、試行錯誤をしていたことはシルだけの知る秘密である。

 

「それにしても…こんなに警備が厳しいものでしたか?オラリオの外を出入りしたことはあまりないので分からないと言いますか…」

 

リューの言うように視線の先では【ガネーシャ・ファミリア】の団員が検問に立ち、怪しい者を見定めてはどこかへ連れ去っていた。その検問の厳しさがこの長蛇の列を作っているのは見るからに明らかである。リューの記憶にあるオラリオを初めて訪れた時の検問ではここまでの警戒はなされていなかった気がリューはしていた。そのリューの疑問にシルはさらりと答える。

 

「まぁ私達がオラリオを脱出してから一カ月経ってないからね。もしかしたら私達が生きているのを疑っているのかも。」

 

「…それもそうですか。…やはり動くのが早すぎましたか?ただこの偽名を用いるなら今を置いて時は他になかったですし…」

 

リューは早々にそう弱音を吐くように呟く。それがリューの決断に対する自信のなさの表れと感じ取ったシルはリューに言う。

 

「リュー?リューの判断は間違ってなんかないよ。自信持たないと。素直なリューは心の動揺が顔に出ているのがばれちゃうかもしれない。そうなると検問の人にも疑われやすくなっちゃう。何か隠してるんじゃないか、ってね。もっとビシッとしないと!」

 

シルはそう言ってリューの背を優しくポンと叩く。

 

それに頷いて応えたリューは心に言い聞かせた。

 

 

シルの言うとおりだ。私は何を躊躇している?

 

自らの命がオラリオに帰還することで危険に晒されること?いや、私はいつだって死を覚悟してきたはずだ。今更死など怖くはない。

 

なら真実を知ることか?

 

誰が裏切ったのかを知るのが?

 

いや、私はそれに恐れなど抱いていない。大切な人々の命を奪った者達のことを知らずにいようだなどと私は決して思いはしない。復讐を躊躇しようとその者達への冷たい怒りは今も心の奥底で燻り続けている。その真実が復讐に値するものであれば、躊躇なく復讐へと身を乗り出すであろう。

 

なら私が復讐に再び身を墜とすのが怖いのか?

 

私は自身にそう問いかけると答えに詰まる。

 

そう。

 

私は怖い。

 

再び復讐に身を墜とすのが。

 

過ちを繰り返すのが。

 

親しい人々だけでなく無関係の人々を苦しめる結果を招く行いを再び行うのが。

 

だが復讐が過ちだと決めつけるのはまだ早い。

 

私を嵌めたのが私を投獄していたギルドである可能性は高い。オラリオを事実上統括するギルドが冤罪を黙認するなどという悪行を成していたならば、多くの人々にも被害が及んでいる可能性は十分考えられる。ただでさえギルド長ロイマンは闇派閥(イヴィルス)と内通し暴利を貪っていたのである。ギルド全体が腐敗している蓋然性は高い。

 

ならば私が復讐を行うのは過ちか?

 

いや、人々を守るための正しい行いに成り得ると私は断言する。

 

となれば私は何を気を付ければいいか。

 

それは真実を見誤らないこと。

 

無関係の人々を苦しめる結果に繋がらないようにすること。

 

その二つこそ私が過去の復讐から学んだ正すべき点。

 

私はそのために自らの意志で自らの決断で行動していかなければならない。

 

その行動を規定するのは何か?

 

それは私の正義。

 

シルの指摘通りその正義は今までアストレア様やアリーゼの語った物を受け売りにしてきた。それはシルの言う通り自らの意志で行動していたとは言い難いのかもしれない。

 

ならば私の正義とは何か?

 

それはオラリオに着くまでの道中ずっと考えてきた。

 

それが私の未来を規定する重要な要素だと思ったから。

 

為すべきことを判断する材料になると思ったから。

 

だが思うように明確な答えは何時まで経っても出ない。

 

それも当然だと途中でようやく気付いた。

 

私にはアストレア様やアリーゼが語ったような高尚な正義などもともと持ち合わせていなかったから。

 

その高尚な正義が私の正義(希望)になると思い込んでいたから。

 

ただそれは私の本当の正義ではない。

 

私の行動を振り返ってみれば、私の本当の正義はもっと単純で簡単で一言で表せるものだったのだから。

 

 

それは目の前の困っている人を助けること。

 

 

いくら他人の正義を自らの正義のように語ろうと私の正義の本質はその程度のものでしかない。

 

ただ目の前で困っている人を助けたい。

 

それだけだったのだ。

 

無理に高尚に語ろうとするから身の丈に合わない自分を肯定もできないし、判断を誤りもする。

 

それに気づいたはずだ。私の才能ではすべての人を助けることなどできないことも。

 

だからそれを踏まえて私は決断を下していかなければならない。

 

そのことに合わせた正義に基づいて行動していかなければならない。

 

せっかく偽名を用いて私ではない者に成りすまさなければならない時。気が進まない男装までして命を懸けてオラリオに舞い戻ろうとまでしているのだ。

 

これを機にもう背伸びをして無理を繰り返すリュー・リオンには別れを告げなければ。

 

私はそろそろ変わらなければならない。

 

これ以上過ちを繰り返さず周囲を苦しめない成長した私へ。

 

 

そうこう考えていると気づけば、行列はかなり前に進んでいて、仮面をつけた検問に就いた【ガネーシャ・ファミリア】の団員が目の前にいた。

 

「おい。そこの男。名を名乗れ。」

 

リューはすぐさまその問いに答えた。

 

過去の自分と決別するため、幼かったリュー・リオンと決別するため力強く答えた。

 

 

「私はアリュード・マクシミリアン。フェルナスの伯爵です。」




タイトル通りアリュード・マクシミリアン伯誕生!

変わる変わると言ってますけど、無謀さはもはや持ち味なので手放せないリューさん。

オラリオに帰還したリューさんは自身の正義を見つめなおした今どう行動していくのやら…
(というかカッコよく締めたけど、検問突破できるの?というそもそもの疑問をリューさんは忘れてますが。)
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