アリュード・マクシミリアン伯ー妖精麗人の愚直なる復讐ー 作:護人ベリアス
最近執筆をスマホからpcに変えたので慣れてなくて少々誤字が増えてる…のかもです。一応一度添削はしてるんですがね…
「さて改めて交渉を進めさせていただきましょうか。」
副ギルド長を名乗ったエイナ・チュールはミィシャとアイズが退室するのを見届けると彼女達の座ってたリューとシルの向かい側のソファーに腰を下ろした。
「ただ失礼ながらその前に…アリュード伯爵に一つ伺ってもよろしいですか?」
「…何でしょうか?」
言葉を選ぶように尋ねてきたエイナにリューは気を引き締めながらその求めに応じる。
エイナはリューが求めに応じたのを見て、鋭い視線を向けながら間を置かず尋ねた。
「以前私とどこかでお会いしたことはありませんか?」
エイナの単刀直入な問いは、リューとシルに極度の緊張をもたらした。
リューとシルはエイナが二人の正体に早くも気づこうとしているのではと警戒せずにはいられない。
だが気づいていれば、すぐにでも捕えてしまえばいいものをそれをする気配はない。中途半端とも言える対応は二人の緊張を少しはほぐすのに役立つ。
それでもリューは警戒を解かず言葉を選びながら答えた。
「…はぁ…記憶にございませんが、なぜでしょうか?」
「いえ…あなたと同じ鋭い視線を放つとある同胞に記憶がございまして。もうその者の死は確認されている以上あり得ないかと思われますが、つい気になってしまいまして…申し訳ありません。失礼なことを申し上げました。私の勘違いかと。」
エイナはそう言うとあっさりと引き下がる。
その言動にリューもシルも全く理解が及ばず心の中で困惑する。
アイズに続きエイナまで二人の正体に気付かず、変装してできる限りの万全な状態でオラリオに滞在しているとは言えここまですんなり行くのは実に奇妙なことと思われた。
ただリューは投獄されていた五年間エイナもアイズも牢獄を訪れた記憶はある限りはなく、シルも逃亡生活中は戦闘に加わらず後方で隠れていることが多かったため姿を見られた可能性は低い。
元々『豊穣の女主人』の店員時代も二人と接触がなかった二人の顔をこの五年間で完全に忘れてしまったのでは?と不確実極まりない結論を出すしかなくなる。
ともかくエイナにもアイズにも正体が気づかれていないなら御の字と考えることにして、リューは念のためエイナの記憶から疑いを消し去るために嘘を伝えることにした。
「もしかしたら…一度妻の願いでオラリオのカジノを訪れたことがあります。そこは確かギルドが運営に携わっていたはずです。そこでもしかしたらお会いしたのかもしれません。」
「あっ…そういえばそんなこともありましたわね。あなた。でも私のお願いではなくて、オラリオの方から招待状が来たんですわよ?そこは間違えないで欲しいですわ。」
「そういえば…そうでしたか。」
「もうぅあなたったら!」
リューの嘘にシルも加わって、夫婦の痴話喧嘩まで装ってその嘘に信憑性を与えようと試みる。その茶番をエイナは不審さを拭えないような視線を向けながらも小さく息を吐くと言った。
「なるほど。もしかしたらそこでお会いしたのかもしれませんね。ちなみにそのカジノの名前も教えていただけますか?」
「…エルドラド・リゾートですが、それがどうかしましたか?」
「…いえ。申し訳ありません。脱線が過ぎましたね。要請に関してに話を戻しましょうか。」
「…ええ。もしあなたの疑念が晴れたのならば是非。」
「大丈夫です。これはあくまで個人的事柄なのでお気になさらず。」
エイナはそう言うと仕切りなおすように小さく咳ばらいをした。
その様子に何とか正体が露見するのは阻止できたらしいとリューとシルは感じ取る。
だがエイナの不自然な言動に不安は拭いきれはしなかった。
「それで…アリュード伯爵の祖国奪還のための支援に関してですが、先程フロットが申したでしょうが、現在ギルドはオラリオ外に冒険者を出すことを固く制限しています。…どうやら彼女はかなり機密までお話ししてしまったようですが、先日オラリオの治安を乱すお尋ね者が蜂起し、それへの警戒のためでした。その警戒はもうしばらく続けなければなりません。」
「なるほど…ただそのお尋ね者は先日全滅したとお二人からお聞きしましたが?オラリオの冒険者はオラリオ外では千人力も等しいとか。報酬は祖国を奪還し次第速やかに正当な額を差し上げるつもりです。それでも早急にはお出しいただけないのですか?」
「申し訳ありません。かの者達はオラリオの有力ファミリアからの離脱者を集めて、謀を企んでいたようで、ギルド側も正確に構成員を把握できていないのです。そのため油断した隙に残党が再蜂起する…などという可能性も捨てきれません。なので警戒を私達も解くことができないのです。よってこの一件の完全解決が確認できるまでは、少なくともアリュード伯爵が望まれるほどの戦力をお貸しすることは厳しいものだとお思いください。」
エイナの語りからリューは尋常ではない警戒を読み取る。
それだけミアが『豊穣の女主人』で雇っていたリュー自身を含む訳ありの者達の存在はギルドに緊張を与えていたと気付かされる。
確かに【フレイヤ・ファミリア】元団長であったミアを始め【アストレア・ファミリア】元所属のリュー、元暗殺者のクロエとルノア…と異様なまでの実力者揃いは警戒を呼び起こさざるを得なかったのかもとしれない。
冤罪で嵌めたことは許す余地は寸分もないが、その感じていたのであろう恐怖は多少は鑑みる必要があるのかもしれない。
そうリューは冷静に考えた。
ただリューとシルの知る限り残党など存在せずあの脱出の日に皆命を落としたのは確実で、そもそもの話今の二人はその『お尋ね者』とは無関係。これ以上の詮索は不要と、リューは偽りの立場のみを考慮した回答を用意した。
「…力を失った私達はオラリオの冒険者の力のみが頼り。どうしてわがままが言えましょうか?その一件の早急な解決を願うばかりです。」
リューはそう力を失ったように沈んだ振りをして告げる。それにエイナは居住まいを正して言いなおした。
「アリュード伯爵。ここは勘違いいただきたくないのは、オラリオは決してあなた方を見捨てたわけではありません。この一件が解決した暁にはお望みの戦力をお貸ししましょう。もちろん相応な報酬はいただきますが。」
「当然です。そのお言葉を聞けて非常に安心いたします。副ギルド長を信じさせていただきましょう。」
「ありがとうございます。ただ早急に、とはいきません。当面はオラリオに滞在して頂かざるを得ないでしょう。よってその間の生活費等はギルドが保証いたしましょう。時間を頂くお詫び、と受け取って頂ければ結構です。」
「「本当ですか!?」」
エイナの申し出にリューとシルは顔を見合わせて喜びを浮かべる。これは演技ではなく本心から喜ばしい申し出だった。
現状隠れ家に隠してあった資金を回収に行くのがアイズのお陰で危険を伴うものとなっていたため、調査費や交遊費となる資金繰りが正直不安要素となっていたのだ。
だがその資金をギルドが出してくれるという。
単に資金不足が解消されるどころか仇の疑惑のある者達の資金でその証拠を暴くというのは何とも滑稽な話で、もしそれが許されるなら是非ともと言ったところだった。
「ええ。もちろんです。生活に何一つ不自由のないような環境を提供させていただくと約束します。それで早速ですが、現在はどこにご滞在なさっていますか?」
そのエイナの問いに一瞬リューは言葉を詰まらせる。
なぜなら自ら居場所を伝えては万が一の時対処できない可能性があったからだった。
だがシルはリューに目配せして問題ないと暗に伝える。
それでリューはシルの承諾もあり、素直に場所を伝えることにした。
「今はダイダロス通りの【剣姫】にご紹介いただいたとある宿に…」
「ダイダロス通り!?あのような所をなぜお選びになったのですか!?あそこは貧民の住む治安の良くない街!そのような場所にお二人に滞在して頂くなどあってはならないこと!すぐにでも別のもっと整った宿泊場所をすぐにでも手配させていただきましょう。」
そう言いかけたところエイナは大きく驚いて見せる。
確かに伯爵夫妻たるものが貧民の住む治安の悪い街に滞在するなど普通考えられず、その驚きは至極普通のものと言えた。
だがリューからすれば、貧困に苦しんでいる人々の住む場所をその悪環境を改善する立場にあるエイナが『あのような場所』と表現するのは些か看過し難いことだった。
「…『あのような場所』?その表現は少々違和感を覚えますね。本来ギルドの職員が悪環境の改善に尽力すべきものを単に軽蔑を示すとは…如何なものでしょうか?」
「ちょ…あなた!」
「…ギルドの役割は冒険者を助けることを第一としていますので。それにしてもアリュード伯爵は先程から非常にオラリオの現状にご興味があるようで。はたまた何故でしょうか?」
「…かつて国を統治した身として民や街の生活を考慮するのは当然…という回答では足りないでしょうか?」
不快感を覚えたリューはやはり抑えられなかった。シルがリューの暴走を止めようとするもエイナがその態度を批判されたことに苛立って応酬してしまったため、それにリューも反撃する。
雰囲気がまずいどころかエイナに無用な不快感を与えることになりかねない。そう即断したシルは一度仕切りなおすように手を叩くとエイナとリューの応酬に介入した。
「お二人とも。ここは本題に戻りましょう。副ギルド長さん。夫は祖国にいた頃も街を定期的に巡察するほど国の皆さんが不自由のないように気を配る方でした。それでダイダロス通りの方を見て心を痛めているのです。その点をご理解いただきたいです。そしてあなたは副ギルド長さんに怒りをぶつけても意味はないですわ。そもそも私達はギルドから力を借りる身。そのような態度ではまずいと思いません?」
「…なるほど。アリュード伯爵のお立場はよく理解いたしました。さぞお国では名君だったのでしょう。」
「…シレーネの言う通りです。先ほどは失礼をいたしました。…お詫びいたします。」
「…いえ。ダイダロス通りの環境改善に関しても検討してみましょう。」
エイナは不快感を込めた嫌味を呟く一方リューは自らがまたミスを犯したことに気づき、素直にエイナに謝罪を口にする。
それにエイナはリューの事を慮ったような回答を返すが、リューにはそれが社交辞令にしか聞こえなかった。それでも額面上の回答に満足した振りをリューはしなければならないとリューは自分自身に言い聞かせる。
「…ええ。もし可能ならばダイダロス通りに住む人々のために是非。」
「もちろんです。私達はオラリオのことを誰よりも考える者ですから。…では話を戻しますが、もしアリュード伯爵の愛着があるようなダイダロス通りにどうしても滞在なさりたいならお止めしませんが、如何なさいますか?」
リューはその問いに即答するのは控えた。ギルドの提供した宿泊場所に留まるということは、ギルドに逐次動きを把握されると同義。それは望ましいことではない。だが断るのも不自然さを伴うだろう。
そう迷っているとここでもシルが代弁した。
「ぜひお願いできますか?私祖国から逃げてきて以来きちんとしたベッドでゆっくり休むこともできなかったんです。もし副ギルド長さんが手配してくださるならぜひお願いしますわ!」
「シッ…シレーネ!どういうつもりですか?」
「いいでしょう?あなた?私あんな場所に泊まるの嫌だもの。別に私達のあんなことやこんなことを見られても何も問題ないのではなくて?ね?むしろ私は見せつけたいぐらいですわ!私とあなたの愛の深さを、ね?」
「…シレーネ…」
シルの意味深げな物言いにリューは溜息をつきたくなる。
ただシルの言う『あんなことやこんなことを見られても』が『監視されても』を暗に示し、監視されていたとしても問題ないことを伝えようとしているのはリューにも察することができた。
さらにエイナに監視を配置することへの牽制までしたようにも聞こえることにリューはシルの深謀遠慮に舌を巻かされることになった。それでリューはエイナの提案を受け入れようと決めようとする。
一方のエイナはと言うとシルの物言いの如何わしさに何か思うところがあったらしく咳払いをした上で付け加えた。
「…シレーネ夫人もこう仰られています。祖国奪還前に体調を崩されるのはよろしくないでしょう。提案を受け入れていただけませんか?」
「分かりました。副ギルド長の提案をお受けさせていただきましょう。よろしければ場所をお聞きしても?」
「ええ。もちろん。よい宿泊場所をお教えしましょう。」
こうしてエイナに不信感を与えてしまった可能性を残しながらもリューとシルは新たな資金と滞在拠点を獲得することができたのである。
ただ少しずつ明らかになる闇にどう向き合うか。
その準備を未だリューは整えられていない。
復讐云々は放置して気づいてしまった目の前の困った人のために怒りをエイナにぶつけるリューさん。この短絡的思考がリューさんの欠点かつ美点だと思ったり。
あと先に言うとリューさんオラリオの冒険者ほんとに借りれたらどうするの?という疑問があるでしょうが、それは後々触れるので放っておいてくださいね!