アリュード・マクシミリアン伯ー妖精麗人の愚直なる復讐ー   作:護人ベリアス

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過去の罪は何を意味す

「実は私達はフェルナスの伯爵夫妻ではなく『豊穣の女主人』の従業員…そして私はかつて【疾風】という二つ名で呼ばれていた女です。」

 

 

覚悟と共にアンナにそう告げたリュー。

 

リューの告白にアンナは大きく目を見開き、絶句したような表情を浮かべる。

 

「【疾風】…【疾風】ってあの…」

 

「ええ。…どのような印象を抱かれているかは分かりませんが、あの【疾風】です。」

 

絶句したまま硬直しているアンナにリューは厳しい表情を浮かべる。

 

リューはあの五年前に騒動を起こした【疾風】でお尋ね者とされている『豊穣の女主人』の関係者であると告げた。

 

それで恩返しの気持ちが消えてしまうならそれでもいい。

 

もしその気持ちがせめて温情へと変わるなら今後起こすかもしれない行動を黙認してほしい。

 

だがリューが広場に引き出されて受けた仕打ちを考えれば、アンナにさえも恨まれている可能性は高い。

 

それだけの過ちを犯してしまったことはリューにだって自覚がある。

 

…だからできればギルドに真実を報告してほしくないが、アンナがそうすべきだと思うなら致し方ない。

 

そんな覚悟でリューは告白したのであった。

 

一方のシルは呆れ顔でリューの行動に呆れているようだが、その一方でアンナの反応に少々の期待を抱いていた。

 

そしてしばらくの間硬直していたアンナはようやく答えた。

 

 

「えええええ!?!?じゃあつまり私をあの時助けてくれたのは【疾風】様だったのですか!?!?」

 

 

それも素っ頓狂な大声を上げて。

 

思わずリューとシルの方がびくっと驚いてしまう。

 

だがアンナの口から『【疾風】様』という二人からすれば奇妙な呼称をリューは聞き逃さなかった。

 

「…【疾風】様?そんな敬称で呼ばれるような印象を持たれているとはとても…」

 

そう自虐も混ざった呟きにアンナはブンブンと首を振る。

 

「とんでもない!【疾風】様は何年も前から困っている方に手を差し伸べ、強きをくじき弱きを助けてくださる義賊のようなお方と誰もが噂しています!私には記憶はありませんが、かつて正義とオラリオの平和のために戦ってくださった【アストレア・ファミリア】のもとで活躍までされたと聞いています!ずっとオラリオの外の伯爵様が助けてくださったのがなぜか分かりませんでしたが、【疾風】様だったのなら納得です!やっぱり【疾風】様は生きておられたのですね!」

 

アンナの恐ろしいまでのべた褒めにリューもシルも思考が追い付かない。リューはとりあえずアンナの認識をきちんと理解すべく質問を加えた。

 

「あの…アンナさんの認識がなぜそのようなものなのか分かりませんが、私は大変な過ちを犯したことを自覚しています。なのにそのように褒め称えられるのは理解できません…恨まれるのは当然の如く理解できますが…」

 

そう言いつつリューはかつての広場でのことを思い出す。

 

あの人々の様子を見る限りリューはかなり恨まれている。そんな自覚はあった。

 

だがアンナは別の視点を提供した。

 

「あー冒険者や商会、ギルドの方はそうかもしれません。【疾風】様に悪事を暴かれて散々な目に遭っているので。ですが少なくとも私達のような普通に生きるみんなは【疾風】様のお陰で生活が良くなりました。皆【疾風】様がギルドに投獄されたと聞いた際は表立っては口にはできませんでしたが、強い怒りと悲しみを覚えました。あの時ギルドはダンジョンでリヴィラの街の冒険者が大勢殺害されたことを【疾風】様の罪と公表しましたが、実はその冒険者達も悪事を働いていたのではなくて?本当は【疾風】様や『豊穣の女主人』の方々がギルドの不正に気付いてしまったためにあのような目に遭われてしまったのではないのですか?」

 

「えっ…いえ。そもそも私が闇派閥(イヴィルス)の残党を除き冒険者達を殺害したというのは冤罪だと断言はさせていただきます。ただ確かにギルド長の悪事をかなり前から知ってはいましたが…実は私自身嵌められた理由を十分に理解できていないので…」

 

リューはそう言って事情をリューよりは知るであろうシルに視線を向ける。

 

だがシルも困惑したまま答える。

 

「…実はリューは投獄されてて、私達も逃亡生活しててでよくこういう事態に陥った理由が分かってないんだ…」

 

二人の回答に二人が少なくとも義賊的活躍がギルドの弾圧につながったという噂は嘘だったらしいと分かったアンナは少々沈むが、それでも気を取り直すように言った。

 

「そうでしたか…まぁ私達の知るのはあくまで噂ですからね…ただとにかくなお一層私がお二人をギルドに売るような真似はしません!どうしても信用出来ないと仰るならば、今すぐ街に出て【疾風】様や『豊穣の女主人』の方々の印象を聞いて回りましょうか?確実にギルドや冒険者の方々のお話とはかけ離れた話をお聞きできるはずです!」

 

「…そこまで仰るなら…シル?」

 

「…うん。分かった。アンナさんを信じることにしようか。」

 

「ありがとうございます!精いっぱい努力させて頂きます!」

 

アンナの熱い語りにリューはシルに目配せしてこれ以上疑うのはやめようと伝える。

 

それに降参したようにシルはアンナを信じることに決め、アンナは花を咲かしたような笑顔で礼を告げた。

 

そしてアンナは信頼を勝ち取ったと見たからか話を早速進め始める。

 

「それでお二人は危険を顧みずオラリオに戻ってこられた…ということはギルドなどで悪事を働く者達に鉄槌を下しに来られたのですか?もしくはお二人を嵌めた犯人を見つけて、それ相応の罰をお与えになるとか?これからどうなさるおつもりなので?」

 

アンナの問いに今度はシルがリューの方を見る。

 

アンナからすれば、オラリオに戻ってきた以上何か目的があり、それがやり残したことを果たすことだったり、復讐だったりと想像するのはある意味普通だったかもしれない。

 

ただリューはまだ何をすべきか何をしたいかというのも不明確というのが現状。

 

リューは少々困った様子でその問いに答える。

 

「…まだ真実が明確に分かっていない以上これから何をするかなどは全く決めていません。真実を知った上で何をするかをその時に考えます。」

 

「…え?何をなさるか決めてないんですか?」

 

リューの問いにアンナは驚いた様子を見せる。

 

アンナの知る【疾風】はかなり理想化された人物像。

 

まさかリューがこうも迷い間違えポンコツで…だなどとは思いもしなかったのだろう。

 

そんなアンナに苦笑いしながらシルは言った。

 

「…まぁリューは直感とかその時の感情とかで動いたりするから…アンナさんを助けに行った時も目の前で困ってる人を助けたいーっていうただその一心だったみたいだし。」

 

「そう…なんですか?」

 

「…恥ずかしながら私はその程度の器の者ですから。私には感謝される資格などありません…」

 

シルの説明にリューは沈んだ様子で答える。

 

シルの指摘はリューの過ちに繋がり、リューが強く反省するところでもあったからである。

 

ただリューをそんな表情にさせたいという意図があったわけでないシルとリューへの尊敬の念が尽きないアンナはリューに伝える。

 

「まっ…それがリューの良さでもあるからね。私は間違えながらも真っすぐ進んでいくリューが好きだなー無謀でもなんでも最後はリューは正しい選択肢を選べるから。ね?リュー?」

 

「【疾風】様のことは詳しくは知らない身ですが…あなたのお陰で数多くの救われた方がいます。あなたに感謝する方がいます。だからご自分にもっと自信を持ってもよいかと思います!ギルドや冒険者の方が否定しようとも【疾風】様が行ってきたことは、間違えなく彼らよりも正しく素晴らしく多くの方々が感謝し、お慕いしたくなるようなことだったのですから!」

 

「シル…アンナさん…」

 

シルとアンナが笑顔と共に送ってくれた励ましにリューは少々の自信を与えられた気がした。

 

それと同時にそれだけの自身への信頼を与えられたとも捉えたリューは、真実と向き合った際に誤った判断をするわけにはいkないと強く心に誓う。

 

そしてリューは二人の励ましに応えた。

 

「ありがとうございます。シル。アンナさん。そしてお二人には私が間違えた時でも過ちを正せるようお支え頂けませんか?」

 

「もちろんだよ!リュー!」

 

「私などがお役に立てれば是非!」

 

リューの求めに二人は笑顔で応じてくれる。

 

そんな二人の反応に深く感謝を覚えるリュー。

 

その一方でアンナに問われた今後を不鮮明にし続けることは色々と問題があるとアンナの問いからも判断したリューはなすべきことを見定めるためにアンナに情報を求めた。

 

「それでアンナさん。いくつかお尋ねしてもよろしいでしょうか?今の私達はオラリオの現状にあまりに疎いので…」

 

「はい!どこのファミリアが悪そうかとかどこがギルドと繋がっているかとか噂を信じてくださるならお教えできますよ!」

 

「え?アンナさんそんなこと分かるの?」

 

「私の両親の店にもそれなりに商人の方が出入りなさっているので多少は、ですけどね。例えば五年前から都市最大派閥は【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】ですが、この五年で規模は小さいながらダンジョンでの実績とギルドとの親密さでは【ヘスティア・ファミリア】が抜きんでていますね。…確かお二人の事件にも関与していた記憶がありますが…」

 

「え?【ヘスティア・ファミリア】が!?」

 

シルとアンナは質問をしようとしていたリューを放置してポンポンと話を進めていく。

 

本当は別のことを尋ねようとしていたリューであったが、二人の会話が進む中リューには二人の会話を遮って自分の質問に話を引き戻す精神的余裕はなくなっていた。

 

 

【ヘスティア・ファミリア】と言う名に意識を奪われていたから。

 

 

アンナが最初に【ヘスティア・ファミリア】と言ってしばらくからはもう二人の会話はリューの耳に届いていなかった。

 

【ヘスティア・ファミリア】がダンジョンで実績を挙げ続けている。

 

これはリューがベル達【ヘスティア・ファミリア】を巻き込まず、ベルの立場を危険に晒さずに済んだということ。

 

それは一人でも少なく自身のせいで苦しむ人が少なくあって欲しいリューにとっては望ましいこと。

 

だがギルドと親密であの一件に関与していたというのであれば話は大きく変わってくる。

 

【ヘスティア・ファミリア】のメンバーないしはベルがリューの生存を密告し、この陰謀を企てたとも考えられるからである。

 

 

まさかベルが?

 

 

リューの頭にはそんな推測が思い浮かぶ。

 

ベルは少なくともリュ-を助けに来なかった。

 

リューを見捨てた。

 

ならば最初からリューを愛してなどおらず、邪魔だったが故にリューを嵌めたのでは?

 

それでギルドの信頼を勝ち取り、一石二鳥…

 

そんなシナリオもリューには考えられた。

 

その一方でベルはそんなひどい仕打ちをしたりはしない。

 

ベルはリューを愛していた。

 

そう囁く自分も心の中にはいる。

 

憶測がリューの頭で飛び交うも答えは当然でない。

 

そもそもリューの考えるべきことはそこにはない。

 

そう冷静に何とか判断できたリューはぴしゃりとその思考を打ち切った。

 

リューが今考慮すべきは【ヘスティア・ファミリア】でもベルでもない。

 

考慮すべきはギルドが悪事を働いているか否か。

 

その悪事を正すために動くことが間違えかどうかを見極めること。

 

副ギルド長のエイナとの対談で抱いた怒りとダイダロス通りで苦しむ人々への憂慮は自らの恨みや関心などよりも重きをなさなければならない事項である。

 

そう今のリューは考えを引き戻すことができた。

 

変わると決めた以上リューはその必要な考慮を乱されるようなことを自制することを少しずつ覚えていたのである。

 

リューは自身を放置して会話を進める二人に待ったをかけることにした。

 

「シル。アンナさん。今ファミリアの勢力状況などには興味はありません。それより私の質問に答えていただけませんか?」

 

「…興味ない?」

 

「えっ…あっはい。すみません。ご質問とは何だったでしょうか?」

 

リューが突然二人の会話を遮ると、シルは怪訝な表情を浮かべる一方アンナは申し訳なさそうにする。

 

アンナはともかくシルはリューも少なからず【ヘスティア・ファミリア】のことが興味があるだろうと踏んで会話を進めていたつもりだった。

 

だがリューは上の空などころか興味ないと言ってのけた。

 

何かリューに感情の変化があった。

 

それを感じ取ることはできたが、シルでもその詳細まで読み取ることはできず、それ以上の追及は控えリューに会話の主導権を譲り静かにすることにした。

 

「私がお尋ねしたかったのは、ダイダロス通りの現状。私の目からはあそこに住む人々が貧困に苦しみ、誰からの支援も受けられていないように見えました。ギルドや【ガネーシャ・ファミリア】はどのような対策を執っているのか。かの人々は何に苦しんでいるのか。私はそれを明確に知りたいです。」

 

「…ダイダロス通り…ですか?」

 

アンナはリューの問いに不思議そうな表情を浮かべるが、ハッと何かに気付いたようだった。

 

「あっまさかダイダロス通りに何かギルドの不正の証拠が隠されているのですか?それでダイダロス通りにご興味が?確かにダイダロス通りはギルドは完全に見捨てているように見えるのは、そこに何かを隠したがっているのかも…」

 

「いえ…そうではなく単にダイダロス通りの現状が知りたいのです。」

 

「えっと…私達のような者はダイダロス通りに入ればまず帰ってこれないような迷路に治安なのでほとんど立ち入らずその現状はあまり知らなくて…ただ少なくとも言えるのは、ただでさえ五年前以来ギルドは冒険者への優遇を強化して、私達のような冒険者ではない人への待遇が悪くなったと思えるほどです。お陰で冒険者の暴力沙汰などが増えたように感じます。それはそれなりに【ガネーシャ・ファミリア】が抑えてくれているのですが…ダイダロス通りだと私の知る街以上に酷いかもしれません。」

 

「うーん…どうやら問題は興味のあるダイダロス通りだけではないみたいだけどどうする?」

 

リューはアンナの説明を頭で整理しながらシルの問いへの答えを導こうとする。

 

一度歩いたダイダロス通りの惨状は見ていられないものがあった。

 

それに気づいてしまった以上リューはそこに住む人々を助けないという選択肢はない。

 

だがリューには何をすべきか、それが分からない。

 

アンナもダイダロス通りの現状をよく知らないと言うし、まずダイダロス通りだけでなく冒険者以外の人々に少なからぬ我慢が強いられていると聞こえる。

 

あの【ガネーシャ・ファミリア】が治安の乱れを見過ごすとは考えにくいが、リューは冤罪で連行されているし、ギルドとの親密さでは随一なのは変わっていないだろう。

 

ならばギルドに便宜を図っている可能性は高い。見過ごされる事件も存在するのだろう。

 

そんな見過ごされた事件の解決に関わったのが【アストレア・ファミリア】だった。

 

だがその【アストレア・ファミリア】はもうない。

 

つまりは誰もそんな見過ごされた事件を解決する者はいなくなった。

 

故にその生き残りと目されたリューが義賊として神聖化されるにまでなったのだろうと自分で結論を出す。

 

その神聖化は裏を返せば、それだけ冒険者以外の人々も不満を覚えているということ。

 

それは困っている人々はダイダロス通りにだけいるわけではないということになる。

 

そうなると再びリューがすべきことは多様化し、何をすべきかは不鮮明になる。

 

考えることが増えれば、間違えも増えるだろう。

 

そう判断したリューは答えを導き出した。

 

「…決めました。様々なことに手を出しても手に負えなくなる可能性が高いです。だから私はダイダロス通りの問題のみを注視することにしたいです。まずはそこに蔓延る問題を解決する。その中にもしギルドの悪事や怠慢があるならば…為すべきことは一つです。よろしいでしょうか?」

 

「分かったよ。リューがそうしたいと思うなら私は精一杯助けるよ。もちろん危険はできるだけ避けて、だけどね。」

 

「もちろんです!ダイダロス通りに特別思い入れはありませんが、【疾風】様のように私も誰かを助けるために生きたいです。だから私も全力で支えさせていただきます!当然ギルドの悪事を暴くのも辞さず、です!」

 

リューの問いにシルは釘を刺しつつ、アンナは舞い上がりつつその問いを承諾してくれた。それにリューは安心と満足を込めた笑みを浮かべて頷く。

 

「ありがとうございます。では明日ダイダロス通りに赴き、今一度その現状を確かめ為すべきこと探ることとしましょう。」

 

リューはそう結論を出して締めくくる。リューは最初に見つけてしまった困っている人々をやはり見過ごすことはできなかったのである。そこにはリューが自らの道を突き進もうとする意志が垣間見える。

 

ただ少しずつ自らの道を自分で決められるようになりつつあるリューであったが、そんなリューの成長を妨げるものがあることをリューは未だ明確に認識できていなかったのである。




リューさんが義賊と見なされている!という設定は以前の展開から血迷ったとかではないです。原作的に民衆の認識が改まった描写がそのまま残っていただけで、あの広場にいたのはリヴィラにいたり同業者だった冒険者ばかりでリューさんのことを褒め称えた民衆はあまり関与していなかったということで。まぁ民衆は往々にして手のひら返しをするので現在進行形で手のひら返ししてるのをアンナさんが代弁しているだけかもですが…
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