アリュード・マクシミリアン伯ー妖精麗人の愚直なる復讐ー   作:護人ベリアス

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第四幕 新たな道
為すべきことを見出した先で


アンナとの出会いから翌日。

 

リューとシルとアンナはダイダロス通りに溶け込めるような貧相な服に着替える。

 

その目的は密かにダイダロス通りへと向かい、その現状の把握を図るためであった。

 

シルが以前ダイダロス通りの隠れ家に滞在していた。それもありシルが地理をある程度掴んでおり三人はそれなりに迷わず見回ることができた。

 

女三人であったがために見回る中何度かトラブルにも遭遇した。

 

とは言え今は恩恵が無いと言えどかつては恩恵無しで盗賊などを故郷で撃退していたリューの腕はそれなりに鈍っていなかった。そのため何組かのチンピラをいとも簡単に地に沈めてしまった。

 

それが小さな噂になることを三人はまだ知らない。

 

そうしてリューの望むがままダイダロス通りを見回ったり住民に話を聞いたりと言った調査行は日が沈むのを以って切り上げることになった。

 

三人は調査行を終えて一度屋敷に戻って服装を整えると、シルとリューの要望で市場の方に来ていた。

 

「ふぅ…結構疲れたね。こんなに歩き回ることになるとは思わなかったよ。ねーあなた?」

 

「…気になることがあるとつい…すみません。」

 

「まーあなたが生き生きとしているからいいんだけどね。」

 

「そう…ですか?」

 

シルはリューの顔を見て、ちょっとした愚痴を呟きながらもリューの生き生きとした表情に嬉しさを感じていた。

 

シルの思うようにダイダロス通りを歩くリューは自らの為すべきことを自らで考え、見出そうとしていた。

 

そうやって誰かを助けようと必死に行動するリューの事が大好きなシルはそんなリューを見れたのは何よりも嬉しかった。

 

同時に今のリューは何か決意をしたような瞳をしていると見て取ったシルはこれからリューが何をしようとするのかかなり楽しみでもあった。もちろん危険なことをしそうで心配ではあったが。

 

一方シルとリューを挟むように立つアンナはうきうきとした様子で語る。

 

「それにしてもリュ…はっ伯爵がチンピラをコテンパンにやっつける手際には見惚れてしまいました!以前もあんな感じに悪者をばったばったと倒していたんですね!」

 

調査行中に【疾風】様からリュー様に呼び方を変えたアンナ。

 

彼女はリューが現在変装している身で出歩いているのだということも忘れるほどリューの活躍にかなり興奮していたよう。どうやらリューの義賊的活躍というイメージが抜けきっていないらしかった。そのアンナのべた褒めにリューは困り顔で諭す。

 

「…本当は何事もなく終わらせたかったのですが…まぁ仕方ありません。あの程度の者なら今でも相手にできると分かって一応役には立ちましたが。」

 

「一応の自衛はできて何よりだったね。あとやりすぎることもできなくなって。」

 

「え?どういうことですか?」

 

「まぁ…その通りです。」

 

シルの指摘にアンナは首を傾げる一方リューは苦笑いする。

 

かつてリューはいつもやりすぎて建物を吹き飛ばしたり周囲に被害を与えたりと色々と問題を引き起こしてきた。

 

だが恩恵を失ったことでやりすぎても骨を数本砕く程度のやりすぎに収まるようになったのは、周囲に被害を与えるのを望んで行っているわけではないリューとしては少々有難くもあることだった。

 

とは言っても第一級冒険者などを相手に自衛する能力を失っているのは非常に問題があるとも言えるのは当然だが。

 

そこら辺のやりすぎるリューの欠点のことを知らないアンナは首を傾げたまま苦笑いするリューを見つめた。

 

もしかしたらなかなかにポンコツなリューの本性をアンナはこれからも知らない方がいいのかもしれない。

 

もちろん隠し通せるかは定かではないが。

 

「それでお二人にお聞きしたいのですが、なぜ市場に来ることにしたんですか?というか今どこに向かって歩いているんですか?そういえばその理由をお聞きしてなかった気がします。」

 

何やら自分の知らない次元に話が進んだことに気付いたアンナは新たな話題を提起する。それにシルが先に答えた。

 

「あーリューがきっと行きたいっていうだろうって思ったから私もついてくる名目に言っただけ。何をするかはリューに聞いてみないと。私もリューが何のために市場に来たのか聞いてみたいなー」

 

シルもアンナに便乗してリューに尋ねる。リューは二人の視線の注目を集めながらアンナのほうを向いて言った。

 

「まずお聞きしたいのですが、ギルドは私達にどれだけの額を提供すると言っていますか?」

 

「えっと…屋敷の倉庫に保管してありますが、とにかく見たこともない凄い額です。元々お二人をカジノなどに誘って娯楽に入り浸らせて故郷を奪還する気をなくさせよう…というのがギルドの魂胆なのでとにかく相当な額だと思います。」

 

「カジノで使わせれば、回りまわってオラリオに還元されて、冒険者を支援に出させずに済む…流石ギルド手口が汚いね。まぁ思い通りにはなっていないようだけど。」

 

「相当な額…ですか。それなら大丈夫でしょうか。」

 

「何がです?」

 

シルとリューはそれぞれの感想を述べる。

 

シルはギルドの謀略の汚さを軽蔑すると同時に結局はアンナという想定外の要素のお陰で二人はギルドの思い通りには動いていないことに少しだけ気分を良くした。

 

一方のリューはそんなことには興味ないらしくアンナの問いに答えた。

 

「ダイダロス通りを歩く中為すべきことが少なからず見つかりました。まずオラリオの他の地区の住民の出入りの少なさ…その住民による差別意識…入り組みすぎた交通路…治安の悪さ…食糧事情の悪さ…数多くの問題がありますが…ってお二人とも何です?その表情は?」

 

リューは真面目に粛々と考えを述べていたはずが、アンナとシルの表情はポカーンと唖然としていた。

 

そんな想定外の表情にリューは思わず説明を止めていた。

 

説明が止まったことでリューが怪訝な表情をしていることに気付いた二人は各々自分の感想を語り始めた。

 

「…さすがです。あなた様はただお強く正義の名のもとに弱きを助けてくださるだけでなくそこまで皆さんのためにお考えに…感服いたします!」

 

「だからアンナさん…何度も言いますが、褒めすぎだと…」

 

アンナはすっかりリューに魅了されてしまって、リューの姿を尊敬の眼差しで見つめる。

 

ただ一方のシルは言うまでもなくというかアンナとは違う理由で唖然としていた。

 

「…力技じゃない解決法を考えようとしてる…まさかそんなことが…」

 

「…何を驚いているのですか?まるでいつも私は力で何事もねじ伏せてきたような言い方…私だって一応交渉を試みたことくらい…」

 

「その試みは大体失敗したんじゃなかったっけ?リュー?」

 

「…っ!」

 

「…あのーどうなさいました?」

 

小声で語り合いシルに論破されたリューはアンナの質問をの助け舟としてシルにからかいから逃れることにした。

 

「とにかく、です。あまりに問題が多く仮に資金と労力があるとしてもすぐさますべての問題は解決できない…ならば差し迫った問題から取り組むべきではありませんか?」

 

「確かに言う通りだね。」

 

「おっしゃる通りです。それでその問題とは何でしょうか?」

 

シルとアンナは先程までの衝撃等をひとまず脇においてリューの言葉の続きを求める。それにリューは即座に答えた。

 

「それは食糧事情の改善です。そこの改善が進めば、治安の問題も少しは緩和されるはず。まず早急にできるのはそこからでしょう。」

 

「まずは胃袋から…確かに色々考えてもそこからがいいかも。それにお金を使うのくらいギルドもできる。もしギルドに勝手なことをしたとして咎められても止める名分はない。それどころかギルドは自分の怠慢を自ら暴露することになるだけ…名案だね。」

 

「別にそういうつもりはないのですが…」

 

「なるほど!だから市場に!となれば、あの資金で食材を買い揃えればいいんですね!それで炊き出しをして食事が無くて困っている方々をお助けすると!分かりました!すぐにでも食材を扱っている店の方に交渉して準備を整えましょう!」

 

策略的思考で判断するシルにリューは否定の言葉を告げようとするが、隣でアンナはリューの意図を理解してリューがしようとしていることを把握して早速行動を開始しようとする。

 

だがそれをリューは慌てて止める。

 

「お待ちを!…その食材を扱っている店ではなく屋台を営んでいる方に交渉すべきだと思うのですが…」

 

「え?お二人は酒場にお勤めになっていたのならば、わざわざ屋台の方にお頼みしなくても食材調達だけで十分ではないですか?そう余分に資金を使う余裕もないでしょうし…」

 

アンナは見事に地雷を踏みぬいた。

 

「…」

 

「私は別に料理でき…」

 

「ダメです。それだけはしてはならない。私は…彼らに辛い思いをさせたいわけではないので。」

 

「えっ?えっ?」

 

シルが何かを言いかけたところリューはいつになく悲壮な表情で強くシルを引き留めた。

 

その二人の掛け合いにアンナは理解が追い付かない。

 

確かにアンナの認識通りリューもシルも『豊穣の女主人』で勤めていて、そこは確かに酒場だった。

 

だがアンナは知らなかった。

 

 

リューは料理をすればなぜか必ず黒炭を量産し、シルは独特過ぎて憤死しかねない料理を作り上げることを。

 

 

シル的には料理にはそれなりの自信があるようだったが。

 

要は二人とも料理ができないとリューは判断したがゆえに屋台の人間を雇うことを提案したのであった。

 

二人の無言になってしばらく。

 

「あっ…はい。屋台の方に交渉しましょうか。」

 

アンナはようやく事情を察し慌てて訂正したのだった。

 

 

 

 

 

 

「炊き出しの手伝い…?それもまたなんで伯爵様が…」

 

「お金はこの通り払わせて頂きます。前金もお出ししましょう。どうかご協力いただけないでしょうか?」

 

リューはそう頼むが、相手の屋台の店主の顔は浮かない。

 

これで三軒目だった。

 

だが交渉の経過は芳しくない。

 

前金を払うと言って金の入った袋を示してもこのありさまである。

 

これはダイダロス通りで炊き出しを行うと言ったのが原因なのは明確には指摘されないとはいえ明らかと言えた。

 

それだけダイダロス通りへの差別意識が浸透しているのかギルドへの恐れが勝っているのか。

 

そこまではリューにも分からなかった。

 

「…それだけのお金を食材費含めて渡してくれるなら、お手伝いしたいのはやまやまなんだけど…事情もよく分からないし…」

 

「先ほど申し上げた通り私はただかのダイダロス通りに住む方々をお助けしたいだけ。他意は何一つありません。」

 

「そう言われても…申し訳ありませんねぇ。」

 

「そう…ですか。」

 

三度目の断りにさすがのリューも少々気が滅入る。

 

ただ今回の交渉相手の店主の女性が申し訳なさそうに答えてくれただけマシだと思うことはできたが。

 

ともかく失敗は失敗。

 

気を落としながらもそばで待つアンナとシルのもとに戻ろうとすると屋台の奥から幼い声が響いた。

 

「ねーおばちゃん!そろそろ店終いの準備を始めてもいいかい?…って。」

 

幼い声の主は店主に話しかけようと奥から出てきたかと思うと、リューと目が合った瞬間動きをピタリと止めた。

 

「そうだねぇ。そろそろ店終いでいいと思うけど…ヘスティアちゃん?」

 

その主の動きが止まったことに気付いた店主は不思議そうな表情でその名を呼ぶ。

 

 

その主の名はヘスティア。

 

 

【ヘスティア・ファミリア】の主神。

 

即ちベルのファミリアの主神に当たる神。

 

そしてリュー達を嵌めるのに関与した可能性のあるファミリアの主神。

ヘスティアがリューを何も言わず凝視し続ける中リューも硬直してしまう。

 

目の前にいるのは、いくら男装をしていると言えど少なからず交流のあった神。

 

リューの正体に気付かない可能性の方が低い。

 

何せ相手はこれまでと違って神なのだから。

 

リューにヘスティアがどのような対応をしてくるかという警戒で緊張が強まる。

 

そんな中ヘスティアは視線を動かさないまま口を開いた。

 

「おばちゃん。この…エルフ君はなぜうちの屋台にいるんだい?何か話し込んでいたようだけど…」

 

「あぁこちらの男性はフェルナスの伯爵様で何でもダイダロス通りで炊き出しをしたいからお金を払うから手伝ってほしいということなんだけど…」

 

「ダイダロス通り…ねぇ。それでおばちゃんは引き受けたのかい?」

 

「それは…申し訳ないと…」

 

店主とヘスティアはリューをよそに話を進める。

 

それはリューには丸聞こえなわけだが、そんな時ヘスティアは思いもよらぬことを言った。

 

 

「別にいいじゃないか。おばちゃん。エルフ君を助けてあげようじゃないか!」

 

 

ヘスティアは胸を大きく張ってリューへの協力を店主に申し出たのである。

 

その想定外の言葉にリューは目を丸くする。

 

「え?え?でもギルドが…」

 

「ふふん。その点に関しては僕が責任を持つよ!僕を誰だと思ってるんだい!」

 

「…何年たってもヘスティアちゃんはヘスティアちゃんな気がするけどね…」

 

「あ!おばちゃん。僕のすごさをまだ分かってないなぁ!」

 

戸惑う店主にヘスティアは笑顔でその心配を打ち消す。

 

「まぁいつ炊き出しをするのか知らないけど、僕も手伝うから一緒にエルフ君を助けようじゃないか!悪いことどころかいいことをしようってのに何を戸惑うっていうんだい?」

 

「確かに…ヘスティアちゃんの言う通りね。伯爵様。ご依頼受けさせていただきます。先ほどは申し訳ありませんでした。」

 

「あっ…こちらこそお考え直していただきありがとうございます。」

 

店主のヘスティアの言葉による前言撤回にリューは戸惑いながらも深々と頭を下げて礼を伝える。

 

「それじゃあおばちゃん。今からは僕が話を進めるから、お店を閉める準備をしてくれるかい?」

 

「え…じゃあヘスティアちゃんにお願いしようかしら。」

 

ヘスティアはなぜか店主を遠ざけるとリューとの距離を縮めてリューと向き合った。

 

「まず自己紹介からいこうか。僕はヘスティア。一応ファミリアの主神をしてるんだ。それで君は?伯爵様だと言ってたけど…」

 

「…アリュード・マクシミリアンと申します。先ほどは店主を説得していただきありがとうございます。」

 

「いいんだ。僕は一応天界では慈愛の女神をやっていたからね。困っている子を助けるのは当然だよ。ダイダロス通りには知り合いもそれなりにいるしね。それで?炊き出しはいつやるんだい?」

 

「明日にでも。一日たりとも猶予はないと考えています。」

 

自己紹介を何気なく進めていくヘスティアにリューはまた正体に気付いていないのかもしれないという疑惑を覚える。

 

ただ神にそんなことがあるとも思えず警戒は解けなかった。

 

それはともかくリューの回答にヘスティアは呆れ顔を浮かべる。

 

「…これまたすごい急ぐねぇ…また何というか…これじゃあ今から他の屋台に声をかけてもあんまり集まってくれないかもなぁ…」

 

「他の屋台に声をかける…?」

 

「せっかく炊き出しをするんだぜ?エルフ君が伯爵で本気でしようとしているならそれなりに資金はあるんだろ?ならどーんとたくさんの人を助けないとね!」

 

ヘスティアの度重なる善意にリューはその意図を全く読めず何を言えば分からない。するとヘスティアはにっこりと笑みを浮かべて言う。

 

「エルフ君の真意は神の僕にもよく分からない。だけど僕は君の善意を信じて助けることにした。ただそれだけ分かっていてくれればいいよ。」

 

「…神ヘスティア?それは一体どういう意味で…」

 

「じゃあ他の屋台に話を通さないといけないからこれくらいにしておこう!お金は後払いで準備は進めておくからダイダロス通りの入り口前に来ておくんだ。僕が責任を持って準備を整えようじゃないか。あ、即金が欲しい子もいるかもだからお金も持ってきてくれると助かるね!」

 

「ちょっ…お待ちを…!」

 

ヘスティアの真意を確かめようとリューは試みようとしたもののヘスティアは素早く話を進めてしまい、理由を立てて屋台の奥に立ち去ってしまう。

 

結局突然姿を現したヘスティアに翻弄され、主導権を握られたまま話を進められてしまったリュー。

 

この後仇かもしれないヘスティアの意のままにされたことにシルはリューの失態に怒りを示す。

 

だがその直後に交渉をした店主から数店舗による協力の申し出があったという知らせが届き、翌日の炊き出しを実行せざるを得なくなってしまったのだった。




今作初登場のヘスティア様!
リュー達に近づいたのは諜報のためか単なる善意か…
誰も彼も化かしあい始めてそうで書いてる自分が一番よく分からなくなってくるというww
誰が嘘をついていて誰が信頼できるのか…あくまでリューさん視点で分かる範囲しか示さないのでそこら辺はよく分からなくしてあります(なってしまったとも言う)
ともかくそろそろベル君に近づいてきましたね…
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