アリュード・マクシミリアン伯ー妖精麗人の愚直なる復讐ー   作:護人ベリアス

18 / 29
善意の行為の至る先(1)

「やー!エルフ君!今日は頑張っていこうじゃないか!」

 

ヘスティアとの偶然の出会いから一日。

 

結局リュー、シル、アンナはヘスティアに半分流れで決定された時間にきちんと必要なものと共にダイダロス通りの入り口を訪れていた。

 

「おはようございます。みな…」

 

リューはそう言いかけたところで思わず目を見張ってしまい言葉を詰まらせてしまった。

 

確かにヘスティアは前日手配は一任してくれるようリューに頼んでいたため、リューは資金の準備と炊き出しの場所に関して以外はヘスティアに任せていた。

 

だがここまでとは想定していなかった。

 

ヘスティアの後ろには穀物や野菜を積んだ荷車を引く者が十名近く。

 

前日話した屋台の店主を含めて調理人らしき者も五六名。

 

さらに調理器具や仮設テントを携えた雑用係に呼ばれたらしき者も何名かいる。

 

総勢二十名を越えるメンバーが集められていることにリューも驚きを隠せなかったのである。

 

「どうだ!エルフ君!僕の力を見たか!伊達にジャガ丸君をずっと屋台で揚げてきたわけじゃないんだよ!今回はなんと製薬系の【ミアハ・ファミリア】とジャガ丸君作りの戦友のタケの【タケミカヅチ・ファミリア】のみんなにまで来てもらったぜ!」

 

「そなたがマクシミリアン伯爵か?異国の伯爵とお聞きしたが、困窮する人々を助けるために力を尽くしてくれると聞いて、オラリオに住む我々も助力しないわけにはいかないと思ってな。今日はよろしく頼むぞ。」

 

「おぉ!ヘスティアから聞いていたが、中々に美形な丈夫だな!と言うのはいいとして今日はよろしく頼む。お前の困っている人々を助けたいという志には感服した。俺達ができることはなんでも言ってくれ。是非とも助太刀させてもらいたい。」

 

ヘスティアの紹介にそばにいたミアハとタケミカヅチの二人の主神はリューを見て、笑顔でそう告げる。

 

どちらの神も以前より神格者と有名でこの炊き出しに参加したがる理由をリューには納得できた。

 

だがヘスティアが屋台の関係者だけでなく他のファミリアにまで呼び寄せてしまうというのはさすがに想定外だった。

 

ただ一見する限り【ヘスティア・ファミリア】の団員もベルの姿もないようで二つのファミリアの団員達にもリューの顔見知りはいない。

 

そのことに複雑な感情をリューが抱いたが、リューはそれを顔に出さないように心掛けた。

 

「ふふん。エルフ君、そんな顔して?まさかギャラが払いきれないのかもって心配になってきたのかい?」

 

するとヘスティアはリューの驚く表情を見てか意地悪そうな笑みを浮かべてそう尋ねてくる。

 

それに対してアンナがポツリと呟く。

 

「いや…これだけの人数の人件費に食費…流石に払えない気が…」

 

リューが横目にアンナの表情を見ると少々青ざめている様子。

 

一方のリューはアンナほど悲観的ではなかった。

 

ヘスティアは自分達のこの問題に向き合う覚悟を問うている。

 

そう勝手に判断したリューはアンナの言葉を聞き流して笑みを浮かべると言ってのけた。

 

「まさか。仮に払えないとしてもあらゆる手段を用いてでも払って見せましょう。この命を投げうってでも人々を助ける一助を為したいと考えていますから。」

 

リューの言葉に後ろからは小さな溜息やら苦笑いする声が聞こえてきたが、リューはそれに気づかなかったことにする。そしてヘスティアをじっと見つめ続けた。

 

しばらくは何も言わずにリューを見返していたヘスティア。ヘスティアは謎の間を置くと、ニヤリと笑ってまた胸を張って言った。

 

「僕はしっかりその言葉聞き届けたからな!エルフ君がその覚悟なら僕も全力で頑張ろうじゃないか!今日は僕のジャガ丸君作りの腕を存分に発揮してやるぞ!」

 

「いや…ヘスティア?ジャガ丸君は腹持ちは良くでも栄養バランスは微妙だから今回の炊き出しのメニューには入ってないぞ?」

 

「…え?」

 

「そうだぞ。代わりに皆で作るのは私とナァーザが屋台の者達と考えた健康に良い野菜や薬草をふんだんに使った雑炊だ。そなた覚えておらぬのか?」

 

「え…いっいやぁ…僕の役目は皆を説得することで…」

 

自信満々に宣言したヘスティアだったが、タケミカヅチとミアハに突っ込みを入れられた挙句早々にしどろもどろになる。

 

その様子をリュー達はポカーンと眺める羽目になった。

 

「…相変わらず間抜けと言うか何というかだよね。ヘスティア様って…」

 

「…ええ。そうですね。ただ…」

 

シルが小声で呟くのにリューはポツリと答える。

 

シルがヘスティアの適当さに呆れる一方リューはヘスティア達の様子を見ながら別のものを感じていた。

 

ヘスティアの間抜けさの発揮によってヘスティア達は三人を置いて笑いの渦に包まれていた。

 

その様子はリューに居心地の良く笑みの絶えなかった今は亡きリューの居場所を嫌にでも思い出させた。

 

ただリューの気分は言うほど不快ではなかった。

 

それが仮に自身を嵌めた疑惑のあるヘスティアが巻き起こしたものだったとしても、である。それどころか心地よさまで感じていた。

 

リュー自身なぜそんな心地よさまで感じているのか理解ができない。

 

ここ数年の間絶望や恐怖、後悔に苛まれ続け、生まれ変わろうと心掛ける今尚周囲への警戒を解くことができない。

 

なのになぜ自身の気が和らいでいるのか。

 

なぜリューまでつい微笑んでしまいそうになるのか。

 

リューには自身の心境を理解することができない。

 

リューがそんな違和感を抱く中、予定通りリュー発案の炊き出しはその準備へと動き始めた。

 

 

 

 

 

 

集合してから早々ダイダロス通りの中央部にあった広場を炊き出しの場に選定し、そこに移動したリュー達一行。

 

その広場には事前に今日の炊き出しの旨を記した標識を立ててあったため、周囲には少なからぬ住民が集まっており、その視線に見守られながらの設営開始となった。

 

恩恵を持ち力仕事を楽々とこなしていく【タケミカヅチ・ファミリア】の面々のお陰で設営を難なくこなす。

 

すると今度は調理人達の出番。

 

ミアハとナァーザの指導の下雑炊の調理が開始され、そう時を置かずに香しい香りが辺り一帯に漂い始める。それに釣られたのかは分からないが、だんだんと見物人も増えていく。

 

そしてシルとアンナもそれを手伝う中リューだけが取り残されていた。

 

力仕事では伯爵と言う高貴な身分な方に力仕事はさせられないと断られ、料理は元々できない上にリューにポンコツを発揮されてはたまらないとシルに追い返されてしまっていたがためである。ちなみにシルは食器の準備のみで調理には一切携わっていないことをここに付記しておく。

 

こうして調理でも力仕事でも戦力になれなかったリューは少々不満げにその様子を眺めていた。

 

そこにヘスティアがひょこひょこっと近寄ってきた。

 

「どうしたんだい?エルフ君?もうそろそろ料理の準備が整いそうだけど、何かご不満かい?」

 

首を傾げてそう尋ねるヘスティアにリューは慌てて笑みを作って答える。

 

「いっ…いえ。とんでもない。全て神ヘスティアのご尽力のお陰でです。何も不満はありません。…ただ…」

 

「ただ?」

 

リューはヘスティアへの感謝のみを告げるつもりが、つい口を滑らしてしまう。

 

そのリューが漏らしてしまった呟きにすかさず問い返してきたヘスティア。それに対してリューは答えたくなかったが、無視もできず少々羞恥心を覚えながらも答えた。

 

「…発起人にも関わらず料理でも力仕事でもお役に立てず立場がない…と思いまして。」

 

リューは本心からそう呟く。

 

それにヘスティアは一瞬だけ驚いた様子を見せたが、次の瞬間には顔をほころばせて笑い出していた。

 

「ぷぷっ…何だい。そんなことかい!」

 

ヘスティアに笑われたことに当然の如く不快感を抱いたリューはすぐさまヘスティアを睨みつつ言う。

 

「そんなことではありません。困っている人々を助けると決意し、行動に移した以上何時如何なる時も自分自身で行動を起こすのは当然のことで今こうして他人任せにしているのは看過し難く…」

 

リューはつらつらとヘスティアの態度に反論を述べていく。

 

するとその途中で笑うのを止めたヘスティアはリューの言葉を途中で遮った。

 

「まぁそう堅く考えない方がいいんじゃないかな?エルフ君?君の言い分はよく分かるよ。君は何時だって自分が先頭に立って物事を為し、自分が苦労することを厭わないんだろう。だから今自分が何もしていないのが役に立ってないように思えて許せない。ただ自分が行動しないから、何の役にも立ってないという考え方は少々違うと思うぜ?」

 

「…そうでしょうか?今と言う時を無駄にしないためにも今私にできることをすべきではないでしょうか?」

 

「んー言いたいことは分かるぜ?でもいつだって息抜きは必要だ。君みたいなにずーっと張りつめてばかりじゃ精神的にもたないぜ?心配しなくても料理を配り始めるときは発起人のお披露目も兼ねてたくさん働いてもらうことになるから今くらい休んでもいいんじゃないかな?」

 

「それなら…分かりました。もう何も言いません。すみません。」

 

ヘスティアの言い分に納得させられたリューは些かの不満を残しながらも大人しく何もしないことにする。

 

ただその不満に気付いたヘスティアは笑み浮かべると言葉を付け加えた。

 

「そもそも、だよ?エルフ君?この炊き出しは君の発案で始まったんだ。君の決意なかったら僕達はここで炊き出しをしようだなんて考えもしなかっただろうね。君がいたからこその今回の炊き出しだ。それだけで君は彼らを助ける役割を十二分に果たしているんじゃないかな?」

 

「確かに…そうですが…」

 

「エルフ君。見てごらん。」

 

ヘスティアがそう言うと共にリューから視線を外す。

 

それにつられてリューもその視線の先を見てみる。

 

そこにいたのは炊き出しの準備を行っているのを様々な表情で眺めているダイダロス通りの住民達であった。

 

「あの子達を見ると…服はボロボロでブカブカ…きっと食事とかも碌に食べれてないんだろう…それも老若男女問わず、だ。もしかしたらこの一回の炊き出しが。この雑炊一食が。彼らを救うきっかけになるのかもしれない。君の決断はここにいる数えきれない子達を助けることに繋がるかもしれないんだ。それでも君は役立たずだって言えるかい?」

 

「…たった一度の炊き出しで全ての問題は解決できません。まだまだ力不足です。」

 

「まっ…君の言う通りではあるね。うーん…僕があーだこーだ言っても君は意志をきっと変えないんだろうね。そんな意志の強さが今回の炊き出しに繋がったんだろうって僕は推察するね。ただその意志が何なのかは僕には正直分からない。君がどうして炊き出しをしよう、ダイダロス通りの子達を助けようと思い立ったのかは全然分からない。ほんと不思議だよ。君は。」

 

「…はい?今の言葉、一体どういう意味で…」

 

唐突に意味深なことを言い始めたヘスティア。

 

そんなヘスティアに怪訝な目を向け、その言葉の真意をリューは問いただそうとする。

 

だがタイミング悪く調理場の方からシルが歩いてきてしまう。

 

「お二人ともー!そろそろ準備できまーす!」

 

「だってさ。エルフ君。お待ちかねの出番だぜ?」

 

「…ええ。行きましょう。」

 

結局リューはヘスティアの言葉の真意を問いただせないまま準備をしていた人々の元に戻ることになった。

 

こうしてようやく炊き出しは始まりを迎える。

 

この後この炊き出しにまでも一波乱も二波乱も起きるのに誰も気づいていなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。