アリュード・マクシミリアン伯ー妖精麗人の愚直なる復讐ー   作:護人ベリアス

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麗人と青年の行きつく先は…

「ええ。あなたが望むならば、せっかく過去に思いを馳せていたところです。シレーネの質問にも答えしましょう。ベルの事であろうと…何であろうと。」

 

「…えっと…」

 

リューの淡々としたた物言いにシルは思わず言葉を詰まらせ、リューに質問してもいいと言われたにもかかわらず質問できなかった。

 

もう15年。

 

だがたったの15年でもある。

 

ヘスティアとの会話の中で近況報告や世間話程度の扱いでこれまで幾度もリューとベル・クラネルの名を聞いてきたシル。

 

だがリューはいつもその名を聞いても相槌をして聞き流していた。だからヘスティアもそれ以上話を掘り下げず、流れるようにベルから話題は遠ざかっていた。

 

 

シルが知る限りこの15年間、リューはベルの話題を正面から触れたことはない。

 

 

だからシルはここでベルの話題に大きく踏み込むことに戸惑いを覚えてしまったのである。

 

そんな戸惑うシルにいつまでも質問をしてもらえないリューは小さくため息を吐くと、シルの質問を待たずに語り始めた。

 

「別に何も遠慮するようなことはないのではないですか?私の知っているのは、神ヘスティアからお聞きしたことと風の噂で耳にしたことくらいです。

 

「…確かにそうだね。この15年間ベルさんは…以前のような活躍を取り戻してる。」

 

「ええ。少々活力を入れ直すのに時間がかかったようですが、アーデさんや【剣姫】の支えもあり、それまで停滞していたダンジョンでの到達階層も記録的勢いで更新していき、今ではかつての【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】の到達階層を近日にはついに越えたとか。もちろん【剣姫】の【ロキ・ファミリア】との合同遠征に漕ぎつけたことも大きいでしょうが、その一端を担っていたのが彼の再起による業績と言えるでしょう。」

 

リューはそうさらさらとベルの近況を告げる。

 

その時ようやくシルは冷静そのもののリューに質問を出すことができた。

 

「ヘスティア様はどうして…私達にベルさんの話をするんだろう…?どうしてわざわざヘスティア様が会いに来るんだろう…?」

 

シルはそう言いつつヘスティアがベルの話を持ち出すときに常々抱く思いに火が灯る。

 

その思いとは、リューがベルを遠ざけているのになぜベルの話をするのか、ということ。

 

リューがベルのことを必死に忘れようとしているのに、その覚悟を乱すヘスティアにシルは常々不快感を抱いていたのだ。

 

だがリューはシルと違ってヘスティアが何を考えてベルの話をするのか薄々察していた。

 

それはリューが自分自身の思いを理解しているからであった。

 

「それは私が未だに彼の事を…気にかけていることを見抜いているからでしょう。だから神ヘスティアは一番そばにいる主神として彼の近況を教えてくださる。そしてアーデさんや【剣姫】などがきちんと彼を支えている事実を伝えることで私を安心させると同時に未練を抱かないように配慮して下さっているのでしょう。流石は神です。私などの浅はかな思いなど簡単に見抜かれてしまっているようですね。あぁ。もしかしたら神ヘスティアは私の近況を彼やその周囲に伝えるために自ら足を運んでくださるのかもしれませんね。」

 

リューはそう肩をすくめながら言う。

 

そんなリューのおどけるような様子にシルは何とも言えない気分になりながらも質問を重ねる。

 

「…そんな活躍するベルさんの話を聞けて…どう思ってるの?…ベルさんを他の女性が支えているって聞いて何も思わないの?」

 

「どうとは…彼の活躍は偉業に等しいものです。オラリオ中の人々が称賛しています。だから同じオラリオに住む住民として当然に誇らしいですし、そんなファミリアの主神である神ヘスティアに協力して頂けているのは喜ばしいことだと思っています。彼を支えている方々も彼と共に偉業を成す方々です。彼と同じように誇りに思うべき存在だと…」

 

「…ねぇ。リュー?それ本気で言ってる?」

 

「…本気ですが?何か気になる事でも?」

 

リューのベルを気にかけていると言いながらも意図的にベルを遠い存在と比定しようとするかのような言葉に違和感を覚えずにはいられなかったシル。

 

シルは何年かぶりにリューの本名を呼んでリューの本心を咎める。

 

シルの物言いにリューは目を細めて不快感を示しつつシルの言葉の意味を問い返した。

 

そんなリューの態度を開き直りだと捉えたシルは、ついに遠慮を捨ててシルの抱いていた疑問をぶつけた。

 

 

「…リュー?本当に今の状況になってよかったと思ってるの?…後悔してないって…本当に言えるの?」

 

 

それはこの15年間シルが心の底に溜めてきた疑問。

 

確かにシルはリューが自らの道を歩んでくれればいい。そう思った。

 

そしてリューはシルの願い通り自らの道を邁進した。

 

自らの身体と健康を犠牲にしつつ、リュー自身の正義のためにずっとリューは献身してきた。

 

だがその過程で犠牲になったものには、リューの幸福も入っている。そうシルには思えてならなかった。

 

それほどリューは自己を犠牲にしているように見えるのが本当にリューにとっていいとずっと思えなかったのだ。

 

だからシルはその疑問をようやくぶつけた。

 

その疑問をぶつけたシルの表情は親友への心配で歪んでいた。

 

そんな悲しげな表情をするシルにリューは困惑した表情を浮かべつつ大きく息を吐いた。

 

「…なぜシルがそのような表情をするのですか?私が問題ないと言えば、問題ないでしょうに…」

 

「…だってリューはいつも無茶するし、そもそもリューは私の親友だし。」

 

「…今は夫ではないのですね。」

 

「…リュー?今は私そんなふざけた態度取れる気分じゃないから。」

 

「…いつも夫婦だからと密着してきていたのはやはりふざけていたのですね…」

 

重苦しい会話をリューとシルは交わしていたはずが、途中で気が抜けたように脱線をした末にリューはもう一度息を吐くと、観念したようにシルの質問に答えた。

 

「よかったか悪かったか…そんなこと正直私には分かりません。そして後悔しているかという質問には、どうして後悔する必要があるのか、と聞き返させて頂きます。」

 

「…どういう意味?」

 

「私は困窮している方々を救うために命を捧げるという正義のために生きることができている。彼はダンジョンで偉業を為すことができている…これのどこに問題があるのです?」

 

「…はぁ…どうしてそう…さ。…リュー…」

 

リューの回答にシルは頭を抱えて、大きな大きな溜息を吐いた。

 

何せシルが聞きたいことはそう言うことではない。それをリューが全く理解していないのが何ともじれったかった。

 

「そういうことじゃなくてだよ…?リューの幸せとかさ…リューはベルさんのそばにいたかったんじゃないの?ということで…」

 

「…それ…は…」

 

シルの呆れかえったような口調で問われた質問にリューはようやく言葉を詰まらせた。

 

リュー自身直前に漏らしたようにやはりリューは完全に記憶から消し去れていなかった。

 

どうしてもベルといることによって得られたはずの幸福を。

 

だがその幸福を得たいという欲求を抑えるための理論をこの15年の間にリューは構築できていた。

 

「…確かにそれを考えることはあります。…しかし私と…ベルがそばにいることはあまりにも害が多すぎる。…だから今の状況が丁度いいのです。」

 

「…それは一体どういう意味?」

 

シルは含みのあるリューの言葉にその意味を問う。

 

リューは天井を見上げ、遠くを見るような表情をすると、静かに答えた。

 

「私がベルのそばにいるとベルの周囲にいる方々が不安を抱きます。…それは20年前の一件で実証されたこと。彼女達に不安を与えず、ベルを全力で支えて頂くためにも私はベルのそばにはいられません。」

 

「…っ!そんな他人を気にする必要なんて…!」

 

「それに私自身ベルのそばにいると私自身の正義のために献身できません。…ベルのそばにいると幸福すぎて、私は何もできなくなってしまう。だから私が正義を貫くためにも私はベルのそばにはいられません。」

 

「…リュー…」

 

「そしてベルも…私のことを気にすると、ベル自身の道のために全力を尽くせなくなってしまうようです。それは私がそばにいた一時期に然り。私の姿を消した時期に然り。ベルにとって私は近すぎても遠すぎてもいけない存在なのでしょう。だから…」

 

そう言いつつリューが思い浮かべるのは、ベルのこと。

 

15年前に最後に見た記憶にあるよりも凛々しくなったベル。

 

今ではもっと精悍な大人へと成長しているはずでリューのイメージした姿とはきっと変わってしまったベル。

 

「私達にはこの距離が丁度いいのです。お互いの噂や神ヘスティアを通じてお互いの事を知れ、それでいて顔を合わせることもできずお互いの事を強く意識することもできない。近すぎず遠すぎずの距離感…それが私達の為すべきことに精一杯努力することができている秘訣なのかもしれないですね。」

 

リューはそう言って笑う。

 

その笑いは自らを自嘲するもの。

 

もしリューとベルがもっと成熟していれば、何かを変えられたのではないか…そんな二人の未熟さを自嘲する笑みであった。

 

それを見抜かぬ訳のないシルはあえて質問をぶつける。

 

「…そんな距離感でしかいられなくても本当に後悔してないの?」

 

シルのリューの心を突く問い。

 

それにリューは笑顔を浮かべたまま答えることができた。

 

「ええ。当然です。だって私達は今でも想いあっていますから。」

 

リューとベルに横たわる近くも遠くもない距離。

 

それはリューにとっても途方もなくもどかしい。

 

だがそんなもどかしさを取り払ってくれるのは、お互いがお互いを想い続けると取り交わした15年前の約束であった。

 

「私はベルの活躍を願い続け、その活躍をいつまでも見守り続ける。ベルは私が正義を貫くことを願い続け、私が正義を貫く姿を見守り続けてくださる…私達はそう約束を交わしました。だからお互いの事を忘れてしまったかのように会えずとも話せずとも私達は心で繋がっている。そう信じることができます。だから…世間一般で言われるような愛の証明ができなくとも…きっと私達にとってはこれでいいのです。これが私達の最善です。だから私は決して後悔などしません。」

 

「…まぁリューがそう思うならいいのかな…?」

 

「ええ。これでいいのです。私が正義を貫き、ベルが自らの道を進むことができている…私にとってはそれだけで十分ですから。これが私なり…私達なりに15年前に選び取った関係の在り方、私達なりの幸福です。」

 

 

結局はリューの言う通りであった。

 

誰にだってどのような幸福の形が一番いいのかなど分からない。

 

大切なのは、リューとベルがその関係に満足し幸福であると感じられているか否か。

 

リューは幸福だと信じている。その信念を糧により一層の努力をダイダロス通りにおいて重ねている。

 

それに対しリューは与り知らぬことだが、ベルもまた同じように今を幸福を感じつつダンジョンにおいて努力を重ねていた。

 

こんな関係は世間一般には確かに幸福ではないのかもしれない。

 

リューもベルも周囲に翻弄され、一時は絶望に身を墜とした。

 

だがそんな中でもリューもベルも自らの正義と自らが歩む道を見出し、絶望から脱することができた。

 

そして今もまた二人は自らの在り方を追求し続けることができている。

 

その支えになっているのはリューとベルが取り交わした15年前の約束。

 

その約束が今でもリューとベルを奮い立たせ、さらなる努力に繋げている。

 

こんなリューとベルを見て、どうして二人の心が通じ合ってないと言えるだろうか?

 

どうしてリューとベルが想い合っていないと言えるだろうか?

 

リューとベルはこれまでもこれからもその大切な約束を守り続ける。

 

リューはダイダロス通りで困窮する人々を救う。

 

ベルはダンジョンで偉業を達成する。

 

そしてその努力を一つの約束が支え続ける。

 

これがリューとベルの関係の在り方

 

これがリューとベルの幸福。

 

これがリューとベルの愛の在り方。

 

それは誰であろうと否定できない。

 

もしかしたらこう言えるのかもしれない。

 

何物にも翻弄されようともお互いへの愛を愚直に守り続けたリューとベル。

 

その愛が守り抜けたという事実こそが二人でさえ気付かぬ翻弄した周囲への最大の復讐であった、と。

 

だが二人にとってそんなことはどうでもいいだろう。

 

リューとベルが求めたのは、互いが自らの意志を貫けること。

 

そしてお互いがいつまでも愛し合い続けるという事実をお互いに信じ続けることができること。

 

ただそれだけなのだから。

 

 

 

 

完




一時休載を挟みましたが、通算約5か月間お読みいただきありがとうございました!
途中(最後の最後まで?)迷走を繰り返していましたが、お付き合い頂きありがとうございました!
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