アリュード・マクシミリアン伯ー妖精麗人の愚直なる復讐ー   作:護人ベリアス

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幸福は目前に(3)

「え…ベル君が結婚!?」

 

面談用ボックスだったからよかったものの一人のハーフエルフの声が部屋の外まで漏れそうなほど響く。

 

「はい。エイナさん!こちらの【疾風】、リュー ・リオンさんと近日結婚することを決めました。」

 

驚きだけではない感情を表情に表出させて叫んだハーフエルフ、エイナ・チュールを余所に満面の笑みを浮かべながら報告するのはベル・クラネル。

 

「…はい。不束者ながらこの度ベルと結婚することになりました…」

 

そう恥ずかしそうにしながら小さな声でベルの告げた事実を繰り返したのはリュー ・リオン。

 

この二人はリューの心配を打ち払うためという名目で交際期間を吹っ飛ばし、さらには結婚した直後には新たな二人の愛の結晶を産み出す意気込みが満ち溢れた男女である。

 

そんな幸せなオーラを全身を身に纏ったような二人の男女にエイナはついつい顔をしかめてしまった。

 

「あの…それをなぜ私に?」

 

怪訝な表情でそう尋ねたのはエイナからすれば惚気以外の何物にも聞こえず、そして仮に冒険者の事情を把握することが求められるギルドの職員と言えど私生活まで把握することは問題かつ不必要で…

 

「だってエイナさんにもリューさんとのことを報告すべきですし、是非結婚式にもお招きしたくて!あといつでも相談してくれていいって言ってくれたじゃないですか!エイナさん!実は結婚に関して相談があるんです!」

 

なんてことをベルは気にもしないし、知りもしないので笑顔でそう答えた。

 

ベルの言葉にエイナの表情は歪む。いつでも相談していいと言ったのは、ベルと関わるための名目でしかなかったのをベルは全く気付いていない。そしてよりによって別の女性との惚気を相談されるなど論外であるということも。

 

エイナに複雑な気持ちが宿り、エイナはすぐにベルの言った『相談』が何か聞き返すことができなかった。だが何も気づかず満面の笑みを浮かべるベルはもちろんのこと結婚に思いを馳せソワソワしているリューもそんなエイナの表情の歪みに気づかなかった。

 

「ベル君…相談って…一体何かな?」

 

なんとかそんな質問を捻り出したエイナにベルは即座に答える。

 

「はい!僕とリューさんの結婚式は『豊穣の女主人』で行うつもりなんです!もちろん店主のミアさんの許可は取ってあります。けれど『豊穣の女主人』って冒険者の皆さんにすっごく人気な店じゃないですか?だからギルドのご協力で先にその日は『豊穣の女主人』は利用できないってことを冒険者の方々にお知らせしたらいいんじゃないかってリューさんと話してて思いまして。ね?リューさん?」

 

「えっ…ええ。ただ店で布告しても身勝手の多い冒険者のことです。そのような布告見ないことや無視することが十分考えられます。よってギルドのご協力を仰ぐことが一番とベルに提案したのです。」

 

ベルの振りにリューはスラスラと理由を付け加えた。そんな姿はまさしく息の合った夫婦にしか周囲には見えなかったことだろう。

 

「なっ…なるほど。」

 

根拠は理解してもギルドに依頼までする必要があるのかという疑問を心のどこかで抱いたエイナだったが、動揺のあまりそんな疑問を問うこともできずに納得したフリだけをしていた。

 

「ということでエイナさんお願いできませんか?僕リューさんの幸せを邪魔されたくないんです。」

 

「ベルと私を助けると思って、どうかご協力いただけませんか?私もまたベルが望む形で結婚式を執り行いたいのです。」

 

そうベルとリューは念を押すように告げると息ピッタリに頭を下げた。

 

そんあ二人の姿にエイナは一度小さく息を吸い、呼吸を整えるとようやく心に抱いたことをぶつけることにした。

 

「…それは別にギルドとしては問題はないです。ですがそれ以上にベル君。結婚に関して問題があると思うよ。」

 

そうようやく切り出したエイナが言葉にしたのは今のベルもリューもすっかり忘れていることだった。

 

 

「御本人の前で言うのは失礼ですけど…リュー・リオン氏はブラックリストに載った方です。そんな方との結婚を表向きに行うのは少々…」

 

 

エイナはベルに遠慮して控え目に言ったが、エイナが言いたいのはリューの今の立場。

 

リューはエイナの言葉通りブラックリストに載っていた所謂犯罪者。陰で密かに暮らすならいざ知らず、光の当たる場所で生きるなど本来ならば考えてはならない立場と言っても過言ではない人物だったのだ。

 

エイナの言葉にハッと自らの立場を気づかされたリューはその顔を真っ青に染め上げていく。

 

だがそんな『ベルにとって』そんな事実は燃え上がる愛の前ではどうでもいいことだった。

 

 

「何てこと言うんですか!!エイナさん!!」

 

 

ベルの類を見ない怒号がエイナに突き刺さる。

 

ベルは憤怒をその表情にありありと浮かべていた。

 

「リューさんはどこまでもみんなのために戦い抜いた正義の人です。リューさんはこれまで僕なんかじゃ想像もつかないくらいの苦しみをその一身で引き受けてきた人なんです。そんなリューさんにギルドはまだ傷つけようと言うんですか?ブラックリスト?だからなんです?僕のリューさんへの愛がそんなものに抑えられると思っているんですか?もしブラックリストなんかがリューさんの幸せの邪魔になるなら僕はどんな手段を使っても取り消させる。僕はリューさんを絶対に一人にしない。リューさんを絶対に幸せにする。」

 

「…っ…!ベルっ…!」

 

ベルのリューへの愛が込もった熱い語りに最近涙もろくなっているリューは嬉しさで感極まり、先ほどの厳しい指摘も忘れて泣きそうになった。

 

「なのでエイナさんと言えど、リューさんの誇りを汚すような言葉は認めることはできません。何があろうと僕はリューさんのそばにいるつもりなのでどうかエイナさんも反対しないで欲しいです。」

 

そんなリューをベルは優しく抱き寄せながらそうエイナへの少々の批判と固い決意の宿った熱い語りを締め括った。

 

あまりのベルの剣幕に圧されたエイナは身体を引きながらもコクリと頷いた。

 

「そっ…そう。リオン氏申し訳ありません…」

 

「あっ…いえ…私こそ…」

 

「さぁエイナさんへの依頼も終わったので行きましょうか?リューさん?」

 

「えっ…まっ…ベル?」

 

エイナの謝罪にリューは戸惑いながらも答えようとするが、ベルは思いっきり遮りリューの手を取るとそのままリューの手を引いて立ち上がる。

 

話途中だったリューはさらに戸惑うが、ここではベルはリューに構うことはなかった。

 

なぜならリューがその後に漏らすのは過去の自身の否定であろうと容易に察することができたから。リューに辛い思いをさせたくないベルがそんなリューの独白を垂れ流させる訳がなかった。

 

「と言うことでエイナさんよろしくお願いしますね?」

 

ベルはエイナの方を振り返りそう言い残すと、リューの姿を晒さないよう裏口からリューの手を引いて出て行った。

 

そう言い残した時のベルは笑っていた。ただ先程のエイナの言葉を咎めるような厳しい目つきをベルが笑いながらしていたと勘付いたエイナは背筋を震わせた。

 

ただそれと自身の感情は別物で。

 

エイナが何を考えているかまでは当然ベルもリューも把握することはできなかった。

 

 

 

⭐︎

 

 

 

そうして面談用ボックスを出たリューとベルだったが、すぐさま帰ることにはならずすぐに足を止めていた。

 

「あっ…」

 

二人の足を止めさせた人物の視線が二人の視線が絡み合って、声を漏らした。

 

「アイズ…さんじゃないですか。」

 

ベルの視線の先にいたのは気まずそうな表情を浮かべた【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだった。

 

「どうかしたんですか?…まさか僕達の会話を盗み聞きを…?」

 

「えっ…あー」

 

ベルが怪訝な表情でアイズに問いかける。だがアイズは言葉を濁らせた。

 

なぜベルとリューが手を繋いでるの?と本来は尋ねたかったアイズ。

 

心にぼんやりと生まれたモヤッとしたわだかまりが気になったアイズ。

 

それを口足らずなアイズには言うまでもなくすぐには言葉にできず、言葉を濁らせることになった。

 

さらにそもそもリューのことを『酒場の店員さん』としか認識できてないアイズはそこから尋ねたらいいのか、と頭が混乱してしまったためしばらく感情表現の乏しいままその場に立ち尽くしていた。

 

「あのーアイズさん?」

 

何事かさっぱりなベルがもう一度尋ねるとようやく動揺から抜け出したアイズは口を開いた。

 

「えっと…さっきベルの後ろ姿が見えたからつい…」

 

気まずそうにそう告げるアイズにベルは納得したように頷く。

 

「そうだったんですね。なるほどです。でも申し訳ないんですけど、こちらにいるリューさんのことはあんまり他の人に話さないでくださいね?まぁアイズさんは信頼できる方なので心配していませんが。」

 

「それは…どういうこと?」

 

アイズは尋ねた。それはベルのいつにない鋭い視線に気付かないわけにはいかなかったからで。

 

そして先程エイナとリューとベルの会話を僅かながら聞いてしまったからの質問でもあった。

 

「報告が遅れましたが、僕とリューさんは結婚します!それでエイナさんに結婚式に関して相談していたんです。それでリューさんにはいっぱい幸せになって欲しいんですけど、目立ちすぎたりするのもよくないかなと。だけどリューさんにはいっぱい笑顔になってほしくて…」

 

「…ベル?…どう…」

 

「…ベッ…!ベル…!それ以上はおやめくださいっ…!ひっ…人前で…恥ずか…しいです…」

 

アイズの機嫌が良いとはいいとは言い難い声は恥ずかしさのあまり照れながら叫ぶリューの声にかき消された。

 

そうするとベルはアイズからリューにすぐに視線を移してしまったため、アイズ のモヤモヤはさらに大きくなった。

 

「だってこれが僕のリューさんへの本心です。隠す理由なんてないじゃないですか?」

 

「もぅ…ベルったら…でも…ありがとう…ございます…」

 

「はは…!リューさんは本当に可愛いですね。」

 

「かっ…かっ…かっ…!」

 

アイズのことを忘れて即座に二人の世界に入り込んでしまったリューとベルにアイズのモヤモヤはさらにさらに大きくなる。

 

そんなモヤモヤに耐えられなかったアイズはその世界を破壊したがるように口を挟んだ。

 

「ねっ…!ねぇベル…?最近訓練…してなかったよね?また…再開する?」

 

アイズが申し出たのはかつてベルとアイズが早朝に行なっていた訓練。

 

それはベルとアイズを結びつけることができる貴重な時間であり、『豊穣の女主人の店員』が手にすることができない時間。

 

アイズはどうしようもないモヤモヤがベルが自分から離れることにあると無意識に察し、そう提案した。

 

ただその『豊穣の女主人の店員』はただの店員ではなかった。

 

「あーアイズさん?その件に関してなんですけど…」

 

ベルはアイズの提案に申し訳なさそうに切り出した。

 

「訓練はこれからはなしということで…今まで本当にお世話になりました!」

 

そう頭を深々と下げるベルにアイズはさらに混乱すると共に絶望まで覚えながらも声を何とか絞り出した。

 

「どう…して…?わっ…私…何かベルに…悪いこと…した…?」

 

そう震える声を絞り出すアイズにベルはすぐさま顔を上げると大きく首を振った。

 

「そうじゃないんです!まず他の女性と二人だけで一緒にいるとリューさんに不安と心配をかけてしまうのでそれを避けたいという思いからです。」

 

「ベル…本当に…あなたという人は…」

 

ベルのまず口にした配慮にリューは案の定感動した表情を見せる。そんなリューをまたベルは抱き寄せるともう一つの理由を口にした。

 

「それとこれからは僕はリューさんと一緒に訓練して一緒に強くなっていきたいって思うんです。」

 

「…ぇ?」

 

「…ベル?それは一体…?」

 

ベルの宣告した理由アイズにとって絶望に等しきもの。

 

なぜなら『豊穣の女主人の店員』でしかないと思っていた相手がアイズとベルを繋ぐ唯一の訓練という時間を奪うと言うことに他ならないのだから。

 

そんなアイズの絶望をすっかりリューに視線を向けていたベルもベルに視線が釘付けのリューも気づかなかった。二人は向き合うと、お互いを見つめ合う。

 

「僕の言っていることは傲慢です。今も当然リューさんの方が僕より強いです。けれどこれからは僕はリューさんと共に、そしてリューさんのそばで成長していきたいと思うんです。そうしてリューさんと僕はお互いを支え合いながらさらなる高みに辿り着くんです。何度も言う通り僕はリューさんといつでも一緒にいたいんですから。それはダンジョンでも私生活でも辿り着く場所も一緒です。」

 

「…はぁ!ベルっっ!!」

 

ベルの述べた理由にリューはもはやいつも通りと化しつつある感極まった表情で涙ぐみ、先程から幸せな気分にさせる言葉ばかりベルに聞かされていたリューは今度ばかりは我慢できずベルに飛びつくように抱きついた。

 

「もぅ…私は結婚式がなくてもベルのそんな幸せになれる言葉をお聞きできるだけで十分すぎるほど幸せです。愛してます…本当に愛してます。ベル。」

 

「ふふ…僕も大好きですよ。リューさん。そしてリューさんはこれくらいで満足しちゃダメですよ?僕はもっともっとリューさんを幸せにしたいですから。リューさんはもっと欲を持つべきです。」

 

「全く…ベルったらそんなに私を甘やかして後悔しても知りませんよ?」

 

「まさか!後悔なんてあり得ません!これからもリューさんをいっぱい甘やかしたり一緒にがんばったりして、幸せにしますから覚悟してくださいね?」

 

「…ふふ…はい。ベル。ベルと幸せになる覚悟なら…私はとうの昔にできてますから。」

 

そう語り合う二人はまたも二人の世界に入り込むとついに時も場所も忘れ、しばらくの間お互いの温もりを確かめ合った。

 

リューは恍惚として幸せそうな表情で。

 

ベルは慈しむような優しい表情で。

 

二人はこれまた気づかない。

 

すぐそばに黒い感情を宿しつつある少女がいることを…




相変わらず地雷をそこら中に撒き散らすベル君。だから天然タラシはダメなんだよ…
少なくないラノベで恋が成就するとライバル達は(ご都合主義で)みんな諦めてくれます。
けれどそんな簡単に振られたことを納得できないわけで…(失恋経験者談)
こんだけたくさんの女性を堕としてしまったベル君は選ばれた女性にとってさえ害悪でしかない気が…
ただ誰が地雷を爆発させるかは分からないという点をお忘れなく!
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