アリュード・マクシミリアン伯ー妖精麗人の愚直なる復讐ー   作:護人ベリアス

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新年明けましておめでとうございます。そして新年早々こんな荒んだ内容を上げてしまって申し訳ないです…展開上必要なので…
これからもリューさんの正義、美しさ、強さを描いていきたいと思います。どうぞこれからもお付き合いください。

今話は際立って雰囲気が暗いです。というか色々と残酷です。本来二話分の内容な気もしましたが、鬱展開二話も続ける気にならなかったので合体しました。少々ご注意を…
ただかなり今後の展開に重要なシーンも含んでいますので…


第二幕 絶望の道
希望は潰え、芽生えるは絶望


「…がはぁ…!ゴホっ…!…ッゴホッ…!はぁぁ…はぁぁ…」

 

リューの咽せる息苦しそうな声が薄汚く狭く黴臭い部屋に響く。

 

意識を失っていたリューはたった今冷水を浴びせられたことで呼吸が苦しくなり、意識を取り戻した。

 

意識が朦朧とする中水滴を髪から滴らせつつもリューはなんとか呼吸を少しでも整えようと足掻いた。

 

「起きたか?」

 

「はっ…」

 

そんなリューに冷徹な視線を向ける男はたった今リューに水桶から大量の水を浴びせた男を下がらせるとリューの前に立った。

 

リューは意識を朦朧とさせながらもキッとその男を睨みつける。

 

だがその男はニヤリと口を歪めるだけだった。

 

何せその男とリューの立場の差は大きすぎた。

 

その場に似合わぬほどの豪勢な衣装を贅肉が溜まりに溜まったその身に纏ったその男は今の状況に邪悪な笑みを浮かべずにはいられない。

 

一方の睨み付けるリューは柱に縛りつけられ、無理矢理ウェディングドレスから着替えさせられた粗末な服は引き裂かれもうボロボロ。リューの身体の至る所から止まらぬ血が流れ続けている。

 

それでもリューに睨みつけるだけの余力が残っていたのはリューの背に宿る神の恩恵とリューの心に宿るベルという希望のお陰だった。

 

「お目覚めですかな?【疾風】リュー・リオン?」

 

「…ギルド…長…ロイ…マン…」

 

挑発的な問いかけにリューは睨めつけたまま何とか呼吸を整えて自身を苦しめる仇敵の名を呼ぶ。

 

リューをこのような状態まで追い込んだ男の名はロイマン。

 

オラリオの冒険者を統制するギルドの長である。そしてリューを連行した治安維持を司る【ガネーシャ・ファミリア】とは関係が深く協力関係まで構築している機関の長であるとも言えた。

 

「いやぁ…そう簡単には口を割ってはくれませんなぁ。早く認めれば、楽になるというのに。」

 

「…認める…ものか…私はっ…罪など犯していない…」

 

そう強く声を絞り出したリューにロイマンは鼻を鳴らした。

 

先ほどから続いているのはリューへの拷問。リューに『冒険者を大量に殺害した』という罪を認めさせるために鞭打ちを以って自白させようとロイマンは【ガネーシャ・ファミリア】からの引き渡し後部下に試みさせていた。

 

拷問が始まってからもはや3日が経過していた。それでも尚リューは決して痛みに屈して妄言を吐くようなことはなかった。

 

 

ただベルという希望を信じて。

 

 

ただそのたった一つの希望を支えにリューは拷問を耐え抜き、パンの一つも与えぬ飢餓地獄にも打ち勝ち、ベルが助けに来るのを今か今かと待ち望んでいた。

 

「まぁ最初から私はお前が認めることなど期待していませんがな。」

 

「何…だと…?」

 

ロイマンの呟きにリューは疑問の声を漏らす。

 

自白を期待しない、即ち自白を引き出すために行われるはずの拷問が意味を成さないということになるからだった。

 

自白なしに罪を着せたいならばすぐさまリューの首を刎ねて晒し者にしてしまえばいいのになぜしない?

 

そう違和感を抱いたリューに応えるようにロイマンは続けた。

 

「実はお前が苦しむのを望んでいる者がいる。当然私もその一人。お前の余計な詮索がどれだけ私のギルドでの地位を危うくしたことか。その恨みは消えぬ。」

 

「…ふざけるなっ…オラリオを…守るべき者が…ギルドがっ…そのような不義を成すなど…許せないっ…」

 

「ふっ…なんとでも言え。全てはオラリオの利益のため。」

 

目の前の者がリューの悪と見做す者達と同類だと吐いたことでリューには怒りが湧き上がってくる。

 

このような男がギルド長として専横していることと復讐に身を投じたあの時見逃してしまったことをリューは心の底から後悔した。

 

「お前は知りすぎた。余計なことをしすぎた。だから少なくとも私の恨みを買い、このような最期を迎えることになったのだ。全てお前の責任、お前の過ちだ。それにしてもようやく邪魔者が消えるとなると嬉しいものだ。全く融通が一切効かぬ【アストレア・ファミリア】が壊滅したと知ったときは喜ばしかったものだが、今日までお前は生き残るとは…全く悪運の強い奴め。」

 

「…っ…!私はよくとも…少なくとも…アストレア様の正義をっ…!侮辱するなっ…!」

 

「はっは。お前を助けにも来ない神のことをお前は庇うのか?復讐に身を堕とし、あの神の言う正義とはかけ離れたことをしておいて?この青二才は本当に笑い者だな。」

 

「…くっっ…!」

 

ロイマンの指摘に身に覚えを感じてしまったリューは言い返すことができない。するとロイマンは後方に下がっていた男の方に振り返る。

 

「おい。準備はできたか?」

 

「はっ…ただいま。」

 

そんな掛け合いにロイマンばかりを睨み付けていたリューはその後方の男に視線を向ける。

 

その男が準備していたものとは魔道具(マジックアイテム)らしき小瓶を一つと火鉢と共に用意された焼鏝。

 

準備されたものから今から自身になされることを容易に察してしまったリューはロイマンを無意味と分かりながらも再び殺気を込めて睨み付ける。

 

そんなリューにロイマンはニヤつきながら言った。

 

「流石は【疾風】。あの魔道具(マジックアイテム)と焼鏝の使い道をよく知っているな。かつて一度は闇に身を堕としただけのことはあるということか。察しの通りあれは解錠薬(ステイタス・シープ)を改良して作られた神の恩恵を晒すためではなく奪うためのもの。そして焼鏝でお前の背を焼き、二度とその身に神の恩恵を授けられぬようにしてやる。」

 

「…くっっ…そうまでするなら…早く殺せっ…!一思いにっ…!」

 

リューは恨みを込めて力の限り叫ぶ。だがロイマンの嫌な笑みは変わらぬまま。

 

そう力強く叫び強がるリューだったが、心の奥底では恐怖を感じていた。

 

力を奪われてしまうこと。背を焼かれる痛み。

 

それら自体はリューにとって大した苦痛でもない。その程度リューを支える希望さえあればリューには乗り越えることは無理なことではない。死の瀬戸際を幾度も乗り越えたリューには恐怖とまでは言い難いもの。

 

だがそれらはリューの冒険者としての存在意義を奪い、リューの身を汚すことになる。

 

 

存在意義を奪われ汚れたリューをベルは果たして受け入れてくれるだろうか?

 

 

それだけがリューの唯一の不安であり、次第にリューを呑み込まんとする恐怖であった。

 

リューは強がりながらも僅かに恐怖で顔を歪めてしまっていたのでその動揺をロイマンは見逃していなかったのだ。

 

そんなリューを嘲笑いながらロイマンはリューの耳元に近づく。リューは気味の悪さに思わずゾッと背筋を震わせた。

 

「よく聞け。【疾風】?簡単に死ねるなどと思うなよ?お前が苦しむのを待ち望む者は少なくない。誰もがお前に様々な苦しみを与えることを御所望だ。だから私はお前に絶え間ない苦しみを与えてやる。これはまだ始まりにすぎぬ。」

 

「…私はその程度の苦しみには…負けはしない。」

 

「ふっ…そうか。精々足掻くがいい。お前の澄ました表情が絶望で歪む日が楽しみだ。」

 

ロイマンの脅しにリューは精一杯の答えを返す。ロイマンはリューの答えを鼻で笑うとリューから離れ、背を翻す。

 

「【疾風】よ。これより始まる生き地獄…たっぷりと、味わうがよい。」

 

そう言い残すとロイマンは部屋を出て行く。

 

残されたのは焼鏝を手にする男とその餌食にされようとしているリューのみ。

 

リューは覚悟を決めて、小さく息を吐くと目を閉じる。

 

漆黒に呑まれた世界で想起するのはベルの笑顔。

 

リューはベルという希望を支えにその覚悟と共にこれより始まる苦難と向き合った。

 

 

 

⭐︎

 

 

 

差し込んできた僅かな光に目元を照らされ、リューは致し方なく目を覚ます。

 

恩恵を奪われた後地下牢へと投げ込まれたリューは鉄格子の窓より差し込む光の移り変わりからどれだけの日が経ったかを数えていた。

 

拷問に晒されていた日を含めると恐らくこれで12日。

 

…未だベルが証拠を見つけ、その証拠により解放される兆しは見られない。そもそも証拠が見つかる確実性もなく、ベルを巻き込むこともどうかと思い始めたリューの心中は複雑だった。

 

だがベルなら。

 

リューを愛している。

 

リューを一人にしない。

 

そう言ってくれたベルなら。

 

リューを必ず如何なる方法でも助けに来てくれるだろうというベルへの盲目的な信頼がリューにはあった。

 

ベルが必死に努力する中自分が勝手に生を諦めて、ベルの努力を無駄にするわけにはいかないとリューは自分に何度も言い聞かせていた。

 

だから生かさず殺さずと言わんばかりに与えられる僅かな食事を糧にリューは一日一日を必死に生き抜いていた。

 

そんな耐え抜く一日を過ごそうと固く誓ったリューの耳に鉄格子を叩く音が響く。

 

音のする先をリューが見れば、何人かの男が立っている。

 

拷問から解放されて以来これだけの男が姿を現すのは久しぶり…とリューが思っていると鍵が解錠される音が鳴り、二人の男がリューに近付く。そうしてリューに目隠しと手枷をはめると無理矢理立たせる。

 

どこかに連れて行かれるのだと察したリューは大人しくその男達に従い、何処かへと連れられて行く。

 

歩かされることしばらくして、目隠し越しに眩しい光が差し込んできて、さらに喧騒に出迎えられる。どうやら外に引き出されたようだった。

 

リューの姿が現れたからか急に喧騒は静寂に変わる中リューは歩かされた。

 

そうして手枷をどこかに繋ぐような金属音が聞こえてきたリューは自分が柱か何かに縛りつけられたのだろうと推測した。

 

そしてここは処刑場なのだろうとも。

 

だがリューは思い違いをしていた。ロイマンが言い残した言葉をすっかり忘れていた。

 

『簡単に死ねるなどと思うなよ?』

 

ロイマンの言葉通りそこはリューに死という逃げ場を与えるための場ではなかった。

 

リューの目隠しが徐に外された時リューにはそれが否応がなく分からされた。

 

リューの視界に映ったのは…怒りに身を震わせ礫をその手に握り締めた民衆達であった。

 

「このっ…!裏切り者め!」

 

「何が正義の使徒だ!!お前こそ悪じゃねぇか!」

 

「無関係の冒険者を殺すなんて!なんて非道な!!」

 

無数の礫と共にリューに集まるのは罵倒。

 

リューはその時民衆の怒りで歪んだ表情を見て、ようやく理解した。

 

リューに着せられた罪は『大量の冒険者を殺害した』罪。

 

本来その大罪を犯したのは【厄災】ジャガーノートだが、そのあまりの異常事態(イレギュラー)的怪物の存在をギルドが明かせないのは一度目の時に既に知ったことである。

 

その隠蓑にリューは利用されているのだ。

 

そうして親しい者を失った者達の憎しみが全てリューに向けられるように仕向けられていたのだ。

 

「…俺の仲間をっ…!返せ!!」

 

「正義を騙って、人々を騙した女に罰を!!」

 

飛び交う礫がリューの傷ついた身体をさらにボロボロにするが、リューはそれ以上の苦しみに悩まされていた。

 

それは心の痛み。

 

人々の罵倒はリューの正義を否定するものであり、リューのこれまでの行いをも汚す言葉。

 

自分は決して正義に恥じる行動をした覚えはないのに。

 

自分はオラリオの平和のために尽力したはずなのに。

 

 

なのにリューの守ってきたはずの人々はリューを否定し、リューを傷つける。

 

 

自分は誰のためにその身を削ってきたのだろうか?

 

自分にこのような恩知らずと言いたくなってしまうような人々を守る必要があったのだろうか?

 

 

リューの正義は段々と崩れていこうとしていた。

 

 

自身の正義が崩れ始め、絶望に少しずつ呑まれようとしていたリュー。

 

そんな時リューの目に一つの希望が移る。

 

「…ベ…ルゥ……?」

 

礫がリューの視界を遮る中民衆の遥か奥に見えた小さな希望。

 

白髪の少年の姿をリューの目は確かに捉えた。

 

リューの冷徹な頭脳は一瞬は幻覚、心身の痛みのあまり生み出されたまやかしの希望だと警鐘を鳴らす。

 

されどそんなリューの冷徹な思考をベルを愛するが故の楽観的な思考がすぐに追い出した。

 

そうだ。

 

ベルが今日まで助けに来なかったのは自分が今日この場に引き出されるのが分かっていたから。

 

容易に確実に自分を救出するためにベルは機を見計らっていたのだ。

 

ベルは戦略的判断で自分を苦境に残すしかなかっただけ。

 

自分を愛している、一人にしないと言ってくれたベルは絶対に自分を見捨てたりしない。

 

そう盲信したリューは白髪の少年に期待の眼差しを向ける。

 

だがその白髪の少年の行動は思いもよらぬものだった。

 

徐に少年が屈み立ち上がったかと思うとその手に握り締めていたのは一つの礫。

 

次の瞬間少年は振りかぶると勢い良くリューの方に向かって投げつけていた。

 

白髪の少年はリューの予期した、リューの愛するベルとは思えぬ行動を取ったのだ。

 

その礫は遠距離にも関わらずリューの頭に当たり、リューの頭からは新たな血の痕ができ始める。

 

それを見届けたからか白髪の少年はそのまま民衆の中に姿を消してしまった。

 

少年が去っても尚民衆の投げる礫はリューの身体を傷つけ続ける。

 

けれどその白髪の少年の投げた礫は他の礫とは違いリューの身体を傷つけるどころでは済まなかった。

 

リューは驚愕のあまり目を見開いたままもう少年の姿のない遠くを眺め続けていた。

 

そして思考が戻った時リューは混乱の極みに達した。

 

ベルが自分に礫を投げた?

 

ベルが自分を助けることなくその場を去った?

 

ベルに自分は見捨てられたのか?

 

絶望的な疑問がリューの頭で溢れ出る。絶望でリューは壊れそうになる。

 

 

なぜならリューにとってただ一つの希望はベルだったのだから。

 

 

違う…あのベルは幻覚。折れそうになった自分の心が生み出したまやかし。

 

ベルはあのようなことはしない。ベルは自分を見捨てはしない。

 

リューは先ほどとは正反対の理論を打ち立てて、何とか心の平穏を保とうとする。

 

だが目にした光景はリューの記憶から打ち消せない。

 

ベルはリューに向かって礫を投げていた。

 

ベルはリューを置いてその場を立ち去った。

 

リューの記憶からその事実は消せない。

 

けれどリューはその事実を決して認められない。

 

 

「ああああああああっっっっ…!!」

 

リューは慟哭を挙げると同時に絶望から免れるためにその意識を絶った。




戦犯その2ギルド長ロイマン。
…保身のためならなんでもする小物。こいつもまた何の躊躇もなく断罪できる…というか原作内の罪だけでも断罪すべき人物。外伝で肯定的に有能とか評価してたけど、少なくともリューさんとは絶対相容れない人物。というか執筆後に読み始めたフレイヤの外伝で汚職が確定したから躊躇なく断罪できるという。(笑)もう微妙にクロニクルのテッドが混ざってるけどどちらにせよクズなので気にしない。鬼畜仕様なせいで口調が崩れたのと真田○の徳川○康の模倣台詞入れたお陰で自分的鬼畜度UP。録な死に方絶対しない男…

未だに黒幕が姿を現しませんが、もうしばらくは監獄にいるリューさん視点中心に進めます。
民衆による石投げは某国のドラマにおける政治的罪人への罰を参考にしてます。死なない程度に行うのが某国流…と思われるのでリューさんは生きてます。宗教絡みのとは一切関係はございません。
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